FC2ブログ

plumeria

plumeria

店に戻ったらさっきのマスターが慌てたように側に来て、牧野を助けた礼を言い何度も頭を下げていた。
どうやらこの人は悪い人ではなさそうだ・・・直感でそう感じた。

「上着が随分と濡れてしまいましたね、干しておきましょう。お寒くはありませんか?どうぞ、タオルをお使いください」
「俺の事は心配しなくていいよ。えっと・・・一杯もらえる?」

「は?はいはい、うちは初めてですよね?キープ、されますか?」
「・・・あっ、そうか。日本は今でもボトルキープってシステムなんだね」

「はい?」


ボトルキープは日本独特の集客システムで他の国ではしない事・・・俺自身もやったことがないから自分の好きな酒の銘柄を言えば「うちにはそんなものは・・・」と、苦笑いされた。
濡れた上着を渡したらそれをハンガーに掛けて壁際の上着掛けに干され、俺は渡されたタオルで濡れた所をサッと拭いた。寒くないか、と聞かれれば勿論冷たいから寒いけど、それよりも出会えた事で高揚していたから気にはならない。

後は2人で話が出来れば・・・それを考えていた。


「えっと、どうしましょう?お客様」

「じゃ、マスターの勧めるものでいい。キープしておいて?」
「は、はぁ・・・ではこの辺りはいかがでしょう?私はなかなかいい酒だと思うんですが」

「うん、じゃあそれで」
「お名前をこちらにご記入下さい」

渡されたネームプレートに自分のサインをすると、それを見たマスターが驚いたような顔をした。
「花沢」という名前に反応したんだろうけど、企業として驚いたのか、牧野から聞いていて驚いたのか・・・それは判らないけど。


「マスター、彼女はいつからここで働いてるの?」
「華ちゃんですか?さぁ・・・いつだったですかねぇ。覚えていませんが1年以上前にはなりますよ」

「華ちゃん・・・それは彼女が決めたの?」
「ははは、決めたも何もあの子は初めから華、でここに来ましたからそれ以上のことは知りませんよ」

マスターがグラスに氷を入れて酒を注ぎ、俺の前に差し出した。

店内をぐるっと見回したけど、お客が多くても12~13人ぐらいしか入れない小さな店。
雨が降っている今日は客が少ないのだろう、テーブル席に3人と2人の2組がいるだけでカウンターには俺1人。

特別派手な飾りもなく暖色系の照明で落ち着いていると言えば聞こえはいいけど、流行ってないんだろうと言えばそれまで。こんな判りにくい場所に店を構える所を見ると儲けたくてしているという訳でもないのか・・・。
今飲んでる客の様子を見ても店のグレードを気にするような感じじゃない。

気心が知れた店で楽しく過ごせればいいって感じの、堅苦しい雰囲気は全然なかった。



「マスター、ごめんなさい。1人にしてしまって」

牧野が申し訳なさそうに奥から出てきたのは10分後。
さっき着ていたワンピースから別の服に着替えてて、でもそれはどう見ても彼女のものじゃなかった。ぶかぶかで派手な赤いドレスみたいなもの。
首元がずり落ちるから何度も手で引き上げながら店の中に戻って来た。


「華ちゃん、大丈夫?寒くないかい?まだ髪が濡れてるみたいだね」
「平気平気、このぐらいすぐに乾くから。身体だけは丈夫だから気にしないで?」

「・・・じゃあテーブル席のほうは皆さんで盛り上がってるからカウンターの彼を頼むね」
「・・・え?カウンター・・・」


カウンターは俺・・・牧野はマスターに言われて俺の前に立って「何か作りましょうか?」と小さな声で言った。



***************



「何か作りましょうか?お、おつまみ・・・高級な物はありませんけど」
「・・・何でもいいよ。あ・・・人参はキライ」

「人参が入らなければいいんですね?くすっ・・・子供みたい」

今でも人参がダメなのね?
そりゃそうか・・・大学までキライだったし、まだそんなに時間は経ってないんだもん。急に好きにはならないよね。
「少しだけ待っててくださいね」、そう言ってまた奥に入って簡単なおつまみを作った。

真由美ちゃんの服が大きすぎてズリ落ちちゃう・・・胸元が見えないよね?って確認しながら、またダランとしてしまう首元を引っ張り上げた。何度しても無駄なんだけど。


本当に何も変わってない。

柔らかい髪の毛も薄茶の瞳も、綺麗な長い指も何もかも・・・。
坂本さんが似てるって思ったのに本人を見たらちょっと違う・・・ううん、全然違う。花沢類はやっぱり特別に見えた。

普通の人よりボソボソしてて少しだけゆっくりめな喋り方・・・それなのに意外とグサッとくること言ったりして。昔はイライラしながら聞いてたりしたけど、そのイライラが楽しかった。
どうにかして花沢類を笑わかせたくて、どうにかして早口にしてやりたくて、どうにかして慌てさせたくて・・・そんな事を考えながら彼の姿を探したっけ。

その時の彼は・・・あの人だったのに。


どうしてここに来たんだろう・・・一時帰国なのかしら。
ううん、そうじゃなくてこのお店を選んだのは何故?絶対にこんな所に来る人じゃないのに・・・だけど「初めて会うお客さん」の彼にそんな事聞いても大丈夫?

何を聞いたら大丈夫なのか、どれを聞いたらマズいのか、余りにも急に起きた出来事で訳が判らなくなっていた。

「よし、出来た!」って、この店でも高級なお皿に綺麗に盛り付ける。そしてちょっと摘まんで味見して・・・これなら大丈夫かな?ってドキドキしながらカウンターに持って行った。



「お待たせしました。こんなもので良いかしら・・・身体が温まれば良いけど」

「・・・うん、ありがと。懐かしいね、これ」
「え?な、懐かしい?」

「だって、俺が1番好きだって言ったものでしょ?」


・・・・・・あ、そうだった。出汁巻き卵・・・この人の大好物だった。

もう随分前にそんな話をしたような気がする。
お屋敷では食べたことがないって、いつも私のお弁当箱から1つ摘まんで食べてたっけ。ヤバい・・・気が付かないうちにそんなの選んで作ってたんだ。
それに長芋ステーキの梅味噌乗せ・・・如何にも私が作りそうな料理じゃない?


「そうなんですか?はは、簡単だから何でも良いって言う人にはたまに作るの。こんな店で出すなんて珍しいでしょ?お洒落なおつまみなんて無いんですよね・・・ごめんなさいね、庶民派で」

「・・・いや、好きだから」

「そう・・・ですか。良かったわ」


好きだから・・・って言葉にドキッとする。
別に私に言った訳じゃないって判ってるけど、この声で「好き」だなんて言われたら勘違いしちゃいそう。だから、やっぱり目を合わせることなんて出来ない。
聞きたい事もあるけど聞けない・・・聞いたらどんどん質問するかもしれないし。


『華』はこの人を知らない・・・興味なんて持たない。初めて会う人に細かい事まで聞かなくていい。


「足・・・大丈夫?」
「はっ?あ、足・・・あぁ、そう言えば・・・痛っ、え?まだ痛かったんだ?!」

「くすっ、さっきから少しだけど引き摺ってる。手当しなくていいの?」
「これくらい大丈夫でしょう。明日には治ってると思います。ありがとう・・・えっと、お名前が・・・」


ダメだ・・・演技力なんで昔から無いんだもん。この棒読みの台詞に花沢類が気付かない訳がない。
でも名乗るわけにもいかないから、ボトルに付けられたネームプレートを見るフリをした。


「花沢さん・・・ですね。今日は本当に来てくれてありがとうございます。えっと・・・お1人なのにこのお店に入ったの?よく気がつきましたね。ここ、奥まってるから急に立ち寄るようなお店じゃないでしょ?」

「そうだね。ちゃんとネットで調べてきたよ」

「ネットで調べてまで?この店の何が良かったの?」


「・・・この店に『つくし』って女の子が居るって聞いたから」


氷を準備していた手が止まった。
偶然なんかじゃ無く、彼は私を捜してここまで来てくれたんだ。
アイストングで掴んでいた氷が転がって床に落ちた・・・それを目で追いながら慌てて新しい氷を入れた。

捜してくれた・・・それだけで嬉しかった。


でも、同時にそれは恐怖でしかなかった。






yjimage1113.jpg
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/19 (Tue) 06:42 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/19 (Tue) 08:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

そうそう!類君が見間違うわけ無いので自信たっぷりに行きます!
でも、つくしちゃんは・・・さて、こちらが打ち解けるのはいつかしら?ここは頑固ちゃんが続くかも?

間違いなく焦れったいお話しになると思います。
大きな心でつくしちゃんをお待ちいただきたいと思います♡

2019/03/19 (Tue) 22:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは!

あっはは!そんな兄弟いらんでしょーーーっ!!

ってか、本当にマスターだらけ(笑)
でも名前があるのが橋本さんだけだから、このマスターも橋本さんかしら?

大根役者・・・(爆)
暫く大根続くけどいいかしら(笑)

類君も大根相手に頑張ってくれるかしらねぇ♡
大根は熱いのが1番・・・熱いうちに召し上がれって感じ?

いやいやいや、まだそれは先・・・冷めた頃に食べるはず。うん・・・(何の話だ?)

2019/03/19 (Tue) 22:12 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/20 (Wed) 00:11 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、おはようございます。

・・・・・・ホントね(笑)
忘れていました。もうその季節も終わりますね💦

途中までは考えていたのになぁ(笑)
でも、確かに難しかったのよ・・・イマイチ纏まらなかったのよね・・・。


ごめんなさいね💦(爆)

2019/03/20 (Wed) 09:23 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply