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plumeria

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「あれ?あきら様?」

小夜さんが運転しながらそう言ったから前を見たら、美作家の大きな門の前で立ってる彼を見付けた。私達には背中を向けてて、その格好はどう見ても部屋着。コートなんて着てなくて寒そうだった。

「何してるんだろ。つくしちゃん、今日の時間を連絡してたよね?」
「ううん、小夜さんがしたんじゃないの?」

「え?私は電話してないわよ?つくしちゃん、するって言わなかった?」
「うそっ!そんな事言ったっけ?」

「「・・・あれ?」」


どうやら私達はお互いに勘違いして美作さんに来る事を伝えてなかったみたい。連絡してから行くことが決まりだったからどうしようかと思ったけど仕方ない。
周りに人も居ないし、謝ろうと思って窓を開けて声を掛けた。

「美作さーん!こんにちは!」
「・・・牧野?」

「ごめーん!連絡しないで来ちゃった。大丈夫だった?」

振り向いた美作さんがすごく驚いた顔してる。
すぐにさっきまで見ていた方を見て何かを確認し、驚いたままの顔でまた私達の方に顔を向けた。


あれ?・・・何かマズかったのかな。今日は他にお客様の予定があるのかしら・・・。小夜さんも困った顔して車を敷地内に入れずに停まったから、私だけが車を降りて彼の所に向かった。

「ごめん、ごめん!私達の勘違いでお互いが連絡したと思い込んでたの。今日はマズかったんなら帰るから気にしないで?ホントにごめんなさい!」

「いや・・・大丈夫。入っていいけど今、双子はお袋と外出中なんだ。もうすぐ帰ると思うけど」
「あ・・・そうなんだ。ううん、私は別にいいの。遊びに連れて行ってもらえて喜んでるよね、きっと!仁美さんも一緒なの?」

「仁美は屋敷に居るよ。小夜にいつもの場所に車を入れるように言ってくれ」
「・・・うん、本当にいいの?なんかあったの?」

「いや、何もない。寒いから早く入ろうか」

そう言いながらも、もう1回美作さんは何かを探すかのように私達と反対側を見ている。私も彼の見ている方を眺めてみたけど何もないし、誰も居ない・・・一体美作さんは何を見てたんだろう?
横から顔を覗き込んだらニコッと笑われたけど、それは困ったような笑顔に見えた。


「誰かを待ってるの?って言うか、ここまで出て?」
「・・・いや、そんなんじゃない。そろそろお袋の車が帰ってくるかなって思ってさ」

「そうなの?いつも出迎えてるの?」
「あはは!それも違うけど、たまたまな・・・」


お出迎えって顔じゃなかったけど・・・もう1度見上げたらやっぱり眉を寄せてる。そして小さく息を吐いたらお屋敷の門を潜った。
小夜さんには今の話を伝えて車を中に入れ、私は走って美作さんを追いかけた。



お屋敷の中に入ると「仁美を呼んでくるな」って美作さんは自分たちの部屋に向かってしまった。
だから1人でリビングに入り、ソファーに座って待とうとしたら・・・ここのテーブルの上には珈琲カップが3つ置かれていた。

美作さんと仁美さんともう1人?もしかしたらお客さんを見送ってたのかしら?
ここにまだ並んだままって事はたった今までお話ししてたって事だよね?タイミングが悪かったのかな・・・美作さんがあんなに真剣な顔してたから大事な話の直後だったのかもしれない。


帰った方がいいのかな・・・って思った時、フワッと懐かしい香りが漂った気がした。

何だろう、この感じ。
香りかと思ったけどそうじゃなくて・・・何故かこの部屋の空気が・・・


「つくしちゃん!あきら様、怒ってなかった?!どうしよう~!」
「は?あぁ、怒ってないみたい。でも誰かお客さんが来てたようだから忙しいのかもしれないけど・・・」

「えっ?ホント?じゃあ、渡したらすぐに帰ろ?ごめんね、確認しなかったから・・・」
「うん。それに双子、今は居ないんだって」

「あ・・・そうなんだ」

小夜さんが来たからさっき感じてた懐かしい空気は消えてしまった。
でも、何だったんだろう・・・すごく、すごく温かい感じがしたのに。


暫くしたら仁美さんを連れて美作さんがリビングに戻ってきた。
小夜さんは何度も頭を下げて謝って、私もポリポリ頭を搔いてしまった。でも、美作さんは怒ってるわけでもなく、いつもの柔らかい表情に戻っていた。
仁美さんは今日も綺麗で気分も良さそう。すぐに帰るって言った私達に「子供達が戻ってくるまでお茶に付き合って?」と誘ってくれた。


「あの、仁美様。これ、焼いたんですけど良かったら食べてください。チョコクッキー、つくしちゃんと2人で作ったんです」

「まぁ・・・って事は私じゃなくてあきらさんにじゃないの?ふふっ、気にしないから渡したら?」
「うわぁっ!そんなんじゃないです!仁美様、そんな事言わないでください!」

