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plumeria

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桜の季節が終わって新緑の頃、また改良中の薔薇の苗を持って美作さんのお屋敷に行くことになった。
施設の改良担当者の人と2人で車に苗を積んで研究所を出て、美作家に着いたらその担当者さんは苗を専用の温室に運んでいき、私はこの庭の手入れをする。

本当は手入れなんて私がするより、ここのベテラン庭師さんの方がいいに決まってるのに夢子おば様の指示でそういうことにしてるだけ。
今日もまた、私のお迎えは小夜さんが来るからって担当者は先に逗子に戻ってしまった。


「いらっしゃい、つくしさん。ご苦労様です」
「あっ、仁美さん、こんにちは~!」


双子を連れた仁美さんが庭に出てきて、子供達は「ちゅくちちゃーん!」って言いながら走ってくる。
ドン!と体当たりされた時の強さが少し前と全然違うのに驚いて、大きくなったなぁ・・・なんて。髪の毛を撫でたり、手を握ったりは普通にするんだけど、その時の高さが少し変わってきた。

そう言えば少し前の電話で美作さんがそんな事言ってたっけ・・・急に背が伸びたんだぞって。

そのうちお父さんを超しちゃうのかな・・・。
でも、2人が並んだ所を見ることはないから比べられないね。そんな事を思いながら紫音の頭を撫でていた。
呼び方も「つったん」から「ちゅくちちゃん」・・・ちょっと進歩したのかな?

すぐに2人は私を通り越して遊具が置いてある場所へ・・・そこで楽しそうに遊びだした。


「今日もお義母様がお仕事だからごめんなさいね。私じゃ花のことは全然判らないし」

「あはは!私だって何にも知らないんですよ。研究所では水やり、草毟り、肥料撒き、この3つしかしません。植物の研究なんて難しいんですもの。何年も掛かって品種改良した物を私が枯らしたら大変!だからやることは簡単な作業だけです」

「・・・でも、羨ましいわ。私は働いたことがないから」

「・・・仁美さん?」


仁美さんは子供達に視線を向けたまま、日除けの為の大きな帽子を押さえて少しだけ悲しそうに笑った。
そして「休憩しない?」なんて、まだ全然作業が進んでいないのに私を連れてすぐ近くのガゼボの中に入った。子供達の姿はちゃんと確認出来る。
私達は子供の方に身体を向けて並んで座った。

こんな感じで2人になるのは初めて・・・何故かちょっと緊張した。


「私ね、子供の時から将来は何処かの大きな企業の後継者のところにお嫁に行くんだからって言われて、そのための教養だとかダンス、マナーを教え込まれたの。どの国に住んでも対応できるように語学もね・・・。
それに少し反発があって好きな人なんか作らなかったのよ。どうせ好きな人が出来ても別れさせられるんだろうって思うと、恋するのに臆病になってしまったの」

「・・・学生の時、誰も好きにならなかったんですか?」

「ううん、好きな人は居たわよ。でも、お話しなんてしたことがないの。何を話していいのか判らないんですもの。私が話せるのは時事問題ぐらいで、趣味もなかったし、スポーツとか芸術とかは基本情報は知ってるけどそれだけ・・・それ以上の何かを聞かれたら話が途切れちゃうの。そんな面白くない人間なんてイヤでしょう?だから私は自分が嫌いだったの」


突然自分の事を話し出したからどうしようかと思った。
黙って聞くだけでいいのか・・・それとも、何か言い返さないといけないのか、私が困っている事に気が付いた仁美さんはクスクス笑って「何も言わなくていいわ」って。

だから、そのあとも黙って彼女の話を聞いていた。


「両親からあきらさんの事を言われた時、正直イヤだったの。年下だし、それなりに噂の多い人だったし・・・だから、初めて会った時にね、あきらさんの方から断わられるようにと思って凄く嫌な態度をとったの。ツンとして返事もろくにしないで、目だって合わせないで。でも噂で聞くのとは全然違ってて、優しくて穏やかな人だった・・・それに、ほら・・・素敵でしょう?
私、嫌な態度をとったくせにその日のうちにあきらさんに恋してしまったの」

「・・・くすっ、仁美さん、可愛い・・・」

「家に帰ってから凄く泣いたわ。絶対に断わられると思ったから・・・素直になれなくて後悔なんてしちゃってね。そんな私の事を両親が見て驚いてたのを覚えてる。感情的になることがなかったから、落ち込んで泣いてる姿なんて初めて見たんでしょうね・・・。
だから、あきらさんからデートの誘いがあった時には驚いちゃって、はしたないけど慌てて聞いてしまったの。『お断りの為のデートですか?』って」

「えっ!美作さん、なんて言ったんですか?」

「・・・『お断りするなら会わなくてもいいでしょう?』って。凄く嬉しかった・・・。そのデートではプロポーズなんてなかったけど、2回目のデートで初めてキスしたの。3回目のデートの時にね『人生のパートナーになって頂けますか?』って言われて、彼の胸で泣いちゃった。ふふっ、年上なのに恥ずかしかったわ・・・」


