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plumeria

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炉開きが無事に終わり、口切りの茶会の日。

この口切りの茶会の亭主は家元と決められている。
この時だけは特別という事で俺も親父の傍に控えて茶壺の口が切られるのを見届けるのだが、茶会も終盤になって雑談が始めると自然と来週の婚儀の話になった。

身内だけの式とは言え、後援会の連中や出入り業者には既に知れ渡っている。こうなる事など判りきっていたから早くこの席から抜けたかったが、俺以外の人間は1度始まった目出度い話に花を咲かせていた。


「いやぁ、本当に漸くですなぁ、お家元。これで安心出来ましょうなぁ」
「はい、ありがとうございます。宝生家のご当主にもこれだけお待たせする事になるとは・・・申し訳なく思っておりました」

「でも、もうお仕事の流れは覚えられたのでしょう?婦人会も楽しみにしておりますわ」
「よく勉強しておられたようです。来年から家元夫人の片腕として動いてくれると思いますよ」

「お式は身内だけでしょう?花嫁姿、見たかったですわ」
「はは・・・来年に披露宴を予定しておりますので、その時には是非・・・」

親父が言う言葉に軽く頭を下げるだけで俺からの言葉なんてない。
ひとつとして言葉を出さなくて良い・・・いきなり寺籠りを言いだした過去のある俺を封じる為に、親父からそう言われていた。



口切りの茶会が終われば兎に角祝いの客への対応に追われた。
これまでも日を置かず届けられていた品物が一日に幾つも届き、客は後を絶たない。紫は女ならではの準備があるとかで薫を連れて留守にする事が多く、その対応は殆どが俺だった。

口に出したくもない礼を言い、笑いたくもないのに微笑む・・・慣れているとは言え、自分でもいつキレるか判んねぇぐらいイラつきながら演技をし続けた。


宝生の両親は娘の様子を見に来ては準備してある白無垢を見て目を潤ませる。
そして毎度俺に頭を下げ「娘を宜しく」と今更のように頼んでいく・・・答えようもなくて同じように頭を下げるだけ。この人達は俺がこの結婚を望んでないのを知っているのに何故許せるのか不思議だった。

だが、それを聞いたところでもうどうしようも出来ない。
親父達と身内同然の会話で盛り上がるのを横目で見ながら自分の茶室に籠もった。



11月22日

俺の気分とは正反対に空は晴れ渡っていた。
朝から屋敷中が騒がしい・・・自分の結婚式の日だというのにまるで他人事のような気がして起き上がれなかった。

それを見かねて志乃さんが支度の催促に来る。
「紫様は既にお支度に掛かっておられますよ?」・・・まるで何処かの刑場にでも連れて行かれるような気分だと思いながら重い身体を起こした。



家元の茶室は茶会を行う訳でもないのに、掛け物、床の花、香を慶事に相応しく設えてある。

そこで西門家のこれまでに倣い、朝1番の汲み水で家元が茶を点てる。
それを正装に着替えた俺がいただき、一服の時間を持つ。

紫は白無垢に着替えた後、西門の仏壇に参り、ここでも汲み水をいただき清める。


この儀式のような事が終わって、初めて支度の終わった紫と対面する。

そこにはこれまでに見た中では1番美しい紫が居た。
純白の打ち掛けに身を包み、赤い唇が唯一色を添えている。綿帽子から微かに見える瞳に今日だけは鋭さが無かった。


確かに誰が見ても言葉を失うほど美麗なんだろうと思う。
それなのに俺には何も感じない。白という色がここまで虚しく悲しい色だっただろうか。


空っぽの心を抱いたまま、この後式が行われる神社に向かった。




********************




「え?22日、お休みなんですか?」

勤務表を見たら明後日の22日、私はお休みになっていた。
忙しかった10月に休日出勤した時の代休らしく、12月になる前に交代で休むとか・・・それが私の場合は22日だって言われた。

「12月はまた冬越しの準備で忙しいの。春ちゃんも今年は出来ることが増えたから忙しいわよ~!」
「そうなんですね。はい、頑張ります!」


スケジュール帳にそのお休みを書き込んでから考えた・・・美作さんに頼んだお買い物、いつにしようかなぁって。
だからその日の夜に電話して、彼の予定を聞いた。


『22日、休みだって?そうか・・・平日だけどその日でもいいけどな』
「ううん、わざわざ休まなくてもいいんだって。次の23日は祝日でしょ?その日はどう?」

『でも、少しでも人が少ない方がいいんだろ?祭日だと人が多いぞ?』
「・・・あっ、そうか。でも美作さんの仕事の邪魔になるからいいよ。そっちの都合のいい日にしようよ」

『じゃあ、やっぱり22日がいい。実は23日にパーティーあるんだよ。休みなのにムカついててさ、その前に休みもらうから気にすんな』


私が無理を言ったから会社を休んでまで付き合ってくれるって言ったけど、美作さんの声があんまり元気ないのが気になった。
疲れてるのかしら・・・それなら止めてもいいけどって言ってみたけど、それにも「大丈夫だって!」としか言わない。

暫く会話を続けていたけど、結局美作さんが言う通り22日に買い物に行くことになった。

どうしてその日に拘るのか・・・それはよく判らなかったけど、確かに平日の方が人は少ない。
私の事を気遣っての事だろうと、お礼を言って電話は切った。




そして11月22日。

「うわぁ!今日は天気がいいのねぇ・・・空が青いなぁ!」

朝起きて見上げた空は雲も殆どなくて真っ青だった。
気持ちいいなぁーって背伸びして、小夜さんの作ってくれた朝ご飯を食べた。

「私があんまり都心に詳しくないから運転出来なくてごめんね。美作邸の付近なら問題ないのにねぇ~。でも事故ったらと思うと怖くてさ」
「ううん、いいよ。夕方お迎えだけ頼んでいい?」

「うん!それは任せて!お買い物も子供達とも楽しんできてね」
「どんなのがいいかなぁ・・・でも、パパが一緒だから似合うもの、教えてくれるよね」

「うん、あきら様だもん!その辺は心配しなくていいんじゃない?心配はお財布の中身だよ・・・」
「・・・確かに」

なんて事ない会話して、今日はお休みだからって朝ご飯もゆっくり。
食べた後は私は自分の部屋でのんびりしてて、小夜さんはテレビを見ながら部屋の片付けを始めた。

その時、テレビのワイドショーみたいな番組で司会者の人が出した言葉が聞こえた。


『今日はお目出度いことがあるんですよねぇ!あのイケメン茶道家の・・・』


ドクン・・・・・・小さく心臓が鳴った。
雑誌を見ていた私の手が止まった・・・目が文字から離れてくうを見つめた。


そこで終わったテレビの声。小夜さんが電源を切ったんだってすぐに判った。


西門とは言わなかった。
結婚だとも言わなかった・・・でも、お目出度い事はそれしか考えられない。イケメンの茶道家なんて表現されるのも西門さんしか思い当たらない。

テレビの部屋からはすぐに掃除機の音が聞こえてきて、小夜さんが慌ててそうしたんだと思った。



・・・そうか・・・そうなのか。
・・・とうとうその日が来たんだ。


雑誌を閉じでベッドに置き、ぼんやりとタンスに向かった。お出掛け用の服・・・選ばなきゃ。
今日は寒かったっけ、それとも暖かかった?コートなんて必要かな・・・行き先は青山だったよね。それならもう少し可愛くしようかな。田舎じゃないしね・・・。

少ない服の中から何も考えずに取りだしたもの・・・気が付いたら上着を2つも出しちゃって。


・・・あの人が結婚する日が来たんだ。そうだよね、もう3年以上経ったんだもん。


選んだ服を手に持っていたのにいつの間にか足元に落ちてる。
紫音と花音の為に選ぶ服、どんなものにしようかと悩んでいたのに頭から消えちゃった。

でも、小夜さんにこの顔を見せたら気にするだろうから、何にも気が付いていないフリして鼻歌なんて歌ってみた。


そして時間が来て、美作さんの車の音がした。
私は帽子を被って薄手のコートを着て、笑顔で小夜さんに「行って来まーす!」と声を掛けた。

「うん・・・つくしちゃん、行ってらっしゃい!」
「後でね~、小夜さん!」


大丈夫、大丈夫・・・判ってたことだから大丈夫。
お呪いのように繰り返しながら美作さんの運転する車に乗り込んだ。


大丈夫・・・これからあの子達の服を選んであげるんだもん。

私は大丈夫・・・泣いてなんかいない。泣いてなんか・・・




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