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plumeria

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岩代の野点以来、俺は紫陽花の季節がすげぇ嫌いだった。
どうしてもあの青い紫陽花を見るとあの日を思い出す・・・それでも、この時期にしか出来ないその花を愛でながらの茶会は必ず開かれる。

だが、今日は予定していた茶会が客の急病で取りやめとなり、俺にフリーな時間が出来た。


勿論他にもやることは山積みだったが、これもいい機会かもしれない。
1度あきらに会って聞きたい事があった俺は「時間が取れないか」とメールを送った。
そうしたら、あきらも俺に伝えたい事があると・・・紫についての情報だと言われたが、あきらの都合で1時30分に美作商事の執務室で会うことになった。


**


美作商事本社ビル・・・ここに来るのは何年ぶりだろう。
おそらくあきらが日本に戻ってきてからは初めてじゃないか?
高層ビルの建ち並ぶ中にある美作商事の地下駐車場に入り、そこの来客スペースに車を停めて中に入った。

そこの上層階にある役員室フロア、営業本部長室と書かれたドアをノックするとあきらの声で「どうぞ」と聞こえ、開けて入ると上品な美人秘書にニコッと挨拶された。
・・・嫁さんもらっても秘書は女かよ・・・って、瞬間思ったが言葉にはしなかった。


「会うのは久しぶりだな、総二郎。元気そうじゃん」
「・・・別に俺は変わんねぇよ。それより・・・」

「あぁ、判ってるって」

あきらは珈琲だけ淹れさせたら美人秘書を退出させ、この部屋には2人だけになった。
「少しだけ仕事を片付けるから待っててくれ」と言い、パソコンに向かったあきらはもうすっかり企業人の顔になっていた。

メールの返信だろうか、カタカタとキーボードを叩きながら肩でスマホを押さえて英語で誰かと喋ってる。別に聞いても判んねぇけど、どうやらアメリカの商社との内容確認みたいだ。


『そこは是非、日本で行いたい・・・えぇ、ですから1度お会いしませんか?美作としては内部設備を請け負いたいと思ってるんです・・・えぇ、勿論合わせます。日本国内で航空機産業を伸ばしたいのですよ。ははっ・・・えぇ、楽しみにしています』

・・・航空機産業か。あきらもデカい事業に手を出してるんだな。

それを聞いてると自分だけが取り残されてるような気分がする。幼馴染みがどんどん世界に出ていくのに、俺は自分の家の中でさえ自由が無い・・・そんな皮肉れた考えを持ちそうだった。


「悪い、片付いた。待たせたな」
「いや・・・忙しいのにこっちこそ悪かった」

あきらがデスクから移動してソファーに座り、もう冷めた珈琲を飲んで顔を顰めてた。
そして時間が勿体ねぇと、すぐに本題に入った。


「あきら、随分前に京都の爺さんの所に宝生の先代が訪ねてたって言ってたよな?」
「あぁ、情報部に調べさせたらそんな事を言ってたな。それがどうかしたのか?」

「その時に京都で会ってた骨董品屋とかって名前出なかったか?」
「骨董品屋?いや、2人の名前しか聞いてないけどな。その時のやりとり、メールに残ってたっけ・・・ちょっと待ってくれ」

あきらが自分のデスクの上に置いてある個人用のスマホを手に持った。


・・・そのスマホを見た時、今度は後援会の爺さんが言ってた言葉を思い出した。

あきらのスマホに子供の写真があるのがチラッと見えたと。それもすげぇ気になる・・・瞬間それを思ったけど、すぐに話は骨董品屋の事に戻った。


「・・・いや、やっぱり骨董品屋も何処かの窯元が絡んでるとも書かれてないな。宝生の隠居が出向いて行ったのは西門の先代宅としか・・・どうかしたのか?」

「そっか・・・いや、葬儀の時に変な話を聞いてさ」

あきらに葬儀の後に京都の連中がしていた話を教えた。
明日香堂という骨董品屋の人間が1人、行方不明になっているらしいが、その男が西門に頻繁に出入りしていた時期が宝生の先代とうちの先代が会っていた頃と重なること。
東京にも1度来ているらしいが、姿を見なくなったのはその後だと言うこと・・・。


「あきらが調べてくれた揉め事ってのは結局何か判らねぇって事だよな?この居なくなった骨董品屋が絡んでるとか・・・東京の友人ってのが仮に宝生だとしたら、そこで揉め事を起こして怒らせたって事か?」