「・・・いいじゃん。美作さんに渡したら?」
「えぇっ?!やだ!つくしちゃんまで!・・・あ、あの、そんなつもりじゃないですから!」


本人目の前にして何の話をしてるんだか。
美作さんはクスクス笑って自分から小夜さんに手を差し出した。そうしたらその手に可愛くラッピングした箱を恐る恐る乗せたりして。年上だけど、その仕草が可愛くて思わずニッコリしちゃう。

「ありがとう、小夜。仁美と一緒に食べていい?」
「勿論です!!そのつもりで持ってきましたんでっ!本当は奥様がお上手ですから恥ずかしいんですけどねぇ~」

「うふふ、判るわ。だから私、お菓子作らないもの」
「あぁっ!仁美様、そんな事言わないで・・・」

「ふふっ、小夜さん可愛い♡」



その時、玄関の方が賑やかになった。
キャッキャッと可愛らしい声がここまで聞こえてきて、私の胸は一瞬で熱くなった。

紫音と花音が帰ってきたんだ・・・でも、子供達を迎えに行くのは仁美さんの役目。私は仁美さんが玄関に向かうのを黙って見るしかなかった。
そして仁美さんが出迎えるより早くに夢子おば様がリビングに戻ってきて、手に抱えていた沢山のお買い物袋をその場に降ろした。


「あ~!疲れたぁ!2人がすぐに持って帰るって言うんだもん、久しぶりにこんなに荷物抱えちゃったわよ・・・・・・あら?」

「くすっ、お疲れ様です、夢子おば様。お邪魔してます」
「奥様、大丈夫ですか?私が運びましょうか?!」

「・・・つくしちゃん?来て・・・たの?」

「え?えぇ、ついさっき。連絡ミスしちゃったみたいで急な訪問になりました。ごめんなさい・・・」


あれ・・・?今度は夢子おば様が変な顔してる。
美作さんといい、おば様といい今日はどうしたんだろう?

私と美作さんを交互に見てポカンとしてるけど、おば様の横に居る2人は嬉しそうに買ってもらったおもちゃを仁美さんに見せていた。だから私の意識はすぐにそっちに向かってしまった。

「良かったねぇ・・・これはなに?」「わんわん♪」
「こっちは花音のもの?」「ぷぅさん♪」

わんわんだって。ぷぅさんだって。
可愛い声で仁美さんに説明しながら買ってもらった縫いぐるみを抱き締めて、花音なんかクマのお腹に自分の顔を押し当ててる。窒息するんじゃないの?って思っていたら「プハッ!」って声出しながら顔をあげた。
紫音は大きな犬の縫いぐるみに跨がってその背中に抱きついて、重心が傾いてゴトン!と床に落ちてしまった。

「あっ・・・!」

思わず声が出て椅子から立ち上がったら、紫音の大泣きが始まって・・・その小さな手は仁美さんを抱き締めた。

「うわぁ~~ん!!あ~ん、いたい~!!」
「あらあら、おいで、紫音。大丈夫だから・・・」

「ママァ~!!」


当たり前だよね。お母さん・・・だから。
こんなの判りきって頼んだはずだよ・・・だから悲しくなんてない。私は2人にとって「つくしちゃん」なんだから。


「こえ・・・こえ、ぷぅさん!」
「・・・え?」

「こえね、ぷぅさん!」

泣いてる紫音を見ていた私の傍には花音が来ていた。
小さな手で自分と同じぐらいの大きさのクマの縫いぐるみ持って、私にそれを見せてくれた。抱っこしろって言うのかしら・・・縫いぐるみを差し出すから受け取ろうとした時、温かい手に触れてしまった。

こんなに寒いのになんて温かい・・・ちょっとだけ湿ったような子供の手。
本当なら私が毎日握ってあげるはずだった花音の手。

「可愛いねぇ・・・クマさん、好きなの?」
「かのん、ぷぅさん、しゅき!」

「そう・・・良かったねぇ。見せてくれてありがとう・・・はい、どうぞ」
「・・・ん」

抱かせてもらった縫いぐるみを花音の手に返したら、また蹌踉けながら仁美さんの所に向かった。もう紫音も泣き止んでまた同じ事して跨がってる。
花音は転けそうだし、紫音は落ちそうだし・・・それを交互に見ながら優しい笑顔の仁美さんは本当に母親みたいだった。


「・・・牧野。大丈夫か?」

「・・・うん、大丈夫。良かった・・・楽しいお出掛けだったんだね。うん、本当に良かった。笑ってる顔が見られて・・・」

「つくしちゃん、無理しないで抱っこしたら?」

「おば様・・・ううん、それの方が後が怖いからいいんです。私はこれで充分・・・ほら、見て?嬉しそうでしょ?」



本当は苦しい。
本当は抱きたい・・・本当は一緒に居たい。

でも、私じゃこの子達にこんな笑顔はさせてやれない。間違ってるって言われるかもしれないけど、これで良かったんだ。


これで・・・正解だったんだ。





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