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plumeria

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「・・・じゃあ帰るわ。牧野、絶対にここから居なくなるなよ?判ってるな?」

「うん、判ってる。何処にも行かない」

夕方遅く、もう陽が落ちてから西門さんが玄関で靴を履いている。
私はそれを目の前で見てるけど見送りには行けない。ここでお別れ・・・近所付合いなんてなかったけど、念の為に外に出て見送らないと2人で決めたから。


さっきベッドの中で話し合った。

小夜さんとは来年と言わずにもうここで離れること。
西門さんはそうじゃないとここに来ることが出来ないって言ったから。これからも時間が出来たら私の所に来るから、その時には他の人が居ない方がいいって・・・そう言った。

この家から逗子の研究所までは西門さんが手配した個人タクシーが毎朝毎夕送り迎えをしてくれる。バスや電車でもいいって言うのに「ダメ!」の返事だった。
美作さんの家に行く時にもそのタクシーを呼ぶようにと。その車も西門さんの手配だったけど、ここでも慎重になって「美作」の名前を使ってるらしい。

素直には喜べないけど、4年も逃げた私には反論も出来なくて西門さんの指示に従うことにした。


もう靴も履いて帰れる状態なのに玄関から出て行かない彼・・・その姿を見送る私の頬に涙が溢れたからかもしれない。
もう1度傍まで来てそっと抱き締めてくれた。

「泣くな・・・」って耳元で低い声が私をもっと泣かせてしまう。
この手を離したくなくて服を掴んだら西門さんも切なそうに悲しく笑った。


「突然仕事休んだからしばらく動けねぇかもしれない。でも空いた時間が出来たらここに来るからな」

「奥さんは・・・それをどう思うのかしら。大丈夫?」
「あきらの名前出して酒でも飲みに行くことにするから大丈夫だって。屋敷じゃない場所にガレージ借りて新しい車を用意しとくよ」

「無理しないで?私はここに居るから本当に暇な時でいい・・・それが1ヶ月に1回でも構わないから」
「ばーか!俺がそんなの我慢出来ねぇだろ?心配すんな、そんなヘマはしねぇから」

触れるだけのキスを1回・・・それが離れたら我慢出来なくてもう1回。


彼が玄関のドアを開けて振り向いたら・・・やっぱり悲しくなって背中に飛び付いてしまったから、慌てた彼がドアを閉めて今度は強く抱き締めてくれた。

その力で息が出来ないぐらい!
だけど緩めないでと願いながら西門さんにしがみついた。


「・・・帰れねぇじゃん」
「ごめん・・・ごめんね、西門さん」

「いいけどさ・・・すげぇ嬉しいけどさ・・・これが最後じゃねぇし」
「うん、うん・・・待ってるから」


手が離れる瞬間の淋しさ・・・彼の香りが遠のく淋しさ。

違う人が待つ家に帰る西門さんの車が走り去るのを玄関の内側で聞いていた。



その日の夜に戻って来た小夜さんは、もう自分がこの別荘から引き上げることを知っていた。恐らくここを出た後に西門さんが美作さんに申し出たんだろう。
だから少しだけ淋しそうにしていたけど「良かったね」って笑ってくれた。


「でも紫音達の事はまだ・・・」

「うん。あきら様から聞いたよ。話せば良かったのにって個人的には思ったの。西門様にも全部知ってもらいたかったなって・・・でも、これはつくしちゃんの出した答えだから私は応援するしかないわ」

「あまりに突然だったから決められなかったの。でもね・・・紫音たちが美作で平和に暮らしてるでしょう?西門じゃああんな風には出来ないの。もっと厳しくて辛いことが沢山あるし、好きか嫌いかなんて問題なくお茶をさせられるの。
紫音が茶道を受け入れるかどうかなんて判らないでしょう?西門さんは自分が茶道家で有り続けることは納得してるからいいんだけど、そうじゃなかったら本当に辛い人生だと思うのよね・・・」

「初めから西門家に産まれていたら・・・あ!ごめん!」

「・・・ううん、いいの。もし私が受け入れられて西門であの子達を産んだなら絶対に支えてあげるって思うけど、今バレたら紫さんって人に任せないといけない・・・どうしてもそれが怖くて」

「ん・・・難しい選択だったね」


最後まで優しいお姉ちゃんの小夜さん。
明日になったら美作邸に戻るからって、この家に置いている自分の荷物を纏めていた。

それを手伝いながら気が付いたら2人とも大泣き・・・これからも会えるのにねって、笑いながら抱き合って泣いた。




*********************




自宅に戻って一晩不在にした事を両親に謝罪し、呆れた親父は無言のまま。
お袋は紫に謝れと小言を言ったが「何より怪我がなくて良かった」と言われ、それに黙って頭を下げた。


あきらが西門に説明した内容は・・・

『お前がいきなり美作に酒を持って現れて自分の誕生日会をしろと騒いだ挙句、酒を飲み過ぎて屋敷の階段から足を滑らせて転がり落ちた事にしたからな!
で、頭を強打したから慌てて美作の系列病院に検査入院させたけど問題はなかったって事にしてる。特別室で完全看護だし、お前の希望で面会謝絶にしてるから行かないようにって念押ししておいた。因みに病院にも万が一西門が来たら同じ事を言って断われって口裏合わせてるから大丈夫だろうと思う。
お前の車はうちの使用人が届けてると思うから、お前はその車を美作に戻してタクシーで帰れ!いいな!!』


・・・俺に3年半も嘘ついたクセに怒鳴りやがって。

でも、美作の使用人も同じ内容を告げて車を戻してくれていたから疑われなかった。ついでに紫が俺に持たせた菓子の礼も、仁美さんからだと言ってお返しの品が届けられていた。


「結婚したばかりなのに外で大暴れして病院なんて恥ずかしい!総二郎さん、自分の誕生日を喜ぶ歳でもないでしょう?」

「・・・申し訳ありません。急に美作に会いたくなったものですから」

「あきら君だって奥様がいらっしゃるのにご迷惑な・・・今度お詫びをしておきますわ」

「私が充分に詫びておいたので宜しいかと思いますが・・・」
「何を言ってるの!私達世代のお付き合いというものにも影響が出るのです!ご無礼なんて出来ません!」


思っていたとおり明日からはまた夜咄の茶事が連日行われると言われ、いずれも亭主を務めることになった。
それに西門流としての年末行事、茶道教室の行事と特別な仕事が重なり、鎌倉に行ける日はあまり無さそうだ。それでも見付かったことの安心感と電話が出来る状況は俺の気持ちを穏やかにさせた。

牧野の声は毎日聞ける・・・それだけがこの孤立した屋敷の中で唯一の救いだった。



離れに戻ると紫が出迎えた。
勿論傍には薫がいる・・・俺が一晩留守しようが此奴らには大したことでは無かったんだろう、特別咎められもせず、むしろ昨夜と同じ格好の俺を見て冷ややかに声を掛けてきた。


「お帰りなさいませ。ご自宅の他で過ごされたお誕生日は楽しかったようですわね」

「・・・まぁな。気を遣わなくていいからな」

「私になんのお気遣いもされてないでしょう?一緒の時間が無いのですもの」
「わ、若奥様、そのような事を・・・」

「そっちこそ俺が居なくて気が楽だっただろう?2人で楽しく昔話でも出来たんじゃねぇの?」


ほんの少し紫の眉がピクリと動いた。
何か触れられたくない部分でもあったのか?


俺には紫自身も何か過去に起きた出来事に縛られてて身動きが取れないように見えた。
愛情なんてものは無かったが、こいつもその呪縛から逃れられれば自分から西門を去るんじゃないのか・・・牧野に再会した事でこいつに対する気持ちすら変わったように思えて我ながら気持ちが悪かった。





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