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plumeria

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雨が降りしきる中、ネットで調べた雑居ビルを探していた。
路地裏だと言うけど本当にわかりにくい場所で、こんな所にもバーなんてあるんだ・・・って思いながら店の名前を探した。

確かこの辺り・・・そう思った時、1つの店のドアが開いて黒髪の女性が飛び出してきた。

「・・・濡れないようにビニールに入れていくわ、行って来まーす!」


瞬間、俺はその場に足を止めた。


牧野・・・・・・牧野だよね?
あの声と黒髪と、あの動きは間違いなく彼女のものだ。


驚きと懐かしさと・・・なにより嬉しさで全身が固まってしまって声すら出なかった。


でも彼女は俺には気が付かなくて、雨の中を先に飛び出して走りながら青い傘を広げた。
くすっ、相変わらず順番が反対だよ?ってその後ろ姿を見ていた。

見上げたらその店の名前は藍微塵あいみじん・・・ここで待っていれば牧野は戻ってくるって思ったから傘を差したまま少し離れたビルの前で待っていた。


こんな薄暗い場所で名前変えて・・・あんた一体どうしたのさ。

そんな器用な人間じゃないでしょ?
自分に嘘なんてつけないでしょ?それなのにどうして「自分」を消してるの・・・?

それ、俺には助けられないの?

藍微塵の文字さえ消えかかってるような古いビル・・・それを見上げていたら遠くからパシャパシャと走る音がして彼女が戻ってきた。


「うわっ!ホントにびしょ濡れ!ここまで酷くなるとは思ってなかったーっ!」

そんな大きな声出しながら雨の中走る人なんて居ないよ?
ホント・・・何にも変わってないじゃん。そんなに走ったら転けるよ・・・そう思った瞬間、彼女の靴が片方脱げてその場に転んでしまった!

持っていた傘も放り投げて自分の足首を摩ってる。
もしかしたら今ので挫いたかもしれないと近づいていった。本当は急ぎたかったけど何故か足がゆっくりしか動かない・・・今ここで急いで近づいたら逃げられそうな気がしたから。

まるで子供が蝶やバッタを捕まえる時みたい・・・この状況なのに俺は牧野に少しずつしか近寄れなかった。

拾った傘を差し出す時も言葉が出なかった。
なんて言っていいのかわからなくて・・・この2年間の空白の時間に一体何が起きたのか、目の前の光景が嬉しいのに信じられなくて。


牧野は傘に気が付いて顔を上げ、俺を見た途端・・・言葉も動きも止まった。
俺がやっと出せた言葉も可笑しかった。

「大丈夫?足、痛めたの?あんた・・・今でも走ってるんだね」


俺を見上げたその顔、やっぱり何にも変わってない。
前より痩せたんじゃない?でも大きな目はそのまんま。少し濃いめの化粧が崩れてて笑えるけど。

牧野、って声をかけようとしたら彼女の方が視線を外して俺を遠ざけようとした。


「あはっ!・・・大丈夫ですよ、少し挫いただけでこんなのすぐに治るから」

「・・・濡れるから早く掴まって?お店、すぐそこなんでしょ?着替えあるの?」
「え?着替え・・・あぁ、着替えは・・・探せば何かあるでしょ。は・・・はは、ホントにすみません!あ、ありがとう!」

如何にも初対面って感じで余所余所しい態度を出してるけど声が上擦ってる。
それってバレバレなのに、まだ「演技」しなくちゃいけないの?


「どうでもいいけど歩けないなら抱きかかえて行くよ」
「はっ?!あっ、いや、そんな・・・そんな事いいですから、ちょ、ちょっと!!」
「・・・あんたは傘持ってて」
「あっ、きゃああぁーっ!」

冷静な振りしてるけど心臓がバクバク言ってる。
何年かぶりに牧野に触れる・・・正面から抱き締めたくて堪らなかったけど、息を止めてその衝動を抑えた。

抱きかかえたら牧野は驚いて俺にしがみつく。
その時にふわっと香る牧野の香り・・・俺の知らないフレグランスを付けて背伸びなんてして。

こんなに軽かったっけ・・・って、久しぶりの重みに懐かしいような悲しいような・・・でも、やっぱり凄く嬉しかった。



店のドアを開けて中に入るとマスターのような男性がびっくりしてカウンターの中から飛び出してきた。
他にも数人いる客がずぶ濡れの俺達に驚いて、会話も酒も止めて視線を向けてる。

「彼女がそこで転けてしまって足を挫いたみたいだから」
「あ、そうなんですね?申し訳ない、ありがとうございます!華ちゃん、大丈夫かい?」

「マスター、ごめんなさい・・・このままだと表に出られないから奥で着替えてきてもいい?」
「あぁ、勿論!すぐに・・・えっと、どうしよう」


華ちゃん・・・社の人間が言ったとおり牧野はここでは「華」って名前で働いてる訳だ。そしてこのマスターは華の本名を知ってるって事だ。

牧野は俺の前で「華」と呼ばれたことで動揺してるのか、顔を背けて目を合わせようとしない。
それでも俺の肩に回してる右手の指先に凄く力を入れて震えてる。もう片方の左手は自分の口元を隠してる・・・その真っ赤なルージュを俺には見せたくなかったのかもしれない。

何故かそんな気がした・・・特別な約束も告白もしていない、まだ『友達』のままの関係なのに。


「もし入ってもいいなら奥の部屋まで連れて行くけど」
「あっ・・・そうですか?本当に申し訳ないです!どうぞ、こちらです・・・!」

牧野は一瞬「ダメ・・・」って言いかけたけど、マスターの方が先に奥に引っ込んで俺に手招きをした。
だから困った顔の牧野を抱きかかえたまま、カウンターの横から中に入って奥の更衣室のような狭い部屋に向かった。


「それでは私はお店の方にいますから、お客様もどうぞ少し休んでいってください。随分濡れていらっしゃる・・・タオルぐらいしかお貸しできないんですけど」

「いや、俺は大丈夫。彼女の方がとにかく濡れてるから急いで着替えないと」

そう言うとマスターは俺より一足早く店の方に出て行った。



狭い部屋には俺と牧野の2人だけ。
牧野は俺に背中を向けたまま何も話そうとはしなかった・・・側にあったタオルを1枚取って身体に掛けて、震えながら自分の身体を両手で抱えるように小さくなっていた。

声なんて掛けないで・・・そう言ってるような気がしたけど、このままになんか出来なかった。


「・・・牧野、だよね?あんた、どうして名前を変えてるの?」



**************



牧野・・・そう呼ばれた時に心臓が悲鳴を上げた。
それは誰にも聞こえないけど自分の中で何かが爆発したんじゃないかと思うほど・・・鋭い刃物が刺さったかと思うような痛みが走った。
ポタポタと髪から雫を垂らしながら固く目を閉じて、早く「華」に戻らなくちゃと言い聞かせた。

彼が1歩近づいた・・・それ以上来てはダメ!
今より近くに来たら私は「華」に戻れない・・・!


「牧野、探したんだ・・・総二郎とあきらも、みんなであんたを探して・・・」

「誰かと間違えていらっしゃいませんか?私は華って名前で”牧野”なんて名前じゃないですよ。ごめんなさい、助けていただいたのにこんな言い方したくないんだけど着替えたいの。出て行ってもらえます?」

「・・・俺のことを騙せると思うの?どれだけ見た目を変えても判るよ」


花沢類は私の後ろを動かない。
騙せると思うの?・・・ううん、そんな事は思わないけど騙さなきゃいけないの。私はあなたと会うことはもう出来ないのよ・・・。

「華」でしかこの街にいられない・・・「牧野つくし」に戻るのはあの小さな部屋だけだもの。


「・・・騙してなんかいませんよ。私には1つしか名前がないだけです。仕方ないわね・・・そこに立ってるんなら後ろのファスナー下ろしてくださる?身体が濡れたからやりにくくて・・・」

わざとそんな風に場末のホステスみたいな言葉を出してみる。
普段から使わないからそれっぽく聞こえるのかどうかも判んなかったけど、濡れた髪を掻き上げて精一杯の演技で流し目を送って笑ってみる・・・でも、口元が引き攣っちゃうのが自分でも判るから必死で隠した。


花沢類は小さく溜息をついて「店で待ってる・・・」、そう言って更衣室を出て行った。


パタンとドアが閉まったら一気にその場に倒れ込んだ。
タオルを頭から被ったまま、顔がまだ雨で濡れてるまま・・・その雨と重なって涙が溢れた。


そして踞ったまま自分を抱き締めた。
さっき花沢類が触れていたところ・・・そこに自分で手を当てて彼の温もりを思い出していた。


ダメだ・・・今でもこんなに愛してる。

心が花沢類を求めてる。
触れられたところが熱くて熱くて・・・出来るものならもう1度抱き締めて欲しい。


会わなかった数年間の日々は彼を忘れるどころかもっとその想いを強くしていたのだと・・・今日気が付いた。




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Comments 4

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2019/03/18 (Mon) 07:04 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/18 (Mon) 07:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

そうなんです~、つくしちゃん、頑固に・・・って言うか言えないんですけどね💦
早く飛び込めるといいんですけど、そこにはやっぱり「あの人」が出てくるんですよ(笑)

類君的にはバレてもいいんでしょうけどね。
守るつもりで居ますから。

「牧野」って言われて返事が出来るのはいつかなぁ・・・。
いやいや、長編じゃないって💦

どうぞ見守ってくださいませ♡

2019/03/18 (Mon) 12:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

かぼ様、こんにちは。

ご訪問&コメントありがとうございます♡

あはは!素直じゃないんでねぇ💦
と言うか、つくしちゃんからすれば類君に被害が出ないように必死なんで、時間が掛かりそうです。

でも、類君に見付かったら最後、逃げられないと思うので変化は出てくると思います♡

爆弾投下なんてないので、ゆったりとお付き合いくださいませ♡

2019/03/18 (Mon) 12:06 | EDIT | REPLY |   

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