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plumeria

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自宅に戻ってからは再び稽古の日々。
暇を見付けては牧野の行方は捜したものの、特に情報なんてものはなく、寺と違って1人きりになることがあまりないから思うようには進まなかった。

紫は相変わらずお袋について忙しそうだったが、変わったことと言えばかなり茶の稽古をしていたようだ。1度お袋に言われて渋々紫に稽古をつけたがなかなか良い茶を点てていた。
立ち居振る舞いは元々が完璧だったから何も言うことはない・・・だが、茶室での所作も随分と上達していたから驚いた。


「1年間で随分上達したんだな。尤もあんたの茶なんて寺に行く前に飲んだことなんて殆どねぇけど」

「はい。正式に発表していただいたのですから真剣にお稽古致しましたわ。私がお粗末なお茶を点てたりしたら、総二郎様のお立場が悪くなりましょう?必死にもなりますわ」

「・・・それは俺のためか?それとも・・・」
「1年半前にお話した通りですわ」

「・・・だろうな」


愛情なんてものは俺達の間には要らない。必要なのは跡取りを産むこと・・・そのために感情抜きで抱けと言った言葉に変わりはないとあっさり言われた。
別にその言葉に驚きはしない。判りきっていたから同じ言葉を出されても何とも思わない。

茶に必死になるのは次期家元夫人として認められないとマズいからであって、茶道には何の感心もない、そういう事だ。

俺の立場が悪くなって困るのも紫本人だ。
俺の次期家元の地位が危なくなれば同時に紫も総てを失う。ただでさえ俺がこの地位を手放すことに躊躇しないことを知ってるから余計にそこだけは神経を尖らせてる。

そして、そんな感情を俺に見抜かれても何とも思わない・・・あの日から1年半が経っても俺達の距離はまったく変わってないって訳だ。


**


8月の終わりには類と司が日本に帰ってきたと連絡が入り、中半強引に誘われ飲みに行った。
あきらは都合が悪くて来なかったが、いつもの店の個室で恐ろしい顔の2人と向かい合った。

あきら・・・今日こそ来て欲しかったけどな、なんて思ったが仕方ない。
司なんて来た時から眉を吊り上げ手は拳のまま、類は無表情だがいつも以上に冷気を背負っていた。それでもあきらからこれまでの経緯を聞いていたから殴られはしなかった。


「それで?牧野の行方、本当に判らないの?本気で調べてる?」
「当たり前だろ。居なくなってから捜せる状態になるまで長かったからな・・・移動手段すら判かんねぇんだよ」

「・・・西門が隠してるかも、ってのは確かなのか?」
「親父の秘書が1度そんな事を言いやがった。俺さえ大人しく言うこと聞けばあいつは平和に暮らしていけるんだと・・・だから可能性は高いと思う。寺に籠もった時に北の方から順番に捜しまくったが返事すら寄越さねぇ所もあるんだ。今でもそれは続けてるが、西門の系列だから俺の名前も出せない。無視する所の方が圧倒的に多くてな・・・」

「そのやり方も不十分だよね・・・何か手はないのかな。ね、病院は・・・やっぱり個人情報だから聞き出せないか・・・」
「まぁな・・・」

「司、何か出来ないの?」
「・・・警視庁を動かすか?そうしたら短期間の間に捜し出せるか・・・」

「・・・多分うちの親父が先に手を回してる。牧野つくしを探す奴がいたら連絡寄越せってな」
「それに西門が隠してるなら警察が動いても無駄だね。匿名のメールなんてもっと論外だ」

「・・・・・・」


話す内容は来てから帰るまで全部牧野の事だけ。
つい最近の話ならまだしも、もう1年半以上経ってしまえば何かの記録を見ようにも手が付けられない状況だった。

「・・・何処に行ったんだろう。また誰かに『大丈夫!』を連発して笑顔作ってんのかな・・・でも家に帰ると泣くんだよ、牧野って」
「雑草だとか言うが限界までいきゃスイッチ切れるからよ・・・そこまで無茶するからな、あの女」

「・・・・・・」


部屋がシーンと静まりかえって、誰かのグラスが空きゃ注いでいくだけ・・・無言で飲み交わす時間がどのぐらいあっただろう。
急に思い出したように類が話を変えた。


「あきらって今日、どうしてるの?」
「あきら?仕事が忙しいんじゃねぇの?都合が悪いとしか聞いてないから。何かあったのか?」

「いや、うちの加代が変な事言ったから。あきらの所・・・確か子供って居なかったよね?この話は2人共、何処まで知ってるの?」
「何の事だ?ガキ出来たのか?」

「類は知ってんのか?嫁さんのこと」
「うん、簡単にあきらから聞いてる。じゃ司が知らないの?」
「・・・何で俺だけ知らないんだよ!吐け!!」


不機嫌になった司を置いといて類と相談した結果、司にもあきらの事情を話した。
司は嫁さんの手術の事も知らなくてすげぇ驚いていたけど、今頃あきらが日本に帰国した理由を聞いて納得していた。


「だからあきらも色々大変だと思ってたんだけどさ、夢子おばさんが嬉しそうにベビー服買ってたのを加代が見たらしくてね。それってあきらの子供って訳じゃないよね?妹達はまだ結婚してないし」

「誰かに渡すプレゼントじゃないのか?」

「それがさ、加代もそう思って声を掛けようと近づいたら、夢子おばさんが店員に『贈り物じゃないから自宅に届けておいて』って言ったんだって。帰国した日に『美作家に子供が産まれたのならお祝いを』って言われて驚いちゃって。
でもさ、奥さんの話を聞いてるからあきらにも言えなくてさ。お前等も何も知らないの?じゃ、やっぱり加代の勘違いかな・・・」

「美作だって祝い事があったなんて発表してねぇしよ、あいつもそんな事があったら言うんじゃね?」

「・・・だよね。うん、ごめん、忘れて」


確かにそれは考えにくい。
何度か電話した時も嫁さんが精神的に調子壊して病院にいた。それなのに子供なんて有り得ねぇだろう。

あきらの話も牧野の話もここで終わり、2人は明日にはまた日本を発つと言って早々に引き上げた。
「もし何かの情報を掴んだら教えてくれ」、前にもそう言って別れたのにまた同じように頼んで2人を見送った。



**



山の中と違って残暑がやたら厳しい夏がやっと終わり、短い秋が過ぎて、また忌々しい俺の誕生日が来た。
机の引き出しの中に大事にしまってある牧野からのブレスレット・・・そいつを眺めて事故った日のことを思い出していた。

祝いの席なんてのは全部断り、紫からは今年も気持ちの籠もってないプレゼントが届いた。
部屋まで持ってきたのは薫・・・俺が戻ってからも紫が落ち着くからと言う理由で西門に留まっていた。「お嬢様は風邪気味で・・・」なんて申し訳なさそうに言うが、おそらく選んだのも薫なんだろう。
上品な包みだったが中を見ることもなくそこら辺に放り投げた。

クリスマスも何もしなかった。
お袋からは紫を何処かに連れて行ってやれと口煩く言われたが、執筆の仕事が溜まっていることを理由に部屋に籠もると、薫を連れて何処かに出掛けたようだ。

その方が余程楽しいだろう、そう思うから罪悪感なんてものはなかった。


牧野は今頃、何処で誰とクリスマスを迎えてんだろう・・・雪がチラつく夜空を見上げて考えていた。



最後の手術から半年が過ぎた。

新しい年となり、初釜などの行事が一通り終わった頃・・・今日は病院での検査日だ。
MRIで異常がなければこれが最後の検査だと言われ、予想通り「完治」という言葉を出された。これで病院に通うこともなく、あの事故から2年と2ヶ月・・・漸く総てが終わった。


この頃は濃茶薄茶のみの茶会であれば問題無く行えていて、亭主を務めることも徐々に増えていた。
だから親父は病院の検査結果にホッとしたようで、次の春からの茶事は俺を中心にすると言いやがった。

「暫く茶懐石などの稽古はしておらんだろう。丁度京都の先代がお前に会いたいと仰っていたから京都に行ってきなさい。紫さんも同行させてご挨拶もな」

「・・・紫も連れて行くのですか?」

「婚約者なのだから問題なかろう。先代がお元気なうちに婚儀も考えねばならん。どちらにしても京都に行き、そこで数日間先代のお相手をするがいい。まだ向こうでも茶会をされているらしいから良い勉強になるだろう」


「判りました。日程調整致します」


あの爺さんにまた会うのか・・・。
宝生と何か繋がりがありそうな先代に紫を会わせれば、話が早く進みそうな気がして気が重かった。





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