FC2ブログ

plumeria

plumeria

瀧野瀬の使用人に頼んだのはシャボン玉の液。
それを持ってまた山の中に入る道を捜して歩いて行った。

なんといっても子供の時の記憶だから道なんて定かじゃない・・・でも、そこに行くと絶対に判るって信じて歩いた。
さっき見付けた杭の打ってある場所から山道に入り、殆ど道とは言えない所を登っていく・・・途中で何回か道が別れていたけど、自分の勘を頼って進んだ。

足元が滑りやすくて危なっかしい・・・それに麓より少し肌寒い。
そんな山の中を歩いて行ったら、少し開けた場所に出た。そして見えたのは青い、と言うより緑色の池!


「あった・・・この池だ!牧野?・・・牧野、居るんじゃないの?」

少し大きな声で叫んだら、山鳥が一斉にバサバサと飛び立った。
それが終わるとシーンとして、何1つ音がしない・・・ここには誰も居なかった。でも、絶対にここに来るような気がした。


昔、ここで見掛けた少女がシャボン玉を作って居た場所・・・その大きな石の上に座って、作ってもらったシャボンの液にストローを挿した。そして口に当て、そっと吹いてみた。

音も立てずに出来たシャボン玉はストローから離れると池の真ん中に向かって飛んで行き、それはすぐに割れたり池に落ちたり・・・中には風に乗って高く舞うものもあったけど近くの木の枝が其奴らを全部割ってしまった。
何度やっても同じ、シャボン玉が宙を舞う時間は短くて儚かった。


20年前・・・小さかった牧野は1人でここに座り、何を考えてシャボン玉を飛ばしたんだろう。
決して楽しそうには見えなかった、それだけは覚えてる。


「・・・ワンワン!」

その時、俺が登ってきた道とは反対側から犬の鳴き声がした・・・くすっ、やっと来たんだ、梅三郎。
・・・って事はもうすぐここに来るんだろうと思ってシャボン玉を飛ばしながら待っていた。

ガザガサと枯れ草や小枝を踏みながら出てきた梅三郎は、俺の姿を見付けて短い尻尾を振りながら飛びついて来た!その勢いで持ってたシャボンの液が少し溢れて梅三郎に掛かり、それに驚いて転けたりして!

「あっははは!ダメだって、梅三郎、それは飲めないの。それより早く牧野を呼んできてよ」
「ワンワンワン!!」

話しかけたら余計に喜んで膝の上に飛び乗ったり、飛び越えたり。そのうち池の中を覗き込んで水面に映ってる自分の姿に興奮してた。

「こらっ!それ以上端っこに行ったら落ちるよ?梅三郎、戻ってこいって!」
「ワン!!」


梅三郎が来た方向を見ると、大きな木の陰からチラッとコートが見えて、次にはその木を持つ手が見えて・・・最後に牧野の顔が暗闇から出てきた。
何が起こったのかわかんないって顔して、大きな目をもっと大きくして、そしてポカンと口を開けて。その光景、今まで何回見ただろうって思うと可笑しくなった。


何回瞬きすれば気が済むの?ってぐらい瞬きしてこっちを見てる。
俺は残り僅かなシャボンの液でフーッと沢山のシャボン玉を作って、また池の上にはキラキラ光るものが舞い上がった。


「何処行ってたの?梅三郎の散歩?それにしてはあんた、置いて行かれたんだね」

「・・・・・・・・・何で?」

「ん?急に居なくなるからさ。そりゃ捜すでしょ」

「・・・・・・・どうしてここに居るの?ここ・・・私の秘密の場所なのに」

1歩1歩近づきながら質問ばかり・・・ほら、下を見ないと転けちゃうよ?って思ったら、やっぱり小枝に躓いた。でも、転けたりせずに真っ直ぐ俺の方を見てコートの襟を握り締めて・・・明るい場所まで出てきたら、あんたのほっぺた真っ赤だった。
ホントに・・・どれだけ歩いてたんだろうね。

「だってここ、俺の思い出の場所だから。と言っても思い出したのはさっきだけど」

「え、類の思い出の場所?・・・なんで?」


「20年前、ここで初恋したから・・・かな?」


「20年前?・・・えっ、まさか・・・あの時の子・・・あの時の男の子、類なの?!だからシャボン玉作ってるの?」

「うん、そうみたい。さっき聞いたんだけど、五十嵐も遠い昔はこの地区に住んでたって。俺もここに来てからこの風景を思い出した。いや、忘れた事はなかったな・・・この池とシャボン玉の女の子」

梅三郎が牧野の所に戻って行って飛び付いて、今度は服を引っ張って俺の方に来させようと必死になってる。
小さな相棒に引っ張られて牧野も驚いた顔のまま、目線を外さすに近づいてくるからまた転けそうになったりして・・・そして真横に来たら、その大きな目から涙が溢れた。

シャボンの液を下に置いて、両手を広げて「おいで」って言うと小さく首を振って・・・もう1回「いいからおいで」って言うと今度は口を押さえて泣き出した。


たった数日間しか離れてないのに随分長いこと会わなかったみたいに・・・牧野の顔がどんどんぐちゃぐちゃになっていくから慌ててその冷たくなった手を引き寄せた。
そして両腕で強く抱き締めたら、あっという間に俺の胸は牧野の涙で冷たくなっていった。


「馬鹿だね、あんた・・・」
「だって、類の傍に居ちゃいけないって・・・!花沢家を陥れようとした私の事をずっと気にしながら暮らしていくって・・・そう言われたんだもん!そんなの・・・そんなのイヤだったの。私のせいでそんな・・・!」

「それ、なんで信じるかなぁ・・・ちゃんと牧野のしていた事は俺達判ってたでしょ?むしろあんたも被害者だって思ってるのに」
「でも、花沢を潰す共犯者だって・・・」

「・・・大丈夫。悪いけど五十嵐ぐらいで負ける花沢じゃない。それに逆に昨日潰してきたから」

「・・・はっ?!」


牧野の頬を拭ってやって、乱れた髪も直してやって、俺の真横に座らせた。
その膝にはいつの間にか梅三郎が乗っかってて、嬉しそうに丸まってる。その頭を撫でてやりながら牧野は俺の話を聞いていた。

屋敷の防犯カメラの件も浩司の仕業だったこと、花沢家に不利な状況を作るために企てた外国企業との話も出鱈目なこと、浩司が何年間も掛けて会社から金を横領していたこと。

そのために瀧野瀬会長とも仕組んで色々不正をしたことも話した。
その時に裏金を使ってライバル会社の妨害をしたのが会長であること、その反対に賄賂として金銭を渡したり、会長が個人資産として不動産を手に入れるために牧野の作った資金が使われたこと。
それを今後も五十嵐と瀧野瀬が共謀して続けていくために、2人の結婚は必要だと判断したこと。


「だからさ、牧野がしていた事で花沢にダメージがあったって事実は何1つ無いから安心しな?」
「・・・あれ、嘘だったの?五十嵐さん、そのうち花沢を自分のものにするって・・・そんな事言ってたけど」

「くすっ、出来るかな・・・あいつには無理じゃない?役不足だと思うけど?」
「・・・私が共犯者って・・・それは違うの?」

「勿論違うよ。それにね・・・牧野の婚約は昨日解消されたよ。聞いてなかったんでしょ?」
「えっ!!そうなの?なんで?!」

ここだけ急に大きな声で・・・!びっくりして梅三郎が池に落ちそうになったじゃん!


「あんた、俺との事を不貞行為だって言われたんでしょ?浩司はね、もう5年以上前から東京に恋人が居たみたい。牧野も会ってるよ?麻生って女性・・・覚えてる?」

「あっ!車の中で・・・あの人が?!どうして判ったの?!」
「・・・腕のいい情報屋が調べてくれたから」


颯太と瑠那が調べた事も伝えたら、それには呆然としていたけど怒らなかった。
「だって怒るほど感情ないもん」って・・・くすっ、そうだよね。


「ね・・・20年前、どうしてここで悲しそうにシャボン玉飛ばしてたの?」
「・・・え?」

「俺さ・・・すごく気になってたんだよね。東京に戻ってからもここでシャボン玉飛ばしてる女の子の事ばっかり考えてて、総二郎に『それは初恋だな』って言われたぐらいだから。うん・・・自分でもそう思うんだ。だから知りたい・・・何を考えてたの?」

「・・・初恋?ふふっ、変なの」
「だって本当だから。どうしてシャボン玉飛ばしてたの?楽しい顔してなかったじゃん」

暫く黙って池を眺めていたけど、そのうち小さな声で話してくれた。
幼い頃の牧野の心の中・・・思い出したくなかったみたいだけど、梅三郎の頭に顎を乗せて・・・ゆっくりと言葉を出した。


「・・・何回飛ばしてもこの池を越えて向こうまで飛ばないなぁって思ってたの。何個作っても、いつ作っても全部壊れて消えて行くの・・・それが独りぼっちだった私みたいに見えてね。
この池がお屋敷で、シャボン玉が私・・・お屋敷から出て行けないんだなって思うと悲しくて、小学生になっても何度も挑戦したけどダメだったのよね」

「じゃあ俺が飛ばそうか?向こう岸に飛ばせばいいの?」
「えっ?!類が作るの?無駄だよ、池って言っても広いもん。向こうまで飛ばないよ。上に行き過ぎると枝で割れるんだよ?」

