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plumeria

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「38度2分・・・研究所には行けないわよね。電話、入れとくね」
「・・・ごめん、小夜さん」

「雨の中ずぶ濡れで1時間も踞るだなんて倒れて当たり前!・・・無茶し過ぎだよ、つくしちゃん」
「・・・うん、何が何だか判んなくなって・・・」


次の日、私は熱を出して仕事を休んだ。
昨日のニュースを見て2年前の事を思い出した・・・西門さんの名前をアナウンサーの声で聞き、隣には婚約者が居るって言った。それを聞いた瞬間怖くなった。また自分がおかしくなるんじゃないかって・・・。

夢中で飛び出した後の事はよく覚えていない・・・気が付いたら雨の中で倒れてるのを職員さんに助けられた。
連絡を受けて飛んで来た小夜さん、凄く心配して泣きながら車に乗せてくれたっけ・・・。

家に帰ったらすぐに鎌倉の精神科の先生が呼ばれた。そこで簡単な診察があって、私は自分の不安を何度も口にしたのは覚えてる。
やっと本来の自分に戻って紫音と花音を見てるのに、またおかしくなったら2人に会えない・・・それが怖いと何度も泣いた。
いつもより少し強めの精神安定剤を貰って・・・私はその後死んだように寝てしまった。


でも大丈夫・・・一晩寝ても朝、ちゃんと私の意識はあった。
目を開けた時、何度も自分に聞いていた。

ここは何処?今日は何日?
自分の名前、ちゃんと言える?昨日何をした?・・・それが全部答えられて嬉しかった。



「つくしちゃん、研究所には電話入れたけど、昨日のお弁当箱とかロッカーに入れてるってよ?食べなかったの?」
「あぁ・・・うん、食べようとしたらテレビの声、聞いたから」

「そう・・・じゃあ、私は早いけどお買い物に行ってくるね。今日は少し遠くまで行くからお昼前近くになると思う。ちゃんと寝てるのよ?水分補給も忘れないでね」

「・・・はーい」


車のエンジン音が聞こえてきて・・・そして遠ざかっていった。
小夜さんが出掛けたらまた眠くなって目を閉じる。そうしたら少し寝てしまったんだろう、次に起きた時はすごく汗をかいていた。

「・・・うわ、気持ち悪い。着替えたいな・・・」

ふらふらするけど立ち上がってタンスまで行って新しいタンクトップを出した。パジャマだったけどズボンも湿ってる気がして短パンに履き替え、脱いだ物をランドリーバスケットに入れた。
喉がカラカラ・・・途中壁に体当たりしては蹌踉めきながら、キッチンに行って冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。


♪~~

その時、インターホンが鳴った。
誰だろう・・・ここには滅多に人は来ないのに・・・そうは思ったけど、条件反射で玄関に行き、ガチャっとドアを開けたら・・・


「牧野・・・!返事もせずにドアなんて開けて!しかもなんて格好してるんだっ!」
「・・・へ?あぁ、美作さん・・・格好って・・・短パン?」

「いいから!早く中に入れ!まったく・・・そんな格好でセールスの男と話すなよ?!」
「はぁ?うん・・・判った」


何でこの人が赤くなるんだか・・・あんまり考えられない頭を抱えてベッドに戻った。


**


「小夜さんから聞いたの?」

ベッドに横になったら美作さんが冷却剤をおでこに乗せてくれた。冷たくて気持ちいい・・・腕をあげておでこを触ったら、また真っ赤になって腕を掴まれ布団の中に入れられた。
そして少しだけ離れて座った。あぁ・・・タンクトップだから隙間から見えるんだ?って今ごろ気が付いた。

「昨日の夜遅くなってから電話が入った。お前が研究所で倒れて家に帰ったって・・・その理由を聞いて心配になったけど、朝一番にアメリカから客が来ることになってたから抜けられなかったんだ」

「いいのに・・・ごめんね、心配掛けて」

「・・・いや、仕方ない。病気が再発しなかったって今朝1番に電話があったからホッとしたよ」


窓の外を見たら今日も雨・・・部屋全体が薄暗かった。
仕事中の彼はスーツ姿だったけど、そこまで冷房を効かせてなかったから上着を脱いだ。そして少しだけネクタイを緩めて、昨日聞いた話の説明が始まった。

