FC2ブログ

plumeria

plumeria

「つくし・・・変わった名前ですね。でも残念だわ、ここには私ともう1人しか居ないの。つくしって名前の女の子は居ませんよ」

「・・・そうかな」
「働いてる私が言うのよ?ここにはその人は居ません。その人、誰なんですか?お客さんとどういう関係?」

自分で言って白々しい・・・「誰なんですか」なんて言葉を出して、その答えを聞いてどうするつもりなの?
「どういう関係?」なんて・・・ただの友達、無関係みたいに言われて泣くのは自分じゃないの?

まさか捜し出して道明寺に連絡だなんて言わないよね?親友が捜してるから、なんて言われたら立ち直れないかも。

この時間、私の手は少しも動かなかった。
目の前の氷に天井のダウンライトが映って、オレンジ色に光るのをジッと見つめて動けない。横から来る視線を感じて息をするのにも緊張した。

震えてるのが伝わりませんように・・・祈るようにアイスペールを抱えてた。


「その人は・・・俺の大事な人。今頃何処かで泣いてるんじゃないかって・・・そんな気がしてずっと捜してるんだ。
不器用でお人好しで、いつも他人の心配してるけど1番自分が危なっかしいの、気が付かない人なんだ。強がってるけど本当は脆くて、大丈夫って言いながら崩れる時があってね・・・だから支えたくて捜してる」

大事な人・・・聞き間違いかと思った。
支えたくて捜してる?それ、本気で言ってるの?

花沢類・・・自分で言ってる意味が判ってる?そんな事を言われたら・・・私、今ここで全部言葉に出してしまいそう・・・!


「・・・あはっ、随分天邪鬼な・・・人なんですね」

「うん。でもバレバレなんだ。その人、嘘が下手くそだから」

「・・・でも、人って大人になると嘘も上手になるもんですよ。だから泣いてなくて笑ってるかもしれませんよ?」


そう言うと花沢類はどんな顔をするんだろう。
確認するのが怖かったから下を向いて彼の表情を見ないようにした。1度止めた手を動かしてグラスに新しい氷を入れて、自分用のお酒を作った。

いつも作るだけ作って放置して、薄くなったお酒をほんの少ししか飲めないんだけど。
だけど今日は作ってすぐに口に入れた。そしたら喉にカッときて、噎せて咳き込んだ!

「ゴホッ!うっ、わっ・・・こほっ!」
「クスッ・・・飲めないの?こんな店で働いてんのに?」

「・・・ちょっと濃いめにしただけです。飲めるわよ、お酒ぐらい・・・」
「無理してもダメ。それも自分についちゃう嘘の1つだよ」

「・・・・・・」


もう1回飲もうとして持ち上げたグラス・・・彼のひと言でカタンとテーブルに戻した。

何を話したらいいのか判らない。
時間だけが過ぎていくけど花沢類も黙ったまま・・・奥のテーブル席の人達がカラオケするだなんて言い始めて、この人はそれすら聞いたことがないだろうから慌ててしまった。
飲みながら歌うバーなんて経験ないはず!だっていつも入る店のランクが全然違うんだもん!

「華ちゃん!これ、これかけて!」
「はっ?あぁ、はいはい!」

「華ちゃんも歌わない?」
「えっ!いや、私は今日はダメ!か・・・風邪気味なのよ」


その時もクスッと笑い声が!ハッとして花沢類を見たら口元を塞いで笑ってる?
その笑い方・・・全然変わってないんだね。

でも、今はそんな事言ってられない。慌てて選曲したもんだから似たような曲名を押してしまってお客さんに笑われた。
「ご、ごめんなさい!」ってやり直してる最中もずっと気になるのは横で肩を振るわせてる彼。

やっと頼まれた曲が流れたから一安心・・・そうしたら始まったカラオケに花沢類が驚いていた。


「それだけ笑うって事は・・・こんなの初めてですか?」
「うん、初めて。話には聞いてたけどすごいんだね」

「花沢さんの捜してる人、他で捜さなきゃね・・・見付かるといいですね」
「・・・うん、必ず見付けられるって思ってる。不思議と何処かで繋がってるって・・・ずっとそう思ってるから」

「繋がってる・・・見付かったらどうするんですか?」


「見付かったら絶対に離さないと思う。これまで何度か離しちゃったから・・・今度は離さない」



******************




「離さない」・・・そう言ったら牧野の手が止まった。

絶対、俺にバレてるって気が付いてるはずなのに、どうしてそこまで「牧野」を隠すの?
そうしないと暮らしていけないの?そうするように誰かに・・・あいつに言われたの?

牧野と司が何を話して別れたのか知らない。
そこから調べて解決しないと、牧野はいつまで経っても偽りの自分と暮らしていくような気がした。
そんな似合わない服を着て、似合わない化粧して、似合わないグラスを持って知らない男と酒を飲む牧野なんて見たくない。

弾けるような眩しい笑顔のあんた・・・俺はそっちが見たい。


この後は言葉も交わさずにカウンターを挟んで僅か1メートルの距離。手を伸ばせば届く所に居る牧野を見つめながら時間を潰した。
テーブル席の客が2人帰り、4人帰り・・・とうとう店内の客は俺だけになった。困ったような顔の牧野は相変わらず足を少し引き摺りながらカウンターの中をウロウロしてる。
『話しかけないで』って態度で示す飲み屋の女性なんてあんただけだよ?って可笑しかった。


時間はもうすぐ0時。時計を確認したマスターが片付けのようなことを始めた。


「マスター?もしかしてここ・・・0時までの店?」

「・・・え?あぁ、あははは!違いますよ。今日はね、ほら雨だし、もう誰も来ないかと思いましてね。うちはそっちじゃないですよ」


ホッとしたような顔をした俺を見てマスターがニコッと笑った。
日本では風営法に引っ掛かる店の営業時間は0時までと決まってる。その場合、女性は「特定の接待」をするって事だったから。それじゃなくて「深夜における酒類提供飲食店営業」の店なら0時過ぎても営業可能。
この場合は所謂「特定の接待」はなく、酒の供給と世間話程度と言う事。

牧野も当然その事は知ってるだろうから俺の質問に真っ赤な顔して奥に逃げていった。


「・・・それじゃ、俺も帰ろうかな」
「そうですか?上着はもう乾いてますかね。傘はお持ちでしたか?」

「あぁ、大丈夫」


干してあった上着を羽織って席を立つと、牧野が奥から出てきて戸惑いながらも見送ってくれた。
傘立てから傘を取って俺に手渡す時も手が震えてる。ホント・・・正直なんだから。

「あ、ありがとうございました。気をつけてお帰り下さいね」
「うん、このぐらいの雨なんて平気だから」

「・・・そうですか。あの、明日もお仕事なんでしょう?」
「うん。でも日本はフランスよりいいかも。向こうだと管理職って長時間労働なんだよね。実績主義だから結構会社に縛られてたけど、こっちはそこまで残業がないし。戻ったばかりだから・・・かな」

「戻った・・・?日本に戻ったんですか?」
「・・・うん。暫く日本だよ。ていうか、驚かないんだね。フランス勤務って珍しいでしょ?」

「あっ!いえ、お、驚きましたよ!大きな・・・会社なんですね」


日本に戻ったんですか・・・その質問が「行く前の俺」を知ってるって言ってるよ?
咄嗟に出た言葉に気が付いてない牧野は困惑した顔でドアの前に立っていた。下唇噛み締めて・・・眉を歪ませて。

そんなに泣きそうな顔しないで。
やっと会えたんだから悲しそうにしないで欲しい・・・あんたがそんな顔をしてしまう「何か」から俺が救ってあげるから。


店の外に出て暫くしたら電気が消された。
もうこの裏路地には営業してる店なんてなくて辺りは真っ暗・・・薄暗い防犯灯だけが雨を映していた。


勿論1人で帰れるはずがない。俺は牧野が出てくるのをずっと待っていた。





yjimageC7JVOBAC.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/20 (Wed) 00:27 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/03/20 (Wed) 07:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

あっはは!焦れったい通り越して笑えるかしら?
いやいや、切ないLOVEストーリーなんだから!
大根から離れましょうよ!

そしてストーカー類!!

ストーカー類をストーキングするS&P!!
ここでも迷彩服、出そうかしらね(笑)

今度はシナモン様、お先にどうぞ♡

2019/03/20 (Wed) 10:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

あらら!大変でしたねぇ💦
でも、私は何度かあります(笑)あの時の驚きって凄いですよね(笑)

「・・・・・・は?なんで?」って固まりますよね💦

間に合って良かったです~!

お話し・・・ははは!
そうそう、類君ですからね~。待ってくれるんだと思いますが・・・。
いつまで続けられるのか我慢比べだったりして。

そうなったら負けるのつくしちゃんだと思いますけどね(笑)

「あーーーっ!!💢」ってなるかもしれませんが(笑)
少しずつ近寄っていくと思うので宜しくです♡

2019/03/20 (Wed) 10:17 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply