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plumeria

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滅多に聞かないあきらの怒鳴り声・・・この話の何処かにまだ隠された何かがあるような気がしたけど、突然起きた出来事に俺は混乱し続けた。

今まで聞いたこともまだ全部は理解出来ない。
美作が牧野を救ったと言う事は判ったが、どうしてこうなるまで俺に教えてくれなかったのか・・・そこがどうしても納得出来なかった。


もう少し早く教えてくれたら俺は結婚なんてしなかったかもしれない。
牧野がどんなに反対しても西門を出て他の場所で茶を点てても良くなかったのか・・・西門の力も財力も牧野の欲しいものじゃ無かっただろう。
そんな生活に戸惑うのは俺だったかもしれないけど、それでも2人で居れば笑って暮らせたんじゃねぇのか。


牧野が頼んだから・・・本当にそれだけで匿ったのか?
それを一生続ける気だったのか?そんなの無理が有り過ぎる・・・おばさん、おじさんも知ってるってのにこの決断だったのか?

・・・取り敢えず、俺は牧野と2人になる事を選んだ。


「・・・何だかよく判んねぇや。頭ん中がぐしゃぐしゃで整理出来ない。あきら・・・こいつと2人になりたい。鎌倉だっけ?そこに行くわ」
「西門さん?」

「・・・それはいいが西門はいいのか?お前、今日は何か予定があるんじゃないのか?」

「そんなもんねぇよ。あっても牧野の方が大事だ。こいつと話したい事がある・・・だが、美作で話す気にはならねぇからこいつが住んでるところに行く、そういう事だ」

「・・・判った、それなら俺の車を使え。ナビに鎌倉の住所も登録してるし、万が一って事もある。お前の車でそこに行かない方がいいだろうからな」


今度は牧野が狼狽えてる。
そこで一緒に住んでる美作の使用人がもうすぐここに来るとか何とか・・・でも、あきらがその使用人を美作で引き止めると言って話はついた。


何から話していいのか判らない。
何処まで話せばいいのかも判らない・・・だけど、まだ牧野が俺の事を想ってくれているのかを確かめねぇと、俺はこの先何処にも進めない。
牧野はそれにどう答えるのか・・・それを考えるとすげぇ恐怖だけど。



離れから出るとあきらが一足早く屋敷に戻った。
牧野は最後に出てドアを閉め、ゆっくりと俺の横に並んだ・・・まだ、笑顔になんてならねぇけど横に並んでくれた。

さっきは掴めた手だけど今はそれも出来ない。
牧野からもその気配はない。こいつは俺の立場を気にしてるんだろうけど、俺はまだ何処かであきらに嫉妬していた。


「本当に鎌倉に行くの?大丈夫・・・なの?」
「あいつの事なら気にしなくていい。俺の事なんて待っちゃいねぇよ」

「え?そう・・・なの?」
「そう言う事だ。あきらに聞いてんだろ?俺は・・・いや、この話は後でゆっくりしよう。行くぞ・・・」

「うん・・・」


肩を抱きたいのに、その腕を取りたいのに、寄り添って歩きたいのに我慢して先に歩き出し、牧野は数歩遅れてついてきた。
そしてさっきのテラスまで行った時、あきらが車のキーを持って近づいてきた。
その後ろ・・・窓の向こうにはさっきの子供の姿があって、あきらの嫁さんが俺に向かって軽く頭を下げた。

あきらの口の傷を見て、俺に腹が立ってるだろうに・・・それを態度には出していなかった。


「ちゅくちちゃーん!もうかえるのぉ?あそばないの~?」
「まださよちゃん、来てないよ~?」

そんな声が聞こえてきて、嫁さんが止める腕を振り切って双子は牧野に向かって走り出した。嬉しそうに髪を揺らして近づいてきて、牧野に抱きついた時・・・やっぱりそこでもドキッとした。


何だ・・・この感覚。
あきらとも嫁さんとも血の繋がりがないって事は判ったけど、何で牧野と双子が一緒に居ると俺がザワザワするんだ?

あぁ、そうだ・・・来た時にも思ったんだ。似てるんだ・・・こいつら。



いや、まさか・・・そんな訳ねぇよな?



