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<sideあきら>

冬が過ぎ、桜の枝にピンク色の花が咲き始めた春・・・今でも宝生に潜り込ませている近藤がある情報を掴んだと言って俺の所に来た。
それは総二郎が気にしていた薫と言う女性と紫の事。

薫は聞いていた通り、宝生の家に住み込みで入った調理師の娘で普通の家庭の子。年は紫より少し下で今年22歳になったばかりだという。
薫が宝生に来た時はまだ2歳で、紫は姉妹がいなかったからすごく可愛がっていつも一緒に遊んでいたらしい。
幼少期には「紫ちゃん」「薫ちゃん」と呼び合うような仲の良さ・・・まるで本当の姉妹のように、紫の両親も薫を可愛がったと言う。

使用人の娘でありながら旅行にも同行するほどだったが、明るくて人懐こい薫のことを誰も悪く言わなかった。
むしろ薫が来たことで大人しかった紫が笑うようになったという事もあり、その頃の宝生家は二人の笑い声が絶えなかったらしい。それを何より喜んだのは今は亡き先代、紫の祖父だった。


それが一変してしまう事件が起きた。


「私が聞きましたのは紫様が7~8歳の頃の話です」
「・・・今からだと17~8年前か?」

「紫様と薫さんに乱暴をした人間がいたそうです」
「乱暴?・・・まさか、襲われたって事か?」

「はい。これは現在宝生家で働いている最年長の人から聞いた話です。紫様の、と言うより薫さんの事をさりげなく聞いていたら『もう時効みたいなものだけどね』と、言うので教えてくれました。今ではその話自体知っている人間が少ないようですので、他の人間には確認が出来ませんでしたが」

「犯人は?捕まったのか?」

「それが・・・」


近藤が聞いた話だと、紫と薫が襲われた時の状況も子供の説明だから不確かで、どの程度の被害だったのかが判ってないらしい。だが当時を見たその女性はあきらかに身体に悪戯をされたのではないかと。
しかも紫よりも小さな薫の方が気を失っていて、衣服を乱した薫を抱き締める紫の恐怖に震えた顔が忘れられないと言ったそうだ。

そして肝心の犯人はその場にはいなかった。
いつも綺麗に落ち葉1つない庭がすごく荒れていたから、庭を通り抜けて逃げたんじゃないのかと屋敷の連中が付近を捜索したけど見付からないままらしい。


「警察には届けなかったのか?」

「はい。お屋敷ではお嬢様の将来を考えて届け出なかったそうです。その時の使用人にも厳しく口止めし、噂を立てないようにと・・・ですが、お嬢様達が比較的早くに元気を取り戻したように見えたのでそこまで酷い事はされてないのだろうと話していました」

「・・・そうか。その件で西門が関与してるかは?」

「そこまでは聞けませんでした。宝生家では西門の名前を出しにくいのです。弔事がございましたので仕方ないのですが、まだ婚儀が行われない事を快く思っていませんから」

「まぁ、そうだろうな」


急かしてはいなくても婚約からもうすぐ3年・・・宝生家にしてみたらそれが限界だろう。
喪が明けたら総二郎の結婚が強制的に行われるかもしれない。

そして俺はこの話をすぐに総二郎にするかどうかを考えた。

西門に関係するなら連絡しないといけないだろうが、無関係ならあいつを余計混乱させるだけだから。
薫と紫が幼い頃から仲が良かった、これは既に知っているのだから次に会った時で良いだろう。それに子供の時の事とはいえ、女性にとってデリケートな部分だから、わざわざ伝えなくても・・・そう考えた。


「長いこと潜り込ませて悪いが、もう暫く様子を見てくれ。薫と紫の事もだけど、亡くなった西門の先代の事で何か話があったらすぐに連絡を」

「畏まりました」

「それと宝生を辞めた人間でその当時の事を知ってるヤツがいたら名前と住所を調べてくれ。無理はするなよ?美作が絡んでることがバレたら牧野に繋がる可能性もある。慎重にな」

「心得ております」




*******************




今年初めての桜の茶会。

まだ3分咲きぐらいの桜を障子を開け放って眺めながら、古くから後援会に入っている連中を相手に茶を点てていた。
床の間に飾ったのも早咲きの「大寒桜」・・・ソメイヨシノよりも1週間ほど早く咲き、淡紅色で花が下向きというのが特徴だ。

西門が喪中であることから派手な茶会は避けて、こんな控えめな茶席が続いていた。


「・・・結構なお点前でした、若宗匠。もうお身体の方もすっかり良くなられたのですな?」
「ありがとうございます。はい、身体の方は大丈夫ですが、先代を亡くしましてから気持ちはまだ少し・・・淋しいものですね」

