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それから数日後、今日が私の最後の出勤日。

いつもより念入りにお化粧して付け睫毛もつけて、ピンク色の髪を巻いてフワフワにした。
イヤリングは1番目立つものにしてブレスレットも太めのチェーンにしてみた。ネックレスはイミテーションだけどとにかく光るヤツ・・・寂しげな私の首元を少しでも豪華に見せるために。

服は最後だから真っ赤なワンピース。デコルテラインが広めのちょっとセクシーな感じ・・・着るのが私だからそんな風には見えないけど大人っぽいものにした。
華は元気にあの店を卒業するんだって・・・お客さんには明るく笑ってお別れを言うんだ、そう決めてるから。


「ハク・・・夕方に家を出るのは今日が最後だよ。明日からは家に居るからね」
「ピピ・・・」

「行ってきます。いつもありがとう・・・ハク、あんたが居てくれて助かってるよ」


クスッ・・・ハクは今日の私が嫌いみたい。
1回鳴いてくれたけど、その後は無視されちゃった。


「このハイヒールもこれで最後だな・・・」

持ってる中では1番高いピンヒール。今日は転けて捻挫しませんように・・・なんて呟きながら足を入れた。

こんな夕方にこの道を歩くのも今日が最後だ。
いつものように鼻歌を歌いながら役立たずのギラギラバッグを振り回してバス停に向かった。


**


真由美ちゃんも「今日は絶対来る」って言ってたけど、また子供が風邪を引いてお休みらしい。
「明日来たら宜しく言っておいてね」って真由美ちゃんに選んだサマーセーターと子供用の帽子をマスターに渡した。


「・・・今日はお客さん、たくさん来るかなぁ。私ね、馴染みの人が来たら渡そうと思って男性用のハンカチを何枚か買ってきたの。それって大丈夫かしら。ハンカチなら家で揉めないでしょ?」

「・・え?あぁ・・・うん、大丈夫だけどね」

「どうかしました?マスターが元気ないのね。次の人が決まってないの?」

「ははっ・・・そう言う訳でもないけど」


元々そんなにお喋りな人じゃないけど今日はいつもより口数が少ない。
2年間も私を助けてくれたのに、急に辞めるなんて言ったからがっかりしてるのかな・・・黙ったままグラスを綺麗に並べてるマスターの横顔を見てるとそれ以上は言葉が出せなかった。

それなら何かおつまみの下拵えでもしようかな、と裏に入ろうとしたらマスターに「今日は何もしなくていいよ」って止められた。
・・・これはいつもの事なのにどうしてだろう。

誰も来ないお店の中で2人・・・しなくてもいい掃除をしながら小さく流れる音楽だけ聴いていた。


それにしても誰も来ない・・・。
時計を見たら午後8時。普段なら早いお客さんが来てる頃なのに、私が最後の日に限って誰も来てくれない。カウンターに座って入り口をじーっと眺めていたら、マスターが表に出ようとドアに手を掛けた。


「え・・・マスター、何処に行くの?」
「ん?・・・すぐに戻ってくるよ。華ちゃん、そこに居てくれよ」

「は?え、えぇ・・・そりゃまぁ居るけど」

「悪いね」

そう言って仕事の格好で外に出ていってしまった。
こんな事始めて・・・マスターが私を独りにして出ていった事なんて今まで1度もなかった。それに驚いてポカンと口を開けたまま入り口のドアを見つめていた。

何をしに行ったんだろう・・・着替えたわけでもなく、何も持ってなかったのに。誰かと待ち合わせ?それとも・・・って色々想像しているうちに足音が聞こえてきた。
「なんだ・・・本当にすぐだったのね」とそ、の足音を聞いて安心したから入り口に背中を向けて氷の準備を始めていた。


ギィッとゆっくり開いたドア。
カツカツと聞こえた足音がマスターにしては甲高いなぁ・・・なんて。



「・・・・・・牧野か?」



・・・・・・その声にビクッとしてアイストングが手から落ちた。


その声・・・まさか?

まさか・・・あいつが来たの?だって「牧野」って言った・・・確かに「牧野」って言った!
でも怖くて振り向けない。私は背中から来る鋭い視線を感じながら震えていた。


どうしてここが判ったの?花沢類が教えたの?どうして・・・どうしてなの?!


「おい、返事しねぇのかよ・・・お前、牧野だよな?」
「・・・・・・ど、どなたかとお間違えですよ、お客さん。私の名前は華です。牧野なんて・・・そんな名前知りません」

「馬鹿か?そんな嘘がこの俺に通用するとでも思ってんのか!このド阿呆!」
「乱暴な人ね・・・こんな店に来るような人じゃない気がするわ。お帰りになったら?」


振り向けない・・・あの時に見た恐ろしい目を思い出して振り向く事なんて出来なかった。
そうしたらまたカツカツと革靴の音がしてあの人が近寄って来たみたい。ガタンと椅子が引かれてギシッ・・・と撓る音がした。


凄く近くで感じる気配・・・・・・私の真後ろに道明寺が居る。



*********************


<side司>

「酒・・・」

「・・・え?」
「酒だよ、酒!ここは酒を飲む店だろうが」

「は、はい・・・少し待ってください」


類が教えた飲み屋・・・来たこともねぇ街の裏通り、寂れた古いビルの間を歩いて辿りついた場所は、狭い道にゴチャゴチャと訳判んねぇ店が汚い看板を並べてる辛気くさい所だった。
「藍微塵」・・・そこに来てみれば昔の牧野とは思えねぇ派手な女が1人カウンターの中に背中を向けて立っていた。

髪の色も服装もまるで違う。それでも牧野だとすぐに判った。


落ち込んだ時に丸くなる背中、少し撫肩で細い腕・・・首を傾けるのは決まって右側。
今まで1度だってこいつを見間違った事なんてねぇ。その俺が牧野だと思ったんだからこいつは牧野だ。

だから見張らせていたうちの連中には判んねぇって事か。
昔の牧野の写真を見たってこいつを捜し出せる訳がねぇ・・・だから類にしか見付けられなかったのか、とこいつを見たら納得出来た。


酒を頼んだのにピクリとも動かねぇし振り向きもしない。
こいつをジッと見ていたら正面の棚に「花沢」のネームプレートが掛かった酒のボトルを見付けた。

「・・・迷ってんなら類のボトル出せ。俺の飲むような酒じゃねぇだろうけど我慢してやる」
「類・・・あぁ、花沢さんの、ですね」

「いつまで下手くそな芝居してんだ?さっき店の男が出て行っただろう。今夜この店は俺が貸し切ってんだよ。だから誰も来ねぇしあの店主も当分帰って来ない。牧野・・・ここには暫くお前と俺だけだ」

「・・・うそ!」

「なんで俺が嘘つかなきゃいけねぇんだよ。いい加減こっちに顔向けろ」


恐る恐る・・・先に顔だけ横に向けた。
自前の睫だってバサバサしてたのに余計なもの付けやがって・・・横顔で見えた馬鹿みたいに長い睫にムカついた。

次に身体を横に向けた。
相変わらず厚みのねぇ身体してんのに胸の開きが広い服・・・逆にブカブカで余計広がってんじゃないのか?
そんな服で客の前に出てんのか・・・全然似合わねぇ、とこれにもムカついた。髪だってなんでそんな色に染めたんだ・・・真っ黒でさらさらで綺麗だったのに。

そして類のボトルを取り出して漸く俺の前に立った。


「・・・なんだ、その顔。自分に似合ってるとでも思ってんのか」

「・・・・・・思ってなんかないよ」


真っ赤な唇なんて見たこともねぇ。
紫色の瞼だってお前の童顔には似合うわけがない。デカい目に黒いラインして何処まで強調すりゃ気が済むんだ?
俺はお前に本物しかつけさせなかったのに・・・なんだ、そのネックレス。誰が見てもニセモノじゃねぇか!いつからそんなデカいピアス付けるようになったんだ?手首から落ちそうなブレスレット・・・お前の貧相な腕には似合わねぇってんだよ!

気持ち悪い真っ赤なネイルはババァみてぇだった。
その指がグラスに氷を入れてボトルの栓を開け、酒を注いでいく・・・俺が知ってる限り最低なホステスの仕草だった。


「・・・はい、どうぞ」
「無愛想なホステスだな。こんな店じゃその態度でも雇ってもらえんのか」

「いつもはもっと愛想良くしてるよ。道明寺が急に現れるからでしょ。どうして来たのよ・・・まだ何か言いたいことがあるの?」
「別に・・・ただここに来れば面白いものが見られるって聞いたから来ただけだ」

「面白くも何ともないくせに・・・笑いに来たんでしょ」


何だよ・・・そのシケた面は。
そんな顔してあれからずっとここに居たのかよ。


で、そんな顔にさせたのは・・・この俺だってのかよ。






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2019/04/14 (Sun) 01:03 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/14 (Sun) 01:27 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/14 (Sun) 05:53 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/14 (Sun) 06:29 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様 こんにちは!

あははは!そうですか?!
いやぁ・・・判っていただけるでしょうが・・・ホントに彼が判らないのよ💦

どう言う言い回しする人なのか、どう言う態度に出る人なのか・・・?

しかも私凄く悩むんだけど、東日本と西日本?関東と関西?って「馬鹿」と「阿呆」の感じ方が違うって聞いたことがあるんですよ。
それがイマイチよく判らない・・・。

だから関東のお話しに「阿呆」は良いのか悪いのか・・・気にしすぎかな?(笑)


え、マスター・・・そうね・・・。

・・・お金掴まされたんですよ(笑)5億ぐらい?ふふふふ、このマスターもお金に負けたのよ(笑)
それでcantabileを立て直して、長崎にも新しい店作って、3兄弟が楽しい老後を送るんだと思います♥

2019/04/14 (Sun) 14:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんにちは(笑)

楓さんが優しくなったようなコメントありがとうございます。
お母様のお説教かと思って、思わず笑ってしまった💦

素直に聞くかどうかは判りませんが・・・ここで事件を起こすようなことはないと思います。

(いや、どうだろう💦)

つくしちゃんを解放して欲しいですね・・・(いや、どうだろう💦)

2019/04/14 (Sun) 14:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは。

春は眠たいですもんね(笑)私は仕事中が1番眠いです・・・。
ミシン掛けてると寝ないけど、針仕事していたら気が付いたら寝てます(笑)

夜になったら元気になる・・・ある意味不健康な生活です💦

ねぇ!ハンカチ・・・全部司にあげたらいいのに(笑)
「要らねぇよ!」って投げられそう💦


そうそう、向こうも再会しちゃったし、こっちもねぇ(笑)
ここで凄い問題が起きたんですよ・・・。

何か判ります?
こう言うお話しで再会したらどうなるか・・・・・・・・・(重なってるんですよ!!両方とも!!)


ヤバい・・・ヤバすぎる(笑)
(あっ!類君のお話しの再会は司君じゃないですよ?💦司君とそんな事になったら大変です!!)


しかもあんな話を始めてしまった・・・ついでにヤバい(笑)

2019/04/14 (Sun) 14:47 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

えーと・・・(笑)それだけは無理かな💦
ならないですよぉ!書けないですもん!

どれだけ格好良くしても・・・いや、格好良くならないんだけど💦そうなっても無理です。

去り際も格好良く・・・そこには気を遣います(笑)
だって司君だもん・・・得意じゃないけどイメージは落とせませんからねぇ💦


全然関係ないんですが、私の兄は生まれた時に「司」とつけられる筈でした。
でも、父が一文字を嫌がって別の名前で届け出したそうです(笑)

だから名前に「司」って字が入っています。
めっちゃ横暴で乱暴な男なんですよ!これで見た目がイケメンなら「道明寺だな!」っていつも思います。

2019/04/14 (Sun) 14:57 | EDIT | REPLY |   

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