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「この子達の笑顔をずっと守りたいから・・・美作さん、お願いします」

「だからどうしてそうなる?!今だってそんなに泣いたんだぞ?泣かなくて済む方法は一緒に暮らすことだろう!」
「可愛くて仕方なんだよね?それなら毎日抱いてやりなよ、つくしちゃん!」

私が譲らないから美作さんが滅多に出さない大声を出した。
それでも私の気持ちは変わらない・・・まだまだ総てが弱ってる私には自分をコントロールする自信がない。2度と自分を見失わないと断言できない。

ここに居た時のように「この子達を守ります」なんて言えない・・・現に1年間、私は何も出来なかったから。


「本当にありがとう。でもね、私・・・自分が本当に立ち直るのはこれからだって思うの。
まだまだ不安定だと思うから、これからも美作さんの力を借りなきゃとても1人では生活なんて出来ないもん。小夜さんだって急に居なくなったら心細くて狂っちゃうかもしれない。まだ何から始めなきゃいけないのかも考えられないのよ?」

「そんなの幾らでも助けてやるって!」

「うん、助けて欲しいって・・・そこは甘えようと思う。病院だって急には止められないと思うし、仕事なんて・・・それこそフルタイムで働く事が出来るのかなんて自信ないし。そうやって時間が経って、そのうち2人は美作さんと仁美さんにもっと甘えるようになるんだと思う。そんな時に母親が交代して父親は居ませんって言うのは可哀想だよ」

「それでもそれが現実だよ?2人だって初めは泣いたりするかもしれないけどすぐに懐いてくれるって。そこが『血』ってもんじゃないのかい?」

「・・・そうだとしても私の所だと間違いなく苦労するんです、女将さん。私は自分がすっごく貧乏な生活してたから判るんです。家族は大好きで仲良くて楽しかったけど、1歩外に出たら情けない、恥ずかしいって思うことだって沢山ありました。
自分だけ持ってない物が多かったり、あからさまに『貧乏人』って虐められたりして・・・あ、ごめんね、美作さん!」

「・・・いや、そこは・・・まぁ、反省してるけど」


英徳の時の事を思い出させるような発言をしたから、美作さんは急にバツが悪くなったみたいで頭を搔いてた。女将さんは何のことだか判らないからキョトンとしてたけど。

この後も自分の気持ちをゆっくりと2人に伝えていった。

お金持ちの家に育って欲しいわけではなくて、不自由のない生活をさせてやりたいこと。
いつも誰かが傍に居てくれて、家に帰っても独りぼっちにならないこと。
沢山の友達を作れる環境に居て欲しいこと、食べたいものが食べられる毎日であること。
子供らしい我儘が言える場所、子供らしい行事が出来る場所、毎日笑って過ごせる場所・・・美作家ならそれが出来ると信じてること。


「・・・大事には想ってるんだね?」

「愛情は溢れるほどあります。誰よりもあの子達を大事に思う気持ちと幸せを願う気持ちは持ってるつもりです。もし、私が心の病気にならなかったらさっき話した事の殆どが出来なくても手放さなかったし、ずっとずっと一緒に居たと思います。
貧しくても笑って暮らしたと思うし、死に物狂いで働いたと思うんです。
でも、自分の弱さからこんなになっちゃった・・・そして写真や動画を見て思ったんです。私じゃしてやれない事ばかりだって」

「いや、うちに言ってくれれば連れて行ってやるし・・・」

「ううん、それだと意味が変わるのよ。親じゃなくてお金持ちのお友達がしてくれたんだって思うようになるの。絶対にそうだとは言わないけど、そんな事を繰り返したら金持ちに憧れたり羨ましがったりするかもしれないでしょ?
だから私は生まれた後は美作さんの援助を断わろうと思ってたもん。育てるなら自分の力で、そう思ってたもん」


どのぐらいこの会話を続けたんだろう。

電池切れなのか壁時計の針が止まっていたから判らなかったけど、美作さんがスマホで確認してくれたらもう10時を回っていた。
女将さんは今日の締め作業があるからって腰を上げ、やりきれないって顔をして部屋から出て行った。


「女将さん、心配掛けてごめんなさい・・・おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ。ここで寝るのかい?」
「ふふっ、はい。ここが私の部屋ですから」

「・・・そう。もう1度よく考えるんだよ」


最後にそう言って私に背中を向けた。

振り向いたら壁に凭れ掛かってぼーっとしてる美作さん。
私よりも悲しそうな顔をして、立てた膝に両腕を置いていた。


「・・・やっぱり迷惑・・・なのかな」

「いや、そうじゃない。迷惑だったら引き受けないさ。あの子達のことは可愛いし、仕事から帰った時に起きて待っててくれたりするから嬉しいしな。もう寝てる時には寝顔を見に行くよ・・・そのぐらい大切な存在だ」

「そうなんだ。ありがとう・・・そんな風に見てくれて。幸せ者だね」

「馬鹿言え。本当の幸せはお前の傍だっての・・・何度も言ってるだろう。なんでお前が成長を見ないのに俺達が見るんだよ・・・それがどうしても納得いかないんだ」


「うん、その事なんだけどね。もう1つ相談したいの」

美作さんの目がまた大きくなった。
私のもう1つの相談・・・それはとても勇気が要ることだった。




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7月は七夕の茶事がある。

修行明けすぐに手術した俺にはそんな茶会に参加するなんてことは出来なかったが、庭には笹が飾られ客や親父、弟子達が書いた短冊が吊されていた。

これには毎年自分も短冊を書いて笹に括り付けたもんだけど、去年は怪我の為に茶会をしなかったのと岩代の野点事件、婚約会見と重なって七夕どころじゃなかった。

だから今年は派手に飾ってやがる。
勿論ガキが作るような笹飾りじゃねぇし、茶会の一部として書くんだからカラフルでも何でもない。そして7日の夜には燃やして「願い事が天に届け」なんていう行事とも少し意味合いが違うから、今でも庭に置かれていた。


ただ、明日にはお炊き上げされるらしい。
それを聞いたから真夜中、その笹に1枚の短冊を括り付けた。

書いた願い事・・・だが、屋敷の人間に見られても誰が書いたのかわからないように名前を書かなかった。


『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ』
(川瀬の流れが早いので、岩にせき止められた急流が二つにわかれてもまた一つになるように、貴方と別れてもいつかはきっと逢おうと思う)

百人一首の中の恋の歌・・・崇徳院のものだ。


いつかは必ず逢える。
たとえ今は別れていても、必ず逢えると信じてこの和歌を選んだ。


この俺がこんなものに頼るなんて・・・そう思いながら儚く揺れる自分の短冊を見つめた。




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崇徳院の歌には諸説あって、恋の歌とされる説と、そうではないとの見方もあるようです。
でも、ここでは「恋の歌」として取り上げさせていただきました。
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