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plumeria

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気忙しかった8月ももうすぐ終わる。

結婚の時期が決まったからと言って特に会見や発表はしない事となったが、各地方支部、関連企業、出入り業者には知らせたために毎日のように祝いの品と来客があった。

それに対応するのは専らお袋で俺は出先で言われる程度。
自分の事なのにあまり喜ばしい顔を見せないからなのか、話が盛り上がる事はなかった。それを照れだと噂される時もあったが、それすらどうでもいい・・・好きに言えばいいと反論も肯定もしなかった。


宝生家には西門家が揃って挨拶に行き、ここまで遅れたことを詫びる形になったが、然程気にしていなかったのか場は和やかだった。「これで一安心」と繰り返されるだけ・・・それを聞く度に、いまだに紫を受け入れる気のない俺は腸が煮えくりかえるようだった。


「亡くなった紫の祖父が最後までこの子の花嫁姿が見たいと言っておりましたので、今頃は喜んでおりますでしょう」

「左様でございましたか。当方の先代も同じ事を申しておりました。見せてやりたかったと悔いております。何せうちの方は婚約した時には元気でしたのでね・・・本当に残念です」

「まぁ、お家元、お目出度いお話しの時にそのような辛いお顔は似合いませんわ。それより来年行われる披露宴のお客様の事ですけれど・・・」
「そうでございましたわ、宝生様。会場のこともお話ししないと」


当人達に何の意見も求められずに進んで行く打ち合わせ。

今回は11月に親族だけが列席して式を行い、年が明けて春の茶会までの間に招待客を呼んで盛大に披露宴を行う・・・そのようにスケジュールが組まれていた。
11月、12月は西門の行事が詰まっているし、招待客にしても数ヶ月間の予定など組まれてる奴等ばかりだ。
せめて半年前には知らせておかないと親父達の納得いく披露宴が行われない。

誰のためにする”イベント”なのか判ったもんじゃねぇ。
こんな披露宴に司や類が来るのか・・・あいつらが俺を祝う姿なんか想像も出来なかった。



数日後・・・とにかく何かしないと腐りそうな気分だったから久しぶりに裏の庭で茶花の手入れをした。
思えばこの数年、愛情なんて込めてもやれず生育はイマイチ。庭師にも手出し無用と言っていたから俺の花畑は荒れ放題だった。

花は季節を演出する道具のひとつだ。
茶道具や掛け軸とは違い、唯一茶室で「生」をもった生き物でもある。亭主が客のために選ぶ、その時だけ・・・一期一会の花であるが故にもっときちんと育ててやらないといけなかったのに・・・。


畑の端にある芙蓉に美しく花がついている。たった1日しか咲かないから茶室に使うには苦労するが、晩秋にかけて毎日のように花を咲かせてくれるヤツ。

宮城野萩に丸葉萩・・・山萩は色んな場所でよく見られるだけあって手入れもしてやらないのに元気だった。
まるであいつのようだな、なんて苦笑い。でも、流石に丈夫な萩だって無視してりゃそのうち弱って枯れてしまう・・・。

牧野はどうしてるだろうかと萩の小さな花を見て思い出していた。


そのあとも桔梗に曙草、吾亦紅なんて草花を見て回り、其奴らと同じくらいに成長してる雑草を抜いて回った。
最後に咲き始めの秋明菊と田舎菊を少しだけ摘み、久しぶりに生けてみようと自分の茶室に向かった。


「お嬢様、こちらの方が良いのでは?」
「でも、こんなの可愛い過ぎるわ。私には似合わないと思うんだけど・・・」

「まぁ!またそのような事を言って」

途中の廊下でそんな楽しそうな声が聞こえて足を止めた。
紫と薫・・・こんなに声が漏れ聞こえるほど何を騒いでるんだ?と、鬱々とした俺の気分に反して明るい笑い声にイラッとした。


「お嬢様はまだお若いんですもの、このぐらいフワッとしたものの方が良いのに~」
「うふふ、じゃあ薫がお嫁さんの時にはこれにしましょう?」

「えぇ?!わ、私にはそんな人居ませんし・・・」
「心配しなくてもあなたには素敵な人が現れるわ。薫のお嫁入りの支度は私に任せてね?」

「お、お嬢様・・・ありがとうございます・・・」

広間でカタログを広げてそんな会話をする2人・・・チラッと柱の陰からその姿を見て、すぐに姿を隠した。紫はしないが薫は時々無邪気に俺を呼び止める。
ウエディングドレスの相談なんか冗談じゃない。俺が選んでやりたいのは1人しか居ねぇし。

それに「あなたには」って何だ?
自分には現れなかったって意味か?確かに紫にとって俺は「素敵な男」じゃないだろうが、この言葉にも少し引っ掛かった。


「披露宴の時間は長いと聞いていますのにドレスは1着ですの?カクテルドレス、選ばないのですか?」

「・・・そんなの必要なのかしらね。あんまり気乗りしないから1着でいいんだけど」

「勿体ない!一生に1度ですよ?」
「そう?じゃあどれにしようかしら・・・薫はどれがいいと思うの?」

「私はですねぇ・・・こんな感じ!お似合いだと思います!」
「まぁ、素敵ねぇ」


ここでも薫に合わせるかのような口振り・・・自分より薫の喜ぶように選んでるような気がして不思議だった。男はともかく、女の結婚に対する感情ってそんなもんか?
紫にとってもこの結婚は何かの目的を達成する為の手段・・・だからどうでもいいって事か。

楽しげに笑う声に背中を向けて、茶室には行かず、別の廊下から自室に戻った。




9月・・・初秋の美しい景色を楽しむための茶会が始まった。

9月9日の重陽の節句には菊の茶会。
菊の花の季節としては少し早いが、本物の菊の花がなくても茶道具の取り合わせによって雰囲気を作り出す。

茶道の世界ではこれを「みたて」と言い、月見の茶会でも取り入れる。
掛け物や水差し、茶碗の形や色、道具の持つ意味、そういったもの総てを「月」に合わせて設えることで「月見」とする訳だ。
実際に月が見えなくても、心の豊かさや五感で茶室に月を感じさせる・・・「みたて」の席が出来るようになると茶人としての腕も認められるようになる。

今日は鷹司会長との「月見の茶会」・・・当然結婚についての報告を済ませているから、憂い顔の俺達だった。


「・・・はは、今日のお茶は何となく・・・淋しい感じですな」

「そうですか?申し訳ございません。正直なものですね・・・会長だからかもしれませんが」

「いやいや、いいのですよ。淋しいと感じはしますが、やはり温かみもございます。大事な人が居る証拠です・・・決して冷めた茶ではありませんよ」

「・・・ありがとうございます」

はっきりと言葉には出さないが「諦めるな」と言う意味なのだろう。
この人が「離婚してもいいのでは?」なんて言った病院での会話を思いだして可笑しくなった。


10月は名残りの月。
半年間楽しんできた風炉への名残りであると同時に、残り少なくなった茶壷の茶を、あと何度使えるだろうかと名残り惜しむ気持ちを表現してそう呼んでいる。

道具にも「ものの哀れ」を感じさせるような、侘びの風情を味わう茶席が多くなる。
風炉は道具畳の中心に据える中置とし、水差の水は客から遠ざけられ、日増しに冷気が加わる茶室の中では風炉の火の暖かさがもてなしの1つとなる。
通常、茶花はその季節の盛りのものか、あるいは少し早めのものを使うが、名残りの茶に限っては時節遅れの残花を使ったりもする。

1つ間違えばみすぼらしい茶席になる・・・まるで俺の心の中のように荒んだ茶席になってしまうから、わざと1つ明るめに変えてみた。
まるで牧野がそこで笑ってるかのように・・・今日も真っ白な野路菊が薄暗い茶室の中で光っていた。


この頃、広間には紫のための鮮やかな色打掛と白無垢が用意されていた。
そのすぐ横にはこれまでに届いた祝いの品が数え切れないほど並べられ、屋敷内もますます気忙しくなってきた。
こんなもの、実家である宝生家で飾ればいいのに・・・そう思うが紫も西門に住んで数年になるからと、宝生も親父達も何も言わなかったらしい。

俺1人がそれから目を逸らして歩く。
祝いの言葉も笑い声も、何もかもが鬱陶しくて耳障りだった。



こうして終わっていった10月・・・とうとう11月になってしまった。

炉開きが終われば・・・そう思うと何も出来なかった4年間が虚しく感じられた。






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