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plumeria

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「もうひとつ相談したいの」・・・美作さんはその言葉で姿勢を正した。
私も身体を真っ直ぐに起こして正面から美作さんの目を見た。


「なんだ、どうした?」

「・・・身勝手だって思うけど、紫音と花音の成長はこの目で見たいと思ってるの。母親だって名乗らなくて、だけどあの子達に会える環境で働きたいの」

「会える環境?って事は都内で暮らすのか?でも美作に出入りすると総二郎に会う可能性はあるんだぞ?」

「だからお願いしてるの。彼には会えない・・・だけど子供達の成長を見届けたい。うん、我儘なの・・・我儘だって判ってるけど美作さんの知ってるところでそんな職場はないかな。その仕事に就くために鎌倉で通院しながら勉強したいって思ったんだけど、それってやっぱり無理かな」

「住むのは鎌倉って事?」

「うん、そう。あの別荘じゃなくてもいいの。安いアパートでも西門に見付からなければそれでいい。会うのも年に数回でいいの。会話もしなくていい、遠くから姿を見るだけでもいいの」


私・・・凄く無茶なお願い事をしてる。これまで散々迷惑かけて、沢山助けてもらった美作さんに無茶苦茶言ってる。
なんて酷いんだろう、どれだけ甘えれば気が済むんだろうって自分でも思うけど、頼れるのはこの人しかいなかった。

「せめて高校に行く時ぐらいまで・・・そのぐらいまでの成長を見れたら後は・・・後はもういいの。ごめんね、子供の面倒みてもらってお金だって全部負担させるのに、こんな事頼んで本当にごめんなさい。
でも見届けなかったらまた狂っちゃうんじゃないかって気がするの。幸せそうな姿を見ることが出来たら、私・・・それだけで生きていけそうな気がする。どうかな・・・無理かな」

「無理なことはない。そんな職場なら幾らでも探すし、そのための準備もしてやれる。紫音と花音にかかる金なんて気にする必要はないんだ。そうじゃなくて牧野が辛くなるんじゃないのか?自分の子供が目の前で仁美のことを母さんって呼ぶんだぞ?それに耐えられるのか?」

「・・・まだ判らないけど、これは私が頼んだことだもん、耐えられると思う。あの子達が幸せに暮らしているのが見られたら安心なんじゃないかって・・・。そりゃ寂しいかもしれないけど我慢出来る・・・2人が幸せなら我慢出来ると思う」

「そんな我慢をしなくても自分が育てたら良いんだって!!」

「それは出来ない・・・1度、あの子達を育てる事を放棄したようなもんだもん。そんな資格はないのよ、私」


またここで同じ話の繰り返しが始まった。
美作さんは何でも協力するから自分の手で育てろってそればかり・・・私が一番自信のないことが「それ」なんだけどな・・・。


「・・・正直言うとやっぱり怖いの。大きくなったらますます似てくるでしょう?」

「それは・・・そうだろうな。今でも面影はある。どっちかって言うと俺達の方が似てない親子って思われるだろうな」

「そのうち大人の顔になって、西門さんと同じような背丈になっていくでしょう?その時に今度は恋人作って私の元を去って行くと思うの」

「・・・いや、それは・・・」

「それが嫌なの・・・馬鹿みたい。母親らしくない言葉でしょ?うん・・・判ってる。全部子供染みた考えだって判ってる。でも、それを一番考えたくないの。今度は紫音が私を捨てるの?なんて言葉にしたらどうしようとか・・・その時に今回みたいにおかしくなったら2人の幸せを私が壊すんじゃないかって・・・」


1年間前みたいに全然知らない人を連れて来て「この人と結婚したいんだ」・・・紫音にそう言われたら、私は笑って「おめでとう」って言えるだろうか。
そこで「言える」っていう自信が今の私には無い。

