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plumeria

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車に乗っても美作さんは何も言わなかった。私も・・・何も聞かなかった。
膝の上にはあの子達へのプレゼント。これをどう言って渡そうかなんて考えていたのに頭の中は真っ白・・・言葉なんて全然浮かんでこなかった。

泣きたい訳でもない・・・兎に角何も考えられなかった。


ぼんやりと顔が見えない光景が頭に浮かぶ。
厳かな雰囲気の中で彼が花嫁さんの手を取って神殿に向かう場面が繰り返される・・・笑ってるのかどうかなんて判らない。

ただスローモーションのように私の前を紋付き袴の彼が通り過ぎるだけ。
私の事なんか見もしないで・・・真っ白な着物に身を包んだ花嫁さんと並んだ彼が視界から消えていくのを黙って見てるだけ。


『ごめんな、牧野』・・・その言葉を風が私に告げるだけ。



美作さんの家に着いたら彼がわざわざ助手席のドアを開けてくれた。
私がぼーっとしてるから膝の上の荷物も持ってくれた。差し出された手・・・無意識にその手を掴んで、シートから身体を起こした。

少しふらふらする・・・自分の意識が何処かに飛んでいきそうで怖かった。

「大丈夫か?」って聞く美作さんには軽く頷くけど、本当はエントランスの階段を上がるのも怖かった。それでも支えられて玄関まで行き、ドアを開けたら・・・


「パパがかえってきたぁ!!」
「ママ、パパだよぉ~!」


楽しそうな声が聞こえてくる・・・その時、ハッと我に返った。

紫音と花音が笑ってる。
小さな子供の声って、なんでこんなに幸せな気分にしてくれるんだろう・・・そう思いながら自然と自分にも笑顔が戻ってきて廊下を歩く足が速くなる。

私にはこの子達が居る・・・大丈夫よ、って自分に言い聞かせて引き攣りながら笑顔を作った。


でも、リビングの手前になったら1度立ち止まって呼吸を整えて、また手に持っていた紙袋をギュッと握りしめた。
何でもない日のプレゼント・・・どう言えばいいのか全然決めてなかったから。

「そんなに緊張しないで。さぁ、入ろう」
「うん・・・」


美作さんがドアを開けたら双子が私たちに向かって走ってきた。
彼にそっくりな顔で・・・サラサラの黒髪を揺らしながら両手を広げて白い歯を見せて。久しぶりって程でもないのに何でこんなに大きくなるのが早いんだろう、また少し背が伸びたような気がした。

「パパァ!おかえりなちゃい!」
「パパ!あっ、ちゅくちちゃんもいるぅ!」

「あはは!つ・く・しちゃんだよ?紫音しおん、言いにくいのか?」
「ちゅ・く・ちちゃん?あれ?ちゅくち・・・ちゅく・・・」

「うふふ、いいんだよ、紫音君。こんにちは!花音かのんちゃんも元気だった?」
「うん、かのん、げんきだった!」

「花音、元気です、だよ?」
「げんきでちゅ!」


いつの間にか「つったん」から昇格してる。
でもまだはっきり言えないから「ちゅくちちゃん」・・・それでも充分嬉しかった。

「紫音、花音、こっちにおいで。お前達にプレゼントらしいぞ?」
「うわぁ~い!!」
「ちゅくちちゃんから?わーいっ!」

「うん。これから寒くなるからお洋服。沢山あるだろうけど、お出掛けの時に着てね」


よく考えたらこんなに小さいのにプレゼントの理由なんて要らないんだ。私だってこの子達からこれまでも普通の日にプレゼントをもらった。
大好きな人からの贈り物はいつだって何だって嬉しい・・・わざわざ言葉を探さなくて良かったんだね。


紫音も花音も袋から服を出してキャアキャア言ってる。
それは喜んでくれたのかな。いつもお揃いだから上着は変えてみたんだけど、それが逆に嬉しかったのかな・・・お互いに「かっこいい!」「かわいい!」って見せ合いっこしてる。

「お礼をちゃんと言いなさい」って言うパパのひと言で2人が私の前にやってきた。

「ありがと、ちゅくちちゃん!」
「ありがと・・・こんどね、おばあちゃまとお出かけのときに着る!」

「あら、おばあちゃまって呼んでるの?夢ちゃんじゃなくなったの?」
「うん!おばあちゃまってゆうの」
「もうそう呼びなさいってママが言ったから!」

「・・・そう。うん、そうだね」


「パパァ!抱っこ~!」
「ダメだよ、ぼくだよ!」


私の前に居る時間なんてほんの少しだけ。
双子はお礼を言った後、すぐに美作さんに抱きついていた。

その時、奥から出てきたのは仁美さん。
今日も優しい笑顔で私を受け入れてくれたけど、この人の表情は分かり易かった。


「可哀想に」って目が言ってる・・・それを見るとやっぱり本当なんだって思った。




********************




午前10時、式を執り行う神社に着いた。
その敷地に足を下ろした紫を見て、一般の参拝客は皆驚いたように足を止める。

こいつが美しいというのは認める・・・これほど美しい花嫁もそうそう見ることは出来ないだろうと俺でも思う。
だが、こいつに幸せそうに見えるか、と言われれば疑問だ。俺には紫が嬉しそうとか幸せそうだとか、そういう空気は何1つ感じなかった。

目的をひとつ達成した・・・それぐらいしか思わなかった。


以前あれだけ仲人にと騒いだ岩代の爺さんも、3年経った今は殆ど歩けなくなり慣例通り鷹司会長夫妻が仲人になった。
俺達が裏でコソコソ話した事も何の役にも立たなかったな、と会長の顔を見れば今日も穏やかに笑っている。

結婚の日に相応しくない笑顔・・・この人も何処かに悲しさを含んだ表情で無理矢理笑ってるんだって思った。


神社に奉仕する神職と巫女に導かれて紫と並んで本殿に向かう。
右側に西門家、左側に宝生家の両親と選ばれた親族が並び、神職が入場すれば式の始まり・・・もう、頭の中には何もなかった。

神職の祓詞も 祝詞奏上も耳に届かない。
この時になってもまだ、何故自分がこの場所に紋付き袴で居るのかさえ疑問に感じた。


三々九度・・・言われるがままに盃に口は付けた。
指輪の交換 ・・・誰が選んだのか判んねぇ指輪を紫の指にはめる。その時に触れたこいつの手がやっぱり冷たくて、少しも俺の心臓は高鳴ることもなかった。

誓詞奏上・・・ふたりで夫婦になることを誓う言葉だが棒読み。その文句に感情なんて込めることは出来なかった。

親族杯の儀とやらで両家が酒を飲み、神職が式の執納めを神に報告して一拝。


これであっさり結婚式が終わった。
記憶にも残らない呆気ない行事で俺は「妻」という女を持ってしまったんだ。

恋した訳でもなく、愛してもいない「妻」・・・それの何処に意味があるんだろう。
俺のすぐ横に居る鷹司会長も「御目出度うございます」と小さな声で言うが、その目にはやっぱり悲しみの色があった。


後日披露宴となっていたから今日はこの後本邸に戻ってからの宴会のみ。
新婚旅行なんてものは「まだ半人前ですから」なんて可笑しな理由を付けて行かないことに決めていた。勿論俺の言う事に反論などしない紫はそれに賛成した。

白無垢から着替えて花嫁用の振袖に身を包んだ紫が横で微笑む・・・それを両家の親族が「ここまでが長うございましたな」などと安堵の表情を浮かべる。
親父達と宝生の両親はお互いに酒を酌み交わし、後援会幹部も同じく祝い酒で盛り上がる。

何処までもシラケた顔して上座に座る俺は、この会場の中で完全に「独り」だった。


「本日は誠に御目出度うございました」
「一日も早いお子様のご誕生、お待ちしていますよ」
「どうぞ、末永くお幸せに」

そんな言葉を述べて客達が帰ったのは、もう薄暮れの逢魔時おうまがどき


そして今日から俺と紫の住まいはこの本邸内の外れにつくられた新居・・・2人だけの棟で暮らすことになった。





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