FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
「・・・それでお前は何処に行ったんだ?」
「それは・・・」

「何処かのホテルに向かった・・・でも、西門ならその先まで選んでお前を監視させるはずだ。その方が俺との接触をさせないためには丁度いいから親父達の言葉に納得出来たんだ。それは言われなかったのか?」

俯いたまま力なく西門さんはそう言った。
西門が隠していると思ったから、毎日関連のある場所を調べ続けたと。それこそ北海道から沖縄まで、メールを送り続けて私が居そうな場所を探したって・・・。
途方もない作業を何年間もさせたのに、私がこの屋敷で美作さんと居たんだもの・・・西門さんが愕然とするもの当たり前だ。


「確かにこの中から選べっていうリストをもらったけど自分で見付けたの。ホテルのパソコンを借りて住み込みで働ける場所を探したの。そうしたら佐賀県に求人があって、それが旅館で・・・」

「佐賀?佐賀で暮らしてたのか?」

「うん・・・従業員さん達には詳しい事情は話さなかったけど、いい人達ばっかりでね、呼子って場所にある旅館で暮らしてたの。そこに美作さんが偶然来たの。3年半前・・・5月に美作さんと会ってたの」

「・・・3年半・・・前?」


手で顔を覆っていた西門さんがその手を外した。
そして私ではなく、美作さんを睨んだ・・・そんなに前からなのか、そう言う言葉が聞こえてきそうな彼の横顔。美作さんも眉を寄せて目を伏せた。

「でもね、西門さん!それはね・・・」
「・・・あきら、その頃俺と会ってるよな?紫にも会わせた・・・俺がどれだけ牧野を探してるか、お前に話したよな!その時には牧野の居場所を知ってたのかよ!」

「待って!西門さん!!」
「答えろ!あきら!」

さっきと同じように西門さんが美作さんを責める・・・凄く怖い顔して睨みつけ、美作さんは顔も上げなかった。
飛びかかって殴らないようにと慌てて服を掴んだ私を西門さんが横目で見てる。私に向けられた目も少し怖かったけど、これ以上美作さんに怪我はさせられない。


「・・・初めて紫と会った時には牧野の事は知らなかった。誰かの葬式の時・・・人が大勢居る場所に行きたくなかったからって俺が地方にわざわざ出向いたって事があっただろう。その時に偶然利用したのが牧野の働いてる旅館だったんだ。牧野が茶を煎れに来てそこで出会った」

「司と類に会ったあの葬式か・・・」

「そうだ。久しぶりにお前と酒を飲んで岩代の野点の話を聞く前だ。その時、俺は牧野の居場所を知ってた・・・って言うか美作の別荘に住むように勧めて佐賀からこっちに戻したのは俺だ」


やっぱり美作さんは子供の事は言わない。
それにはホッとして、西門さんの服を掴んでいた手が少し緩んだ。

「美作の別荘?何処だ」
「鎌倉にあるお袋名義の別荘・・・お前も知らない場所だ」

「鎌倉・・・そんな近くに居たのか」


「呼子で美作さんから西門さんがどれだけ探してるか聞いたよ。でも、お家元や家元夫人が怖くて東京に戻れなかったの。西門さんに茶道は続けてもらいたい・・・だけど私が目の前に現れたら西門流を捨てるんじゃないかと思ってしまったのよ。
それだけは嫌だったの。だから西門さんに会えって言ってくれた美作さんの言葉に首を振って鎌倉に隠れたのは私・・・美作さんは悪くないの!」

「・・・牧野、お前・・・」

「それでどれだけ私の事を憎んでもいいけど、美作さんの事を憎まないで!お願い、西門さん!」


それだけの理由で?と聞かれたらどうしようかと思った。

たったそれだけの理由で東京からも親からも逃げて、遠くで1人暮らしてたなんて本当なら信じられないだろう。東京に住んでても会わずに隠れることぐらい出来たはず・・・。

でも、これで突き通すしかない・・・それほど西門家が怖かったんだと精一杯訴えた。
西門さんも混乱してるからなのか、それ以上は聞いてこなかった。



話は鎌倉での生活に移った。私が精神的な病気を患った事は言わずに夢子おば様の配慮で逗子の植物研究所で働いてることは話した。
一緒に住んでいるのは美作の使用人の小夜さんで、もう3年も2人暮らしだと言うこと。時々こうして研究所の用事で美作家に立ち寄っていて、今日もその件で来た事にした。


西門さんはずっと黙って聞いている。
いつも輝いてた瞳がショックのあまり暗く澱んでるのを見ると苦しくて堪らない。


そしてまだ大きな隠し事をしていることに恐怖しかなかった。




*******************




ガキの頃から人前で偽りの自分を作る事が得意だったから、たとえ落ち込んでても何でもないフリをする事は簡単だった。
怒りの感情は表に出しても、自分が沈んでるところなんて誰にも見せたくないってのがあった。

それは彼奴らの前でも同じ・・・俺は常に「何でもねぇ」って態度で色んな揉め事を片付けてきた。


その俺が・・・ここまで呆然として、それを曝け出してる事が自分でも信じられない。
そのぐらい親父達の嘘と、あきらと牧野の事はショックだった。


お袋が言ったのは牧野が西門に入る勇気なんて初めから無かったって事だった。だから自分から出ていく・・・俺には紫と幸せになれって伝言が残された。
自分からさっさと荷物を纏めて俺の誕生日に姿を消したって・・・俺はそれを自分の目で確かめた後に事故った。

事故の痛みより牧野に触れられない悔しさの方が強くて病院の中で荒れ狂った。それこそ気が狂ったかと思うほど色んなものを破壊していたのはもう4年も前だ。


俺は親の言葉なんて信じていなかったから、牧野が東京を追われたのが西門の仕業だと言うことは驚かない。だが金を渡してまで戻ってくるなと言ったのは衝撃だった。
その金を握らされた時のこいつの悔しさは相当なものだっただろう。
俺が牢部屋に監禁されてる時にそんな出来事があの部屋であったかと思うと、自分の親の非情なやり方が許せなくて唇を噛み締めた。


それに九州の佐賀まで逃げて身を隠したと言う牧野の話。

2人の話を聞いてるうちに、此奴らも苦しんだ、どうしようもなかったんだって事は判った。
判ったが、それでも裏切られたような気持ちが消えない。この遣る瀬無い思いを何処にぶつけてたらいいのか、そっちが判らなくて2人の顔を真面に見ることが出来なかった。
だから顔を手で覆い、俯いたままあきらに尋ねた。


「牧野の事をあれだけ調べてくれと頼んでも返事が曖昧だったのはこのせいか・・・あきら。
おかしいと思った事は何度もあるんだ。美作の情報網でも本当に判らないのかってな。いつものお前の動き方じゃねぇってのは感じてた・・・知ってたから何もしなかったんだよな」

「あぁ、そうだ。今更だと思うかもしれないが何度かお前に話そうと思った事もある。でも、牧野がお前のために黙ってろって言うのを毎回聞いていたから何も言えなかった。
心の中ではいつも限界だって思ってたよ・・・いつかここで出会うんじゃないかってな」

「美作さん・・・本当にごめんなさい、私のせいで嫌な思いばかりさせて・・・」

「実はな、牧野も知らないことだけど、お前達同じ日にここに来たんだ。総二郎が京都の土産を持ってきた日、牧野が連絡も無しに急にうちにクッキー持って小夜と来た2月だよ。
総二郎がうちを出ていったのを見送っていたら牧野が小夜と来たんだ。あの時は流石に焦ったよ」

「・・・え?」
「うそ・・・本当に?」

「あの時、1分ずれてたらお前達は出会ってたんだ」


京都の爺さんに会いに行ったあとの・・・また紫の大胆な罠を思いだしてゾッとした。
あの時もあきらには話したはずだ。紫に飛び掛かった俺を止めたのが牧野の声だって・・・それで俺は紫を抱かずに済んだんだって話したのに、その時こいつは牧野の居場所も生活も知ってたんだ。

マジで馬鹿だな・・・俺1人、何も知らずにこいつにベラベラ喋ってたんだ・・・。


持って行き場のない気持ちが胸の真ん中で燻り続けて、イライラしてんのかがっかりしてるのか・・・牧野に会えて嬉しい気持ちはあったが今はそれすら消えそうなほど、何も考えられなかった。

牧野は自分を憎んでもいいけどあきらを憎むなと言った。それも俺には苦しかった。


牧野に想いを告げて一緒に過ごしたのは僅か数ヶ月だ・・・それよりも長い月日をあきらと牧野は過ごしたんだ。何もなかったのか・・・それを疑ってる自分が居た。
これまで考えたこともなかったけど、あきらが牧野に触れてる所を想像して吐き気さえしそうだった。


何かでこの思いから離れないと・・・そう思った時、さっきの子供の事が頭に浮かんだ。


「話が変わるが、あきら・・・いつからここに子供が居るんだ?」


そう言った時のあきらと牧野の顔・・・一瞬だったが2人が目を合わせた。
そしてすぐに逸らせた。


なんだ?今のは・・・ここでも2人の行動に違和感を感じた。





14920355960.jpeg
関連記事
Posted by