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西門さんは何処だか判らない公園の駐車場、そこの1番隅に車を停めてエンジンを切った。
ハンドルには手を掛けたまま、目は何処を見てるのか判らない・・・シーンとした空間の中でこれから何を言われるのかドキドキしていた。

子供の事だったらどうしよう・・・何か勘付いたんだろうか?そればかりが気になって私も自分の膝の上に置いた手を見つめていた。


「・・・なぁ、牧野」

急に呼ばれたからビクッとして隣を見たら、西門さんの目はまだ何も映してないようだった。車のメーター辺りを見てるけどそうじゃない・・・ゆっくり瞬きされた彼の目が漸く私の方に向けられた。


「な・・・に?西門さん」

「お前にとっての4年間って・・・どうだったんだ?正直に答えてくれ。俺を忘れようとした事はあるのか?もう過去にして別の生き方を俺以外の男とって・・・そんな風に考えた事あんのか?」


西門さん以外の人と?
もしかしたらそれは美作さんの事を言ってるの?
でも、彼には大事な奥さんが居るんだよ?確かに友人以上の優しさをくれたけど、やっぱりそれは西門さんの事があったからだと思うし。
それほど私が美作家に居た事がこの人を苦しめた・・・親友に裏切られたという思いが消えないんだ。


「・・・西門さんの事を忘れようとした事はある。何度もあるよ・・・それこそ毎日そう思ってた」

「・・・・・・そうか。あれだけの事をされりゃ当たり前か」

「でも出来なかった。何処に居ても誰と居ても、忘れなきゃいけないって考えながら余計に顔が浮かんだの。声が聞こえるような気がして振り向いたことも何度もある・・・忘れる事なんて出来なかった・・・よ」

「・・・牧野?」


「会いたかった・・・夢の中じゃなくて、ちゃんと会いたかった。でも会えば西門さんが家を捨てるかもしれないって、本当にそう思ったから会えなかったの。探してくれてることも知ってたし、凄く辛い思いをしてるって美作さんが苦しそうに話してくれてたの。
それでも時が経てば私の事を忘れてお家元の跡を継いで・・・西門流のトップに立って頑張るんだろうって、私はそれを遠くから見られればいいって・・・!」


流さないように堪えていた涙がまた溢れ出す・・・西門さんを目の前にして何を言っていいのかも判らない。
口から出る言葉なんてさっきから同じだ。

伝えたいことは沢山あるけど頭に浮かぶ言葉なんてそれしかなかった・・・会いたかったって。


今度は西門さんの手が私の頬に触れる・・・・・・あぁ、4年も待ってた温かさだ。
気が付いたら彼の手に自分の手を重ねてる。男の人とは思えない綺麗な手・・・4年経っても何も変わらない優しい手。

私の手の下で彼の手が涙を拭ってくれる。その手に自分の顔を擦り付けるように寄せていくと、運転席の彼の目が少しだけ細くなって笑ってる。
拭ってもらっても次から次へと流れる涙で私の顔はぐしゃぐしゃなはずなのに、それでも西門さんから視線を外すことが出来なかった。駐車場の防犯灯の明かりが入らなければいいのに、丁度私の顔を照らしてるから恥ずかしくて堪らないのに・・・。


でも、次の瞬間・・・この人に奥さんがいる事を思い出した。


「・・・ダメだよ、この手・・・私に触っちゃダメでしょ?」
「なんで?」

「だって・・・だって、この手は・・・」
「紫の事言ってんのか?」

「・・・・・・お、奥さんだもん」

それまで重ねていた手を今度は引き離そうとしたけど西門さんは離そうとはしなかった。
それどころか身体を捻って私の腕を引き寄せ、その胸の中に・・・私は西門さんに凄い力で抱き締められていた。


前と同じ彼の香りがする。
西門さんの心臓の音・・・私と同じで凄く速い。
耳にかかる彼の吐息に背中がゾクゾクする・・・「牧野」って小さな声で呼んでくれた、その低い声に身体が熱くなる。


