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plumeria

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「あ・・・やだなぁ、雨が降り始めた。ハク・・・どうしよう。髪を巻いてもこれじゃダメだね」
「ピピピ、ピピ!」

「仕方ないなぁ、今日はストレートのままで行くしかないわね」


窓の外に当る大粒の雨を見て今日の服や髪型が変わる。

少ない営業用の服の中でも雨の日にはそこまでいいものは着ない。汚れたらクリーニング代、余分にかかるから。
髪を巻かなくてもいいのは楽ちんだけど、その分幼く見えるからお化粧もいつもより濃いめにする。
それじゃなくても似合わないほど濃くしてるのに。

「彼が見たら幻滅するだろなぁ・・・そんなの似合わないよって怒るんじゃないのかしらね、ハク」
「ピ!ピピ・・・ピピピ!」

「いつもね、そのままが1番って言ってくれてたの。大きな口で笑う私が好きだって・・・もうどのくらいそんな笑い方してないんだろう。ハクも見たことないでしょ?私のそんな顔」
「・・・ピ?」

「あははっ、ごめんごめん、迷わせたよね!あんた、インコだもんね」


服は薄いグレーのジャージ素材のワンピース。これなら少々汚れても何とか誤魔化せるし家でも洗える。上から厚めのカーディガン重ねるから寒くもないし。
ネイルはわざと派手に真っ赤なのを塗る。ハクは何故か赤が嫌いで私がこのネイルをすると指には止まってくれない。インコでも好き嫌いがあるんだね?って言うと、いつも怒ったような声で鳴かれた。

アイシャドーはパープル系にして濃いめのグレーを縁に引く・・・その上からまた苦手なアイライン。ここでかなりの時間を使う。

仕上げに真っ赤なルージュ・・・今日の『華』が完成した。


「それじゃ行ってくるね。ハク、今日はそんなに遅くならないと思うわ。待っててね」
「ピピピ、ピピ!」


アパートの階段を降りて真っ黒な傘を差す。
こんなものでも明るめのものは選べなかった。それだけで誰かに印象を残しちゃいけないって思うから。

「雨の日にグレーのワンピースで黒い傘・・・鬱陶しいったらないわね・・・」

ブツブツ言いながらバス停まで向かう間も傘で自分を隠す。

でも、嫌いじゃなかった。
雨の日はみんなが傘を差すから私の事なんて見ないもの・・・だからとても気が楽。


お店に着いた時には半分ぐらい濡れてる状態だったから、マスターにも「タクシーに乗ればいいのに」なんて言われちゃった。
それを笑って誤魔化すとマスターも悲しそうに笑ってくれる。
「何かのためにお金を貯めてるのかい?」なんて聞かれるから「老後が独りだもん!」って巫山戯て言うと大笑いされた。

何を今の歳から・・・って。

でも、それは本当なんだもん。
結婚なんてしない・・・私の好きな人はもう一生、あの人しかいない。


そう・・・心に決めてるから。



**


「いらっしゃいませ!あら、本田さん、すごく濡れてるのね!まだ雨が酷かった?」
「いや、傘を持ってなかっただけだよ」

「こんばんは~、中村さん、お仲間がお待ちですよ。奥のお席ね」
「あ~、疲れた!華さん、温かいおつまみ作ってよ」

「はいはい、何でもいいの?」


今日は雨だからお客さんは少なかった。
今の時間でもテーブルに5人、カウンターに1人・・・これなら少し早めにアパートに帰れそう、なんて料理場でおつまみを作りながら思っていた。

藍微塵あいみじんにはホステスは私ともう1人、真由美ちゃんがいるけど小さい子供がいるから時間は少しだけ。だから仕方がないけどお休みも多い。

母子家庭で、病気をしたら預かってくれる施設はない。
今日がちょうどそんな日で、私はあんまり奥には引っ込んでいられなかった。だからおつまみだっていつもより更に簡単で、作ったらすぐにテーブルでお客さんの相手をする。女の子がいる仲間なら気にしないんだけど、男性ばかりの時は仕方なく歌の相手まで。

「華ちゃん、カラオケにこの曲入れて?」
「はいはい!えっと・・・はい、どうぞ!」

「華ちゃん、ビールもう一杯!こっちはウイスキーロックで!」
「はーい!すぐに用意しまーす」

マスターはカウンターで常連さんの難しい話を聞いてるみたい・・・目で「ごめんね」って合図されて私がお酒の用意をしていた。



「あれ?このスマホ、さっきまでここで飲んでた人のじゃない?」
「華ちゃん、忘れ物があるみたいだよ?」

「えっ、忘れ物?どれ?」

中村さん達が飲んでる席の真横に黒いスマホが置かれたまま。確かそこには本田さんが座っていたから彼の忘れ物だろう。
その人がお店を出たのは3分ぐらい前だった。


「マスター、スマホがなかったら今の時代困るだろうから届けてくる。まだそんなに遠くに行ってないよね?」
「華ちゃん、大丈夫かい?雨が酷いんじゃない?」

「傘があるから大丈夫でしょ!スマホは濡れないようにビニールに入れていくわ」

お店の青い傘を差して表に出たら、思ったより雨は酷かった。
でも早くしないとタクシーにでも乗られたらまた面倒なことになりそうだし、だいたいスマホがここにあるんだから連絡の取りようがないもの。
そう思って土砂降りの雨の中、大通りに向かって勢いよく走った!

