FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
「ありがとう、美作さん。でも・・・このままでもいいかな」

「はっ?どうして・・・おい!本気で言ってるのか?」
「つくしちゃん、あんたの子供達だろう?なんでそんな・・・」

今なら私の手元に戻っても子供達の記憶には問題ないって言ってくれた美作さんに、私は反対の結論を口にした。この人は私が喜んで引き取ると思っただろうし、そのために前向きな発言をするだろうって考えただろう。
女将さんも驚いて固まってしまった。うん・・・そういう顔をされると思った。


でも、さっきテラスから海を眺めながら考えた。
自分の事じゃなく、子供達のことを考えてた・・・何が1番良いんだろうって。


「まさか愛情がなくなったとか言わないよな?牧野、1年間傍に居なかったらどうでも良くなったとかじゃないよな?」
「どうなんだい?あんた、ここに居る時あれだけ守った命なんだよ?どうして手元に置かないの!」

「美作の、いや仁美の気持ちならお前が気にすることじゃない。俺だって色々考えてるんだから」
「生まれてからの1年間、あんたが見逃したものも多いんだよ?だからこれからは見逃しちゃいけないんだよ?」

2人が交互に私を説得しようとするから言葉を出すタイミングさえ見付けられない程・・・それだけ一生懸命になってくれる人が居ることを有り難く思った。


「うん、ちゃんと話すね・・・私の心の中のこと」

そう言うと2人は身を乗り出していたのを元に戻して、女将さんはまた慌てたようにお茶を飲んでいた。


「・・・子供の事は自分の命より大事だって・・・そんな風に思ってる。自分の身体の一部みたいな気もするし、毎日だって見ていたいし、抱き締めたいって思ってるの」

「それなら尚更だ。これからはそれが出来るって言ってるのに」


「うん、ありがとう。でもね・・・まだ自分に自信がないの。これまでも何度も『もしかしたら元の自分に戻った?』って思える日があったけど、すぐに夢の中に引き戻されたから。今回はそんな気はしないんだけど、それでも不安なの。
これから2人を抱えて生活するんなら大変になるでしょ?働かなきゃいけないし、育児もしないといけないし、お金も掛かるけど貯蓄だってしないと困る・・・それが2人分だもん。もしかしたら学生の時の私みたいに、その日食べるものにも苦労するかもしれない」

「つくしちゃん、それはどこの家庭もみんな同じ悩みだよ?」


「そうですよね・・・うん、そう思います。私だけが大変なんじゃないです。何処の家庭も同じだと思うけど・・・。
今回こうやって普通に話せるようになったとしても、もし、あの日と同じ場面を見てしまったら・・・私、それが怖いんです。
あの人はメディアに出ることもあるし、雑誌にも顔が出てる・・・まさか、それを見ただけで自分が病気になるとは思わなかったけど、1度罹ったら再発し易いとも聞きました。2度とこの症状が出ないなんて保証はない・・・って事ですよね」

「いや、今度はあの子達が助けてくれるんじゃないのか?あの時は報道が初めてだったから驚いて・・・この先はもう心構えが出来てて大丈夫だって考えないのか?」


「そうだって言い切れないでしょ?
何が怖いって・・・あの時は産まれたばかりで私がおかしくなってもあの子達の記憶には残らないもの。だけどこれからは違う・・・私の手元に戻って来て母親だと覚えた頃に、もし同じ事が起こったらあの子達にとんでもない姿を見せてしまう。自分達のことを見向きもしない母親だと思われてしまう・・・それを想像したら凄く怖いの」

美作さんも女将さんも可能性だけで判断するなって言い続ける。
それでも本当の親子が一緒に暮らした方がいいに決まってるって・・・『正論』を私にぶつける。

紫音と花音にとっても母親の病気は理解して助けてくれるって・・・『理想』を語ってくれる。


「ねぇ、美作さん」
「・・・なんだ?」

「写真見せて?子供達の・・・スマホにあるんでしょ?」
「あ?あぁ、あるけど・・・見るか?」

「うん。全部見せてくれる?」


私の状態がおかしかった時も何度か美作さんは見せてくれたって覚えてる。
でも、その時は心の何処かで誰かが「見ちゃダメ」って言ってたから頭には残さなかった。

ポケットからスマホを出して美作さんが私に向けた。その中の画像を見たら・・・くすっ、殆どが子供の写真だった。


「えっとな、フォルダ分けしてるから・・・ここが双子のフォルダだ。全部見ていいぞ」
「ありがとう・・・」

その画面を女将さんと並んで見ることにした。


1番初めの写真は病院で撮ったもの・・・美紀さんに送ったものだった。
病室でまだ私がおかしくなってない時のものもある。いつの間に撮ったんだろうって思うけど、この時の私は2人に夢中だったんだ・・・自分でも恥ずかしいほどの笑顔で画面に写ってた。

