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花沢類が店に来るようになって3週間が過ぎた。
坂本さんにもそろそろ返事をしないといけない・・・そう思ってたけど、それとは別に私には不安な事があった。

それは花沢類と坂本さんが、この3週間の間に1度も顔を合わせてないこと。
もし、一緒になったらどうなるんだろう・・・それが何となく怖かった。


「あぁ、いらっしゃい」、マスターの声が聞こえて顔をあげたら、入ってきたのは坂本さんだった。
はぁっ、と溜息が自然に出ちゃって、気が付かれなかったかと慌てて背中を向けた。

坂本さんはいつもの席に座って「こんばんは、華さん」っていつもの笑顔。
私も何事も無かったかのように「いらっしゃい、坂本さん。お疲れ様です」なんて返事する・・・そういう誤魔化しだけは上手くなったなって自分でも思う。

花沢類以外の人になら・・・だけど。

「コホッ・・・ん、コホッ」
「あら?風邪引いたんですか?坂本さん」

「え?あぁ・・・何だかの喉の調子が悪くて。風邪・・・でもないと思うんだけど」
「お酒、飲んでいいの?やめとく?」

「あはは、じゃあ何を飲むの?」
「・・・そ、そうだけど。じゃあ氷多めにしましょうか」


あれから返事の催促はしないけど、何処かで『待ってるんだ』って雰囲気は出してくる。
それでも営業中に返事なんておかしいよね?って思うから、カウンターの中ではあの時の話はしなかった。
じゃあ、いつ返事するのか・・・そういう時間を作らないように、彼が来た時には帰りの時間を遅くしたり、ちょっと違う道を選んでみたりとわざと逃げていた。
坂本さんも忙しいのか、あれ以来私を待つこともなく意外と帰るのが早い。

そのまま忘れてくれたらいいのに・・・時間が経てば経つほど断わりにくくて、自分勝手な事を呟いてた。


坂本さんにお酒を出した後、風邪の引き始めに良いっていうおつまみを作った。”豚肉と長ネギと生姜を入れたスタミナ炒め”。サラダ油の代わりにオリーブオイルを使うのが私流。
それと”とろり大根”。お茶碗半分ほど摺下ろした大根に出汁を入れて軽く煮込み、片栗粉でとろみを付けて仕上げに溶き卵。これが本当に温まるのよね。

それを坂本さんに出したら不思議そうに見ていた。


「どうかしました?苦手かな・・・風邪にはいいと思うんだけど」
「いや、今日は何も聞かなかったから無いのかと思ってた」

「あっ、ごめんなさい。食べられなかったら置いといて?」


花沢類にはいつも聞きもしないで勝手に作ってたから、つい坂本さんにも聞かずに作ってしまった。
何だか最近、自分の行動が少しずつ「華」から離れていくみたい・・・このままじゃいつか自分の名前を口にしそうで焦った。

またドアが開いてマスターが「・・・いらっしゃい」って言った。
話し声がしないから、また1人のお客さんかな?って入り口を見たら・・・・・・花沢類だった。


今、カウンターには坂本さんがいる。

心配していたことが今日起きたんだと思って、声がすぐには出なかった。
私が何も言わなかったからなのか、マスターが「今日もカウンターで?」なんて聞いて、花沢類は黙って頷いた。

そして小さなカウンターに席1つ分空けて坂本さんと花沢類・・・私は2人を目の前にして震える唇を隠せなかった。




*****************




藍微塵あいみじんに入ってすぐ、カウンターの男に目が行った。

瞬間、こいつだって思った。牧野に恋心を抱いてるってヤツ・・・少しだけ感じが俺に似てるって言うのも判った。そして、その男も俺の事を見た。
同時に固まった牧野の事も・・・その目が急に鋭くなったのを俺は見逃さなかった。


マスターに言われてカウンターに向かい、そいつとは席1つ空けて座ると、目の前の牧野は凄く慌ててるのか言葉も出ない。
くすっ、やっぱり全然演技なんて出来ないじゃん・・・そんな牧野を見て何故かホッとした。

隣の男からは逆にピリピリした空気を感じて、視線は向けられてないけど俺の事を気にしてるのが手に取るように判る。


「どうかした?華さん」
「・・・えっ?あ、あぁ・・・ご、ごめんなさい。お酒・・・ですよね」

「うん、それといつものね」
「はい、ちょっと待っててくださいね」

牧野が取った俺のボトルを隣の男はチラッと見て、そこで驚いたように視線を俺に向けた。
「花沢」に反応したのか、それとも「いつもの」に反応したのかは判らないけど。

牧野がカタカタ手を震わせながらグラスに酒を注いで、小皿に乗せた小さなおつまみと一緒に俺の前に差し出した。
「どうぞ・・・」って声もいつもより小さくて消え入りそう。それに時々向こうの男に視線を向けるのが気に入らなかった。


「ちょっと作ってくるから待っててくださいね、花沢さん」
「ん、判った」

牧野が言葉でも「花沢」って言ったから、今度はその男が俺の方に身体を向けて話しかけてきた。


「失礼、もしかして花沢さんって・・・花沢物産の方、ですか?」

「・・・君は?」

明らかに俺よりは年上だと思うのに、つい高圧的に答えてしまった。
子供の時から何をするにも特別扱いされてきた「花沢」ってブランド・・・それを利用するのは好きじゃなかったけど、名前で抑え込めるのならそれでもいい。
あえてこの男に視線を向けずに素っ気なく答えた。

「あぁ、申し遅れました。私は坂本建材という会社を経営しています、坂本・・・と申します。花沢さんってそこまで多くない名前だし、最近息子さんが帰国されたと聞きました。まさか・・・ご本人ですか?」

「・・・坂本さん、ですね。初めまして。えぇ、本人です・・・でも、あまり飲んでる席では名乗りませんけど」

「では、本当に花沢物産の・・・こんな小さな店に?どうして・・・」

「いけませんか?ただ、ここが気に入ったから・・・それだけだけど?」


ここで初めて目を合わせた。
さっきと同じ挑戦的で鋭い目・・・名乗ってもその目付きは変えないんだ。
そして名刺なんて物も出す気配は無い。花沢物産と繋がりたいって訳でも無さそうだ。

つまり仕事絡みじゃ無く、やっぱり微妙に変わった牧野の態度に気が付いて俺を警戒してるって事か。


俺達のこんな会話を知らない牧野が赤い顔して店に戻って来た。
瞬間、どっちを見ていいのか迷ってる・・・だからすぐに俯いて俺の顔を見ずに皿を差し出した。

「お待たせしました。はい、これ・・・それと、これも」
「なに?」

「海老とブロッコリーのレモンオイル炒め。野菜・・・取らなきゃいけないでしょ?」
「・・・うん、美味しそう」

出汁巻き卵にもうひとつ添えて出された物を目の前に、坂本に向けていた身体を正面に戻した。

「華さん、お代わりくれる?」
「は?あぁ、お代わり・・・ごめんなさい、気が利かなくて」

「氷は少なめでいいよ・・・もう大丈夫だから」

坂本がそう言って新しいグラスを要求すると、牧野が急いで彼の前に移動した。
その時、カウンターの中にも置いてある椅子に躓いて転けそうになって「うわぁっ!」なんて子供みたいな声出して、慌てて口を押さえ込んだ。

遠くからも「華ちゃん、大丈夫?」なんて笑われて、頭を搔きながら氷をグラスに入れようとして溢した。
ホント、ホステスには向かないよ、あんた。


「くすっ・・・そそっかしいのは相変わらずだね」
「・・・そ、そんな事ないです。って言うか相変わらずって言うの、やめてください・・・」

「そお?また足を挫くといけないでしょ?見てて危なっかしいよね」
「あの時は・・・!あの時は雨だったからですってば・・・」


わざと「華」とは知り合いだって雰囲気を出して話した。
それを黙って聞いてる坂本はイラついてるようにも見える・・・牧野もそれを感じてハラハラしてる。ごめんねって思うけど、俺の中にもジェラシーは生まれてるんだ。


俺の知らない男になんか渡せない。
いや、誰にも渡さない・・・牧野の笑顔は俺が取り戻すんだから。




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Comments 6

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2019/03/27 (Wed) 00:16 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/27 (Wed) 07:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

うふふ、さて・・・どうでしょう?(笑)
行動に移されても類君、負けてないと思いますけどね💦

なんか坂本さん、色んな方から相当悪者にされている(笑)
それが結構面白いわぁ♥

私より読者さんの方が面白い発想されるから、たまに参考にしたりします(ははは!)

今度は桃太郎・類!!お供は誰もいないけど頑張っていただきましょう!

2019/03/27 (Wed) 10:45 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/27 (Wed) 11:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

あはは!そんな乱暴なっ(笑)
穏やかに穏やかに・・・ストーカー類ですから穏やかに行きますって。

茄子の田楽とか、モツ煮込みとか色々考えたけど、よく考えたら速効出来上がらないといけなかった(笑)
これは5分で出来そうだったので♥

レモンオイルってのがイマイチ判らないんだけど、高級感があったから(笑)

以上です。


2019/03/27 (Wed) 17:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様 爆笑っ!!!

そっちの方が書けないわっ!(笑)

「人参嫌い、代わりに食べて♥・・・俺の」

ってヤツでしょ?
そんなの無理だってっ!!


1発目はわからなかった(笑)
でも2回目に・・・あれ?ってなって3回目にやっぱり?ってなって
4回目に・・・間違いないな!!(笑)

変態ですからね・・・私達。

どうもありがとうございました♥

2019/03/27 (Wed) 17:05 | EDIT | REPLY |   

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