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plumeria

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暑い夏が終わり、今年は残暑と言ってもそこまで暑くなく、過ごしやすい気候になってきた。
夏に崩した体調も心配するほどに酷くはならず、強い安定剤を飲むような日もなくなった。あの日から暫くは週1でカウンセリングを受けたけど、9月になったらまた月に1回でいいと言われ一安心だった。

それでもテレビを見ることが怖い・・・研究所でのお昼ご飯はやっぱり暑くても屋外の日陰で、鎌倉に戻っても殆ど見ることはなかった。

頻繁に電話をくれていた美作さんや夢子おば様も、私の様子を病院から聞いたみたいで電話の回数も減った。
また前みたいに画像を定期的に送ってくれるだけ・・・そこに映る紫音と花音が少しずつ幼児顔から子供顔になっていくのが嬉しかった。


「ねぇ、紫音くんってやっぱりつくしちゃんに似てるよね。そりゃ双子だから花音ちゃんも似てるけど、どうして女同士なのに男の子の方が似て見えるのかしら?不思議よね」

「あはは!花音の方が鼻が高いのよ。そこが1番この2人の違いみたい。ふふっ・・・向こうは完璧な顔してるからね」

「そうなんだ・・・花音ちゃん、美人だもんね。紫音君もどっちかって言うと女の子っぽいもん」
「そお?中身は男っぽく育って欲しいなぁ・・・美作さん、鍛えてくれないかな」

「あきら様が?」
「うん・・・想像できないね」

今日も届いた双子の写真・・・小夜さんと眺めてそんな話をした。


10月になったら私もバラ園の仕事を手伝うようになった。
マルチング(株元の覆い)を取り除く作業からだって言われて、1日掛けて広いバラ園を歩き回った。夏の間は乾燥と地温の上昇を防ぐためだったけど、今度からはその反対で根の活動を上げるために太陽の光を当てて地温を上げないといけないらしい。

「春ちゃん、それが終わったら花が咲き終わった所に肥料を撒くからね」
「花が終わったもの?そうなんですね」

「うん。地質にも寄るんだけどね。砂の多い土壌だと肥料分が残りにくいから薄めのものを与えることもあるんだけど、基本ここでは咲いてる時には肥料は施さないの。咲き終わってから与えるのはリンサン、カリ分の多い肥料ね」

「はい、判りました」

花なんて育てないから全然判らない。
それでも1年前に比べれば随分出来るようになったなぁ、って自分を褒めながらの作業が続いた。


11月はあっという間に過ぎて12月・・・また来てしまった西門さんの26回目のお誕生日にはこっそりケーキを買った。
小夜さんは「どうしたの~?」なんて言ったけど「気分が良かったの」って誤魔化して、心の中で歌を歌いながら食べた。

婚約者の女性・・・美作さんの話だと相変わらず受け入れられないって西門さんが言ってるらしいけど、関係上プレゼントは貰うんだろうな。
やっぱり凄く高級なもの・・・彼に似合うものを渡すのかな。

一体どんなものなんだろう。
それを彼はどうするんだろう・・・考えても仕方のないことを考えながらケーキをつついた。


クリスマスは小夜さんとプレゼント交換をした。
研究所からポインセチアとシクラメンを貰ったからそれをテーブルに置いて、ツリーは飾らなかった。
私からは小夜さんの好きなピンク色のセーター。大きなお店には買い物に行けないから鎌倉にある小さな衣料品店で買った安物だけど、すごく喜んで貰えた。
小夜さんからはアルバム・・・可愛らしい天使のイラストが描かれてるアルバムだった。

「スマホの中にだけ入れてないで、写真にしておくといいよ。機械のデータなんて当てにならないから」
「・・・ありがとう。うん・・・そうする」


その言葉はあの日を思い出す。
西門にスマホを取り上げられ中のデータを全部消された・・・西門さんとの思い出を全部、一瞬のうちに消された。
だからたった1枚しか西門さんの写真はない。

私の・・・1番の宝物だ。



私の誕生日は今年もやっぱり小夜さんと2人きり。
だけど予想外にプレゼントが届いた。送り主は当然美作家から。

おば様特製のバースデイケーキにはでピンク色のクリームで「Tsukushi」って入っていたけど、その横にある数字が26・・・。

「やだぁ!私、今日で25歳なのに~!1歳間違えてる!26歳って今度の美作さんでしょ?おば様ったら!」
「あはは!ろうそくまで26本ある!完全に間違えてるわ」

「・・・まぁ、いいけどさ。食べたら判んないし」
「そうだね!珈琲淹れるね!」

「うん!」

同時に届いたのは美作さんと仁美さんからのコートと手袋とマフラー。
もう1つの包みの中から出てきたのは大きな犬の・・・縫いぐるみ?首輪に「PUSH」って書いてあったから押してみたら・・・