運良く本田さんはタクシー待ちで走ってきた私に気が付いてくれた。
「ごめんね、華ちゃん!」って何度も謝ってくれたけど、渡せた事が何よりと笑って、またお店に向かって走った。


「うわっ!ホントにびしょ濡れ!ここまで酷くなるとは思ってなかったーっ!」

自然と出る大声に自分でも可笑しかったけど、傘を差してるから周りなんて見えない。
バシャバシャと水を跳ね飛ばしてもうすぐお店って所まで来たら、道路の段差に躓いてヒールが片っぽ脱げて転んでしまった!

「きゃあああぁーっ!いっ・・・たーい!何でこんな所で靴が脱げんのよ!」

手に持ってた傘が転がっていったから、降り注ぐ雨に濡れてあっという間にグレーのワンピースが黒っぽく変わった。
でも、足を挫いてしまってすぐに立てない・・・脱げた靴を拾って履いたけど、立とうとしたらズキン!と痛みが走ってすぐ横のビルの壁に手を突いてしまった。



その時私の傘を拾ってくれた人がいた。
そしてゆっくり歩いて私の方に来る。

私は腰を屈めていたからその人の足だけ見ていたけど、目の前に来て傘を差し出してくれたから慌てて顔を上げてお礼を言った。


「あっ、すみません、どうもありが・・・」



「大丈夫?足、痛めたの?あんた・・・今でも走ってるんだね」


私に傘を差し出してくれたその人は、柔らかい茶色の髪で薄茶の瞳で・・・相変わらず素敵な人だった。

私は驚きすぎてその場で身体が固まった・・・雨の音も車の音も、何処かから流れてくる安っぽい音楽も何もかも全部頭から消えて無音になった。


どうしてここにいるの?
どうして驚かないの?
どうして・・・何も変わってないの?

私はこんなに変わってしまったのに・・・どうしてあなたは2年前の姿のまま私の前に現われたの?

だけど、私は「牧野つくし」じゃない。今は・・・『華』だ。


「あっ、どうも・・・どうもありがとうございました。あは、大丈夫ですよ、少し挫いただけでこんなのすぐに治るから」

「・・・濡れるから早く掴まって?お店、すぐそこなんでしょ?着替えあるの?」
「え?着替え・・・あぁ、着替えは・・・探せば何かあるでしょ。は・・・はは、ホントにすみません!あ、ありがとう!」


自分でも声が裏返ってるのがわかった。
身体が震えてるのは雨のせい・・・指が震えるのは濡れたから・・・。

決してこの人を見たからじゃない。この人とは初めて会うのよ、華・・・初めて会う人だよ!


「どうでもいいけど歩けないなら抱きかかえて行くよ」
「はっ?!あっ、いや、そんな・・・そんな事いいですから、ちょ、ちょっと!」

「・・・あんたは傘持ってて」
「あっ、きゃああぁーっ!」

自分の傘と私の傘をたたんで私にポン、と渡すと、急に目の前に彼の胸が来て驚いて目を瞑った!そうしたら今度は自分の身体がフワッと宙に浮いて、慌ててこの人の濡れたスーツの襟元を握った。


「くすっ、落とさないから心配すんな」
「・・・・・・」


彼はずぶ濡れの私を抱きかかえて藍微塵あいみじんに向かった。
なんで何も言ってないのにそこに向かうのかさえ判らなかったけど、それよりもこの人の胸に抱きかかえられてる事で心臓が止まりそうだった。


身体中の機能が全停止したような気さえするのに、この人の香りだけは私の中に入ってきた。


懐かしい・・・とても懐かしい香りだった。






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Comments 6

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2019/03/17 (Sun) 00:48 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/17 (Sun) 08:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

あははははは!無いってばっ!
そんなの何処でするの?まだ勤務中です(笑)

そうそう!絵に描いたような・・・じゃなくて漫画で良くあるような再会シーンです♡
ダッシュして逃げられないってヤツね!

ネタ切れしてるから在り来たりの再会シーンで逆に喜ぶ私(笑)
自分が行かない「夜の店」が現場だという事が1番の問題・・・もう何年も飲みになんて行ってないのよね。
(いや、2年ぐらいか?WW)

もう20年ぐらい前になるのかなぁ?
まだお酒に強かった時に初めて働いた会社の飲み会に行って、飲み過ぎて入り口のドアに激突して(理由は忘れたけど💦)脳しんとう起こして病院に運ばれた事があります。
今回の藍微塵はそのバーがモデルです(笑)

え?そんな話、どうでもいい?


それよりも裸ジャ・・・いや、止めておこうか。

2019/03/17 (Sun) 10:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

あははは!お礼言っていただけた(笑)
早かったでしょ?だって総ちゃんがもう100話近く会ってないんですもの💦(しかもまだ会わないし)

離れ離れを書くのはひとつで充分です💦


う~ん、プレッシャー掛けますね?(笑)
そこまで事件が起きないから活躍もするかどうかですが・・・💦
期待を裏切ったらごめんなさい!!

が、頑張りまーす!!

2019/03/17 (Sun) 10:31 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/17 (Sun) 12:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、笑い事じゃありませんって!(笑)

若かったからまだ頭蓋骨が固かったんだろうと思うけど、今だったら死んでるから。


1番初めの会社はねぇ~・・・馬鹿ばっかりしてましたね!

おじちゃん達に囲まれて可愛がってもらえたし、5~6歳年上の男性社員が多くて遊んでもらいました。
ついでに言えばその脳しんとうを起こした翌日、ちゃんと会社には行ったんですが二日酔いで早退しました(笑)

今現在でも付き合いのあるその時の上司が、その話題をずーっと言うので忘れられません・・・。


子供が同じ事をしたらめっちゃ怒りそうだけど(笑)

2019/03/17 (Sun) 21:03 | EDIT | REPLY |   

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