「いいから。牧野、向こうに行ってみな?絶対に1つは牧野に届けてあげるから」

「私が何年間やっても出来なかったんだよ?」
「大丈夫。自信ある」



*******************



私は梅三郎を連れて池の向こう岸に行ってみた。
道なんて無いから木の間を通り抜けて、足元を確かめながら進んで、丁度類の反対側に来たら彼がシャボンの液を手に持って立ち上がった。


「行くよ-」
「うん、いいよ-」

まるで子供みたい・・・類がシャボン玉を幾つか飛ばしたけど、私の所には1つも来なかった。
みんな池の中に落ちたり途中で割れたり、やっぱり小枝に当たったり・・・それでも何回も類は飛ばしてくれた。全然来ないのに。


「牧野ー!これで最後みたい。ちゃんと見ててね!」
「・・・うん、判ったー!」

もうシャボンの液がないんだろう、最後って言ったら類は大きなシャボン玉を作って飛ばした。


「もう・・・あんなに大きなの作ったら落ちるに決まってるじゃん。類ったら、あれだけ作って学習しなかったのかしら」


今までで1番大きく作ったシャボン玉が池の真ん中を風に乗ってフワフワと舞う。
あぁ、これも最後には落ちるのになって・・・一緒に作った小さなヤツはもう全部消えたのになって見ていたら、どんどん私の方に向かってやってくる。

あれ?・・・何で消えないんだろう?
なんで落ちないの?

こんな大きさの方が早くに落ちるんだよ?小さい物の方が遠くまで行くんじゃなかったの?

そんな事を思ってるうちにもシャボン玉は私の所まであと少し・・・思わず両手が伸びてそれを掴もうとした。


丁度私の目の前まで来た時、もう少しで掴めるって思ったら急に吹いた風でシャボン玉は空に向かって舞い上がって行った。そしてキラリと1度輝いて池の上を通り越し、空の中に溶け込んでいった。


割れたかどうかなんて見ていない・・・見上げた時には眩しい太陽があるだけだった。
でも、確かにあのシャボン玉は私の所に届いた。

そして池を通り越し・・・「私」を外の世界に連れて行ってくれたんだ。


驚いて振り返って類を見たら・・・「ほらね!」ってすごく嬉しそうに笑った。






15472688910.png
関連記事
Posted by

Comments 8

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/03 (Sun) 08:49 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/03 (Sun) 11:10 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/03 (Sun) 13:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

あはは!童話作家なのでメルヘンタッチに仕上げてみました(笑)
このシーンが本当はラストだったんですけどね~。

この池で終わらせて第1話と繋げる予定が少し変更になりました。
だって、まだ説教が残ってますからね!!

これで全部解決して、さっさと東京に・・・♡

今日もコメントありがとうございました。

2019/03/03 (Sun) 20:44 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

カワウソママ様、こんばんは。

あっはは!ちょっと待ってください💦
えっと、えっと・・・それは一体どういう事かしら?(笑)

もうないですけど?もうないですよ?・・・ホントにないですけどいいですかねぇ💦

こんな童話の世界からいきなりそこには突入しないですが💦
我慢して・・・もらえます?(笑)

梅ちゃんの教育上、良くないので・・・ね?

どうぞ宜しくお願い致します♡

2019/03/03 (Sun) 20:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。


「牧野・・・いい?見ててね!」

そう言って類はストローをシャボンの液に浸け、そのまま思いっきり吸い込んだ。

何と言うことでしょう~!!
ストローを口から外し、1度飲み込んだシャボンの液を吐き出し、類自らシャボン玉になって宙を舞っているではありませんか!
(BGMお願いします。「千の風になって」)

「きゃああぁーっ!類、凄いっ!」
「ねっ?俺、自信あるって言ったでしょ?」

「凄い・・・早く来て、類!」
「待っててね・・・・・・あれ?」

バサッバサッバサッ・・・

その時、池の真ん中で1羽のコンゴウインコ、ソウイチロウによりそのシャボン玉は割られてしまいました!!


「ルイ、ダイスキ~!イラッシャイマセ~!!」


何と言うことでしょう・・・。
類はボッチャン!と池に落ち、ずぶ濡れになって必死に岸まで泳ぎましたとさ。


おしまい。

2019/03/03 (Sun) 20:59 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/04 (Mon) 12:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、爆笑!!

いいなぁ、非公開って(笑)
(公開したくて堪んないんだけど💦)

類君とつくしちゃんよりも、私達の姿を想像して笑った(爆)

1人何分だったんだろう(笑)
ごめんね、私が先で💦

久しぶりに「お話し」が読めて嬉しかったです!!
ありがとう~~~~!!!

2019/03/04 (Mon) 17:23 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply