FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
真夏なのに元気よく咲いてる濃いピンク色のつるバラのアーチの下を潜り、お伽噺に出てくるようなお屋敷の玄関に向かった。
美作さんに聞くと「アンジェラ」って品種の薔薇らしい。
八重咲きでおば様が好きそう・・・その他にも沢山の花が咲いてて植物園みたいなお庭。これなら子供達も喜ぶよねって・・・すぐにそこに結びつける自分が居た。


「いらっしゃい、つくしちゃん!あきら君から聞いたわ、元気になったんですって?」
「夢子おば様、お久しぶりです。あっ、何度か会ってるんでしょうけど・・・本当にご心配かけました。お陰様で少しずつ自分を取り戻してます。感謝します・・・おば様」

「うふふ、いいのよ。その話し方、つくしちゃんね。本当に良かったわ」


相変わらずメルヘンチックなお屋敷の中・・・前よりも一層可愛くなったようだと思ったら、小さなおもちゃがリビングにまで置いてあった。
子供部屋だけじゃなく、ここでも遊んでるんだと思うとドキドキする・・・ここに2人の気配を感じて嬉しいのに怖くなって、両手を忙しなく擦り合わせたりして。
その様子を見て夢子おば様がクスクス笑うけど、自分でもどうしていいか判らなくてキョロキョロしてしまう。


「お袋、双子と仁美は?」

「うん、それがね、さっきまでここで遊んでたんだけど花音ちゃんが眠くなっちゃって仁美さんがお部屋に連れて行ったの。少し寝るのかもしれないわ。朝から大はしゃぎだったから疲れたのよ」

「朝から大はしゃぎ・・・」
「うふふ、そうなの。1歳と少しでしょう?紫音君は結構歩けるんだけどね、花音ちゃんも最近少しだけ歩けるようになったから2人とも動きたくて仕方ないのね。見てると危なっかしくて・・・でも、楽しいわ」

「歩くの・・・私、見られるかしら」
「大丈夫、すぐに起きてくるわよ。ぐずってるより機嫌の良い時の方が良いでしょう?だから今は寝かせたほうがいいわ」

おば様が話してる最中にお手伝いさんがお茶の支度をしてくれて、今日も美味しそうなケーキが出てきた。
懐かしいおば様のケーキ・・・それをテーブルに準備していたら奥の方から1人の女性が現れた。


美作さんの奥様・・・仁美さんだ。

凄く綺麗で落ち着いた人・・・美作さんより2歳上だって聞いたから、私とは3歳違い?自分が子供っぽいからかもしれないけど、それよりずっと大人に見えた。
今は紫音と花音のお母さんになってもらってるんだ・・・そう思うと、申し訳なくて慌てて姿勢を正して仁美さんの方に向き直った。


「おい、なんでそんなに畏まってんだ?紹介するよ、嫁さんの仁美」
「くすっ、初めまして。主人がお世話になってます。宜しくね、牧野さん・・・でしたわよね?」

「はっ、はい!牧野つくしと申します。この度は色々とご迷惑掛けて申し訳ありません。早くにご挨拶しないといけなかったのに、少し身体を壊してたので遅くなりました。仁美さん、あの子達のこと、受け入れてくださってありがとうございます」


美作さんが『嫁さん』って呼んで、仁美さんが『主人』って呼んだ。
それに何故かドキッとする・・・私は仁美さんの大事な人にこんなに甘えてる事が急に恥ずかしくなった。これまでどれだけの時間、美作さんを私の為に動かしたのかと思うと・・・。

「いいえ、毎日楽しく暮らしています。それに、幸いここには沢山の人が居るから私1人が面倒みてる訳じゃありません。自分の時間もあるから気にしないで下さいね」

「でも美作さん・・・いえ、ご主人様にも休日返上させて・・・」
「止めろ、その言い方。なんか気持ち悪い・・・普通にしろよ、普通に!」

「くすっ、さぁさぁお茶が入ってるからこっちで話しましょ?」


なんか不思議・・・。

私とおば様が並んで、向かいには美作さんと仁美さん・・・初めての構図に戸惑ってしまう。
並んでると美男美女でお似合いだなぁって、ほけ~っと見惚れていたら仁美さんと目が合ってニコッとされた。

「少しだけ報告しましょうね。色々と気になってる事もあるでしょうから」

「あ・・・子供の事ですか?」

「はい。これまでに受けられる予防接種は殆ど済ませています。美作家の主治医の先生がここまで来てくださるので病院に行ったことはまだ1度も無いの。Hibは2回済ませてるから、残りは2回。肺炎球菌も追加分を今年の秋に受けます。
ロタウィルスは任意だけどちゃんと受けてますからご安心を。四種混合は残りの1回分、BCGはもう終わりました」

「・・・そんなに・・・大変な事ですよね。全部お任せしてすみません」

「スケジュールは病院で作ってくれるから私はお医者様から聞くだけなの。その時に風邪を引かせないようにするのが仕事です。うふふ、だからそんなに大変じゃないです。注射されるのを見るのは可哀想ですけど、大きな病気をして欲しくないから・・・」


ご自分がごく希にしか発症しないと言われる病気をしたから、仁美さんの病気に対する警戒心はすごく強いんだろうと思った。それにしても完璧な予防接種スケジュール・・・こんなの私だったら出来なかった。
下手したら「もう受けられない!」って時期に気が付いて、慌てても遅いって・・・そんな姿を容易に想像できちゃう。

このあとも子供達の様子を細かく話してくれて、たまには双子が喧嘩するんだって聞いて驚いた。


「うわっ、そうなんですか?お腹に居た時から喧嘩してたみたいだからなぁ・・・仲悪いのかしら」

「あら、そうなの?うふふ・・・仲はいいみたいですよ?どっちかって言うと今は何でも紫音のほうが器用だから花音は負けたくなくて癇癪起こすみたい。ちょっと性格は男女反対かもしれません。紫音は穏やかだけど、花音は活発、そんな風に感じるわ」

「・・・・・・そうなんですね」


紫音と花音・・・仁美さんが呼び捨てにするのを聞くと「母親」なんだって思ってしまう。

私は「君」と「ちゃん」を付けないといけないんだろうな・・・紅茶を口に運びながら「それは当然だ」って自分に言い聞かせた。
これから先は私、「知り合いのお姉ちゃん」・・・いや「知り合いのおばちゃん」になるんだから。


「あきらさんから写真を見せてもらったんですって?牧野さん、よかったら動画のデータをお渡ししましょうか?もしご希望ならこれからも撮ったものを送ります」

「本当ですか?それならこれまでのものだけもらってもいいですか?これからのは私が見られる時・・・その時の思い出だけでいいです」

「・・・判りました。1歳のお誕生日までのもの、編集してあきらさんに渡しますね。宜しくね、あきらさん」

「あぁ、判った。写真は牧野のスマホに全部送ってやるよ。それでこれからの事なんだけど・・・」


ここからは夢子おば様の出番だった。
何かの資料を持ってきて私の前に・・・そこには「Fiori da sogno・植物開発研究所」と書いてあった。

「・・・これは?」

「ここは私が持ってる植物研究所なの。逗子にあるから鎌倉から通えるし、研究施設だから外部から誰も入って来ないの。観光客や見学も無し、居るのは研究員と事務員ぐらいだからここでつくしちゃんに働いてもらおうかと思うの。
事務的なことは口の堅い人に頼んで、呼び方も「牧野」じゃなくて別の名前で呼んでもらうようにしてあげる。そこの職員ならこの屋敷に出入りしたって不思議じゃないわ。庭の管理もさせてるから」

「いいんですか?本当に?」

「えぇ、勿論。初めは水やりだけで身体が痛くなるかもよ?なんたって広いから!」


夢子おば様にここの施設の話を聞いて、初めはアルバイト程度の1日4時間から、慣れてきたら社員になりなさいと言われた。
運転免許はないから送り迎えは小夜さんにしてもらい、そのために1台軽自動車を準備してくれるそうだ。
それで時々双子に会いにお屋敷に行く。Fiori da sognoと書かれた車で出入りしても誰も私だとは思わないだろうからっていう配慮だった。


「何から何まですみません・・・皆さん、本当にありがとうございます」

「・・・それで牧野がいいなら構わないけど」
「そうねぇ・・・でもまぁ、時間が色んな問題を解決してくれるかもしれないしね。まずはつくしちゃんの完全回復を目指しましょう!」

「そうですね。紫音と花音は大事に育てます。産みのお母様が見に来られるんですもの、私も頑張らなくちゃ」

「いえ、充分愛情注いでもらってます。私は本当に嬉しいんです・・・助かります。ありがとう・・・仁美さん」


・・・そう言いながら本当は少しだけ胸が痛かったけど。


そしてリビングの奥にある廊下からパタパタと足音が聞こえた。

「奥様、あきら様、若奥様、紫音様と花音様がお目覚めになりましたよ」


ドキン・・・!と心臓の音が鳴った。




f4f7cc1908e72daa4a024231c75e0826_t.jpg

Fiori da sogno・・・イタリア語で「夢の花」です♡
関連記事
Posted by