『つったん!おたん・・・じょうび、おめれとう!』
『おちおと、ばんばって・・・ね!』


「・・・え?これって・・・」
「あはっ、紫音君と花音ちゃんの声じゃない?おちおと・・・お仕事か!ばんばれ・・・あっはは!」

「おめれとう、だって!あはは・・・まだ、言葉が・・・言葉が上手く言えないか・・・ら」
「・・・つくしちゃん?」

子供達からのプレゼント・・・「お母さん」じゃなかったけど「おめでとう」も「お仕事」もよく聞き取れないけど、「頑張って」も「ばんばって」だったけど、それでも涙が止まらなかった。
何度も何度も聞いて、そのうち壊れるんじゃないかって思ったら聞けなくなった。それを抱き締めて2人が一生懸命言葉を覚えて吹き込んでくれたんだと思うと・・・その光景を想像しただけで胸が詰まった。

「良かったねぇ!」って一緒に泣いてくれた小夜さん・・・その日は久しぶりにワイン飲んじゃった。



新しい年が明けた。
今年も小夜さんは「ごめんね」って言いながら埼玉の実家へ戻って行った。

でも、今年の私は大丈夫・・・淋しかったけど、1人でご飯作って何処にも出掛けずに過ごした。
退屈だったから、早速スマホの中から子供達の写真をコピーする作業を2日間掛けてやってみた。

「うわっ!美作さん、何枚撮ったの?全然プリンター用紙が足りないじゃん!・・・何処かにあるのかな?美作さん達、また海外で年越ししてるからなぁ・・・」

別荘にプリンターはあるけど、インクも用紙もあっという間になくなってコピー出来なくなっちゃった。
だから仕方なく、コピー出来た200枚ぐらいを小夜さんに貰ったアルバムに貼っていった。

「当然産まれた時のが1番前でしょ?それから・・・」


残念だけど、小夜さんから貰ったアルバムには生後半年分しか貼ることが出来なかった。
それでも、1人の時間、ずっとそれを眺めていた。

泣きながら・・・眺めていた。


その時、突然この別荘のインターホンが鳴った。
ここに来るのは美作さんしかいないのに、あの人達は旅行中のはず。誰だろう・・・って玄関まで行ったら声が聞こえた。

「パパァ、ここぉ?」「つったん、いるのぉ?」

・・・・・・うそっ?!紫音と花音?
急いでドアを開けたら、そこには美作さんに抱っこされた紫音と仁美さんに抱っこされた花音がいた!


「・・・よっ!明けましておめでとう、牧野」
「明けましておめでとうございます、つくしさん。今年も宜しくお願い致します」
「つったん、おめれと!」
「しおん、あけまちて、がいるんだよ?」

「・・・・・・」

「どうした?新年の挨拶してんのに。子供達が居るんだからお前も言えよ」
「あきらさんったら言い方が酷いわ。驚いてるのよ」

仁美さんの言う通り、驚きすぎて固まった私は言葉も出なかった。
玄関の外は風が凄いのに、ドアの取っ手持ったまま目の前の4人の顔をキョロキョロ見てるだけ。「クシュン!」ってくしゃみした花音の声でハッとした。


「お、おめでとうございます!」
「おめれと!!」
「あっ!つったんもあけまちて、わしゅれたぁ!」

「うん、紫音君、花音ちゃん、明けましておめでとう・・・ってどうしたの?海外じゃなかったの?」

「それがさ、親父とお袋がハワイで珍しく大喧嘩して帰国したんだよ。マジ、予定外!だからついでに土産を持ってきた。ほら、定番のチョコ!それと小夜と色違いのネックレス。好きな方選べよ」

「うふふ、でも小さい子がいるからやっぱり自宅が落ち着くわ。だから丁度良かったのよ」

「と、とにかく寒いから中に入ってください!何もないけどお茶ぐらいなら・・・」


思い掛けず写真見てたら本物が・・・って感じで、涙なんて何処かに消えて行った。

美作さん「親子」は鎌倉で2時間ぐらいお喋りして、飛行機で疲れた双子はここでぐっすり・・・その寝顔を覗き込むようにして見ながら紫音の鼻をつついて、花音のほっぺたを触った。
久しぶりに感じる2人の体温・・・すごく嬉しかった。



そんな1月も、海風が冷たい2月も終わって、また春が近づいた。

花壇に植えたパンジーが咲いて庭の草も伸びるのが早くなってきた。窓から見える海の色・・・少し明るくなってきた。

私が元気になって2回目の春・・・西門ではまたきっと桜の茶会が行われ、西門さんは忙しいんだろうな。
まだ咲きそうにないこの庭の桜を見上げて、そんな事を考えた。





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