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plumeria

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・・・朝になった。

なんだ、ちゃんと目が覚めたのか・・・それが起きた時、1番始めに思った事だった。


昨日の夜、美作さんの家で夕食を食べたけど、その後にみんなから慰められて我慢出来なくなり大泣きした。
泣いて泣いて・・・多分美作さんの胸を殴りながら泣いたんじゃないかな・・・。

私があんまり泣くから彼が宥めてくれたのに、大声で「嫌だ、もう嫌だ!」って・・・訳の判らない言葉を連発して殴っちゃったんじゃないかしら。仁美さんが居たのに・・・もう、自分を抑えられなくて大暴れした記憶がある。

馬鹿だな・・・謝らなくちゃ。

ここまでしてもらってるのに甘えすぎ・・・夢子おば様もきっと呆れてる。産む前からあれだけお世話になってるのに・・・。


まだ閉まってるカーテンからはもう朝の日差しが透けて見える。
何時なんだろうって思ったけど、美作さんの家に泊まったこともないから時計が判らない。重たい頭を抱えて起き上がったら私の後ろに時計があって、その時間は7時半。

「まだそんな時間だったんだ・・・うわ、頭が痛い・・・」

起き上がったけど目が腫れてるのと頭が痛いのとで、またベッドに倒れ込んだ。



昨日の夜は彼にとってどんな夜だったんだろう。
私は泣いてる時もずっと考えていた。

この時間に彼が何をしているのか・・・奥さんをその腕に抱いてるんじゃないのかって・・・。

いくら拒んでいても奥さんになったんだ。
何も無い訳はない・・・彼の気持ちがあの人になくても、その行為は別・・・そうしないと跡取りが産まれないもん。西門流にとってもそれが大前提だろうから。
だから愛情を持たなくても彼は奥さんを・・・・・・そう思ったら吐き気がする程苦しかった。

だから泣いて喚いて頭から消したかった。
私の頭の中で知らない人を抱く西門さんを忘れるために・・・粉々に砕け散ったガラスの破片が全身に突き刺さったんじゃないかって思うほど、身体中が痛かった。


1番辛かった昨日の夜・・・西門さんの新しい人生が始まったんだ。
私以外の人と歩く人生が始まった。

私も違う道を歩かなきゃいけないんだ。これからはたった1人で・・・そう思ったら少しだけ涙が溢れた。


まだ、溢れる涙があるんだって・・・自分の事なのに可笑しかった。


**


いい加減起きなきゃってベッドから降りて部屋を見回したら、すぐ横の椅子に私の着替えがちゃんと用意されていた。

その着替えを借りてバスルームに行き、熱めのシャワーで全身を洗った。そこの鏡で見た自分の顔・・・目がこんなに腫れた事なんて今まであっただろうかってぐらい腫れていた。
確かに目の周りもヒリヒリする。擦りすぎたのか、泣きすぎたのか・・・鼻も啜ったらそこも痛い。身体中のあちこちが痛むのが私の大暴れを証明してるようだった。

バスルームから出て髪を乾かし、新しい服を着て身支度を調え、ドキドキしながらリビングに向かった。


珈琲のいい香りがする。
焼きたてのパンの匂いかな?美味しそうな匂いが私の鼻に届く・・・そして可愛い声が聞こえてきた。


「あっ!ちゅくちちゃんがきたぁ!」
「ちゅくちちゃん、おねぼうさん!!」

「・・・おはようございます。あの・・・こんな時間にすみません」

「あら、つくしさん、おはようございます。よく眠れた・・・あぁ、目を冷やしますか?」

仁美さんが挨拶の途中から私の目の心配。小さな子には気にならなくても大人にはバレバレ・・・そんな私の顔を見て、夢子おば様も苦笑いだった。
そして美作さんの姿は無かった。聞けばもうパーティーが行われるホテルに向かったとか。
謝ってもないのに、と項垂れると「気にしていませんよ」と仁美さんに微笑まれた。