「ちゅくちちゃん、そうちゃんとどこかにいくのぉ?」
「・・・え、総ちゃん?」

「うん!このお兄ちゃん、そじろって言うんだって。だからそうちゃん!」
「あぁ、お名前聞いたのね?そじろ、じゃなくて総二郎・・・って言うんだよ」

「そう・・・じろ?」
「そうちゃんでいいよね?」


男の子の方が俺の前にやってきた。そして無邪気な笑顔で見上げてる・・・やっぱりその目に不思議なものを感じた。
俺も紫音って子供の高さまでしゃがんで目を合わせ、その頭に手を置いた。

俺には縁遠い子供の感触・・・触れた時に何故か照れにも似たようなむず痒さを感じ、すぐに手を離してしまった。


「ねぇ、お兄ちゃん、そうちゃんでいいんでしょ?」
「・・・あぁ、さっきも言ったろ?」

「うん!そうちゃん!」


まさか・・・だよな?

でも牧野、どうしてお前がそんなに泣きそうな顔してんだ?




******************




紫音と花音が「総ちゃん」って言った時、胸が締め付けられたように痛かった。
西門さんが紫音の頭を撫でた時・・・凄く嬉しかったけど怖かった。紫音がそのまま西門に連れて行かれそうな気がして身体が震えた。

それに彼は本当に気が付かないんだろうか。
自分に似てる2人の事・・・こんなに近くで見てるのに何も感じないんだろうか。

それとも自分の事だから判らないのかも・・・私達からみれば本当にそっくりなのに。紫音の方が私に似てるって言うけど私にはそこまで感じないのと同じなんだろうか。
花音なんか全部がお父さん似なのに・・・今度は女の子だからピンと来ないのか・・・。


紫音が彼に話しかけてる。
西門さんが頑張って笑顔を作って答えてる。

『あなたの子供なの』・・・・・・真実を伝えられない苦しさが、これまでの私の選択が間違っていたかのように重くのしかかる。


「ちゅくちちゃん!そうちゃんでいいってよ?」
「・・・そう、良かったね」

「うん!パパのおともらち!」
「そうだね・・・お友達だね」

仁美さんも部屋から出てきて花音の手を握った。
紫音はそれを見て美作さんに抱っこをせがむ・・・西門さんにはこれが「親子」に見えただろうか。


「牧野、小夜とは多分すれ違いになると思うけど心配しなくていいから総二郎とよく話してこい。その時にわざわざ俺の事を庇わなくていいからな。牧野の本心だけ総二郎に伝えろよ」

「うん、判った。怪我までさせてごめん・・・」
「気にすんな。大した怪我じゃ無い」


この会話も傍で聞いてた西門さんはやっぱり嫌そうに眉を寄せた。


この後私達は美作さんの車に乗って屋敷を出た。
もうすっかり陽が暮れて、西の空に濃いオレンジ色が僅かに見えるだけ・・・見上げた空は星が見える程暗くなっていた。


車に乗っても2人とも言葉を出さない。
音楽も何もなくて静かな車内・・・この中で自分の心臓の音が彼にも聞こえてるんじゃないかと思うほど緊張していた。会いたくて会いたくて堪らなかったのに、4年間という時間の長さをここでも感じた。


・・・そして今頃になって気になり始めた。

彼は何も変わってないのに私は「おばさん」になったんじゃないかしら。
髪だって何にも手を加えてないし、お化粧だって相変わらず下手くそ・・・今日はたまたま買い物に出たから少しは可愛い服にしていたけど普段は本当にヤバい・・・。

その生活臭みたいなものがないのかしら・・・爪だってほら、ネイルもしてないし家事でボロボロ。
女子力なんてもう要らないって思っていたから悲惨だなぁって自分のあちこちを見回していた。


「何やってんだ、お前」
「え?なんかさぁ、私っておばさんっぽくなってないかなって・・・はっ!」

「・・・ぷっ!くくっ・・・4年ぶりに2人きりになって話した言葉がそれかよ!」
「あっ、だからそれは・・・私も驚きすぎてさっきまで気にならなかったって言うか・・・!」


「やっぱり鎌倉まで待てねぇな」
「・・・はい?」


高速道路に入る手前、何処かの公園の駐車場に西門さんは車を停めた。






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