FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
初七日の法要も済ませ、屋敷の中で事務手続きや遺品等の片付けを進めていた。

元々西門家は京都が本家だったから、今では家元が隠居し代を譲ればここ一乗寺に居を移すことが慣例だった。
だが親父は心身共に健康で今すぐに代を譲るなんて事はない。暫くはこの屋敷の管理のみとなる為に道具類の整理をする事になった。

先代が愛用していた茶道具は、所謂形見として今後使用することもなく、東京の宗家の蔵に納められる。
それ以外の茶碗や掛け軸、花器など大量に保管してある物を、この機会に同じく宗家に移そうとの案が出て、親父と京都支部長や古弟子、主要幹部を長く務めた人達を立ち会いとして作業が進められた。
そこには運送会社の人間も加わり、其奴らは膨大な骨董品を眺めて溜息ついてやがった。


「ご隠居様は京都でも沢山の茶碗をお求めでしたから、こちらの保管庫には良い品が沢山眠っているんですよ。まぁ、仕舞われただけで拝見も出来ないのは勿体ないですがねぇ・・・」

「このように名人のつくられた花器も・・・焼き物がお好きでしたからな。少し大胆な作りの物がお好きで・・・」


そう言えば宝生の先代とよく茶碗を求めていたと言う話を思い出した。
確かに桐箱に入れられ、銘が書かれた物が腐るほどある。陶器を入れる木箱は「四方掛け結び」と言う結び方をされていて、1度解くと後が面倒だし、今は衝動材など完璧な状態で補完されているはず。
それらを全部開けて中を確かめるだなんて出来ないほど、一乗寺の蔵には焼き物が保管されていた。

こいつらを特殊ケースに入れて東京まで輸送・・・そのために個数の確認や梱包の仕方など、親父がまだ気落ちして役に立たないから俺が中心になってやっていた。


「そう言えば暫く騒いでおったが、あの骨董品屋さんは結局見付かったんでしたっけ?」

そう言ったのは京都支部に古くから居る人で、西門との付き合いは先代が家元就任の時からだという男。古い桐箱の埃を払い、運送会社の人間と話し込んでいた時にその会話が聞こえて手が止まった。


「骨董品屋・・・あぁ、明日香堂の息子さんですかな?もう15年・・・いや、17年?18年?そのぐらい経ちますかね?」
「そうですねぇ、こちらのご隠居が代を譲られて京都に来てから間がなかったから、そのぐらいですかね?」

「見付かって無いのでしょう。明日香堂さんもご主人が去年お亡くなりになって葬儀に行きましたが、息子さんは居なかったですよ?女将さんも随分落ち込まれてて、もう店仕舞いされるんだそうです」

「お気の毒に・・・確か、こちらのお屋敷にもよく顔を出していてご隠居様は可愛がっておられたでしょう?」
「そうそう。1度東京にも一緒に行きましたな。名品の茶碗が手に入ったからと、お友達に見せたいなんて仰って」

「行方不明になられたのはその後でしたか・・・こちらのご隠居に明日香堂さんが何度も話を聞きに来ていたとか・・・」


背中越しに聞いた話に何故かザワザワとしたものを感じた。
17~8年前なら宝生の先代がまだ生きていた頃だ。あきらが言ってなかったっけ・・・


『どうやら京都の隠居の所に出向いてたっていう宝生の先代、1度お前の爺さんを揉め事を起こしたらしい』
「揉め事?どんな?」

『問題を起こしたのは西門の先代、腹を立てたのは宝生の先代らしい。それがいつの間にか茶碗談義をする程仲が良くなって不思議だって噂を耳にしたそうだ』



茶碗が好きだった爺さん同士の揉め事・・・そのあとの仲の良さ。頻繁に京都で会ってたという2人、居なくなった骨董品屋の息子・・・何だろう。すげぇ気になるけど。
振り向いて話を聞いてみようかと思った時、別の部屋に居た親父に呼ばれた為にその場を離れた。


親父の話が終わって急いで戻って来たが、もうそこに京都支部の人間は居なかった。
俺の胸の内には漠然とした不安が残ったまま・・・仕方なく残りの遺品整理を続けて、その3日後東京に戻った。


**


親父と一緒に東京の本邸に戻ったら、お袋に紫、志乃さんに薫、古弟子の連中にまで総出で出迎えられた。
すぐにでも自分の部屋で休みたかったのに、リビングに足止めされて京都での報告をお袋達にするのに付き合わされた。どうせ俺が居ても何も話すわけでもなく、発言権は親父にしかないってのに。

飾り物のように話合いに参加することが鬱陶しくて仕方なかった。
それでも葬儀後の話を一通り終え「ご苦労様でした」と、お袋のひと言で解散、そうなるかと思ったのに・・・。


「仕方のないことだが紫さん・・・西門の方針なので婚儀は1年間の喪に服したあと、早い時期にしようと思うから待ってくれるかな?もう散々待たせているから申し訳ないのだがね」

「はい。承知しております。まだまだ勉強することがございますから私はそれに励みます」

「そうか、ありがとう。母さんは今度京都から沢山の荷物が届くから蔵の片付けに立ち会ってやってくれ。古い茶碗など相当数来るからな」

「判りましたわ」


「・・・・・・お茶碗?京都からお茶碗が届くのですか?」


突然質問した紫に、親父もお袋も・・・俺も驚いた。
間違いなく茶道具になんて興味ないだろうと思うのに、急に京都からそれが届くのかという問いに対して、誰が答えるのかと戸惑ったぐらいだ。

「・・・先代の遺品をこっちで管理することに決めたんだ。暫く京都一乗寺の屋敷には宗家の人間は住まない。管理人に預けるには申し訳ないぐらいの品もあるしな。それだけの事だが気になることでもあるのか?あんたに管理しろって言わねぇけど?」

両親が何も言わなかったから俺がそう言うと視線を逸らして俯いた。
普段から作ったような笑顔をする事はあっても、心底笑った顔さえ見せたことがない。ましてや本邸の中で怒った顔も、悲しい顔も見せたことがない紫が初めて困惑した表情を浮かべた事に両親は驚いたようだった。


「いえ、何でもありません。出過ぎたことを申しました。お忘れくださいませ」

「別に出過ぎたって言わねぇけど、気になる事があるなら言ったらどうだ?先代の茶碗に何かあんのか?」

「ある訳がございませんでしょう?大変な作業なのかと思っただけです。でも、西門の人間ではない私が手を出す訳にはいきませんよね」


普段、あれだけ西門の・・・って言うヤツが、ここでいきなり「西門の人間ではない」と言う。
その態度にも違和感を感じた。


なんなんだ?先日の骨董品屋の話といい、紫の茶碗への反応といい・・・先代の茶碗に何かあんのか?


得体の知れない不安が俺の中に生まれる・・・。
紫の秘密がそこに隠されているような気がしてならなかった。




********************




「春ちゃん、大丈夫なの?熱引いた?」
「はい。ご迷惑かけました。もう元気です!」

「そお?じゃあ、これからは梅雨明けして水やりが大変よぉ!水分補給も忘れないようにね?熱中症になるから」
「判りました。頑張ります!」


結局3日間も研究所を休んで、その間に梅雨明けしてしまった。
今日はもう照りつける日差しが強い・・・私達はこの暑いのに大きな帽子と長袖の上着で日焼け対策。首にはタオルを巻いて、近くに飲み物を置いて、意外と重たいホースを手に持った。

それで研究所の庭にある植木達に水やりを・・・そうしていたらホースの水が飛んでいた方向に虹か出来た。


くすっ、こんな事でも子供は大はしゃぎなんだよね。
きっと紫音と花音も美作邸のお庭で水浴びさせて貰って、出来た虹を掴もうと手を伸ばすんだろうな。
そして掴まえられなくて花音が大泣きして紫音が慰めるの。

そんな光景が頭の中に浮かんで思わず微笑んだ。

もう少し大きくなったら海に連れてってあげたいなぁ・・・って思った瞬間、その夢がフッと消えた。


それは私のする事じゃない。
それは美作さんと仁美さんがしてくれる・・・私じゃないんだ。

花火に火を付けてやるのも、寝苦しい特に扇いでやるのも、スイカを一緒に食べるのも。
向日葵の花を育てるのも、朝顔の花を育てるのも、夏祭りにいって金魚を掬うのも・・・みんな私じゃないんだね。


「・・・あはっ、バカみたい。美作さんちは団扇でなんか扇がないって。金魚掬いだってやらないよ・・・スイカの種飛ばしはもっとしないよね」


言いながら目の前が霞む。
西門さんの名前を聞いたから・・・少しだけ気持ちが弱くなってるのかもしれないね。




167df37644a2344485feffadc8fbfd44_t.jpg
関連記事
Posted by