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plumeria

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4月の中半・・・遅咲きの桜も全部散り、代わりに若葉が美しく見えてくる頃。

その桜の絨毯を眺めながら最後の茶会を開いていた。
客として招いていたのは鷹司会長と数名の後援会幹部。あの時以来の野点という形で薄桃色の庭に椅子を並べ静かに茶を楽しんでいた。


「・・・満開の花姿も良いものですが、桜というのは不思議な物ですな。散り終わった後も何故か美しい。そう思われませんか?若宗匠」

「はい、そうですね。このように咲き終わった花を愛でる心は日本人独特なのだそうですよ。潔い美しさと言うのでしょうか、寂しく儚いように見えるのに美しいと感じるんですね」

「ほう、潔い美しさ・・・ですかな?」

「人生も花のように咲いたり散ったりする・・・咲き誇る花もやがて散るからこそ大切な思い出として心に留まり、 再び花を咲かせた時、極上の喜びを感じることが出来るのだそうです」

「・・・成る程、日本人の感性なのですね」


あいつも何処かで桜・・・見てんのかな。

客を相手に最後の雑談中、地面に落ちてしまった桜の花びらの話だったのに空を見上げて牧野の笑顔を思い出していた。
鷹司会長にはそれが判ったのか何も言わない・・・「何処をご覧になっているのですか?」と他の客に聞かれたのにも気が付かなかったほど、まだ薄い青空の向こうに幻影を見ていた。


「それはそうと、そろそろ良いお話しが聞けると・・・若宗匠、いつになるのですかな?」
「・・・は?」

「ははは、この話題は本当によくお逃げになる。もう恥ずかしいというお歳でもないでしょうに」
「・・・あぁ、その事ですか」

客の1人が俺の結婚についての話を持ち出した。
最近はお袋が発表したも同然のように言い触らしていくから、殆どの連中がその日が近いと思ってやがる。そしてこういう席でも雑談が可能な時は興味津々で聞いてくるからムカついてばかりだった。

他人の家の結婚話になんか興味を持たずに、自分の娘の貰い手探せ!・・・そう言えたらどんなにいいか。


「・・・そのうちお家元からきちんとお話がございましょう。そのように若宗匠をからかわれては可哀想です。なに、照れるのは女性だけでは無いのですよ。若宗匠・・・そうでしょう?」

「は?は、はぁ・・・ですね」

「おや!総二郎様が照れることなど有るんでしょうか?あれだけ噂が・・・あぁ、失礼。そのようなお付き合いの方と婚約者の方を一緒にしてはいけませんでした。ご無礼お許しください」

「・・・いえ」

この表情の何処を見て照れていると思うんだろう。
まぁ、いい・・・この会話が終わるんなら何とでも言ってくれ。



だが、この茶会の後、事態は別の方向に動いた。
俺の話が進むのかと思ったら、京都の先代が倒れた。しかも今回は親族を呼ぶようにと医者から言われたらしい。

これには流石に親父も驚き、お袋を連れてその日のうちには京都に向かった。俺はどうしても外せない仕事を代行して、それが片付けば京都に行くことになった。
家を出ている祥一郎と横浜に居る孝三郎も呼ばれ、俺より一足早く京都に向かった。


「今回はご親族様が全員お集まりで混雑しますでしょう。私はご遠慮致しますわ」

ドタバタしている最中に俺にそう言ってきた紫。
特に心配そうな顔をするわけでもなく、こんな時でも無感情・・・つい最近会ったばかりの先代だって言うのに「関係ない」という雰囲気を出すこいつに、何故かホッとした。


また紫と京都になんて・・・あの日の夜を思いだして身震いがした。


「別にいいんじゃないか。籍も入れてねぇし、あんたはまだ宝生の人間だ。確かに今回は親戚も関西の人間も大勢集まるだろうからゴタゴタする。どうせ暫く親父達も京都だからあんた達は実家に帰ればいい」

「はい。そのように致します。先代家元様のご様子、戻られたら教えてくださいませ」

「・・・判った」


向こうに行くための支度の事なんて聞きもしない。
その方が気が楽・・・俺から遠離っていく紫の後ろ姿を冷めた気持ちで見ていた。




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4月・・・この時期、研究所は朝から晩まで忙しい。
植物が急速に成長してくるから水やりも多くなって、肥料を撒くにも何種類もあるから1日作業だ。研究員さん達は本格的な開花シーズンで毎日何処かで歓喜の悲鳴や落胆の声が聞こえてくる。

