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plumeria

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リビングには私とおば様だけになった。
美作さんと仁美さんがお迎えに行ってくれたから・・・私は自分の子供なのに緊張して2人を待っていた。

まだ赤ちゃんなのに怒られるんじゃないかって・・・そんな事を考えながらソファーに座っていたけど、身体が硬直して珈琲カップにさえ手を出せなかった。


「つくしちゃんったら・・・でも、気持ちは判るわ。怖いわよね」
「・・・はい。すごく怖いです。何にも出来なかった癖に恐怖だけは一人前にあるって変ですよね」

「ううん、あなたは病気だったんだもの。間違った選択なんかじゃなかったのよ。後は本当にこのままでいいのかどうか・・・多分、あきら君もあなたが気持ちを変えたら喜ぶと思うんだけど。それは2人に会ってから決めなさいね」

「・・・はい」


ドクンドクンドクン・・・口から心臓が出そう。
指先が冷たい・・・すごく緊張してるんだわ。

空調設備が整ってるから暑くない筈なのに汗が背中を伝う。そして鳥肌がたつ。軽くパニックを起こしかけてるのが判るから、このまま自分を見失うのかとビクビクした。


コツコツと足音が聞こえてきて、2人が戻ってきた。
仁美さんの腕にはピンク色のベビー服、美作さんの腕には水色のベビー服・・・それが見えた瞬間、私にはそれ以外の物がまるで見えなくなった。

誰の声も聞こえない・・・その可愛らしい服を着た子供だけが目に入ってきて、呼吸をする事すら忘れていた。


「牧野、お待たせ。ほら、紫音だ」
「・・・し・・・おん?」

「はい、花音はご機嫌だわ。うふふ、いいお顔しましょうねぇ」
「・・・かの・・・ん?」


美作さんが紫音の顔を私に向けてくれた。

あっ・・・写真で見た時に思ったけど少し私に似てる?
絶対に実物は西門さんそっくりだと思ったのに。あぁ、目元が西門さんだ・・・で、鼻と口元が私に似てる。1歳なのに黒々してる髪の毛はあの人に似てる・・・。
ちょっと私を見て泣きそうになったのかしら?可愛い眉毛が寄っちゃった!

「あはは!実は今、紫音の方が人見知りなんだ。誰を見ても初めての人にはこんな顔するんだよ」
「あぁ、そうなのね?うん・・・初めてみたいなもんだもんね」

「じゃあ花音もお顔を見せましょうね。さぁ、花音・・・向こうを見て?」

仁美さんが花音の向きを変えて私に見せてくれた。

うわっ・・・双子だからそっくりだけど、花音の方は全部が西門さん・・・目元も鼻も全部がお父さん似なんだ!
女の子なのにキリッとした顔で、この子も髪の毛は真っ黒。将来は美人になるんだろうなぁって・・・自分の子供なのに感心した。


「きゃっきゃっ!ま~ま、ま~ま」
「ん?どうしたの?今日は起きたばかりなのに本当に機嫌がいいわ。いつもはぐずってるのに」

「・・・そうなんですね。きっと気持ち良く寝たんでしょうね」


2人ともこんなに大きくなって・・・私が病院で見た時にはまだ目も開けなくて頼りなげで小さくて・・・。
手だってふにゃふにゃで足だって指が丸まってて、子供の服じゃなくてベビードレスだった。
髪の毛も生えてたけど少なくて、こうやって身体を起こす事もなくて・・・色んな姿を思い出していたら涙が溢れてこの子達が見えなくなった。

嬉しくて・・・嬉しくて・・・この子達の産声が耳に戻ってくるようだった。

こんなに可愛く育って、こんなに元気そうで・・・なんて幸せそうなんだろう。
私はこの手で何にも出来なかったけど、2人はちゃんと温かい場所で沢山笑って大きくなったんだと思うと胸が一杯になった。


泣いたら紫音と花音が驚くかもしれない。そう思うのに涙が溢れて止まらない・・・せめて声だけは出すまいと口元を押さえてたら、小さな手が私の前に伸びてきた。


「・・・え?」

顔をあげたら美作さんに抱かれてる紫音の手・・・落っこちちゃうほど身を乗り出して、可愛い手が泣いてる私の顔に伸びてきて目元にそっと触れた。
すごく柔らかくて・・・すごく優しく温かい手だ。

「あ~、あ~め、あ~め」
「あ?あめ?」

「あははっ、それは『ダメ』って意味。まだはっきり言えないから、ダメって言葉を『あめ』って言うみたいなんだ。俺がスマホ触ってるとそれを取り上げて『あめ!』って怒られてるよ」

「あっ、ダメ?くすっ、そうなのね?」
「多分、泣いちゃダメって言ってるんじゃないのか?花音が泣くといつもそうしてるから」

「うふふ、そうね。紫音の『あめ!』は私もよく言われます。花音の髪の括り方が悪い時はすごく怒るんですもの」

紫音は自分の指が私の涙で濡れたからって、美作さんの服で拭いちゃった!
それに驚いて「ごめんね!」って言うと「こんなの毎日だよ」って・・・綺麗好きで神経質だったのに、パパになると変わるのね。
でも、紫音は優しいお兄ちゃんなんだね。


「牧野さん、花音・・・抱きませんか?」

「・・・えっ?」
「紫音は結構重たいから、私もあきらさんが居る時には花音を抱くの。この子はまだ軽いから大丈夫よ?」

そう言って仁美さんが私の傍に来て花音を渡そうとした。
でも私の手は出なかった・・・いや、出せなかった。

抱っこなんてしたら離せなくなる。
仁美さんの前で思いっきり抱き締めて名前を呼んで泣き叫んだらどうしよう・・・感情をコントロールする自信がなかったから小さく首を振った。
そうしたら私の背中を夢子おば様がそっと支えてくれて、振り向いたらニッコリ笑ってた。


「つくしちゃん。今、ここにはあなたの事情を知ってる人間しか居ないのよ?だから遠慮しなくていいの。
もし花音ちゃんが泣いたら仁美さんに渡せばいいし、泣かなかったら思いっきり抱き締めても仁美さんはそれで怒ったりしないわ。あなたが発作を起こしそうになったら私達が助けてあげるから安心しなさい。さぁ、抱っこしてあげて?」

「そうだ、牧野。花音の後には紫音も抱いてやってくれよ。重いったって標準なんだから大丈夫だって。気になるなら座って抱いたっていいし」

「お義母様の言われた通りです。今日の2人の重さも大きさも今日だけです。2度とこの重みは味わえないのだから遠慮しないで?私がいつも抱えてる重さをあなたにも知って欲しいと思うの。ね?牧野さん」


3人に言われて、恐る恐る手を出したら花音は素直に私の手の中に入ってきた。

赤ちゃんの時の抱き方しか知らなかったけど、もう立って歩くんだもの、首を支えようとしたら嫌がって顔が顰めっ面に!
泣いちゃう!って思った瞬間、仁美さんが手を貸してくれた。
片手でお尻の下全体を抱えるようにして、もう片方は背中から包み込むようにして支え、本当に花音の顔が私の顔の真横に来るぐらいの高さまで!


「・・・・・・花音ちゃん、こんにちは」
「・・・・・・」

「かの・・・んちゃ・・・」

やっぱり涙が出てきて花音を抱っこしてる指先に思わず力が入ったんだろう、花音の方が先に泣き出して仁美さんの方に向かって手を伸ばした。

「ああ~~ん!あ~ん!!」
「あっ、ごめんね、花音ちゃん!」

ドキドキし過ぎて落としそう!その不安が花音に伝わるんだろうな。
本格的に泣き出したから仕方なく仁美さんが抱っこしてくれた。その瞬間にピタッと泣き止んだ。


その時・・・あぁ、これが現実なんだって思い知った。
子供を手放したとはこういう事か・・・そう思うと、すごい罪悪感と後悔で目の前が真っ暗になった。


それでも今度は美作さんが紫音を私の前に連れて来て「今度は紫音だな。少し重いぞ?」って・・・。

「いや、いい。泣かれたら私・・・どうしていいか判んないから」

「それでも今日はちゃんと抱いて帰れ。仁美も言っただろ?今の重さは今だけ、ちゃんと牧野にも知ってて欲しいって。俺も同じだから」

「でも・・・」
「でもって言ってる間に抱いてみろ。花音で抱き方が判っただろ?」

「あっ!美作さんったら!」


私の心の準備が出来ないうちに美作さんは紫音をポンッと私に渡してくれた。慌ててさっきみたいに抱っこして・・・今度は上手く抱けたみたい。
紫音の目が私の目の前20センチ・・・すごく不思議そうに私の目を覗き込んでいた。

「あ~、あ~・・・ないない!」
「・・・は?えっと・・・」

「今度は泣いてないって意味だな。目に涙がなかったって言ってんだよ」
「はぁ、成る程ね・・・」

「ないない!きゃっ、きゃっ!」
「・・・くすっ、うん。泣いてないよ」

この時には花音も泣き止んでじっと私の事を見ていた。
気持ちが昂ぶっておかしくなるかと思ったけど、紫音の笑顔に助けられて自分も落ち着いてこの子の顔を見ることが出来た。


「さぁ、こっちでお茶の続きをしましょう?」

夢子おば様の声でテーブルに戻ったけど、仁美さんはそのまま双子と一緒にリビングのラグに座り込んで遊んでいた。
聞いていた通り、花音が紫音を叩いてる。でも痛くないんだろう、紫音は怒りもせずにおもちゃに夢中。
花音が思い通りにならないおもちゃを投げてしまったら、それを紫音が拾って手渡して、花音の小さな手が紫音の頭を撫でていた。


そんな小さな仕草が愛おしい・・・これを見逃した自分の弱さを恨んだ。


**


帰る前にはもう1度花音も紫音も抱かせてもらって、それから美作さんの車に乗り込んだ。

「それじゃあ仕事は来月からね。焦らずにゆっくり覚えなさい。そして時間がある時にここに来て2人を見ていくといいわ」
「夢子おば様、本当にありがとうございます。頑張ります」

「・・・牧野さん、私もこの子達の母親として頑張ろうと思ってます。この先は叱ったり怒ったりもあると思うけど、愛情込めて育てようと思うから許してね」

「勿論です。私は仁美さんの邪魔にならないように時々姿を見させていただきます・・・その我儘を許してくださってありがとうございます」


また目を擦ってる花音。私に手を振ってくれる紫音・・・私の宝物はとても輝いて見えた。



私はこの日の事を絶対に忘れない。
この腕に抱いた時の重さを決して忘れない・・・そしてこの時、2度と抱かないと決めた。





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