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バタン、とお店のドアを閉めたらその場にズルズルと沈み込んだ。

はぁ・・・っと大きな溜息が溢れて全身の力が抜けてしまった。
そんな私を見てるマスターはブカブカのワンピースを着てる私に「もうお客さんは誰も居ないんだから」って、カーディガンを手渡してくれた。


「あの人なんだね?・・・つくしちゃんの想ってる人は」
「・・・・・・まさか来るなんて思わなかったわ」

「凄くいい人みたいだね。綺麗な目をした人だ」
「うん・・・いい人なんです。だから会わないって決めてたのに・・・」

「ごめんね・・・多分、俺のひと言のせいだよね。あの時しか君の名前を呼ばなかったから」
「・・・そうなのかな。でも気にしないで下さい。もしかしたらもうここで働けないかもしれないけど・・・」

マスターが1人でお店を片付けてるのに身体がすぐには動かなかった。凄く・・・緊張して疲れちゃったから。
それでも重たい腰を上げて立ち上がり、2人で言葉も出さずに掃除をした。何処かに当たる雨の音・・・その音だけが耳に届いていた。


「彼・・・外で待ってるんじゃないのかな」
「・・・え?」

「いや、そんな気がする。見てこようか?」
「あの!もし、店の外に居たら帰るように言ってもらえませんか?そうじゃないとここから出ないって・・・人違いだから迷惑だって言ってやって下さい」

「・・・・・・いいのかい?」

「えぇ、いいんです。その方が彼の為ですから」



*********************



漸く会えたのに1人で帰れる訳がない。
雨が降る中、牧野が出てくるのをジッと向かい側のビルの前で待っていた。

この雑居ビルの横に裏口があるみたいだったからそこが見える場所・・・俺を避けて帰らないように表もそこも見える位置に立ってドアが開くのを待った。

リズミカルに傘に落ちる雨・・・それが自分の鼓動と重なる。
それがどんどん速くなるようでもあり、逆に無音になって目だけに神経が集中してるような、寒い訳じゃないけど身体が震えるような・・・とにかく凄く焦っていた。


20分ぐらいは待っただろうか。
裏口が開いたからハッとしてそこを見たら、男物の傘が開いてマスターが俺の方に向かって歩いてきた。なんだ・・・ってがっかりしたけど、次に何を言われるかまですぐに想像出来て小さく溜息をついた。


「花沢さん、申し訳ない」
「・・・いえ、こっちこそすみません。彼女から何か言われました?」

「・・・帰ってくれって言ってます。ここに立っていたら自分は店から出ないって・・・すみませんねぇ、ここは借りてる場所なので私の住まいも別の場所です。だから鍵を閉めてさっさと帰りたいんですよね」

「そうですか・・・」


「・・・華ちゃんは表の通りまで歩いて行って、夜間のバスに乗れれば乗るし、難しそうなら歩く時もあります。今日は足を痛めてるからタクシー・・・に乗るのかなぁ。いや、どうだろう。判らないな・・・あぁ、ごめんなさい、これは独り言です。
では、申し訳ないがここからは移動して下さい。花沢さん、宜しくお願いします」

「・・・・・・はい」


マスターの「宜しく」の意味は・・・そう言うことだと理解して俺は表通りに向かった。



********************



「花沢さんは帰ったよ。やっぱり待ってたみたいだね。つくしちゃん、本当に良かったのかい?」

外から戻ってきたマスターが傘をたたみながらそう言った。


花沢類・・・やっぱり待っててくれたんだ。
それを聞いた時は素直に嬉しかった。こんな私を見てがっかりしただろうに、それでも待っててくれたんだって。
ちょっとだけ流れてしまった涙をマスターは見逃さなくて「今なら追いかけて行けるよ」だなんて言ったけど・・・私は小さく首を振るしかなかった。

「私の事なんて忘れてくれた方がいいんです。あんなに冷たくしたんだもん、もうきっと来ないでしょ」

「・・・どうだろうねぇ、それは彼にしか判らないけどね」

「あはは・・・うん、そうですよね。でもあの人と私は別に何の関係もないんです。告白だってした訳でもされた訳でもないし、大体花沢類にはもっとお似合いのお嬢様が何処かに居ますって・・・私みたいな庶民、同じ世界には暮らせないんですよ」

「そうかな・・・人って住む世界なんて同じだと思うよ?それは心の中で勝手に決めた”仕切り”・・・みたいなもんじゃないのかな」

「仕切り・・・?」

「そう。本当は無いのに虚像で作っちゃう”仕切り”。何処に住んでいようが、何を着ていようが、何を食べていようが人は同じだと思うけどな。いや、偉そうに言うけど俺も庶民だからね、金持ちの考えてることは判らない・・・ってね!」

「・・・・・・うん、ありがとう、マスター」


お店の掃除なんてとっくに終わったのに、念のために時間を置いてから濡れた自分の服を鞄に詰めた。
少し寒気がする・・・雨に濡れた後に無理して薄い服1枚だったから風邪を引くかもしれない。

・・・花沢類も濡れてたけど大丈夫かな。


「じゃあ帰ります。お疲れ様でした、マスター」
「あぁ、気をつけてお帰り。暗い道なんて通っちゃダメだよ?いつもみたいに表通りから帰るんだよ?」

「えぇ、そうします。雨も降ってるし・・・今日は歩かずにバスで帰るわ」
「・・・あぁ、そうおし。帰ったら温かくしておやすみ」

「はーい。じゃ、また明日!」


まだ雨が降ってる・・・傘を差して店の前をそーっと覗いたけど、花沢類の姿は見えなかった。さっきはこの辺に立ってたよね?って場所にも誰も居ない。
だからホッとひと息ついて歩き出した。

「あれ・・・やっぱり足が痛いなぁ。捻挫、思ったより酷いのかも・・・湿布なんて家にあったっけ?」

ハイヒールしかないからそれで歩くけど、挫いた足首がジンジンする。
彼を目の前にしていた時はそんなに感じなかったのに、1人になったらこんなに痛くなるなんて。それに少し腫れてるから幅の狭いハイヒールが当たって余計に痛いような気もするし・・・挫いた足を庇いながら表通りまでゆっくり歩いて行った。

時計を見たら午前1時・・・今日は少し早かった。
もしかしたら夜間バス、乗れるかもしれない。

マスターにはバスに乗って帰るなんて言ったけど、本当はこの時間なら節約の為に歩いて帰りたかった。でも、これじゃ無理・・・バス停からアパートまで結構あるからそこを歩く自信はなかった。だから勿体ないけどタクシー・・・かな。


「はぁ、もう少しで表通りだ。頑張れ、つくし!」

独り言を口にして細い路地からひょいっと出ると・・・・・・



「遅い。帰り支度、わざと遅くしたでしょ?」

「・・・花沢、さん・・・」

表通りのビルの前、雨が当たらない場所で傘を閉じて壁に凭れ掛かってる花沢類が居た。
話し方が昔と一緒、思わず「花沢類」って言いそうになった。しかも私、たった今自分の事を「つくし」って言った。

まさか聞かれてなかったよね?雨の音で掻き消されたよね?


「家まで送るよ。そのぐらいいいよね?」
「・・・は?お、お客さんに送ってもらうなんて出来ませんよ。花沢さん、早く帰らなきゃ・・・明日、お仕事って言ったでしょ?」

「・・・まだそんな事言うの?あんた・・・自分で判ってるよね?嘘が下手だって」
「嘘なんてついてません。私は『華』・・・です。それ以外に名前はありません。人違いです・・・」


「・・・じゃあ、今日は華でもいい。送ってく」
「ダメ!!私に関わらないでください!」

急に出した大声は、雨の音を跳ね返すように自分の耳にも入ってきた。


恐る恐る見た彼の目・・・凄く悲しそうだった。




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2019/03/21 (Thu) 07:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

あはは・・・いつだろう~💦
最後までだったりして(笑)

でも類君の方が勝ちそうですよね~。
多分、類君の中では華って名乗ろうが「つくしちゃん」なんじゃないでしょうか。

「頑固だなぁ」って笑いながら付き合ってくれるんじゃないか・・・な?(なーんて!!)

いやいや、シリアスなお話しなので💦コメディ要素はありませんっ!
気長にお待ちくださいませ❤

2019/03/21 (Thu) 14:10 | EDIT | REPLY |   

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