FC2ブログ

plumeria

plumeria

縋っていた椅子から腰を上げ、俺に背中を向けてる司の前に向かった。
少し驚いたような顔で俺を見上げ、その目は変わらず鋭く光っていた。


「偶然あいつの事を知って会いに行った時、自分の事を『華』って名前だと言って牧野つくしなんて人間は知らないって言ったよ。何をやっても牧野そのものなのに、そんなの全部判るほど嘘がつけないクセに、小さな仕草も独り言も全部昔のままなのに今でも俺とは『華』でしか会わないよ。
その時の苦しそうな顔・・・司も見てきたらいい。教えてやるから店に行って来なよ」

「何だと?」

「自分の目で見たら判る。牧野はお前が言った事を、多分今でも守ってる・・・牧野としては俺と会わないってね。パソコン、借りるよ」

「おい、類!」
「黙ってな、すぐに済むから」


司の机のパソコンを操作し、藍微塵の場所を表示させた。
司もその画面を睨みつけ、それが何処なのか考え込んでる。

そうだろうね・・・俺達が足を運ぶような場所じゃないんだから。ボディガードから言葉で聞いてるだけだから想像も出来ないんだ。


「行くなら1人で行くこと。俺に付けてたボディガードなんか連れて行くなよ、そんなに人が入れないから。
あまりに小さい店だからお前の差し向けた奴等も俺が何処に消えたか判らなかったんじゃないの?そして其奴らが牧野の事も見付けられないのは・・・お前が会えば判ると思う。それを確かめな」

「・・・この俺が裏通りの飲み屋なんかに行くと思うのかよ」

「行かなきゃ判んないと思うよ。そしてそうさせたのはお前・・・少しはあいつの苦しみが判るんじゃないの?」

「偉そうに言うな!俺が味わった屈辱がお前に判んのかよ!!信じてた数年間の間に他の奴に心変わりしたなんて、発表寸前にそんな馬鹿なことを抜かしやがったんだ!!許せるわけねぇだろう!」

「・・・・・・!!」

いきなり椅子から立ち上がり右の拳が俺の顔面目掛けで飛んで来た!
それを瞬時に交わしたけど、今度は左から・・・!それも交わして司の伸ばした腕の下に潜り込み、今度は俺がこいつの顎に向かって拳を打ち付けた!

その一発ぐらいじゃ倒れるはずもなく、すぐに下から再び右手の拳が来て俺の腹にヒットし、尚更抉るように突き上げられた!
「ぐっ・・・!」と呻きが漏れたけど俺も倒れる訳にはいかない・・・!
司が腹を抱え込んでる俺の背中に腕を振り下ろそうとしているのを踞ったまま確認し、その腕が降ろされる直前に右足でこいつの脇腹を蹴りあげた!

「ぐわっ!」と司も鈍い声を出した!
お互いにハァハァと息を荒くしてやられた場所を押さえ込み、それでも次の攻撃に備えて身構えた。


「司、屈辱ってなんだよ・・・牧野、正直になっただけだろ?」
「・・・なんだと?」

「・・・牧野だって悩んだんだ。お前との事も真剣だったから相当悩んだはずだ・・・でも、一生お前も自分も騙せないって思ったから必死に伝えに行ったんだよ。電話で済ませようと思えば出来たのに、自分の口で伝える為にアメリカまで行った牧野の気持ちも考えてやれよ!」

「それがなんだ・・・裏切った事に変わりはねぇよ!この俺がどれだけみっともねぇ姿を晒したと思うんだ!ババァや重役にどれだけ嘲笑われたと思う?!前日に女に逃げられると誰が思うってんだ!」

「逃げたんじゃない!向き合ったんだって!!」

「うるせぇ!!どうせお前が牧野を唆したんだろうが!!」
「そんな訳ないだろう!俺は牧野が笑ってくれてたらそれだけで良かった!お前が幸せにしてくれるならそれでも構わなかった・・・離れて見守る覚悟でフランスに行ったよ!」


・・・正直じゃないのはお前だよ、司。
本当はみっともない姿を晒した事も、親に嘲笑われた事も何ともないんだよ。

司も牧野の事を忘れられないんだ・・・どうにかして元に戻りたいって思ってる。
だから探すんだ。そして俺を遠ざけようとするんだ。

言葉では自分の立場を口にするけど、お前も欲しいのは牧野の心だけ。あの頃に戻りたいんだ・・・毎日2人で笑い合ってたあの頃に戻れないかって考えてるんだ。


でも、ごめん・・・俺はもう戻らない。
あの頃に戻って牧野の笑顔だけ見てるなんてもう出来ない。


「司と牧野が別れたって聞いてすぐに牧野を探したけど居場所が判らなかった。お前にも連絡したけど掴まらない。
この2年の間に何が起きたかを知りたくて総二郎にもあきらにも頼んで調べたけど答えは出なかった。そして俺も腑抜けたみたいになって何も出来なくなった・・・結局俺は牧野が笑ってるって確信できないと何も出来ないって気が付いた。
それで決心したんだ。牧野は俺が守る・・・絶対に探し出して俺が傍に居てやろうって決めたんだ」

「・・・お前等の事は信じられねぇ」

「だから自分の目で確かめて来いって言ってるんだ。そしてお前の言葉で解放して欲しい・・・じゃないとあいつは元の牧野に戻れない」

「・・・・・・」


「俺も今は牧野に避けられてるんだ。2度と店に来るなって叫ばれてるからこれ以上近寄るとまた逃げるよ?今度こそ牧野、本当に俺達の前から居なくなる、そうなる前に早く解放してやれよ」


ここまで話したら後は司に任せるしかない。
今も黙って俯いてる司に背を向けてこの部屋を出ようとした。

ドアに手を掛けたところで振り向き、最後の質問・・・


「司・・・大河原との婚約って本当なのか?」

「・・・あぁ、ババァがそんな事言ってたな」

「・・・もし、それがお前の意に反する事なら2年前の牧野のようになってもいいんじゃないの?仕事の契約とは訳が違う・・・自分に嘘ついて一生過ごすつもり?」

「俺にとってはそれも仕事上の契約と変わんねぇよ・・・」

「それなら牧野の事は?あいつと結婚しても仕事は来なかったと思うけど」
「喧しい!さっさと帰れ!!・・・2度と花沢とは共同事業なんてしねぇからな!この道明寺に楯突いたことを後悔させてやる・・・世界中から花沢の名前を消してやるから覚えてろ!」


「はいはい・・・」


牧野、ごめんね。
あんたが怖がってるのは判ってるけど、もう1回こいつと向き合ってやって・・・

それが終わったらあんたの所に迎えに行くから。
何も怖くなくなったら「華」を卒業できるよ。


「痛っ・・・やっぱり人間じゃないな、この馬鹿力!ホント、痛い・・・」


脇腹を押さえ込んだ俺は、廊下に居並ぶボディガード達の前を通り過ぎ、ハイグレードなビルを後にした。




*****************




「華ちゃん、辞めるってホント?」
「えぇ、もう今月いっぱいでね。お世話になりました」

「どうして?楽しそうに働いてたじゃん!あっ・・・給料か?マスター、考えてやりなよ~!」
「あはは!川崎さん、そんなんじゃないってば!何か作りましょうか?」


常連さん達にも辞めることを話し始めた事で、気分は幾分すっきりしてきた。

今度こそ何もかも捨てて生まれ変わろう・・・東京から離れて田舎の小さな街で私らしく生きよう。
背伸びも今月まで、このお化粧も今月まで、派手な服もネイルも今月まで・・・華としての生活は今月末までだ。

引っ越しの準備は半分済ませた。
新しい場所が決まらないから作業は中断してるけど、急いで行き先を決めなくちゃ・・・ね。


バタン・・・・・・ドアが開くと急いで振り返る。
マスターが「いらっしゃいませ」と言ったのは、このお店に初めて来た人達だった。


馬鹿だよね・・・ここまで決心してもドアが開く度にドキドキするなんて。
もう会えないんだよってあれだけ言い聞かせても、心の奥の方では今でもこんなに待ってるんだ・・・ドアを開けてくれるのがあの人だって期待してる。

馬鹿だよね・・・2度と来ないでって言ったのは私なのに。

ホント・・・大馬鹿だよね。


「いらっしゃいませ。初めまして、華と申します。お酒、作りますね!」






f1e738dbfedd2d7b08f574f8149b6a87_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/13 (Sat) 09:39 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/13 (Sat) 09:50 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/13 (Sat) 10:45 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます🎵

meimei様 こんにちは!

お久しぶりです~!お元気でしたか?(笑)
私も忙しかったです💦

やっと4月・・・まだ落ち着きませんけど頑張っています!

あはは!来てくださってたんですね?
喜んでいただけて嬉しいです♥

いつでも待ってますよ~!

2019/04/13 (Sat) 18:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは!

あはは!それは怖いですねぇ💦
坂本さんなら容赦しそうにないですけどね・・・確かに速効倒産ですね💦

尾行していた人もつくしちゃんじゃなくて類君にくっついていたから坂本さん、セーフでしたね・・・。
そこは私も無視していたけど、会わせてみたかったな(笑)

やっぱりあきら君はそうなんですね(笑)
旦那様にするならあきら君ってよく言いますもんね!

でも、私は旦那様には○○○○で、○○○○には愛人になってもらいます(笑)
さて、どっちでしょう♥

2019/04/13 (Sat) 19:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様 こんばんは!

そうそう!後で気が付いたんですけど、こっちの話で類君と司君、あっちの話で総ちゃんとあきら君が・・・あ、あきら君殴られただけだ(笑)
でも、同時に殴り合いがあったのねぇ💦

と、驚いてしまった(笑)

あらら!いい男の殴り合いは美味しいのですね?(笑)
ここ、類君が一発、司君が2発なんですが・・・痛がってるのは類君だけ💦
流石司君です・・・超合金で出来てるのね・・・きっと。

間に合わなかったら・・・トホホ!ですね(笑)

2019/04/13 (Sat) 19:45 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply