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plumeria

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「雨が降ってきましたねぇ・・・お客さん、傘持ってないでしょ?」

「雨?・・・あぁ、本当ね。でも、まだ小降りだから大丈夫」

タクシーの運転手さんに言われて窓を見たら雨の跡が銀色の糸のようについていた。
でも、アパートの前まで行けばなんて事はない。それに風邪引いてお店を休んだっていい・・・そのぐらい気持ちが沈んでいた。


花沢類・・・会社でどのぐらい困ってるんだろう。

日本に戻って来たばかりなのに随分辛い立場に立たされてるんじゃないかしら。言葉足らずで説明下手なところがあるのにそういう時、ちゃんと話が出来るのかしら・・・誰か助けてくれる人は居るの?
日本本社のお偉いさんに酷い言葉を言われてるのかな・・・後継者のクセに、なんて言われて落ち込んでないのかな。

今頃必死になって取引先の人に説明とか説得をしてるの?
でも・・・彼は何故攻撃されるのかなんて知らないもの。不思議に思ってるだろうな・・・自分のせいだなんて言われて。


道明寺と・・・会ったりするんだろうか。


私の知ってる花沢類は学生のまま。
だから企業人の彼の姿が想像出来なくて、悪い方向にしか考えられなかった。何時も非常階段で1人、淋しそうにしている姿を思い出すから、今でも1人で闘ってるんじゃないかと思うとキリキリと胸が痛んだ。

だって相手が自分の親友だもの・・・。
小さい頃から一緒に居て、黙っててもお互いの事が判るって言ってたもの。

そんな人を相手に、今度は何も判らずに藻掻いてるんじゃないだろうか。


「ここ・・・ここでいいです」
「はい、じゃあ気をつけてね」

「ありがとう・・・短い距離でごめんね、運転手さん」
「いつもこんな時間なのかい?若いお嬢さんはもう少し早く帰らないとご両親が心配するよ?」

「うん、そうね。でも、もうこの時間まで働くことはないから」


優しそうな運転手さんはお父さんみたいに困った顔して私の出したお金を受け取った。その運転手さんにも「気をつけてね」って言うとニコッと笑ってUターンして大通りへと消えて行く・・・小雨が降る中、何故かそれを見送った。
・・・あの夜桜の日を思い出しながら。

タクシーが見えなくなったらクルッと向きを変えて自分の部屋に向かおうとした・・・その時


クゥ~ン・・・

「あれ?犬の声?・・・何処から・・・やだ、野良犬?」

公園の何処かから犬の鳴き声がした。
一瞬ビクッとしたけど、もう1度聞こえた時、それが仔犬だと判った。
こんな真夜中の公園に仔犬?・・・雨が降っていたけど、その声を探しに公園に入った。

小さな公園だからブランコと壊れかけたような滑り台と小さな砂場・・・そして所々に植えられている躑躅と背の高い木がある。それの何処から・・・?
入り口に防犯灯が1つあるだけだから殆ど真っ暗な中を恐る恐る歩いて回った。

そうしたらガサガサと音がする・・・その音のした方に向かって行ったら黄土色が見えた。


いつもはこんな所に無い色・・・よく見たら段ボール?
その近くに行くと小さな音と声が聞こえる。もっと近づいてその中を覗くと、小さな目がキラリと光った!

「えっ!まさか・・・捨て犬?こんな所に?」


躑躅の木の横で、大きな木の根元に置かれた段ボールの中に雨で少し濡れた仔犬が震えていた。
「この子を宜しく」的な手紙もなければ餌だって何もない。段ボールの下にも何も敷かれてなくて、この仔犬1匹だけがポツンと入れられていた。


クゥ~ン、クゥ~ン・・・

「あんた、捨てられたの?可哀想に・・・何処がお家だったんだろう。連れてって文句言いたいわ!」

真っ暗な公園だけど、このすぐ横には民家がある。
声を出して怒られたら不味いから慌てて口を塞いだ。

部屋に連れて行きたいけどハクが居る。
それにバレたら大家さんに怒られるかも・・・しかも何時も夜中に出入りするから1階のおばさんに睨まれてるし、これ以上五月蠅くしたら追い出されるかもしれない。
でも、このまま置いていたら雨に濡れちゃう・・・こんなに小さかったら風邪引いただけでも死ぬかもしれない。


「・・・少し待ってて?取り敢えず濡れないようにしなくちゃね」

私は急いで自分の部屋に戻った。




*******************




1台のタクシーが停まったのは午前1時半過ぎてから。
そこで降りてきた女性を見て・・・溜息が出た。

見付けた日の1度しか見てないけど、その時の姿だったから。
遠目でも判る派手な服、それに髪型が少し変わってる。もしかしたら染めたのかも・・・街灯の下で光った牧野の髪の色がいつもと違って見えた。
あの黒くて綺麗な髪じゃない・・・それにまたヒールの高い靴履いてる。


そんなの履いて、また足を挫いたらどうするの?
俺は何度でも助けるけど、都合よくその場には居ないかもしれないよ?

もう来ないでって言ったから・・・それで完全に「華」に戻ったの?


牧野は俺の車には気がついていない。
雨も降ってるし、早く部屋に行けばいいのに何故かゆっくり歩いてる。まるで雨に濡れたいって言ってるみたいな速度・・・それにもイライラしてハンドルを抱えていた手に力が入った。

でも、急に牧野が立ち止まった。
そして公園を見てる・・・そのまま公園内に入って車の方に向かってきた。

不味い・・・いや、見付かったらそれまで。それなら全部を聞き出してこのまま屋敷に連れ帰って、なんて瞬時に考えたけど牧野の足は近くまで来たら向きを変えた。
木が邪魔してよく見えないけど、牧野の目が何かを捉えた。

そして座り込んだ・・・?


気が付かれないように少しだけ窓を開けたら、小さな声で何かを喋ってるのが聞こえたけど、その声も車に響く雨が邪魔をした。
ほんの数分そこに居たけど、スッと立ち上がると今度は急いで部屋に向かったようだ。

一体何をしていたんだろう・・・それが凄く気になって、牧野の部屋に電気が点いたのを確認してから車の外に出た。


雨はまだ酷くはない。
だから牧野がしゃがみ込んだ所に行ってみるとそこには段ボールが置かれていた。カタカタとそれが揺れてるから、中で何かが動いてるんだと判った。

そっと覗いてみると・・・仔犬が居る。


茶色くて丸っこい身体・・・覗き込んだ俺を見上げてる目は可愛らしかった。
でも毛が雨で濡れて震えてる。痩せこけてはないけど、一晩中雨に濡れてたらヤバいのかもしれない・・・段ボールに入れられてるから出ることも出来ないし。

牧野が見ていたのはこの仔犬・・・可哀想になって見ていたけどアパートでは飼えないから仕方なく帰ったって事か。
それなら・・・と、この仔犬を抱き上げようとしたら遠くでドアが閉まる音がした。

牧野のアパートに目を向けたら傘を持った彼女が階段を降り始めた。


今度こそヤバい!
1度抱き上げた仔犬を段ボールに戻して急いで公園を出た。車のドアを開けたりすると牧野が怖がるかもしれない・・・仕方なくすぐ横の民家のガレージに身を潜めた。

傘を差した牧野は小走りで公園に戻ってきて、手に持っていた透明のビニール傘を広げた。
俺は見付からないように・・・息を殺して目の端で牧野を捉え、雨の音の中で微かに聞こえる声を拾っていた。


「ちょっと待っててね・・・紐も持ってきたの。えっと・・・何処に括ったらいいかなぁ」

クゥ~ン・・・クゥ~ン

「うん、寒いよね。でも待って・・・あぁ、傘が邪魔だわ」

自分が差していた傘を横に放り出して、ビニール傘を木の幹に括り付け、仔犬の入った段ボールをその下に置いてる。少しでも濡れないようにって言いながら、自分の傘は風でコロコロと転がって行ったのに。。

優しいあんたのしそうな事・・・黙って見過ごすことなんて出来なかったんだね。


「これね、ハーフケットなんだけど下に敷いておくね。少しは温かいと思うの・・・雨が酷くならないといいねぇ。明日、あんたを捨てた人が思い直して迎えに来てくれたらいいね。私もね、本当は迎えに来てくれるの待ってたんだけどさ」

クゥ~ン・・・

「うふふ・・・でも私はダメだったから、あんたは飼い主さんの所に帰れるように祈っとくよ」

クゥ~ン、クゥ~ン・・・

「うん・・・好きな人と一緒がいいね。独りぼっちは淋しいもんね・・・頑張るんだよ、朝までにはきっと雨は止んでるよ」


馬鹿だね、あんた・・・自分が濡れてるのに犬に傘差して。
自分が淋しいのに我慢して犬の心配して。


ホント・・・馬鹿なんだから。





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2019/04/09 (Tue) 07:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

あはは!犬だらけ(笑)
このお話は考えたのが「嘘つき」よりも「花沢城」よりも早いので本当は柴犬1号なんですけどね💦
後回しになってしまったので・・・さて、名前はなんでしょうかね?(笑)

切ない類君・・・好きなんですけどね。

私が書くと切なくならないんですよ(笑)
途中で何故か方向が変わって行く・・・シリアスは向いてないのかもしれません。

総ちゃんの方がシリアスは書きやすいですね・・・何故かな?あんな家業だからかな?

でも、今は類君のシリアスを考え中(笑)です。
総ちゃんが終わったら類君かな?なんて!

2019/04/09 (Tue) 12:07 | EDIT | REPLY |   

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