その後は私と別れて美作家に帰った時のもの。花嫁姿だった仁美さんは少し痩せてたけど笑って抱っこしてくれていた。
その横には夢子おば様もいて、次の画像はが絵夢ちゃんと芽夢ちゃんが双子を抱っこしてた。それには女将さんが驚いて、首を傾げてた。

夏の青空の下、可愛いベビードレス着て花壇で撮ったもの。
ベビーカーに乗ったまま花火を見て泣いてるもの。
紫音までお姫さまみたいな服着てる・・・夢子おば様の趣味だなって、美作さんを見てしまった。

「・・・俺を見るな!あぁ、そういう写真なら俺のもあるさ!」
「くすっ、見たかったな」

「絶対に見せない!!」


お宮参りもしてくれたんだ・・・凄く豪華な着物を掛けてもらって、仁美さんと夢子おば様が抱っこしていた。
滅多に日本にいないおじ様も付き添ってくれたんだね・・・。

秋桜畑で撮った時は首がすわっていた。花に向かって手を伸ばしているのは紫音みたい。ブルーの帽子だったから。
紅葉の中で仁美さんから紅い葉っぱをもらってるのは花音・・・まだ伸びてない髪にピンクのリボンがある。

だんだん着ているものが厚手のものになっていって、私もそれを見るのに視界が歪んできた。そっと美作さんが出してくれたハンカチ・・・黙ったまま受け取って目に当てた。

だって・・・本当に似てるんだもの。半年しか経ってないのにそっくりなんだもの・・・。


クリスマスパーティーの時は赤ちゃんなのにサンタルックだった。ふふっ、可愛い・・・。
お正月には家族写真を撮ったみたい。その真ん中にちゃんと2人は入っていた。そして美作さんと仁美さんと紫音と花音・・・4人の写真は少しだけ・・・ほんの少しだけ悲しかった。

本当ならそこにはって・・・やっぱり自分たちの姿を重ねてしまう。
美作さんもその時だけは「悪かったな・・・ごめん」って謝った。謝る事なんてないのにね・・・。


3月のひな祭り、振袖着た双子ちゃんと花音が笑ってる。
お花見に行く頃には紫音が掴まり立ちしているみたい。その足元で花音が泣いていた。まだ立てなくて悔しかったのかな?
5月、鯉のぼりをバックに大きな兜を被った紫音は困った顔してた。重たいんだろうなぁ・・・。


これ以外にも沢山の動画があって、2人の笑い声も聞けた。
紫音が転けたところ、花音が怒ったところ、紫音が寝てるところ、花音が踊ってるところ・・・どれもが天使みたいに見えて、可愛くて可愛くて。

思わず画面に手が伸びる・・・触れる訳でもないのに。


「これが1番最近のもの・・・七夕の誕生日に撮ったヤツ。皆で誕生会したんだ」

「そう・・・良かったねぇ。ホントに・・・ホントに良かった・・・ちゃんとお祝い出来て。ありがとう・・・美作さん、ありがと・・・」


まだ食べられないと思うのに大きなデコレーションケーキに2人の名前が入ってる。
HappyBirthdayって文字・・・そのHappyって言葉が嬉しかった。

たとえ私が祝ってやれなくても、そこに私が居なくても、この子達にはお祝いしてくれる人が居たんだね。
自分たちと同じような大きさの縫いぐるみを横に置いて大笑い・・・幸せそうな、幸せそうな笑顔だった。


子供達の1年間を見て、ここで初めて声を出して泣いた。
見たかった・・・見たかったって、声を出して泣いた。それを同じように泣きながら背中を摩ってくれた女将さんにしがみつくようにして泣いた。



「・・・はぁ、思いっきり泣いたらすっきりした。本当にありがとう、美作さん」
「いや、このぐらいしか出来ないから」

「だから言っただろう?この子達を傍で見たらいいんだよ。自分の産んだ子供なんだから」

2人共が頷きながら私にそう言った。
私が産んだ子供なんだからって・・・。

でも、私は逆に気持ちが固まった。


「やっぱり私はこのままで・・・美作家にお願いしようと思います。この幸せそうな笑顔をこの先もずっと守ってやりたいから」





15491971260.png
関連記事
Posted by