「おぉ、そうでしたなぁ・・・先代は若宗匠を殊の外可愛がっておられたから」
「・・・はい。昔を思い出してしまいますね」


・・・可愛がってもらったって言うより、すげぇ厳しくされた思い出の方が強いけど?
それに「すっかり元通り」なんて言葉も出さない。客達が結婚に関する質問を出しにくくするために、茶席最後の雑談時には最低限の言葉しか出さないようにしていた。

「もう一服いかがですか?」

今日は薄茶だから客を黙らせるには次を進めるのもひとつの手だ。
だから勧めてみると笑顔で頷かれた。

この時はもう俺の点前を見なくても客達は気軽に話をしている。だから会話の邪魔をしないように静かに茶を点て、それぞれに差し出した。


「あぁ、それはそうと、若宗匠は美作のご子息のご友人でしたかな?」
「・・・は?はい、友人ですが彼がどうかしましたか?」

「いやいや、ご結婚されて数年が経ちますが、やっと・・・なんですかね?ご存じですか?」
「やっと?何の事ですか?」

「・・・あれ?違ったのかな、お子様がお産まれになったのかと思いましたのでな」

「は?」


茶を出し終えてから言われたあきらの子供の話・・・それには驚いた。
嫁さんの病気の話が何処まで伝わっているのか知らないと言うのもあるが、妊娠できない状態なのに子供が産まれるはずがない。どうしてそんな話が出てくるんだ?と凄く不思議だった。

手術の内容からしても嫁さんには出産は無理・・・海外で代理出産なんて聞いてもないし、あきらがその為に日本を離れたのなら俺の耳にも入りそうだけど。
大体それが本当なら直接本人から話ぐらいあるだろう。俺が切羽詰まった状況だからって、そこで遠慮するような付き合いじゃねぇし。


「いえ・・・私は知りません。幼馴染みですからそのような祝い事があれば連絡があるかと思うのですが?」

「そうですか・・・いや、失礼しました。お忘れください、ははは!」

「何故そのように思われたのですか?」

「それがですね、先日社用で美作商事を訪れまして、営業本部長のご子息の所にご挨拶に行こうとしたんです。
そのお部屋の前でノックしようとしたら本部長が同時にドアを開けられて、丁度誰かと電話中でして『小児科の医者は何だって?』と、言われたんですよ。で、慌ててすぐにお電話は切られたんですが、その時に一瞬チラッと見えたスマートホンの画像が小さなお子様に見えましてね・・・いや、それだけなんです」

「・・・彼に聞いたのですか?」

「聞こうと思ったんですが、少しご機嫌の悪そうな顔をされたので聞くに聞けず・・・仕事の話だけして帰りました。
でも、そうですよね?美作商事ぐらいの企業の後継者に、お子様誕生なんて事があれば噂になりますよねぇ!もしかして我が社だけが知らずにお祝いをしてなかったら一大事だと思って色々聞いたんですが、やはり誰も知らなかったので・・・」


随分前に類も同じこと言ったな・・・夢子おばさんのベビー服、だったか?
「贈り物じゃないから自宅に届けて」、そう言ったらしいけど・・・でも、有り得ねぇよな?

それにあきらが俺達に隠し事なんてする訳がないし。
子供が居るなら養子・・・たとえそうでも言うよな?

でも、あのあきらがスマホに子供の画像・・・想像できないけどな。


「小児科と言っても自分の子供の事とは限りませんしね。友人か部下で子供が居る人もいるでしょうし。気になさらなくても美作家にはまだ跡取りは産まれてないと思いますよ」

「そうですかね、ははは!いや、変な話をして申し訳ない!で、若宗匠には・・・」

「・・・・・・居りませんよ、子供など」


途端に低くなった声にビビったのか客は何も言わなくなった。


だがここでも思い出した。
美作にあったベンツのファミリーカー・・・3列シートなんて今の美作の誰が乗るんだ?小さい子供が居るなら話はわかるけど。

飲み会にも来なかった。昔ほど電話も掛けてこない。頻繁だった嫁さんの病院・・・。
だが1番気になるのはそこじゃなかった。


牧野の捜索を頼んでいるのに、その事についてだけ毎回「判らない」しか言わない事だ。
美作のシステムや情報網は何処よりも優れているのにも拘わらず、あきらの返事がいつもより鈍い・・・随分前からそこだけが気になっていた。





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