「ばーか・・・そんなの書類上の名前だ。俺の心は余所見なんてしてねぇって・・・」
「で、でも・・・!」

「確かめさせてくれよ、お前が俺のものだってこと・・・他の事は全部抜きにしてお前の全部が俺のものだって言ってくれ」
「・・・西門さん?」


「じゃないとここで襲うぞ・・・」
「えっ!何言ってるの急に!」


驚いて顔を上げた途端に塞がれた唇・・・・・・それを拒む事なんて出来なかった。




*******************




牧野の気持ちを確かめた後は鎌倉に車を走らせていた。

お互いに目を見て話せない状況じゃ言葉なんて出ないから、牧野も俺も黙っていた。
少しだけさっきと違うのは悔しかった気持ちが薄れて来たこと・・・今度は会えた喜びが俺の中で膨らんできたことだった。

「あっ・・・この道を右に登っていくの」
「ここ?確かに知らねぇ場所だな」

「・・・もう少ししたら左に・・・あ、見えてきた。この道の突き当たりがおば様の別荘なの」


牧野の案内でついた家は想像よりも小さかった。
だが夢子おばさんの別荘ってだけあって凝った造りの洋館。ここも花が沢山植えられてて庭木も多く、暗がりでも判るぐらい付近の家とは様子が違っていた。

その屋敷の駐車場に車を停めると、牧野が急いで降りてドアの鍵を開けてる。

「あ、あのさ、少し待っててくれる?まさか男の人が来るとは思わなかったから部屋の中、確認してくる!」
「俺は別にお前の下着が干してあっても関係ねぇけど?」

「そっ・・・そっちが良くても私が嫌なの!お願いだから少し車で待ってて?」
「車で?どうしてそこまで避けるんだよ・・・怪しいな」

「もうっ!すぐだから・・・すぐ!」


牧野が部屋に入ったらすぐにそこら中の窓に灯りが点いた。

その光を頼りに庭の方に行くとそこにも花壇があってちゃんと花が育てられてる。
牧野が育ててるのか、小夜って言う使用人が育ててるのか判んねぇけど、冬にでもよく咲くクリスマスローズやノースポール・・・夜だから花は閉じてるけどきちんと管理されてるようだ。

それにこの庭のずっと向こうは海だろうか・・・灯りが見えない漆黒の景色がそれを感じさせた。


「西門さん、いいよ・・・玄関からどうぞ」
「あぁ、判った」

少しだけカーテンを開けて牧野が赤い顔して俺を呼んだ。
隠したいものでもあったのかな・・・なんてくだらねぇことを想像してしまうけど、こいつにとっても4年ぶりだから慌てるのも無理ない。そう思うことにして玄関を開けて中に入った。


「ど、どうぞ・・・あの、こっちがリビングでね、私の部屋は向こうで・・・」
「じゃあお前の部屋に行こうか」

「えっ!リビングじゃないの?」
「・・・やっぱり怪しいな。何隠そうとしてんだよ」

「そんなんじゃないけど、あの・・・昔と変わらず女の部屋じゃないみたいで、可愛くも何ともなくて、殺風景でね・・・」
「そんなの構わねぇって。お前と2人なのにリビングの方が落ち着かねぇって」


室内はおばさん好みのカントリー調で家具も家電もきちんと揃えられている。
リビングだと言われた部屋にも応接用のソファーもあって壁には絵も飾られ、ヨーロッパで手に入れたような置物まであった。

それなのに何だろう・・・大人だけの空間に感じなかった。
夢子おばさんの趣味だから?

いや、それだけじゃない何か・・・何処か甘ったるいむず痒さをここでも感じた。


「・・・じゃ、どうぞ。お茶、煎れてくる」
「俺がやろうか?」

「ほんと?!」
「あぁ、4年ぶりだ。釜じゃねぇけどな」

「ううん、それでも嬉しい!」


馬鹿野郎・・・その笑顔は反則だっての。
茶を煎れる前にもう1度牧野を思いっきり抱き締めた。


この時、もう4年間の蟠りはなくなった・・・俺の心の中に忘れかけてた温かい血が流れてる、そんな気がしていた。





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