「いや、本当に詳しい内容が判らないから答えられないが・・・もう少し探らせてみようか?明日香堂、だな」

「悪いな。もう古い話だから調べようがねぇかもな。それで?あきらの話ってなんだ?」


今度はあきらが少し困ったような表情を見せた。
今更話そうかどうしようかと悩んでいるのか、珈琲を淹れ直すと言って席を立った。

それもほんの数分・・・また戻って来て俺の前に座り、溜息を付きながら話し始めた。


「紫の事だから聞きたいかどうか判らないと思ってさ。その、内容がさ・・・」
「は?別に俺はあの女に特別な感情はねぇから気にしなくていいけど?むしろ男が居てくれたらすげぇ助かる。そういう話じゃ無いんだろ?」

「・・・まぁ、意味は全然違うけどな」
「・・・なんだよ、言えよ」


確かに紫の個人的情報なんてそこまで知りたいわけじゃ無い。
あいつが何を企んでいるのか、西門との関わりなら知る必要があるが、それ以外の趣味だ興味だ成績だ、みたいな事なら要らねぇ。

だが、あきらもその辺は判ってる筈・・・俺に伝えようと思ったのなら、此奴もその事について何かを感じたって事だろうから。


「紫と薫・・・子供の時に襲われた経験があるそうだ」
「・・・は?」

「まだ7歳前後・・・だから薫は4歳ぐらいかって年頃だそうだ。その乱暴されたってのが、何処までの事を言うのか判らなくてさ・・・だからお前に伝えていいものかどうか悩んだんだけどな」

・・・あの2人が襲われた?要するに子供をそういう対象と考える誰かに・・・って事か?
余りの内容に驚いて返事が出来なかった。

確かに紫のあの態度を考えたら過去に大きな事件があっても不思議じゃ無いが、それが子供時代の・・・所謂強制猥褻って?


「2人共が子供だろ?だから家の者に見付かった時には言ってることが判らなくて、どの程度の被害なのか把握できなかったらしい。因みに犯人も行方不明だそうだ。2人を見付けた使用人の話だと、薫の方が気を失っていたらしいけどな」

「・・・犯人が誰かも判んねえのか?」

「その使用人は知らないそうだ。そして、もうこの話を知ってる人間は宝生には居ない・・・両親は知ってるだろうけどな。箝口令が敷かれて屋敷から漏れないようにしたんだってさ」


紫と薫の関係が普通の主従関係を超えていることと、何か関係があるんだろうか。
それにここでも犯人が判らない?行方不明の人間ばっかじゃねぇか!


その時、ドアをノックしてさっきの秘書が顔を出し、あきらを呼び出した。
どうやら仕事で急ぎの用件が出来たようだ。だからもう帰ろうかと思ったら「すぐ戻るから待っててくれ」と言い残して執務室を出て行った。



テーブルの上にはあきらの個人スマホ。


この時、また写真の話を思い出した。
ドアに顔を向けたが廊下で誰かが歩いてる足音もしない・・・あいつは別の場所に行ったんだって思った。

「・・・・・・」


電源入れるだけならバレねぇか?

そう思った時にはもうあきらのスマホを手に持っていた。
そして電源を入れた。

画面ロックは掛かってない・・・あきらにしては珍しいな、と思ったが、そこのディスプレイ画像は子供の写真なんかじゃなかった。スマホ内蔵の画像で、わざわざ編集もしてないようだ。

じゃあ、使用中に子供の画像が見れるって事は・・・通話画面か?
それともアルバムを直接開けば・・・だが、そこまで踏み込むのはどうかと考え思い留まった。いくら親友でもプライベートを覗くことは出来ない。

自分のしている事に嫌悪感を感じて元に戻そうとしたが、通話履歴だけを見てしまった。


「・・・誰だ?こいつ」

そこに並んでいたのは「田中 春」という名前。もうひとつは「仁美」・・・こっちは嫁さんだから問題ない。その仁美よりも多かった「田中 春」って名前は俺の知らない女だ。
しかも掛けているのは朝早くか夜・・・通話履歴に表示されているものはそうだった。

夜・・・?浮気相手なら夜にこんなに頻繁には掛けねぇだろうし、大体今のあきらが浮気なんてしそうにないし。


「馬鹿馬鹿しい、やっぱり見るんじゃなかった!」

スマホを元あった場所に置こうとした時、その気も無かったのに「田中 春」のリダイヤルを押してしまった。
ヤバい!とすぐに切ろうとした瞬間、俺の目はその画面に釘付けになった。


その画面に映ってるのは小さな子供が2人・・・そっくりだから双子?
目鼻立ちのはっきりした、真っ黒な艶髪・・・1人は長くしてるから女か?それにこの庭・・・・・・あきらの家か?


・・・なんだ、この感覚・・・どうしてこの子達を見て俺が動揺すんだ?
誰だ・・・「田中 春」って。


なんでこの子達を見て、俺はこんなにドキドキしてんだ?


鳴り続けてる電話・・・それに気がついて慌てて切って電源を落とした。




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