FC2ブログ

plumeria

plumeria

奥の部屋で電気もつけずに踞ってどのぐらい経っただろう・・・マスターがノックをしたけど、返事をしなかったら少しだけドアが開いた。

「つくしちゃん、坂本さんはもう帰ったよ。また今度来るからって言ってたけど・・・何かあったのかい?」

坂本さんが帰ったと聞いたら顔だけは上げられた。
そして力なく立ち上がって・・・ふらふらと店の方に出ていった。

もう誰も居ない・・・まだ時間は11時だったのにマスターは「CLOSE」の札をドアに掛けた。
「今日はもう終わりだ。お客さんが来なかったから片付けも楽だなぁ」なんて戯けて言うマスター・・・私が何も答えないのに無理矢理問い質すことなんてしなかった。

いつもと同じ、優しい笑顔・・・それを見たら決心がついた。

マスターにまで迷惑を掛けられない。
花沢類は沢山の人に囲まれてるけど、この人は1人きりだから道明寺には立ち向かえない。この店にまで飛び火が来るかどうかは判らなかったけど、私が居ない方が安全だろう・・・。


「マスター・・・私、ここを辞めます。急にごめんなさい、代わりの人を探してくれる?真由美ちゃんだけじゃ大変だろうから」
「・・・辞める?辞めてどうするんだい?こう言っちゃなんだが、つくしちゃんの希望通りに働ける所なんて他にはないと思うけどなぁ」

「・・・そうかも知れないけど、もうここじゃ働けないわ。私、やっぱり東京に居ちゃいけないみたい」



使ったグラスが少なかったから洗い物なんてすぐに終わった。
テーブルの上もカウンターも全部拭いてゴミも捨てて・・・それでも時間は11時30分。
マスターは珍しく温かいココアなんて入れてくれて「そこにお座り」とカウンターのお客さん席・・・花沢類が座ってた席に座らされた。


「坂本さんと何があったんだい?彼、今日は随分挑戦的な目をしていたけど・・・」

「そんな風に感じたの?私は全然判らなかったわ」
「華ちゃんは彼の目をきちんと見ないからね。見てるフリして逸らしてるだろう?」

「・・・そうかも。流石ね、マスター」


私はマスターにこれまでの事を話した。
ポツリポツリだから時間も掛かったけど、道明寺の事も花沢類の事も、別れた時の話も・・・道明寺に出された条件も何もかも話した。
坂本さんとのデートの話もした。交際の返事を迫られたから逃げた事も、その時に花沢類に助けられて桜を見に行って・・・そして完全に別れた事も話した。
「もう来ないで」、そう言ったから彼は来ないのだと・・・マスターは最後まで黙って聞いてくれた。


「どうして私と花沢類が会ってた事がバレたのかは知らないんですけど、油断しちゃったのかな・・・見付かってしまったのね。だから花沢類を・・・花沢物産を攻撃したんだと思います。道明寺は一生許してくれないんだと思う・・・」

「まだ、その人も君の事を愛してるんだよ。君が花沢さんを忘れられないように彼も君を忘れられなくて苦しんでるんじゃないのかな・・・」

「・・・そうなのかな。ううん、別れる時には怖かったわ。あんな怖い目で好きな人なんて見ないと思うぐらい怖かった・・・違うのよ、多分彼は私の事が忘れられないんじゃなくて憎いのよ」

「人の心の中はその人しか判らないだろう?表現の下手な人なのかもしれないねぇ・・・」

「・・・・・・」


マスターがネクタイも緩めて煙草に火を付けた。
私が居るときには滅多にそんな姿見せないのに、これも見納めかなって・・・その柔らかな煙を見ていた。


「つくしちゃんがここに来た時に俺が言ったよね。『木の葉は森に隠せ』って諺があるんだから都会に居ても良いんじゃないかって・・・それって本当につくしちゃんは隠れたかったのかい?人混みに紛れて誰からも探されないようにって思っていたのかい?」

「・・・・・・くすっ、よく覚えてるなぁ」

「名前変えてまで働きたいなんて人は居なかったからねぇ」


「・・・正直に言えば、隠れた私を見付けてくれたら救われるって思ったの。どれだけ隠れてもあの人なら見付けてくれる・・・自分の中で賭けをしたの。もし見付けてもらえても幸せなんて何処にもなくて、ただ私の自己満足・・・そんな賭けをしたの」

「賭け・・・かぁ」

「ほんの少しの希望・・・卑怯でしょ?出会ったら最悪な状況になるって判っててそんな事したの。
大事な人と過ごした思い出の街だからなんて言って、東京に住めば傍に居る気持ちになるなんて言って・・・本当は探して欲しくて居座ったんです。その結果が・・・」


ここまで話したらホッと溜息1つ・・・そして、私は上着を着て帰る支度をした。
裏口のドアに手を掛けた時、振り向いてマスターにもう1度頼んだ。


「いつ、このお店にも迷惑掛けるかわかんないから今月末で辞めますね。ごめんね、マスター・・・我儘ばっかり言って」

「・・・あぁ、判ったよ。給料計算、急がないとな」
「うふふ、ありがとう」


外に出たけど坂本さんは居なかった。
それだけでホッとする・・・あれから随分時間が過ぎて、もう午前1時。表通りに出てタクシーで帰ろうとゆっくり歩いて行った。


「最近、あの物陰にいつも車が停まってるのね。気味悪いなぁ・・・」

昔、道明寺のところで見たような黒い車が細い路地に1台。
よく見えないけど誰かが乗ってる気がする・・・あんな所で誰かを待ってるとか、誰かを探しているのかしら。


でも私には関係ないと思いながら気にもせず、いつもその車を横目で見て知らん顔してた。




******************




産業用ロボットの開発プロジェクトから事実上外されてからと言うもの、会議を開かれてはエンジニア達に責め立てられた。

「若い指揮官のスキャンダル発覚により花沢物産始まって以来の危機」
「思い上がった若造が出しゃばるから道明寺が怒りを爆発させた」

などと憶測で噂を立てられ「この後始末をどうつけるつもりか!」と血の気の多い連中から糾弾された。


「道明寺サイドが何かを誤解しての早まった決断でしょう。現在真意の程を確かめている最中です。あなた方はここで騒ぐ事よりも開発の方に力を入れていただきたいと思いますが」

「何だと?!無駄になるかもしれない開発をやれと言うんですか!」

「開発に無駄と言う言葉がありますか?万が一今回の共同プロジェクトに参入できなかったとしても、次にいつ、どう言う形で新規事業が始まるか判らない。足踏みして考えるより、日々新技術の開発に取り組んでこそのエンジニアでしょう」

「この話はあなたが帰ってくる前から準備してきたものなんですよ!社長の息子だからってだけで経験も無い人に任せるからこんな事に・・・!」

「それはフランスの父に言えばいい、なんて事は申し上げません。確かに私は父からの指示で総責任者に就きましたが、私で不服だと言うなら適任者に譲る事は可能です。我が社の新事業成功の方が私の実績を積むための就任に比べたら遥かに重要、そのぐらいの事は考えていますが?」


今日も結論の出ない会議は混乱のうちに終わり、この他の仕事は淡々と片付けていった。
藤本に確認すれば道明寺との調整は返事待ち・・・こちらから急かしても曖昧な理由を付けられアポを取れないと言われた。

当然フランスの父さんからも説明を求める電話は毎日のようにあった。


『本当に心当たりがないのか!司君と・・・彼とお前の間でトラブルは無かったのか?!』

「ありませんよ、そんなもの。司とはこの2年間、話すら出来ていませんし、それは美作や西門も同じですからね。逆に司の情報がこちらには無いんですから」

『いくら道明寺が世界的に大きな企業だと言っても、花沢にこんな嫌がらせをしてタダで済むと思ってるのか、司君は!』

「どうでしょう・・・今、司と会えるように調整中です。もう少しお待ちいただけませんか?」

『何の為にお前を日本に戻して総責任者にしたと思ってるんだ!必ず道明寺の誤解を解いてプロジェクトチームに加わり、尚且つそこで花沢の力を示すのだぞ!判ったな、類!』

「・・・判っています」




もう何日牧野に会ってないだろう。

その日の夜、会社を出たのは午前0時30分。
真っ直ぐ屋敷に帰ろうかと思ったけど、自然と車を牧野のアパートに向けて走らせていた。

声を聞けなくてもいい・・・あの部屋にまだ牧野がいてくれて、電気が点いてくれていたらそれだけでもいい。
そう思って公園まで着いたけど牧野の部屋には電気が点いていなかった。


「牧野・・・まだ帰ってないんだ」

時間を見たら午前1時・・・店が遅ければもう少し掛かるのかもしれない。車のエンジンを切って公園の隅に停め、牧野が帰ってくるのを待った。
後ろから近づいてきたのはこのアパートを見張らせている花沢の情報部・・・回りを確認しながらドアの横に来たから窓を降ろした。


「類様、牧野様はまだですが」
「・・・みたいだね。しばらくここに居るけど気にしないで警護しろ。慎重にね・・・」

「畏まりました」



窓ガラスにポツンと雨が落ちた。
それはすぐに視界を遮るほど降り始め、牧野の帰宅が心配になった。


あの日のように牧野を濡らさないで・・・車の中に響く雨音に胸が締め付けられそうになった。




505b55a3c6b5266d88d97606dbaaae9e_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/08 (Mon) 07:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、おはようございます。

そうですね💦ちょっと歪んでますかねぇ(笑)
私、司君は上手く書けないんですが、彼がつくしちゃんを憎むような設定はないんですよ。
好きなんですよね~、これは多分変わらないんだと思います。

でも、元々類つく(原作は完全類つくですから♥)の私なので、こうなってしまうんですよね・・・。

1番の好物はツンデレ類君、切ない類君(笑)
「私の帰る場所」・・・類君で書けばよかったって思ったりします(笑)絶対に怒られる💦


さて・・・この日の夜、少し変わった出来事があるかも?

2019/04/08 (Mon) 09:06 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply