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plumeria

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呼子から戻ってすぐ、小夜さんに付き添ってもらって病院に行った。
カウンセリングの人と精神科の先生、色々な人と会話をするだけなんだけど、私の変化に戸惑うと共に凄く喜んでもらえた。

「睡眠はどう?ちゃんと寝てるって感覚はある?」
「・・・はい。旅行先で自分の意識がはっきりした日には寝ると元に戻りそうな気がして寝られなかったんですけど、それからはぐっすり寝られてます」

「朝起きた時に疲れが残ってない?」
「・・・そうですね、今日もよく寝たなって・・・そんな感じです。朝ご飯も美味しいし」

「あはは!そりゃ良かったね」
「くすっ・・・はい」


本当になんてことない会話をするだけで私の状況が判るのか、これまでとは返事の仕方まで違うと笑顔で言われた。小夜さんも別室で同じように私の事を聞かれてるみたい。
でも戻って来た時には明るい表情だったからホッとした。

たまに重くなる頭と、ふとした事で襲ってくる不安はあると言えば「それも当然だよ」って穏やかに言われ、だからといって1年前のようになると決まった訳でもないと・・・反対にもう1度症状が出る可能性もあるから精神安定剤のようなお薬は暫く飲みなさいと処方された。

「飲むことで不安になるなら飲まなくていいよ。それは付き添いの方にも説明しておくからね」
「ありがとうございます。あの・・・お仕事はどうでしょうか。出来そうですか?」

「そうだねぇ・・・」


精神疾患を患うとお医者様の許可・・・と言うか診断書のようなものがないと働けないケースがあると聞いていたから尋ねてみた。その答えは「暫く見合わせ」だった。
急に良くなったような感じだけどまだまだ不安定だから、慣れない環境やストレスで発作が起きるかもしれない。まずは少しずつ外出して、沢山の人に慣れていきなさい、そう言われて困ってしまった。

人混みには行けない・・・何処で西門の人に会うか判らないから。


西門さんやお家元には会わなくても、一時期西門でお稽古していた私の事を知ってる人が居るかもしれない。それで西門さんの耳に入ったら・・・そう思うと迂闊な行動は取れなかった。
関東に住むなら覚悟しなきゃいけない。これだけ人が多くても、私なんて見付からないって思っても、現に私と西門さんは出会ってしまった。

まるで正反対の世界に住むような私達なのに、出会って恋をしてしまったんだもの。



病院から戻って小夜さんのお手伝いをしながら、久しぶりにキッチンで夕食を作った。
私が包丁を持つとビクッとする彼女が面白くて笑うと、「だって怪我したら・・・」なんてオロオロされた。

「ねぇ、小夜さん。今度から牧野様って言うの止めてもらえません?つくしって呼んで下さい。様って柄じゃないし、私は小夜さんの雇い主じゃないんだから」
「え?でも・・・あきら様からお預かりしてる方だから・・・」

「あはは!いいんですって!様って付けられると何だかくすぐったくて。ね、お願いします」
「・・・じゃあ、つくしちゃんで・・・それでいい?」

「はい、嬉しいです!」


その日の夜、美作さんに病院の先生に言われたことを相談した。
仕事にはまだ就けないし、リハビリって意味で人との交流を言われたと・・・それには自信ないし、人目が怖いと言えば理解してくれた。

「どうしよう・・・ちゃんと働きたいけどなぁ。大勢の中は無理だし、都内の賑やかな場所も行けないし・・・ホントに小さな会社でいいんだけど」

『そうだな・・・もう1度聞くけど本当に子供達の姿は見たいのか?見ちゃいけないって意味じゃなくて見るだけでいいのか?』

「うん、今日の診断でも判ったけど、このままだとちゃんとしたお給料がもらえるまで何年掛かるか判んないわ。とてもあの子達を食べさせて満足いく生活なんて・・・だからいいの。そっと見守っていけたらいい・・・」

『・・・そうか。じゃあ、1ついい場所がある。その話をするから週末うちに来い。迎えに行ってやるから』

「え?週末・・・あ、あの子達、居るの?」

『あぁ、会いに来いよ。仁美にも話したいって言ってただろ?で、仕事はお袋が絡んでるからお袋と話せ。それでいいか?』

「・・・うん、ありがとう」


週末・・・紫音と花音に会える。
私の子供達に会えるんだ・・・そう思ったら身体が震えてきた。
産まれてすぐに手放しちゃったけど、本当は抱きたくて抱きたくて仕方なかった私の子供達に会えるんだ・・・。

どのぐらい大きくなったのかしら。
写真と画像しか見てないから判らないけど重さは?私、ちゃんと抱けるんだろうか・・・一瞬、それを考えたけど、抱くのは止めようってすぐに決めた。


抱き締めたいけど、そんな事をしたら離れられなくなる・・・私は遠くから見守るだけ。
あの子達の親は美作さんと仁美さん・・・そう自分から頼んだんだから。



**



週末はあっという間にやってきた。

その前の夜は寝られなかった。ちゃんと寝なきゃ調子が狂う、なんて小夜さんに言われたけど全然寝付けなかった。
明日になったら紫音と花音を直接この目で見られるんだと思うと・・・その時の子供達の様子を想像してワクワクするようなドキドキするような・・・私を見て泣き出すんじゃないかしら、とか。

自分達を捨てた人だって・・・そんな事、覚えてる訳ないのに、泣かれたら自分がそう思い込むんじゃないかって。そんな事でまたおかしくなったら・・・?
だから不安を小夜さんにぶつけてイライラして、最終的には久しぶりに精神安定剤のお世話になった。


**

「大丈夫よ。あの時は産まれて半月だから何も覚えてないわ。そうねぇ・・・医学的に何も証明されてないけど、その子の勘ってものはあるかもしれない。つくしちゃんを他人と思えないって感じるかもしれないけど、そんな事はまだ話せないし、悪意なんて持つ歳じゃないわ。だから、つくしちゃんを見ても「自分を捨てた」って思ったりはしない。大丈夫・・・安心しなさい」

「本当?泣かれない?」

「まだ1歳だもん、人見知りってあるから相手がつくしちゃんじゃなくても泣く時は泣くわよ。それに個人差だからね、紫音君が泣いても花音ちゃんは泣かないとかあるんじゃないかな?ふふふ、泣いたっていいの、そんな歳なんだから」

「顔を見せてくれないとか・・・」

「恥ずかしがり屋さんはそういう事もあるわ。もうっ、そんな事言ってたら一生会えないわよ?悩むのは何かが起きてからでいいって!早く寝ましょ?」

**


・・・・・・はぁ、その会話を思い出しても溜息ついちゃう。
そうだよね・・・子供だもん、泣くことの方が多いし、毎日笑ってばかりじゃないもんね。感情が豊かなら怒ることも拗ねることもあるだろうし、それが成長よね・・・なんてブツブツ言ってたら車の音が聞こえた。

美作さんがもう来たんだ!時計を見たら10時過ぎ、予定通りだった。


慌てて鏡でもう1回自分の支度を確認して、急いで玄関に行ったら小夜さんが美作さんにその話をしてるところだった。

「馬鹿だなぁ!そんな心配してんの?」
「だってぇ・・・ドキドキするじゃん」

「俺なんかこの春には花音に嫌われて1ヶ月ぐらい抱かせてもらえなかったぞ?今じゃそれもなくなったけど」
「えっ!花音が?どうして?」

「さぁ?どうやら男ってものがイヤだったみたいで、俺だけじゃなくて親父にも触らせなかったから。仁美とお袋は平気だったからそうなんじゃないのか?ショックだったけどある日突然抱っこをせがむんだよ・・・子供ってのは判んないもんだな」

「絵夢ちゃん達はどうだったの?」
「彼奴らは産まれた時から俺にべったりだったから参考にならない」

「・・・そっか」


ちょっと拗ねたような顔した美作さんが「行くぞ」って声かけて運転席に向かった。私は車外から見られないように、シールドが貼ってある後部座席に乗り込んだ。
今日は小夜さんはお留守番・・・だからエプロン姿のまま門の前で見送ってくれた。


「つくしちゃん。あなたが泣かないようにね?ちゃんと見てくるのよ」
「うん、小夜さん。行ってきます」

「帰ったら話、聞かせてね」
「はい。写真、撮ってくるね」

窓から手を出して振りながら、既にここで心臓は爆発しそうだった。



車は鎌倉を出て都内に向かい、見覚えのある街の中を美作邸に向かって行く。途中には西門さんの家の近くも通過する。
その時には何となく目が向いてしまう・・・この通りのずっと奥にあのお屋敷があるんだって。

今はどうしてるんだろう・・・お茶のお稽古してるのかしら。
暑い時期だから茶会があるならもう終わってる時間だね・・・。


『西門さん・・・今ね、すごく近くに居るんだよ。私、元気になったよ』

通り過ぎた道路を目だけが追ってしまう。届かない言葉は心の中でだけ・・・伝えちゃいけない想いを自分の中に押し込めて、喉の奥が苦しくなるのを感じていた。



やがて見えてきたのはまるでお花畑のような美作さんのお屋敷・・・今、あの子達が住んでいる家だ。
車はゆっくりとその中に入っていった。


もうすぐ・・・もうすぐ会える。
紫音と花音に会える。


嬉しさと苦しさと、愛おしさと悲しみがゴチャゴチャで壊れそうになっていた。





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