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真っ暗な公園でいつまでも仔犬の心配をしていたけど、そのうち牧野は自分の部屋に戻った。
少しだけ顔を出してアパートを見ると、何度も立ち止まっては振り向きながら、やがてドアの閉まる音が微かに聞こえた。

クゥ~ン・・・・・・

仔犬が誰も居なくなったからなのか、か細い声で鳴いてる。
すぐにでも近寄ってみたかったけど、また彼女が顔を出しそうで傍に行く事が出来なかった。


雨は止みそうにもない・・・それどころが少し強くなって来た。
公園の向こうに白く浮かんだ桜の花も随分数が減ったように見える、そんな桜流しの雨・・・こんな時なのに柳瀬川で見た夜桜のことを思い出していた。

雨が当たらないガレージに隠れてはいたけど凄く寒い・・・急いで車に戻り、その後牧野の部屋の電気が消えた午前3時過ぎまでその場から動くことが出来なかった。

電気が消えて数分後、もう1度車から降りて仔犬の所に行くと、段ボールはちゃんと傘の下にあって雨が当たらないようになっていた。それにさっきはなかった毛布みたいなものが敷いてあり、仔犬はその上で丸くなってやっぱり震えてた。

段ボールの底は雨が染み込んでかなり濡れている。
もしこのまま雨がもっと酷くなったり、風が出てきたら・・・そう考えたら放っておけなくて仔犬を抱きかかえた。


「・・・随分冷たくなってるじゃん。でも、牧野が傘貸してくれて良かったな。少しは凌げただろ?」

クゥ~ン・・・クゥ~ン

「お前・・・なんで捨てられたんだ?悪さでもしたの?迎えなんて来るって思ってる?」

なんて真面目に仔犬に聞いてる自分が可笑しくなって来た。
ずっと俺を見上げて悲しそうな目をしていたけど、そのうち腕の中に顔を入れて踞る・・・飢えと寒さで限界が近いのかもしれない。


クゥ~・・・

「・・・俺と帰ろうか?」

抱きかかえたからスーツは汚れるし、雨が降ってるから仔犬も俺もあっという間にびしょ濡れ。
でも潤んだ大きな目に負けた・・・だって牧野に似てる気がするし、俺の腕の中で丸くなってガタガタしてるし。牧野が助けたくても出来なかったんなら、俺がするしかないじゃない?

もう1度、少し離れてる牧野の部屋を見上げて呟いた。


「いつかこの子に会わせてあげる・・・その時は華じゃなくて牧野に戻ってなよ」




********************




その日の朝・・・寝たのがついさっきなのに明るくなったらすぐに飛び起きた。

窓の外はまだ雨・・・しかも夜よりも酷くなってて公園には水たまりが沢山出来てる。私の傘はまだ木に括られていて段ボールも見えたけど、仔犬の姿は窓からは確認出来なかった。

ハクのカバーも取ってあげずに、パジャマの上にカーディガンだけ羽織って急いで玄関から飛び出した。
そして公園内をバシャバシャと音を立てて走って、あの子の所に向かった。

鳴いてる声は聞こえない・・・・・・まさか、死んじゃったとかじゃないよね?


「あ、あれ?居ない・・・わんちゃん、何処に居るの?」

段ボールの中は空っぽ・・・私の置いたハーフケットが傘の下だけどずぶ濡れでぐちゃぐちゃになってた。

慌てて近くの木の下や躑躅の茂みの中を探したけど何処からも声がしない。この公園には隠れるような遊具なんてないから、何処かで踞ってたらすぐに判るはずなのに・・・。
ぐるっとひと回りしてみたけど公園内には居ないんだと思った。

だから今度は公園の外、アパートやマンションや民家の間を覗き込んで探した。
「わんちゃーん・・・何処に居るの?」なんて小さな声出して、通り過ぎる人が雨の中でパジャマ姿の私に変な顔するし、窓を開けて見られたりもした。

溝の中に落ちてないかとか、何処かの倉庫に潜り込んでないかとか・・・結局30分ぐらい歩き回ったけど何処にも仔犬の姿はない。仕方なくもう1度公園に戻って、木に括り付けた傘を外してそれをたたんだ。


でも、その時に気が付いた。

もし、あの子が自分の力で出ていったのなら段ボールが横倒しになってない?
あの子はこの箱の高さに足が届かなかったもん・・・って事は、誰かが連れて行った?


「もしかしたら飼い主さんが気持ちを変えて迎えに来てくれたのかしら。それとも仔犬を可哀想に思った誰かが?どっちにしても拾われた・・・そう思っていいのかな」

暫くその段ボールを見ていたけど、拾われたんだって思うと気持ちが落ち着いた。
きっと誰かに拾われて、あの子は今頃何処かで温かくしてるに違いない・・・うん、きっとそうだ。


外した傘を持って部屋に戻り、今度はゴミ袋を持ち出した。
それに濡れてボロボロになった段ボールとぐちゃぐちゃのハーフケットを入れて封をしてゴミステーションに持って行った。

何にもなくなった木の根元・・・そこを見て、まだ雨が酷く降ってるからホッとした。


良かったね・・・ちゃんと暮らせる場所が出来て。


「よし!ハクに餌あげなきゃね!今日もお仕事だ・・・でも、やっぱりもう少し寝よ・・・」




*********************




・・・目が覚めた時、俺の頭上には怒った加代の顔があった。
そして凄い頭痛がする。久しぶりに熱を出したらしく、身体が動かなかった。

でも、加代の怒りはそこじゃない・・・・・・俺の部屋の中で元気よく走ってるあいつのせいだった。


「類様、お仕事が忙しいのは承知していますが、あんな時間にお戻りになって、しかもこれはどういう事ですか?!」
「・・・少し音量下げて・・・加代、頭に響く・・・」

「ただのお風邪でございます!お薬飲んで寝ていれば治ります!ご説明いただけますか?」
「・・・あの子は拾ったの・・・雨の中、公園に捨てられてたんだよ。可哀想じゃ・・・ゴホッ!ゴホッ!」

「公園・・・一体夜の公園で何をされていたんですか?お帰りになったのは4時前でございますよ?」

「・・・・・・」


加代に言われて記憶を辿った。

牧野のアパートを出ようとしたら情報部の連中に仔犬を預かると言われた。
でも自分で持って帰るって言って俺の車に乗せて・・・乗せて・・・あぁ、急に元気になったんだ。

・・・確かに大暴れするこいつのせいで危うく事故しそうになったっけ。そして屋敷に着いたらスーツの中に入れて、そのまま自分の部屋に持って帰った。
俺もずぶ濡れで寒気があって・・・だからシャワーもせずに服だけ脱いだら仔犬のことも忘れてベッドに入ったような・・・?


少しだけ目を開けたらすぐ横の椅子の上にはぐちゃぐちゃのスーツ。
自分が寝てるベッドも明らかに仔犬が歩き回ったみたいな汚れがあって、床に敷いてあるラグも半分ぐらい捲れてた。

そこにハァハァいいながら転げ回って遊ぶあいつ・・・それを見たら何故か笑いが出て、また加代に怒鳴られた。


「会社には風邪で寝込んでおられますとお電話入れてあります!ホントにもうっ・・・そんな事でどうするのです!」
「・・・ごめん、加代。でもお願いしてもいい?」

「何でございますか?」

「あの子を洗ってやって?そして餌の準備と住む場所の用意・・・頼むよ」

「類様!あの仔犬を飼うんでございますか?」

「・・・ここまで持って帰って捨てる気?」


加代が言うには柴犬の血が混ざった雑種らしい。
どうせ飼うなら血統書付きの犬を・・・なんて言ってたけど、何度か頼んだら呆れた顔して仔犬を連れて出ていった。

そして俺は1度起こされてベッドメイキングをされ、解熱剤を投与され爆睡・・・次に目が覚めた時には窓の外で走り回るあいつを見付けた。


くすっ・・・やっぱり牧野みたい。
夢の中で会うあんたは、いつもああやって走ってるから・・・。




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2019/04/10 (Wed) 06:49 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

はい!拾ってしまいました!ついでに風邪も引いちゃいました(笑)
怖いですねぇ~💦ずぶ濡れのわんこを部屋に放置したまま、同じくずぶ濡れの類君がベッドでダウン・・・。

私、犬になりたかったです(笑)

あっ!・・・正解があります!でも少しだけ違うかも(笑)
それは最終回で・・・♥

いつもコメントありがとうございます。

2019/04/10 (Wed) 13:37 | EDIT | REPLY |   

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