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plumeria

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「えっ?海・・・海に行くの?」

8月のある日、美作さんが鎌倉の別荘に来て家族旅行の話をした。
丁度忙しかった美作さんの夏休みが今月の終わりに纏めて取れそうだからって、それに小夜さんと私も一緒にどうかって話だった。


「嬉しいけど、行けないよ。そんなに人が集まる場所になんて・・・もし、誰かに見られたら・・・」

「心配しなくても美作のプライベートビーチでこの辺りじゃないさ。南の島にコテージ付きでビーチを持ってるからそこに行くんだ。誰にも会わなくて、むしろ淋しいぐらいだと思うぞ?海の家もないし」

「そうなの?でも空港とか絶対無理だもん」
「何のために専用機があるんだよ。それで行くに決まってるだろ?」

「・・・やっぱり私はお留守番してるよ、みんなで行って来たら?」

家族旅行・・・凄く憧れる言葉だったけど、その中に素直には飛び込めない。

この前の仁美さんの言葉もある。美作さんはあの時の事を知らないからそんなに簡単に言うのよ・・・と、チラッと見たけどスマホで今度行くって言う場所を検索したりして楽しそう。
私の困った顔には気が付いてくれなかった。

「えーっ!つくしちゃん、行かないの?私、行ってみたーい!」

「はい、決まり。お袋に頼んで研究所に休暇もらえるようにしとくから。じゃあなー!」
「あっ!美作さん?!ちょっと、待ってっ!小夜さんったらなんて事言うの!」

「あはは!良いじゃないの、たまには休まなきゃ!」


美作さんは笑って帰って行くし、小夜さんは水着を買いに行こうなんて言うし!
私はそれよりもだんだん大きくなる双子をあんまり間近で見ると、胸が苦しくなるのに・・・だから、遠くから見るだけにしたいのに。

そんな私の気持ちなんてお構いなしに予定は組まれて、今月最後の金曜日から5日間の旅行に行くことになった。


**


「ホントに来ちゃった・・・暑っ・・・太陽が眩しすぎるわ・・・!」

専用機でやってきたのは南の小さな島で、その半分が美作家の所有地らしく、本当に誰も居ないビーチが広がってた。
白い砂浜に真っ青な海、揺れてるのは南国の木々でコテージは平屋の木造だけど、可愛らしくてお洒落。
ハイビスカスやブーゲンビリアが咲き乱れ、小夜さんは興奮し過ぎて倒れそうだった。

紫音と花音もここは初めてだって言うから大はしゃぎ。
まだ着いたばかりなのに海に向かって走って行くから美作さんに怒られたりして、それをクスクス笑いながら仁美さんが見ていた。夢子おば様と小夜さんが食材を部屋の中に運び入れて、絵夢ちゃんと芽夢ちゃんはもうお兄様の後を追いかけなくなったのか、2人仲良くスマホで写真ばっかり撮ってる。

久しぶりに帰国していたおじ様は別ルートで現地合流、私はここで初めて子供達を受け入れてもらった事のお礼を言った。


「おじ様・・・本当にこの度は無理なお願いをして申し訳ありません。こんなに良くして頂いて・・・あの子達は幸せ者です。ありがとうございます」

「つくしちゃん、顔をあげなさい。小さいとは言え、子供達はそういう所をちゃんと見るものだからね。普通にしていなさい。
それにこれは私と夢子と言うより、あきらと仁美さんが決めた事だ。あの2人が親になろうと言う気持ちになったのだから、私達は応援してやるだけだよ」

「はい。ホントの親子みたいにしてもらって・・・助かります」

「・・・君は?君は幸せなのかい?」

「・・・え?」


おじ様が優しい顔で言った言葉・・・・・・私の幸せ?

私の幸せはあの子達の成長と健康だもの、幸せだって言おうと思ったけどすぐに答えられなかった。

自分の事を考えたら今でも後ろを振り向いちゃう・・・捨てきれない過去に縛られてしまいそうで凄く怖い。だから、自分の幸せは紫音と花音の笑顔だって無理矢理思うことにしていたから。
それを見透かされたのかと思ってドキッとした。

「ははっ!そんなに構えなくても良いだろう?ただね、子供が幸せなのと、自分が幸せなのは別だって事だよ」

「・・・自分の幸せ・・・は別?」

「そうそう。子供が楽しそうなら自分は幸せって言うのは少し違うと思うんだよ。つくしちゃんも自分の幸せを探す努力をしないといけないな。身体の方は?もういいのかい?」

「はい、身体は大丈夫です。あれからカウンセリングを受けなくても何とか・・・落ち着いてると思います」

「そうか。それは良かった。大きな問題が山積みで滅入る事もあるだろうが、逃げずに自分の本心と向き合ってごらん?急がなくて良いし、その答えを1度や2度間違ったっていいんだ。道に外れた事はしちゃいかんが、真っ直ぐ前を向いてね・・・」


おじ様が言いたいことは何となく判る。
判るけど、今の私にはまだまだその勇気はなかった。

西門さんと向き合うことは・・・まだまだ出来ない。彼の将来を壊しそうで怖いから・・・西門家が怖いから。



**



「パパァ~!おしゃかなさん、いる~?」
「さぁ、どうだろうな?花音、おいで。抱っこしてやるから」

「紫音は手を繋ぎましょう?いらっしゃい」
「あーい!」

白い砂浜を4人が海に向かって行く。それをパラソルの下のベンチに座って見ていた。
小夜さんは既に水着になって泳いでる。妹の双子ちゃんはまだスマホばっかり・・・おば様とおじ様はコテージの中で久しぶりにお話中。

美作さん、昔は海なんて入らなかったのに、Tシャツ着てるとは言え水着になって花音を肩に乗せて腰の辺りまで入ってる。花音の大きな声がここまで聞こえてきて楽しそう・・・。
「パパァ!怖い~」って言うけど笑ってる。美作さんもわざと落とすフリなんてして、自分にしがみつかれるのを喜んでるんだわ。

仁美さんも水着着てるけど泳ぐ訳じゃなさそう。
紫音と一緒に波打ち際で遊んでる。紫音は少し怖がりなのかな?沖の方よりも砂浜の方に興味があるみたいだった。


家族・・・だなぁ。


でも、そのうち紫音が私の方に向かって走ってきた。
「ちゅくちちゃーん!」っていつもの舌っ足らずな呼び方で。

「どうしたの?紫音君。もう海に入らないの?」
「・・・ん、あのね、お山ちゅくる」

「は?お山って・・・砂で?」
「うん!お山をね、ちゅくちちゃんとちゅくる!」

「私とお山を・・・くすっ、はいはい。何処で作ろうか?」
「こっち!」

紫音に手招きされて砂が湿ってるところまで歩いて行った。チラッと仁美さんを見たら頷いてくれて、彼女は美作さんと花音の所に行ってしまった。
紫音と2人の時間・・・何故か凄くドキドキした。


「ここでね、こうやってね・・・」
「うんうん、もう少し濡れてないとお山がすぐに崩れるよ?」

「ホント?じゃあね・・・」

うふ・・・可愛い。
小さな手で砂を掻き集めて山を作って、その時に口を尖らせて何がブツブツ言ってる。髪の毛が汗で濡れて額に張り付いてて、顔には少し砂つけて・・・小さなカニが居たら一瞬ビクッとするのが面白かった。

「ちゅくちちゃん、トンネルできる?」
「トンネル?この山にトンネル掘るの?」

「そう!ちゅくちちゃんはそっちから!しおん、こっちからね」

「くすっ、判った。ゆっくり掘らないと崩れちゃうよ?大丈夫?」
「あい!」

少しずつ、少しずつ砂を掘ってトンネルを作る・・・でも、私の目は紫音の全部を見ていた。
可愛くて、可愛くて・・・すっごく真面目な顔で笑ってもいないのに可愛くて。髪が伸びたなぁとか、少し顔が細くなったなぁとか、裸足になってるけど、その甲と膝にある傷は何処で何をしたんだろう?とか。

「よいしょ!」なんて小さな声で・・・それを見ていたら手が止まっていたのか、「ちゅくちちゃん!」って怒られた。
「はいはい!ごめん!」って謝りながら私も本気でトンネルを掘る・・・もうそろそろ紫音の方と繋がるのかな?って思っていたら、指と指がぶつかった!

「あっ!」
「・・・あ・・・」

「出来た?トンネル、出来た?紫音君!」
「うん!できた?」

「・・・これ、紫音君の手だもんね」
「うん!」


私の指先に当たった温かい手・・・誰にも見られないからそっとその手を握った。指だけじゃなく、掌を手繰り寄せてギュッと握った。
そうしたら紫音も私の手を握ってくれた。

そして凄い笑顔・・・真っ白な歯を見せて笑ってくれた。

「あれ?ちゅくちちゃん、なんで泣いてるの?」
「・・・え?」

「泣いちゃだめ!あのね、片手がトンネルの中だからね・・・よいしょっと・・・」
「は?紫音君?」

「ジッとしててね?」


自分の服で空いてる手を拭いて、小さな身体を思いっきり伸ばして私の目元に伸ばしてきた。
片手は砂山の中だから、それを崩さないように・・・器用に身体を回して私の頬にその手が触れた。


その時の嬉しそうな顔・・・まるで西門さんが私に触れてるみたいだった。





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<お詫び>
今回のお話しを類君の更新時に修正前なのに同時公開してしまいました💦
毎日0時更新を確認するのですが、昨日は少しバテてしまって早くにダウンしたためにチェックが出来ず、そういう時に限ってこのようなミスを💦
久しぶりに時間設定を間違え、しかも毎回早いうちに気が付くのですが7時間も放置してしまいました。

お昼時間を楽しみにしてくださっているとコメントいただくこともあるのに本当に申し訳ありません。
よって本日は11時にこちらを公開し、12時に113話を公開致します。

以後、気をつけますが・・・なんせポンコツなのでまたやるかも💦その時は「まただよ・・・」と笑ってやってください・・・。


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