だからって花音だけを引き取るわけにはいかない。あの子達はずっと一緒に居なくちゃ・・・だから両方とも引き取れない。


「牧野・・・そんな先のことなんて今から考えなくてもいいんじゃないか?その頃には落ち着いてるかもしれないし、お前だっていつまでも1人だとは限らないし・・・」

「うん、私もそれは考えたよ。まだ少ししか考える時間はなかったけどね。
でもね、美作さん。私これだけは言えるの。あの恋は一生もの・・・私、もう2度と恋はしないって思うから」


「・・・もう恋はしない?」
「うん、しない。私の恋はあれで全部・・・この先も私の気持ちは変わらないの。この恋は死ぬまで抱え続けるの・・・」



*****************

<sideあきら>

優しく笑いながら「2度と恋はしない」って牧野が言った時、その目には小さな涙があった。

さっき言った言葉が本心ってことだろうか。金銭的、体力的って事より総二郎の面影がある紫音が自分から離れていくのがあの時と重なる・・・それを見たくないってことか?


確かにそれは母親らしくない発言かもしれないが、牧野にとってはそうなんだろう。
そこまで言われたらこの申し出を断わることは出来なかった。

紫音と花音を俺の・・・美作の子供として育て、紫音には美作を継いでもらい、花音は美作から嫁に出してやる。そう話すと牧野は何度も何度も頭を下げて「ありがとう」を繰り返した。


「・・・早いうちに美作さんの奥様に会いたいな。もう事情は知ってるんだよね?私の口からちゃんとお願いしないとって思ってるの」

「あぁ、そうだな。その前に鎌倉に戻ったらちゃんと診察を受けろよ?ここまで話せるんだから確かに昔の牧野だと俺も思う・・・でも心の病気は厄介だって言うからすぐには病院と手が切れないと思わないとな」

「うん、判ってる。今だって私が一番不安だよ。このまま寝てしまって朝起きた時、もう意識がないんじゃないかって・・・」

「おいおい!怖いこと言うなよ!」
「あははっ・・・だって本当なんだもん。この1年間、私の事をもう1人の私はずっと見てたんだから」


この日、牧野と俺はこの部屋で朝まで一緒に過ごした。
勿論何かがあったわけじゃない・・・寝るのが怖いと言った牧野に付き合って随分長いこと昔話や双子の話をしていただけだった。

この時、総二郎の話も省かずに話した。
それでも牧野も楽しそうに「そんな事もあったね~」なんて返事して、その表情には嘘はなかったように見えた。


総二郎の婚約の経緯と寺の修行の話も聞かせた。
岩代の屋敷で起きた事件、それを解決することで婚約を急かされ中半強引に会見が行われた事。婚約はしたけれど結婚の時期は未定であること。
あの日、テレビを切った後に起きた総二郎の修行発言・・・少しでも家元に抵抗しようとして必死だったことを教えた。
それには凄く驚いていて、寺から戻って最後の手術も無事に終わった事を伝えたら本当に安心したように微笑んでいた。


「それじゃあまたお茶を始められるの?」

「多分な・・・病院にも半年ぐらいは検査に行くはずだ。それが終わる頃には長時間の正座にも耐えられるぐらい回復してるんじゃないか?」

「そう・・・本当に大きな事故だったんだね」

「あぁ、俺も見てないけどな。でもあいつの足には沢山の傷が残ってたよ」

「・・・じゃあ短パンは暫く履けないね」
「あははっ、そうだな。あいつは全身が自慢だったからな・・・今頃くしゃみしてるぞ?」

「くすっ・・・そうかもね」


そしてほんの少しだけ寝て、目が覚めた時・・・牧野はちゃんと「牧野」だった。
自分でも何度も何度も確かめて、そして顔を覆って泣いていた。



牧野は長い眠りからやっと目覚めた・・・俺はその瞬間、こいつの傍に居たんだ。
本当は総二郎であるべきなのに、そう思うとやはり胸が締め付けられるようだった。





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