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私に関わらないで・・・そう言って牧野は雨を避けて立っていた俺から顔を背けた。
その後は固く閉じられた唇・・・次には傘で顔が見えないように隠したけど、それを持つ手がそんなに震えてるのに。

やっぱりあんたは俺との接触を禁じられたんだね?
そうしないと花沢に・・・俺に何かが起きるって?そんな脅しに負ける俺だと思ってるの?


「・・・独り言だけどさ。司、大河原滋と婚約するかもしれないってニュースになってる。アメリカの企業の娘との話もある。あいつは動き出してるよ。俺達とも疎遠になってるから本心は判らないけどね」

「・・・誰のことですか?司さん・・・そんな人、知りませんから。ごめんなさい、バスが来たんで乗って帰ります」

雨の向こう側にバスの灯りが見えた。
また俺から逃げてしまうの?そう思った時、痛めている方の足で強く1歩踏み出したから、「痛っ!」って声を出してグラッと蹌踉めいた!

「危ないっ!!」
「きゃっ!!・・・・・・!」

もう少しで地面に両手を突きそうだったのを夢中で抱き留めて、その時に牧野の傘が風に飛ばされてコロコロと歩道を転がっていった。
牧野はまた俺の腕の中・・・慌ててしがみついてるから胸の上に彼女の顔があった。

あっという間に牧野の髪は濡れて、誰かに借りた服も色を変えていった。俺も乾いたばかりのスーツが濡れて・・・でも、そんな事はどうでも良かった。
凄く冷たい春の雨なのに牧野に触れてる所が熱い・・・すぐに俺の両腕は細い身体を強く抱き締めていた。

その間にバスは誰も降ろさず、誰も乗せずに通過して行った。


「あっ・・・!」って抱かれたままの牧野が目でバスを追う。
「もう無駄だよ…行っちゃったから」、そう言うとまた震えだした。

痛めた足を確認するようにゆっくりと力を入れて立ち、少し強めに俺の胸を両手で押した。
でも離したくなくて俺の力は緩まない・・・この腕の中から牧野を逃がしたくなくて、背中に回した指先で彼女の服を掴んだ。


「あの・・・は、離してください。もう大丈夫ですから」
「嫌だって言ったら?」

「大声、出しますよ?人が来ますよ?そんなの困るでしょう、会社にバレたら・・・」
「別に構わない。そんな事よりあんたの方が大事だから」

「やめて・・・私はあなたの事なんて知りませんってば!」

今度は突き飛ばすような勢いで俺を押し、2人の身体は離れた。途端に寒くなる胸・・・今まで抱き締めてられていた牧野も、また自分の腕を抱えて震えだした。


少し遠くに行ってしまった傘を取ってきて牧野に渡し、すぐにそれで顔を隠され表情は判らない。でも、やっぱり傘を持つ手が震えていた。


「花沢さんも帰らなきゃ・・・私はゆっくり歩いて帰ります」
「その足で?無理でしょ?」

「大丈夫です。ゆっくり歩けば問題ないわ。おやすみなさい・・・あ、あの、もう来ないでしょ?あんな店」

寒いだけじゃなく震えてる声・・・もう来ないでしょ、って言ったのには少しホッとした。
もう来ないで・・・そう言われたら流石にショックだから。


「それは判らないけど、1つだけ約束してくれないかな」
「約束?私が・・・花沢さんと?」

「そう・・・もう何処にも逃げないって。あそこから居なくならないならそれでいいから」
「・・・だから私は逃げてなんか・・・」

牧野の言葉を待たずに近づいてきたタクシーを停めた。
そして運転手に適当な額の金を手渡し、呆然と立ち尽くしてる彼女の身体を支えて車に押し込んだ。

「あ、あのっ!私タクシーなんて・・・!」
「運転手さん、さっきの金でこの子を送ってやって。絶対に途中で降ろさないで家の目の前までね。
そう言うことだから自分の住んでる所まで真っ直ぐお帰り。判った?それ以上歩くと治んないよ?」

「は、花沢さん!」
「・・・じゃ、出しますよ~」


ドアを閉めたらタクシーは俺の前から走り去っていった。
牧野が後ろを振り向いてずっと見てる・・・顔なんて判らなかったけどシルエットでそうだと思った。

俺の事なんて知らないって言いながら、牧野なんて知らないっていいながら、あんた・・・さっき俺が抱き留めた時、小さな声で「類」って言ったよ?
ネームプレートにも花沢しか書かなかった。俺は自分の名前を教えてない・・・それでもあんたは「類」って言ったじゃん。