この人達みたいな家に生まれても同じように起こる恋愛問題・・・自由なように見えて、実はすごく窮屈な生き方を強いられてるんだって事は判るようになっていた。
全然優雅でも、幸せでもない・・・ある意味虚像の彼等が笑顔で学園にいただけ。道明寺も花沢類も・・・西門さんもそうなんだろうって学生の時、体当たりでぶつかって行くうちにそう思った。

その中でも1番自然体だったのが美作さんと美作家・・・ここだけは他の家とは少し違ってて、何度か来たけどすぐに馴染めて素直に笑えるようになっていた。
多分、夢子おば様とおじ様が珍しく大恋愛結婚でラブラブだったから。

溢れるほどの愛情を注いで美作さんや絵夢ちゃん達を育てたから・・・だからいつ来ても温かいんだって思う。


「素直になるには時間が掛かったけど、結婚式が終わって凄く幸せだった。早くこの人の子供が欲しいって思ったけど、外国で生活したことがなかったから少し体調を崩してしまってね。その時は深く考えなかったんだけど、イギリスに慣れれば大丈夫だろうって、そうじゃないと海外赴任の多いあきらさんとは暮らしていけないって自分の弱さを叱りながら暮らしてたの。
そうしたらある日突然、私の病気が判明してね・・・私にそれを告げてきたのはドクターじゃなくてあきらさんだったわ」

「美作さんが?・・・そう、なんですか」

「私、ショックの余り泣くことも出来なかった。生きていくために選択するのは子供を諦めること・・・それをあきらさん、全然悩まずに即答してくれたの。優先は私の命だって・・・」

「うん、美作さんならそうだと思います」

「そうね・・・嬉しかったけど、すぐに離婚しようって思ったの。この家には後継者が必要だもの、それを産めない私は自分から去らなきゃいけないって。もう2度と結婚は出来ないだろうけど、それでもいい・・・あきらさんには自分の子供をって思ったの。
それなのに、その気はないって言われてね・・・1人で日本に帰って手術したけど、あきらさんに会えなくなった・・・申し訳なくて、もう傍に居る事なんて出来ないって毎日自分を責めて、1度は自分を傷付けたわ」

「仁美さん、ごめんなさい、それなのに私・・・」


仁美さんがどうしてこの話をし始めたのか・・・少し私の中に恐怖が芽生えた。
わざわざ自分の辛かった話をするのは何故?
他人の子供を育てる気分じゃないって・・・そう言うんだろうか。

でも、彼女の表情にはそんな疎ましさのようなものは無く、今でも優しい目をして少し先で遊ぶ子供達を見ていた。



「・・・紫音と花音はこんな私を救ってくれたの」

「・・・え?」

「初めはね、本当に母親になれるのかって不安だったわ。あきらさんに私の事を良い妻だと思って欲しくて、この話を受けたって気持ちも少しはあったの」

「・・・はい」

「小さい子に慣れても無いし、勿論自分では産んでないし、それなのに可愛がって育てられるか・・・凄く不安だったけど、今じゃこの子達が居ない生活なんて考えられないの。あきらさんとも子供の話題で楽しいし、彼ももっと優しくなった・・・この生活が今は宝物なの」


・・・・・・なんだろう。
凄くドキドキする・・・私は引き取るなんて言ってないのに、どうしてそんな言い方をするの?

私が頼んだのよ・・・それなのにどうしてわざわざ今の幸せアピールをするの?

仁美さんの口調はとても穏やかで私を責めてる訳じゃないのに、むしろ紫音と花音が大事だって言われているのにどんどん膨らんでくる不安はなに?

仁美さんと同じく庭で遊ぶ2人を見ながら、私の心臓は口から飛びでそうなほど鳴り続けていた。



「つくしさん・・・いつ来ても良いわ。あの子達と遊んでもいいの・・・だけど、あの子達はもう美作の子供・・・本当にそれでいいのよね?」

「・・・え、えぇ、そうです。私がそう頼んだんですよ、仁美さん」

「・・・そう、よね?あっ、ごめんなさい!私ったら変な言い方しましたよね、忘れてください!」


「・・・あはは!大丈夫です、気にしていません。可愛がってくださってありがとうございます!」



・・・引き取るな、そう言われたんだ。
親子の名乗りをするな・・・2人は美作の子供だって、そう念押しされたんだ。

私の心の中を見られた気がして怖かった。
何処かに持ってる小さな希望・・・誰にも言わず、密かに思ってるだけなのに見透かされた気がして恐ろしかった。



そのあと、仁美さんは買い物があるから2人をお願い、なんて言い残して庭から居なくなった。
私は笑って「行ってらっしゃい!」って答えたけど、振ってる手が震えた。


「ちゅくち・・・ちゃん、あしょぼ?」
「・・・え?」

「ちゅくちちゃん!おままごとのママになって?」

気が付いたら私の目の前に紫音と花音が来ていた。
おままごとのママになって・・・その言葉が嬉しいような、悲しいような・・・でも、ニコッと笑って立ち上がった。


「よーし、遊ぼう!」

「わーい!!ちゅくちちゃん!あしょぼ!」
「ちゅくちちゃん、だいしゅき~!」





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