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<sideあきら>

土曜になって仁美とお袋にはきちんと今日の行き先と目的を話して家を出た。
紫音を抱っこしてるのはお袋で花音は仁美の腕の中・・・双子の頬にキスしてやると「キャッキャッ」と声をあげて喜んでる。

「それじゃあ行ってくる。悪いけど双子を宜しくな」
「行ってらっしゃい。ふふっ、そんなに心配しなくても私は母親だもの。丁度パパッ子の2人を独占出来て嬉しいわ」

「ははっ!そうか?何か美味いものでも買って来るよ」
「あぁ、それならあの時のケーキがいいわ。あれ、美味しかったもの」

「了解、楽しみにしててくれ」


1年前とは全然違う仁美の笑顔はお袋も安心させるのか、玄関先で見送る時は紫音の腕を持ってバイバイなんてさせていた。
「つくしちゃん、ちゃんと心が戻るといいわね」なんて言葉が出るのも隠し事がないから・・・それを聞いても仁美が悲しそうな表情を浮かべることもない。
皮肉なことだと思うけど、双子を育てるようになってから俺達は少しずつ夫婦になったような気がした。



鎌倉に着いたら小夜が牧野の手を引いて出てきた。
どうやら今日は心が何処かに行ってるようだ。何処を見ているのか判らない瞳は空の方に向けられていたから。

「あきら様、ここからどうやって佐賀に?」
「1度東京のヘリポートに向かってそこから大型ヘリで行く。小夜、大丈夫か?」

「えっ!あはは・・・高所恐怖症ですけど、な、何とか目を瞑って頑張ります!」
「そうなのか?少し揺れるし5時間ぐらい掛かるんだけど」

「5時間っ!!」

俺と小夜の会話にも反応はなかった。
でもあの場所はきっと牧野の心に何かを感じさせるはず・・・それを期待して車を出した。


あの時のようにヘリに乗り込んで上空に飛び立つと、牧野はぼんやり窓から東京の街を見下ろしていた。それとは正反対に牧野に腕を絡ませながら拝むようにしてる小夜、その両極端な姿には笑いが出た。
1年前は不安そうにこの街を見ていた。今はどんな気持ちで見てるんだろう・・・これから何処に行くのかも疑問を持たないんだろうか。

光を映さない牧野の瞳が、帰る時には違っていればいい・・・そう強く願った。



ヘリは福岡のヘリポートに着き、そこで俺達は美作の護衛の人間と合流した。
勿論俺はずっと付き添うが吉本の件がある。出会う事なんて考えてはいないが、何かがあってからでは遅い。だから数人のボディガードを予め九州に回していた。

ここからは車で呼子まで向かった。
福岡では牧野に変化はない・・・でも、唐津の海が見えて呼子が近づくと牧野の表情に変化が出てきた。それまでは虚ろだったのがはっきりと自分の意思で海を見ている。
聞き取ることは出来なかったけど小さな声で何かを喋ってる。小夜もそれを見て驚いたようだった。


「あきら様・・・牧野様、どうしたんでしょう?」
「・・・それだけ想いが深かったんだろうと思う。必死で逃げて必死で暮らした街だからな」

「牧野様のあの表情、赤ちゃんを産む前みたい・・・」
「何かが変わるといいけどな。夢の屋の女将さんには全部話してあるけど、牧野・・・どんな反応するんだろう」

「私はここ、初めてです。海の色が東京とは違いますね」


見えてきたのは呼子の港・・・牧野は窓に手を当てて外を見ていた。



**



夢の屋に着いたら連絡しておいたからなのか、少しだけ老けたように見える女将さんが玄関前で待っていた。
うちの車が見えたら慌てたように1度中に入り、次に出てきた時には仲居を1人、傍に連れていた。俺にはそれが誰だか判らないけど、もしかしたら牧野が「美紀さん」と言っていた先輩なのかもしれない。

車を停めると2人は急いで近寄って来て、先に降りた俺に挨拶をしたが、顔は中に居る牧野の方に向いているようだ。
女将さんはこの様子をどう受け入れてくれるのか・・・まずは牧野を降ろす前に俺からもう1度説明をした。


「お久しぶりです、女将さん。お元気でしたか?今日はお世話になります」
「あ、ありがとうございます。私はまだ何とか・・・つくしちゃんは?つくしちゃんは元気なんでしょうか?」

とても客を迎え入れる時の挨拶じゃない・・・俺の言葉なんて女将さんの耳には入らないのかもしれない。自分の娘みたいなもんだって言ってたから、本当の母親のように動揺している姿を見て逆に安心してしまった。
こんなに大事にしてくれる人がいる・・・それが牧野の心を揺さ振らないだろうか、と期待してしまう。そんな彼女を支えてるもう1人の女性も同じような顔で車を覗き込んでいた。

「あなたは牧野の先輩ですか?子供の写真を受け取った?」
「はい、そうです。松本美紀と申します。今日はようこそお越し下さいました。つくしちゃん・・・大丈夫ですか?」

「いえ、大丈夫かと言われるとどうでしょう。今日は少し調子が良くないようです。鬱状態・・・と言っても初めの頃に比べたら落ち着いてはいます。こういう時は1日中言葉を出さないから会話が出来るかどうか・・・」
「・・・そうなんですか。ショックが酷かったんだろうねぇ・・・可哀想に。いや、判ってたはずなのにねぇ・・・」

「お電話でお話したように、今がこんな状態でも突然驚くほど元気に動き回ることもありますから驚かないようにしてくださいね。これも初めの頃より穏やかなものにはなっていますが、その変わり様は初めて見る人には不思議だと思うんです。
牧野の心が必死に藻掻いてるんだと思うんです。本当は元の自分に戻りたいと願ってると信じています。この状態がただの現実逃避だとは思ってやらないでください。お願いします」

「勿論です、勿論・・・でも、余りにも違うから・・・」
「女将さん、あんまり興奮しちゃダメですよ」


車からすぐに降ろさない様子を見て女将さんもガクッと項垂れてしまった。
それを両手で支えるようにして美紀という仲居が「女将さん、しっかり」と声を掛け「胸が痛いですか?」なんて聞いていた。どうやら牧野が居なくなった後、心臓を悪くして入院したとか・・・それなのにわざわざこの状態の牧野を連れて来てしまった事を心苦しく思った。


「子供は・・・子供は確かあなたがお育てだとか・・・元気にしてるんでしょうか?」

「はい。それはご心配なく。妻もちゃんと総てを理解して受け入れてくれてるので、今日もここに来ることは話しています。子供達も手を振って送り出してくれましたから」

「そう・・・可愛い、ですか?」

「とても可愛い子供達です。どちらかというと男の子の方が牧野によく似ていますよ」

子供が元気に育っていると言えば嬉しそうな顔をしたけど、それは牧野の傍じゃない・・・だからすぐに目には涙が溜まってしまった。また美紀がハンカチを出して女将さんの目元を拭いてやっている、その光景はここが家庭的だった事を想像させた。


「牧野は少しずつ良くなってきてるんですよ。ちゃんと話せる時もあるし、子供の事も忘れたわけじゃありません。出産という大きな出来事と相手の婚約がほぼ同時だったのでタイミングが悪かったんです。不安が大きい中で更に絶望的なニュースを見てしまった為に心だけが何処かを彷徨ってる、そんな感じでしょうか」

「あんなに1人で頑張るって言ってたのに、やっぱり心の底では願ってたんでしょうかねぇ・・・」

「そうかもしれません。牧野はこんな恋が2度目なんです・・・1度目の時も酷く傷ついて今回のように相手の親から受け入れてもらえなかった・・・だからだと思います」

「・・・あんなに良い子なのに。何でなのかねぇ・・・」
「女将さん、中に入りましょう?あの、お客様もどうぞ中にお入り下さい。つくしちゃんも歩けますよね?」


美紀が女将さんを連れて旅館の中に入った。
その後ろ姿が消えたのを見て、今度はまだ車の後ろに座っている牧野の所に向かった。

小夜が先に降りて、牧野は黙ったままゆっくり車から出てきた。


そして旅館を見上げて・・・「女将さん?」と小さな声で呟いた。


「牧野、ここが何処か判るのか?」

「ここは・・・『夢の屋』よ。私、ここで働いていたもの・・・私ね、この玄関前を掃除する担当だったの・・・」




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