「本当に腫れが酷いわね・・・でも仕方ないわ、そういう日もあるわよ。温冷パックすれば比較的早くに腫れが引くわ。先にお食べなさい」

「・・・はい」

夢子おば様に言われて椅子に座り、用意してもらった朝食を前にしたけど、何も食べられなかった。いい香りがする珈琲も口にすれば気持ちが悪くなり、美味しそうなパンもちぎってみたもののお皿の上に戻してしまった。
切ってもらったフルーツもひと口食べただけで欲しくない・・・結局飲めたのはオレンジジュース半分だけだった。

「ちゅくちちゃん、どうしたの?」
「・・・え?」

「おなか、いたいの?」
「あ、ううん・・・何でもないよ」

「だれかいじめたの?そうゆう時はね、しょんがたすけてくれるよ?しょんね、つよいんだよ?」
「くす・・・そうなの?紫音君、強いの?」

「ううん、つよくない。でも、しゅきな人のためならたたかえってパパがゆうから、たすけてあげる!」


好きな人の為なら闘え・・・かぁ。
紫音の口からそれを聞いたらまた目元が熱くなってきた。でも、この子達の前では泣かない・・・だから上を向いて涙が溢れないようにした。


紫音が、花音が私を助けてくれる。
たとえ私が育ててなくても、私の事を好きだと言って闘ってくれる・・・今度の涙は悲しい涙じゃなかった。

スン!と1回だけ鼻を啜ったら、今度は目の前にあるパンを食べた。
ひと口食べたら、もうひと口・・・紫音と花音が嬉しそうに笑うから最後まで全部食べた。

食べ終わったら、さっき飲めなかった珈琲も飲んで、フルーツも食べた。
「おいちいでちょ?」ってニコニコする花音。「ぼくももういっこ・・・」って椅子に座り直す紫音。そんな私達を見て、少しだけ笑ってくれるおば様と仁美さん。


「ねぇ、おば様・・・」

「なぁに?つくしちゃん」

「私・・・今日の朝、1人じゃなくて良かった・・・私の幸せはここにもありました。大丈夫・・・ちゃんと自分の足で歩いて生きていきます。仁美さんもありがとう・・・こんなに良い子に育ててくれて」

「・・・この2人が持って生まれた気質ですよ、つくしさん」


私の心にはまだ沢山棘が刺さってるような痛みがあるけど、それを忘れさせてくれる存在がここにはあった。
この痛みがいつ無くなるのかなんて判らないけど、いつか全部を許せて認めて生きていけるようになりたい・・・。


真っ白で純粋なこの子達の前で、自分も強くなりたいと思った。




*********************




殆ど寝た気もしないまま朝になった。
白んで来た空の色で部屋がだんだんと見えてくる・・・まるで牢獄に居るかのような気分の新居。

その馴染めない空気の中で身体を起こした。
マジ、頭がガンガンする・・・片手で額を押さえ込んで目を閉じると、昨日の忌々しい光景が蘇って来た。

いや、思い出したくもないのに浮かんでくる。少しだけ見た夢の中であいつが・・・牧野があの場所で泣いてたんだ。
紫の指に指輪をはめる時、紫の後ろに牧野が居て悲しそうに泣いてた・・・それが蘇ってきた。
微かに開いた口から出た言葉は

『西門さん・・・違うよ』


京都では俺の暴走を止めてくれたのに、今度は泣かせてしまった。そんな気がして牧野に視線を移した途端、あいつは消えた。

夢の中からも消えたんだ。
やっと出てきてくれたと思ったのに・・・。


その時、ドアがノックされた。
返事もせずにゆらりと立ち上がり、そこまで行くと鍵を開けドアを開けた。勿論立っているのは紫だ。

「おはようございます。流石に本日は1人で母屋に行くのも気が引けますの。ご一緒していただけますか?」
「・・・1人で行っても誰も可笑しくは思わねぇさ。むしろ2人で行く方が驚かれんじゃねぇの?」

「初夜を無視された妻の願いです。聞いて下さいますよね?」
「・・・・・・判った」


数年間ここに住んでいるのに今更だ。
こんな時だけ女のプライドを出してくるのか・・・?


今日も相変わらず美しく艶やかな紫・・・妻になった途端に変えた着物の色柄に合わせて髪も纏め上げている。

変わらないのはその瞳の奥に隠された私怨を含んだ光。
そいつは何を見つめているんだろう。





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