「・・・あのニュースは総二郎の爺さん、つまり先代の家元が亡くなったって話だ。それは聞いたか?」

「うん・・・って言うか、西門さん本人の話じゃないんだって事だけ理解するのが精一杯で、ニュースの内容は覚えてないの。西門さんが京都に婚約者さんと行ってるって聞いた瞬間、飛び出したから・・・」

「そうか。葬儀があるから行ってるだけだし、婚約者ってのも公表している以上は同行するだろう?それだけだ。
それに西門家のしきたりで宗家の当主が亡くなった時は慶事、つまり結婚とかの祝い事は1年間中止される。血縁関係にあるものは喪に服すって事になってるらしい」

「喪に服す?・・・1年間?」

「そうだ。だから総二郎の結婚は少なくても1年間は行われないって事だ」

「・・・そうなんだ」


だからって婚約破棄されるわけでも、私が西門さんと会える訳でもない。
1年経ったらすぐに執り行われるって・・・逆に言えば時期が決まったって事だよね。もう2年間、婚約状態なんだもん・・・お嬢様は黙ってないよね・・・。


「ただいまぁ・・・あきら様、いらっしゃいます?車があったから」
「あぁ、小夜、ごめん!邪魔だったか?」

「いいえ!私の車は小さいので何処にでも停められます。ご心配なく」

美作さんの話が終わった頃に小夜さんが帰ってきて、美作さんは立ち上がった。
「お昼をご一緒に」って言う小夜さんの言葉に「1時から会議があってさ」・・・そんなに忙しいのにここまで来ちゃって。


「また何か判ったら教えてやる。因みに総二郎は家元と一緒に京都の屋敷の事や弔問の客の相手で暫く向こうにいるらしい。家元夫人と婚約者はこっちの事があるから早々に帰るんだってさ」

「・・・色々ありがと。大変そうだよね・・・」

「まぁな。あんな家だから。じゃあ、俺は帰るな。無理せずに熱が引くまで仕事休めよ?あぁ!忘れるところだった!」

「・・・ん?なぁに?」

美作さんは小雨の中、1度車に戻って大きな袋を持ってきた。
「何?それ!」って、熱があるのに起き上がって、彼が持ってきた物を両手で受け取った。

「開けてみろよ、笑えるぞ?」
「はぁ?う・・・うん」

ガサガサとその袋を開けたら・・・中には大きなクジラの縫いぐるみ?
でも背中に何かが・・・

「あっ・・・これ、私?」
「あぁ、それはお前のなんだってさ。病気で寝てるって言ったら持って行けって意味だろうけど、2人に持たされたんだ」

そのクジラの縫いぐるみの背中には平仮名で「つくし」と・・・まだ字が書けないから星形のシールを沢山繋げて名前が書かれていた。その時に私のスマホにメールの着信音が・・・見たら2人がこのクジラの縫いぐるみを挟んで笑ってる写真だった。


「・・・・・・」
「俺がさせたんじゃないからな?2人がそれを挟んでポーズとったから写したんだ。誕生日会の次の日に水族館に仁美とお袋が連れて行ったんだってさ」

「・・・・・・」
「因みにそのクジラ、全員分あるんだ」

「・・・は?」
「見るか?」

美作さんが自分のスマホの中に入れてる写真には「しおん」「かのん」「あきら」「ひとみ」があった。それに「つくし」。
水族館にあったクジラの大きな縫いぐるみ、全部買って家で大はしゃぎして名前を付けたらしい。文字は仁美さんが紙に書いて、それを見ながらシールを貼ったと聞いて、その場面を想像して大笑いした。

大笑いしながら涙が溢れた。
熱があってふらふらで、精神安定剤なんて飲んでるのに・・・それなのに嬉しくて大泣きしてしまった。



美作さんが帰った後、クジラと一緒にベッドで寝て考えた。


西門さんはずっと独りだ。

あの人は誰と笑ってるんだろう。
誰か一緒に笑ってくれる人・・・居るんだろうか、と・・・。




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