俺が好きな出汁巻き卵・・・あの味を忘れる訳がないのに。



あのタクシーを追いかけたかった。
だけどあれだけ警戒されたらそれも出来なかった。

強引に牧野の世界に踏み込んで、彼女の生活を急変させたくない・・・穏やかに、もっと穏やかに昔のあんたに戻してあげたい。
だから怖がらないで・・・牧野。


心の中で呟いているうちにタクシーは見えなくなった。
せめて牧野の部屋に着く時には、この雨が優しく降っていますように・・・そう願って俺も自宅に戻った。




*******************




「お客さん、何処まで行きますか?」
「・・・・・・」

「お客さん?家、遠いんですか?」
「・・・あっ!ごめんなさい、実はすごく近いんです・・・あっ!そこを左です!」


・・・どうしよう、もしかして聞かれちゃったかしら。
さっき蹌踉けて転けそうになった時・・・叫んだと同時に「類」って名前を口に出してしまった。

雨だったし彼も慌ててたから聞こえてなかったらいいけど・・・その後に抱き締められた腕の力が凄く強くて抜け出せなくて、でも本当はあのままずっと彼の胸に居たかった。


道明寺が婚約って言った?

大河原滋さん・・・あの元気で賑やかな人が道明寺の婚約者になったの?
それじゃあ道明寺、私の事はもう関係ないって事だよね?花沢類と会っても問題は・・・いや、それは別問題なのかもしれない。
この先、私が花沢類に会うことは許さない、そう言ったんだもん。それは道明寺が婚約しようが結婚しようが関係ないんだろう。会えば・・・それだけで花沢を攻撃するって言ったもの。

会わなければ済むことだ・・・って。


何処にも逃げないで、あそこに居てくれるならそれでいい?
どうしよう・・・花沢類がもう1度お店に来たら、私、今度は誤魔化せるんだろうか。

誤魔化せる?あの・・・花沢類を?


まだドキドキしてる。
胸が苦しい・・・手が震えて足も痛い。それよりも頭の中で花沢類が微笑んでる。

最後は怒られたのに・・・微笑んだ顔しか思い出せない。


「お客さん、どの辺り?」
「そこ・・・あぁ、そこの細い道を右に入って真っ直ぐ・・・あの古いアパートです」

「あそこ?あの2階建ての古いアパートね?」
「・・・はい、そうです」


運転手さんはこんなに近い距離なのに怒りもせずにアパートの階段下まで行ってくれて、私はそこで黙って降りた。
「気をつけて~」なんてドアが閉まる時に聞こえたけど、目の前がアパートなんだもん・・・危なくなんてなかった。

でも足が痛いから階段が辛い・・・もう傘なんて差せなくて一段ずつゆっくり上がった。雨で汚れてるかもしれないアパートの手摺りに掴まりながら、2階に着いた時にはハァハァと息が切れた。


鍵を開けて玄関に入ると窮屈だったハイヒールを脱いだ。
途端に足がカッと熱くなって、ジンジンする・・・これは結構ヤバいかも、って思いながら壁に手を突いて片足引き摺って部屋に入った。

バサッと濡れた鞄を床に降ろしてから電気を点けたら、ハクが丸くなってた身体を起こして大きな目で私を見てる。
「今日は早いじゃん」・・・なんて思ってるのかしら。


「ただいま、ハク・・・今日ね、会っちゃいけない人に会っちゃった。どうしたらいいんだろうね・・・」
「ピピ、ピピ・・・」

「くすっ、この時間に鳴いちゃダメだよ、もう寝ようね、ハク・・・おやすみ」
「・・・ピピ」

ハクの籠にカバーを掛けて暗くしてやるともう鳴かなくなる。


私は濡れた服のまま、その場に足を投げ出して座り込み・・・そのまま横にコトンと倒れてしまった。
冷たい髪が顔に掛かる。それを退かそうともせずに、全身の力が抜けて起き上がる事なんて出来なかった。


花沢類・・・格好良くなってたなぁ。





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Comments 4

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2019/03/22 (Fri) 00:11 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/22 (Fri) 07:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんにちは!

お久しぶりです~!お元気でしたか?
いつもありがとうございます♡

類君もちゃんと覚えていますよ(笑)


今度は切ない類君・・・ははは!相変わらず苛めてますけど💦

切なかったですか?ごめんなさいねぇ~、真夜中更新なのに💦
でも、大丈夫!!このままでは終わりませんので、最後には幸せにしますからね♥

見守ってやってくださいね~!!宜しくお願い致します♡

2019/03/22 (Fri) 10:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

どうでしょう?(笑)
まだ大根役者は頑張りそうですよ?バレてることが判っても(笑)
類君も根性で大根に付き合うつもりのご様子・・・そこを楽しんでいただけたらと思います♡

問題はあの人とあの人・・・。

類君、つくしちゃんを逃がさないように、そっちも片付けないと!
忙しいなぁ(笑)

2019/03/22 (Fri) 11:03 | EDIT | REPLY |   

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