私も品種改良のお手伝いをする事も増えてきたから、花が咲かなかった時には同じように落ち込んだり・・・だからって心が何処かに行くこともなくなって毎日それなりに楽しく、忙しく過ごしていた。


その日は土曜日だった。
職員全員が臨時出勤で植物の世話に大忙し。でも、私は新種開発部のリーダーさんに呼ばれて配達を頼まれた。
午後になったら千葉に出掛けるスタッフがいるから、その人の車に乗って美作邸に行き、夢子おば様に改良中の苗を届けて欲しいと。

たまに頼まれるこの「配達」はおば様が無理に作ってる仕事だった。
それを研究所の上層部の人は知ってるらしく、私が持って行くことについて詮索はしない。「美作家の遠縁」みたいに話しているようだったから、ちょっとだけ公私混同してるって思われてるだろうけど。

そしてこの時は必ず直帰になっている。今日も小夜さんがお屋敷まで迎えに来てくれるんだろう。



研究所の車で美作さんの家に着いたのは午後3時。
門の前で降ろしてもらい、預かった苗を両手で抱えてインターホンを押した。すぐに自動で門は開き、私はここから随分奥にある玄関を目指した。

今日は紫音と花音、ここに居るのかな?なんてドキドキしながら庭を見たら、先日みんなで植えたパンジーが満開で綺麗だった。くすっ・・・あの時の2人は可愛かったなぁ。


「こんにちは~」
「あら、つくしさん、いらっしゃい」

玄関に出てきてくれたのは仁美さん。
お手伝いさんじゃないって事は私が来ることを聞いていたんだろう、今日も優しそうな笑顔で出迎えてくれた。

「今日は研究所からおば様に苗を持っていくように言われて来ました。いらっしゃいますか?」
「お義母様、今日は美作のお仕事で大阪に行かれてるわ。夜じゃないと戻ってこないけど、預かるようにって言われてるから。温室に行きましょうか」

「・・・はい」


あれ?双子の事を言わない・・・?
仁美さんが庭の奥にある温室に向かって歩いて行くのに、私はお屋敷の中をソワソワと見てしまった。でも、あの賑やかな声も聞こえない。
もしかしてお昼寝・・・それなら仕方ないかって少しがっかりして重たい苗を持ち直し、仁美さんの後についていった。


夢子おば様の温室はお屋敷の正面からは見えない場所に幾つかあって、その周りは中も外もお花だらけ。
1番手前の温室を開けて「どうぞ」って言われたから中に入ると・・・「マ~マ!」って可愛い声が聞こえてきた。

なんだ、お昼寝じゃなくてここに居たんだって急に嬉しくなってくる。
仁美さんの後ろから急いで顔を出して見たら、温室の中にあるベンチに美作さんがいて、そこから双子が今にも転けそうな勢いで走って・・・

ドタン!バタン!!「「うわぁ~~~ん!!!」」

・・・思った瞬間、2人同時に転けた。

「やれやれ」っていいながら美作さんが2人を起こして抱き上げて、仁美さんは私の腕から苗を取って適当な場所に置いた。
右に紫音、左に花音・・・美作さんって見掛けによらず力持ちだなぁって見ていたら、私の目の前までやって来た。

双子はもう転けたことも忘れてニコニコして、紫音が小さな指を出して「つったん!」って。

「は?つったん・・・つったんって何?」
「つったん!マ~マ!・・・こえ、パ~パ!」

「・・・ん?」

紫音が指をさしながら言う辺り、どうやら私が「つったん?」
そうしたら仁美さんがクスクス笑って「そうよ」・・・だって。


「昨日から何回も教えたら紫音が覚えたんだけど、まだ言いにくいらしくてさ。まぁ、許してやってくれ。すぐに花音も言うようになるさ」

「・・・つったん。私・・・つったん、なんだ!くすっ、そんな呼ばれかた、初めてだわ」
「つったん!!」

「うん、ありがとう、紫音君」



今日、私がここに呼ばれたのは遅咲きの桜の中でのお花見だった。
温室の横には八重咲きの桜が満開で、そこに可愛らしいティーパーティーの準備がされていた。

大人3人で椅子に座ってお茶を飲み、私達の前では紫音と花音が落ちてくる桜の花びらの奪い合い・・・凄く、幸せな時間だった。


「牧野、この桜の名前、教えてやろうか」
「ん?この桜?なんて言うの?」

「思川(おもいがわ)・・・綺麗だろ?」

「思川・・・うん、綺麗だね」



私の想いも川になって、彼の所に流れて行けばいいのに・・・





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<思川桜>
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