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plumeria

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11月・・・もうすぐ炉開きがある。
それが終われば俺の結婚式が行われる。

それが11月22日・・・西門と宝生の身内だけでの神前式だ。

入籍はその日に済ませ、あいつは正式に「西門」になる。2人揃って呼ばれてその日の詳しい説明を受けた時、紫がこれまでになく嬉しそうに親父の前で笑ったのには驚いた。
やっと自分の願望が1つ叶って嬉しいのか、「これからも宜しくお願い致します、お義父様、お義母様」と挨拶する姿にお袋なんか涙してやがった。


西門流としての披露宴は年が明けてから、茶事の少ない2月を予定している。
その時には親族、後援会幹部は家族揃っての招待、地方幹部も顔を揃え、著名な政治家、実業家も大勢含まれていた。
道明寺、花沢、美作は勿論、岩代の隠居まで名前が挙がっていた。
それ以外にも華道、書道等の伝統芸能関係者、教育関係者や出版社・・・どれだけ派手にする気だ?と腹が立つほどだった。


この頃になって漸く司と類からも連絡があった。
「本当に結婚する気なのか」「どうにも出来なかったのか」、聞かれることは同じで、返す言葉も同じ。
「仕方ねぇな」って言葉と「諦めたわけじゃねぇ」、それも全然説得力がないから怒声を浴びせられて電話は切られた。

その方がまだいい・・・あいつらから「もう無理せずに落ち着け」なんて言われたら、俺は誰も信じられなくなる。
罵られても、最後まで逆らえ!と言われた方が気が楽だった。



「若宗匠、お家元が炉開きの茶事の件でお話しがあるそうでございます」

「判った。すぐに行く」


11月は茶の湯では祝いの季節と呼ばれる。
炉開きで今年摘んだ茶壺の封を切るという「茶の正月」とまで言われる月だ。

茶壺の紐は1度解くと元に戻せない結び方で結ばれ、炉開きで亭主がその紐を解いて口切し、新しい茶で客をもてなす。
親父と話すのはこの時に使う道具類のことで、掛け物、茶花、菓子とこの時にだけ使われる特別な物があるほどだ。
掛け物には「開門落葉多」、茶花には「椿」・・・これまでの風炉の草花とは雰囲気がガラッと変わり、凛とした雰囲気で花を生けるようになる。
菓子には亥の子餅と柿・・・亥の日に由来した菓子を使うことに決めた。


「今年の口切りの茶事は11月16日に行う。準備をしておきなさい」
「承知しました」

「それが終われば22日までは気忙しいのでな。お前の仕事は極力減らしてある。紫さんとの時間を大事に使うがよい」
「・・・・・・」

「判ったな、総二郎」

「本日のお話はこれで終わりでしょうか?それなら失礼致します」


何年経っても同じこと・・・紫との事で俺が「判った」と返事をすることはない。いまだに反抗的な俺の態度を苦々しく見ている親父を無視して茶室を後にした。




*******************


<sideあきら>

11月・・・総二郎の結婚が近づいてきた。
前もってあいつから聞いた話では式は身内だけで行い、招待客などは居ないと言う。
そのうち開かれる披露宴は盛大に行われ、おそらく俺も司も類も招待されるだろう・・・その時が来ることが恐ろしかった。

牧野が再びおかしくならないだろうかと・・・それが気掛かりだった。


佐賀で自分を取り戻した後の発作は1度だけ。それも西門家の事をテレビで聞いてしまったからだ。
総二郎の婚約会見の時と同じような状況で、再発とまではいかなかったが倒れたことは確かだ。久しぶりに強めの薬を飲み仕事も休んだ。

それは俺達よりも牧野本人の方が恐怖だっただろう・・・今は双子の成長を見ることが楽しみだから。


いずれこの日が来ると判っていても今回は入籍・・・あいつの籍に紫が入るわけだから意味合いが違う。牧野にとっては完全に繋がりを断ち切られたと思ってしまうんじゃないだろうか。
覚悟していると言っていたのに自分を見失った婚約会見の時・・・それ以上のショックがあるはずだ。

たとえ、総二郎にその気がなくても妻帯者であることに変わりはない。
この先の紫以外との恋愛感情は「不倫」となり、上手く付き合えたとしても立場は「愛人」・・・そして見付かればスキャンダルとして総二郎の立場が危うくなる。

でも、もし出会えたとしても牧野は絶対にそれを選択しないだろう。



11月初めのある日、仕事で平塚まで行ったからその帰りに逗子の研究所に立ち寄った。
係員に聞けば、牧野・・・田中 春は温室でシクラメンの世話をしていると聞き、そこに足を運んだ。

そこでは数人の作業員と共に楽しそうに喋りながら仕事をする牧野が居て、俺の姿に気がつくと驚いて手を止めた。他の作業員もそれを見て振り返り、俺だと判ると何故か温室から出て行った。


「・・・別に仕事の邪魔しに来たわけじゃないんだけどな」
「うふふ、仕方ないわよ。ここでも社長の息子さんだもん、みんな気を遣うのよ」

「俺はこの研究所とは無関係なのに・・・で、何してたんだ?」
「ん?ただのお世話だよ。私には改良の知識なんてないんだから。ほら、日当たりの調整とか水切れしてないかとかね。ここの花は綺麗に咲いたら美作の本社ロビーでクリスマス用に飾られるんだって」

「あぁ、そう言えば毎年咲いてるな」


シクラメンは一方向からばかり日を当てていると光の方向に花茎が伸びたりして姿が乱れる、なんて牧野が聞いたばかりの話をし始めた。
「だから鉢を回転させるのよ」と笑ってる・・・まだ、何も知らない明るい笑顔を見ると俺の方が切なくなった。


「球根に水を当てないようにって言うけど、それがイマイチ判んないのよね・・・当たってると思うんだけど、いいのかしら」
「水切れするとね、葉っぱが黄色くなって数も減るんだって。だから毎日葉っぱをめくって土を見るの。すっごく時間が掛かるんだから!」
「この時期は蕾も葉っぱも沢山作るから養分が必要なんだって。だから置き肥もだけど、週1で液肥もあげるの。その管理表がこれでさぁ。見て、この量!凄いでしょ?でも咲いたらすっごく綺麗なの。楽しみだなぁ~」


牧野が自分の仕事の説明するのを黙ったまま聞いていた。
この元気の良い声が沈んでしまうのかと思うと・・・あの話を自然と知るのを待つのか、それとも前もって教えるのがいいのか俺には判らなくて、結局この時間も総二郎の話なんてしなかった。

いや、出来なかった。
俺の言葉で牧野の瞳を曇らせたくなかった・・・卑怯な気もしたけど、それが本心だ。



「それより美作さんはどうしたの?ここに何か用があって来たの?」
「え?あぁ・・・いや、仕事でこっちまで来たから寄っただけだ。牧野の仕事ぶりを見てみようかなって思ってさ」

「あはは!そうなんだ?うん、真面目にやってるよ。安心した?」
「安心した。じゃあ帰ろうかな・・・このまま話してたら時間内に作業が終わらないもんな」


軽く手を振りながら見送ってくれる牧野に俺からも手を振って車に向かった。
あいつが見えなくなると途端に気分は沈み、自然と眉根に皺が寄る・・・せめて穏やかに受け止めてくれればいいが、と願う事しか出来なかった。
それでもし、また牧野が苦しみの中に戻ったら、その時は美作で支えていこう。その為の治療や生活も俺が助けるしかないだろう、なんて考えながら歩いていたら「美作さーん!」と牧野が叫ぶ声が聞こえた。


運転席に乗り込む寸前、俺が手を止めると牧野がさっきの温室があった場所から走ってくる。
何があったのかと急いで駆け寄ったら、はぁはぁと荒い息をしながら牧野が足を止めた。

「どうした!何かあったのか?」

「ううん、大したことじゃないんだけどさ、寒くなったからあの子達に服を買いたいの。そんな事しても仁美さん、怒らないかしら」

「え?なんで怒るんだよ。そんなの全然問題無いと思うんだけど?それ、走ってきてまで言う事だったのか?」

「あはは!そうなんだけどね・・・じゃあさ、買いに行くの付き合ってくれない?青山に可愛い子供服のお店が出来たらしいの。でも小夜さん、その辺りで運転するの怖いんだって。だからって電車に乗るのも1人で行くのも自信なくて」

「・・・俺でいいのか?人混みが嫌なんじゃないのか?」

「そうなんだけど・・・でも、1回行ってみたいの。お願いできない?」

「判った。行く日が決まったら教えてくれ。都合付けてやるよ」


あれだけ人目を避けていたのに、賑やかな場所に行って子供達に服を買いたい・・・か。
そんな頼み事も初めてだったから「やめておけ」なんて言えなかった。こいつの頭の中にはいつも双子と・・・総二郎が住んでるんだ。あいつらの為に自分に出来る事を必死に考えてるんだろうから。


また元気よく髪を揺らして走り去る牧野の後ろ姿を見ながら、いつの日か2人が同じ場所で笑えるんだろうかと考えた。


あまりにも険しい道のような気がする。
・・・先の見えない不安が俺の中にも広がった。






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<茶道一口メモ>・・・口切りの茶事

「口切り」とは春に摘んだ新茶を茶壺に詰めてもらい、その封を切ることだそうです。
茶道では新年と同じぐらい大切な行事で、この時期に正午の茶事の形式で「口切の茶事」を行うそうですよ。
私も知りませんでしたが「茶師」と言う方がいて、その方に茶壺を預けると11月に新茶が詰められた壺が届けられるそうです。

ちゃんと箱に入ってて、蓋の裏には茶葉と茶師の名前入り。凄いですねぇ💦

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お家元がこれの封を切って茶事を行うんですねぇ。
この時のお菓子は「柿」だそうです。昔、茶師が茶を届けるときに一緒に持参するものが柿か栗だったそうで、その名残なんだとか。
そしてこの壺は別の結び方で紐をかけ、床に飾るそうです。

総ちゃん・・・よくやるなぁ(笑)



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