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plumeria

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今でも信じられない・・・私を抱き締めてるのが西門さんだってこと。

もう2度と会わないと思ってた。
会っちゃいけないんだと思って諦めてた・・・それに今はもう結婚してしまったから。この人には今、奥さんが居るんだもの。

それなのにもう1度抱き締められたら言葉に出してしまった・・・「会いたかった」って。


「もう、何処にも行くなよ・・・どれだけ探したと思ってんだ、馬鹿!」
「・・・ごめんなさい」

「・・・元気だったのかよ。お前、ずっとここに居たのか?」
「ううん、ここには寄っただけ。別の場所に住んでるの」

「・・・今から全部話せよ。もう隠し事はすんな」
「・・・・・・」


隠し事・・・私は西門さんの言葉に返事は出来なかった。
さっき美作さんが言った「判ってる」・・・あれは紫音と花音の事は西門さんには教えないって事だろうと思った。勿論私もそのつもりだった。

再会してしまった事はどうしようもない。
でも子供の事を知ったら西門さんは絶対に引き取ると言うだろう。


西門家に子供の存在が判ったら、その後はどうなる・・・?
西門さんが奥さんを拒んでいるって事は聞いている。今でもそうなのかどうかは判らないけど、もし本当に拒んでいるなら子供が望めない。そうなったら彼の血を引く紫音と花音は西門家に奪われるかもしれない。

奥さんと離婚させて私を・・・それは絶対に有り得ない。
あの人達は私の存在を彼の前から消したかったんだから絶対に認めてはくれない。

美作さんと仁美さんを本当の両親だと信じてるあの子達に、今更別の家に行って暮らせなんて言えない。
あの厳しい世界に入ってしまえば今みたいに自由に遊べないし、子供らしく大笑いすることも出来ない。お出掛けだって制限されるだろうし、特殊な勉強も待ってる。
特に紫音には重い荷物を背負わせてしまう・・・優しいあの子は黙って受け入れるかもしれないけど、西門さんだって苦しんだ世界だもの。紫音はもっと苦しむだろう。

本当の母親には捨てられたと思うかもしれない・・・そんな事になったら私は2度とあの子達に会えない。


それだけは・・・私の最後の夢だけは奪われたくない!



「牧野・・・?」
「・・・あ、ごめん、離れ・・・だったよね」

「・・・行くぞ」
「うん」

西門さんがそう言って差し出した手・・・それを掴みたかったけど躊躇していたら怒ったように私の手首を掴んで引き寄せ、美作さんの後を追った。

掴まれた手首が燃えるように熱い・・・まるであの月夜の時みたい。


**


美作家の離れ・・・そこはお屋敷から完全に切り離された建物で、中にはベッドルームもキッチンもバスルームもある。
お客さんでも美作さん達でもいつでも自由に使えるようにしてあるらしく、私達がそこに着いた時には彼が飲み物を冷蔵庫から出していた。

・・・口元が腫れて赤くなってる。
仁美さんが見たら驚いて泣くんじゃないかしら、って思うほどだった。


「・・・何処から話そうか、と言ってもお前達が別れた・・・いや、別れさせられた時の事は知らないからな。俺はその時イギリスだから」
「4年前の今日・・・いや、昨日か?どっちでもいいけど」
「・・・・・・12月1日だわ」

忘れようとしても忘れられないあの日の出来事。
まずはそこから・・・そう言って私と西門さんが隣に座り、美作さんが向かい側に座った。


「その日のこと・・・実は総二郎だけが真実を知らないんだ。お前が屋敷に閉じ込められた事も事故ったことも、牧野には俺から話してある。牧野、今からお前が西門に言われた事を話してやれ」

「・・・・・・」
「牧野、話してくれ。親父とお袋はお前に何を言ったんだ?」

美作さんの顔を見たら「話してやれ」と小さな声で言われ、それが西門さんをまた不機嫌にしたのか私の腕を掴んだ。『あきらに確かめるな』、そう言う意味なんだろう・・・私の目を真っ直ぐ見て怖いぐらいだった。

「総二郎、離してやれ。お前がそんな顔していたら牧野が喋れないだろう!」
「・・・偉そうだな、あきら。お前が牧野に指図すんじゃねぇよ・・・それがムカつくんだよ!」

「やめて!は、話すから、大きな声出さないで・・・」

西門さんが腕から手を外してくれた。
それでも身体の向きは私の方・・・美作さんを無視するかのように顔を背けていた。


「・・・あの日は西門さんのプレゼントを買いに出掛けてて、アパートに着いたら家元が私を待ってたの・・・」
「親父本人が?・・・それでお前に何を言った?!」

「・・・え?あ、あの、それで・・・」
「何て言ったんだ、親父は!」

「総二郎!少し落ち着いて聞いてやれよ。牧野だって・・・」
「五月蠅い!あきらは黙ってろ!」

「・・・・・・ごめん、ちゃんと話すから」


私は4年前の事を彼に話した。

家元が西門さんとの付き合うのを止めるように言ったこと。本気で付き合えると思ったのか、総二郎の火遊びだから真に受けるな、茶道の稽古も止めるようにと言われたこと。
西門さんの妻となるべき人が来るから噂になったら迷惑だと・・・


「会っても辛い思いをするのは私で、西門さんは家の命令には背けないからこの話を受けるだろうって言われたの。だから自分から身を引けって・・・私が考えているような甘い家ではないって、私では西門さんの力にはなれない、身の程を弁えろって言われたの」

「・・・だろうな。それをお前は信じて東京を出て行ったって言うのは本当なのか?親父達に言われたから本当に自分から身を引いて西門に言われた所に逃げたのか?誰が監視してた?何処に連れて行かれたんだ?」

「・・・え?あぁ、それは全然違うのよ」

「・・・は?お前、うちの人間に監視されてたんじゃないのか?俺はそう聞いて・・・違うのか?!」


私は美作さんから少しは話を聞いていたから彼が驚くのは判る。私だって呼子で聞いた時は驚いたもの・・・。
この後も私が東京を離れた時の事を教えた。

誕生日に初めて婚約者って人に会わせるから私なんかに構ってる時間はないと言われ、秘書の男性からも引っ越し費用として500万円渡されたこと。
次の日には家元夫人が来て、土下座紛いの事までして東京から離れるように頼まれた事。


「お袋が・・・土下座?」
「うん、そうなの。私に両手ついてね・・・西門のせいで申し訳ないって頭下げられたの。西門さんが婚約のことは納得したけど、私が近くに居ることが苦しい・・・そう言ってるって。家のために受け入れるしかないって」

「俺が納得した?」

「うん・・・私の事は本当に好きなんだろうと思うけど、仕方ないって。だから凄く落ち込んでてご飯も食べないって・・・私が東京に居るだけで西門さんは苦しみ続けるって言われたのよ。
数日間待ってくれって言ったけど、西門さんが最後に我慢出来なくてアパートに行ったら困るからってホテルに移されたの。荷物なんて殆ど持って行けなくて、少しの着替えだけ持って・・・あっという間だったわ」

「電話すりゃよかったじゃねぇか!どうして掛けなかった?あ・・・いや、俺も取り上げられて番号変えられた・・・電話したのか?」

「うん・・・繋がらなかった。私もスマホのデータを消されて新しいのを渡されたの。でも、今は美作さんが用意してくれた新しいスマホ使ってる・・・西門から渡されたものは家にあるわ」


西門さんは驚きすぎて言葉が出なかった。
両手で頭を抱え込んで俯いたまま・・・悔しそうに歯を食いしばってるのだけが指の隙間から見えた。


「・・・私のアパートに来てくれたんだってね。それで事故したんでしょう?傷・・・もう大丈夫?」

「・・・あぁ、何ともねぇよ、そんなもの。事故った時からそうだった。傷の痛みなんてどうでも良かった。俺は・・・お前の方が納得して俺から逃げたと聞かされてたから。西門が・・・お前を何処かで監視してるって思っていたから・・・」

「凄く酷い怪我だって聞いた・・・良かったね、ちゃんと治って」


西門さんの肩に手を置いたら震えてるのが判った。
私達の悲劇の1番始め・・・それが4年間も彼を苦しめたんだ。
お互いに少しずつ変えられた言葉によって、間違った解釈をさせられた・・・別々の方向を向くように仕向けられた。


それをこれから同じ方向に向けようとしても、彼は結婚してしまった。そして私は子供を手放した。



「・・・それで、お前は何処に行ったんだ?」


この先は子供の事に触れずに呼子の話をしなきゃいけない。
違う意味で緊張した。





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