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plumeria

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楽しかった夏の旅行も終わって、また研究所での仕事が始まった。
季節は夏から秋へと変わり、ここでも秋の花が主流となった。

おば様が好きな薔薇は2度目の開花のピークを迎える。
春よりも花色が深く艶やかな趣溢れる秋のバラ・・・特にこれからはつるバラやミニバラが多く咲くらしい。
美作家のエントランス前もクライミング・ローズで賑やかだもの。伸びた枝をアーチやオベリスク、フェンスに誘引して観賞するのがおば様の楽しみ方の1つ。

だから春同様、おば様がここに来ることも多かった。


今日もほら、向こうから手を振ってやってくる。
流石にここではあのロマンティックドレスじゃなくてパリッとしたスーツ。ガーリーな靴じゃなくてハイヒールで颯爽と歩くおば様はここでしか見たことがなかった。

「お疲れ様、つ・・・春ちゃん。頑張ってる?」
「はい、社長、お疲れ様です!」

「・・・くすっ!」
「・・・ぷっ!」

今日は改良中のブッシュ・ローズを見に来たと言って、挨拶だけしたら所長さんと研究施設に入っていった。


私は11月から12月にかけて咲く「皇帝ダリア」の世話が今日の仕事。
草花なのによく育てば高さが5メートルにもなる皇帝ダリアの新色を研究してるから、ここでは雄大に育てないでまずは鉢植えで小さく育てて試験的に肥料をやる。
少しでも間違えたら色変わりが確認出来ないから慎重に作業を進めた。

もう、こんな事もしてるんだなぁって・・・ここに来て2年経つんだって麦わら帽子を押さえて遠くの海を見ながらしみじみ思った。


秋の到来を告げるコスモスも咲き始めた。
和名アキザクラと言われるだけあって、本来は秋から咲く短日植物だけど最近は夏前から咲く早咲き種が多くなったとか。
ここではコスモスにはまだ無い青色の花の研修をしていて、沢山のコスモスが植えられている。でも蕾の様子から「今年も咲きそうにないなぁ」なんて研究員さんがぼやいてる。

聞けばもう10年以上取り組んでるとか・・・その熱意に感動して、ますます自分の作業の重要性に緊張する。でも、咲いたとしてもその花の種から次の年も同じ花が咲き、それを繰り返して定着するとか・・・気の遠くなる仕事だ。

「何事も完成までは相当な月日が要るものだよ。園芸もある意味では芸術と同じだと思ってるからね」

「芸術・・・ですか?」

「そう。毎年同じじゃないんだよ。その時によって違う花が咲き、それが美しい時もあればそうでない時もある。そうでない時の花も愛してやって、次ぎに咲く時には綺麗に咲かせてやる・・・ははは、私にはこれが天職だって思ってるよ」


すぐには完成しないもの・・・追い求めるのが芸術。
西門さんのお茶もそんな感じなんだろうか。

いつもそんな風に言ってたな・・・稽古は一生もの、終わりはないって。今でもずっと追い続けてるのかな・・・。



この日はおば様と外のベンチで食事をした。
仕事の話は勿論だけど、人目を気にしながら紫音たちの話も聞いた。

海で拾った貝殻を並べて絵にして飾っただとか、日焼け止めを塗ったのに肌がボロボロになって皮が剥けて、美作さんの方が大慌てして病院に行こうとしたとか。
仁美さんは疲れて少しだけ寝込んだけど今は元気だって。


「つくしちゃん、楽しかった?それとも・・・やっぱり辛い?あぁ、ごめんなさい、こんな事聞いて。だんだん大きくなってくるからどうなのかなって・・・時々あきら君とも話すのよ」

「・・・辛くないって言ったら嘘になりますけど、お願いして良かったって言うのは変わりません。逆に思います・・・全然血が繋がってないのにあれだけ懐いてるんだから相当可愛がってもらってるんだなって。
だから、もう私の出番なんてありません。この先美作家を立派に継いでくれたらいいんですけど・・・」

「出番がないだなんて事はないわよ。あの子達もつくしちゃんの事は特別に思ってるんだと思うわ。
いつも聞くんだもの、つくしちゃんは次いつ来る?って。あなたのことを大好きなのよ。呼び方なんてどうでもいいじゃないの、これからも成長を見てやって?」

「・・・はい。ありがとう、おば様」


呼び方なんてどうでもいい・・・そうかも知れないけど悲しい言葉だ。



そして1ヶ月が過ぎてもうすぐ11月。
皇帝ダリアの蕾が大きくなって、研究所の秋桜畑も終わりを迎えた。
今からはシクラメンやシャコバサボテンの開花に向けて、夏から準備した株の管理が始まる。

日が沈むのが速くなって私が帰る頃は真っ暗。小夜さんの車が迎えに来てくれる時間にはライトを点けるようになっていた。
それを見ると冬が来るんだなって思う・・・もうコートが要る季節だ。
小夜さんの首にも細いマフラーが巻かれてる。車の中で渡される飲み物がホット・・・月日の経つのが速いこと。


美作さんからは子供達をぶどう狩りに連れて行ったって写真が届いた。
新潟県にある美作家の農場では他よりも少し遅くまでぶどうが収穫出来るらしくて、そこに4人で行ったって・・・。

紫音が美作さんに抱っこされて子供用のハサミで切ろうとしてる。でも美作さんの表情からすると切れてないみたい・・・きっとぶどうの根元が太かったのね?
花音は房を採らずに一粒だけ採って口に入れてる。くすっ、食いしん坊なのは私に似てるんだ?

大きな口を開けないと食べられそうにないほどの粒を頬張ってる紫音。
食べるのかどうかも判んないのに粒をもぎ取ってテーブルに並べてる花音。
上手く採れなくて泣いてる紫音を怒ってるような美作さん。
仁美さんに追い掛けられてるのに笑いながら走って逃げてる花音・・・どれもみんな可愛らしい。


「今日はお鍋にしようか!まだ早いかな?」
「お鍋かぁ・・・いいんじゃない?」

「お買い物して帰ろうか?近くのスーパーならつくしちゃんも大丈夫でしょ?」
「うん、行こうかな」


逗子から鎌倉に帰る途中・・・また、私は淋しそうに笑って小夜さんに心配掛けたかな?



**



11月の初め、その日一緒に肥料を配合していたパートの向井さんが、午後になって慌てて私のところに走って来た。
聞けば学校から電話があって子供が急な発熱とか・・・それで早退するから後を頼むって内容だった。

「大丈夫なんですか?風邪かしら・・・」
「うん、風邪だと思うんだけどね~!昨日はこの季節にしちゃ暑かったでしょ?だから薄着で遊びに行って、今日はこの冷え込みだからさ。子供って上着着なさいって言っても着ない時があって困るのよ~!」

「くすっ、上着って遊ぶには邪魔ですもんね。熱、早く下がるといいですね」
「そうねぇ、すぐに病院に連れて行かなきゃ!風邪じゃなかったら大変だからね。身体が大きくなったから服も新しいのが要るのかもね。青山にさぁ、可愛い子供服のお店が出来たんだって。あっ、ごめん、春ちゃんは独身だったよね?子供服の店なんて興味ないよね」

「そんな事ないです。友達には子供も居ますし・・・なんて言う店ですか?」


春ちゃんは独身・・・間違ってはないけど「実は子供います」なんて言えない。
でも、言われてみれば紫音たちに服を選んだ事はなかった。仁美さんの好みに染まってるような気がするから私が選ばない方がいいと思っていたから。

でも、やっぱり選んでみたい・・・ちょっとだけそういう買い物に憧れがあった。


「 carino(カリーノ)って言うお店らしいけど青山なんて行かないしねぇ!でも頑張って行ってみようかしら。子供の風邪が治ったらだけど」
「うふふ、きっと喜びますよ。じゃあ気をつけて」

「ごめんねぇ!春ちゃん、あと、宜しくー!!」
「はーい!」


誰かの為にプレゼントを買う・・・その誰かが居ることが素晴らしいって思う。



また、西門さんの誕生日が来るんだなぁ・・・。




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<皇帝ダリアです>
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