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plumeria

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次の日、約束通り夜にあきらの家に行こうとしたら連絡が入り、紫音が熱を出したから日にちを変更してくれと言ってきた。
子供の熱なんてよく聞くこと、それに今までだと気にもしなかったのにすげぇ慌てて電話口で声が大きくなった。

「大丈夫なのか?!医者は?何かの病気持ってんのか?!」
『・・・は?だから風邪だと思うぞ?この季節だからインフルエンザだったらいけないからお前に来るなって言ってんだけど?』

「インフルエンザ?予防接種は受けてんだろ?」
『あのなぁ!うちをなんだと思ってるんだ?そう言う事は主治医の管理の下で俺達が聞く前からスケジュールが組まれてる。それにインフルエンザって決まって訳じゃないって!』

「・・・そうか。熱、高いのか?」
『38度ちょい。子供だしその熱でもまぁまぁ元気だけどな。紫音の方がよく熱を出すから本人も慣れてるみたいだけど』

「判った。またそっちの都合を教えてくれ」


『お前が慌てるな!』ってあきらには電話を切られたけど、この日の夜は何故かソワソワして落ち着かなかった。
牧野は知ってんのかな・・・なんて思ったが言うわけにもいかない。俺がそんな話をすればおかしく思うだろう・・・それに、あきらのことだからちゃんと教えるだろうし。

ただ、教えても牧野は傍には行かないんだろう。
あきらの嫁さんもいるし、美作の完全看護に任せたら素人の出る幕はない・・・。今の俺みたいに自宅で悶々と考え続けて、治るのを祈ってんのかな・・・。

あの小さな身体が熱と闘ってると思ったらすげぇイライラした。
魘されてる姿を想像して、真っ赤な顔を想像して胸が苦しかった・・・・・・今までに無い抽象的な不安に戸惑いながらベッドに寝転んで天井を睨み続けた。



そして紫音はただの風邪だったし、熱も引いたと電話があった。
だからその週の日曜の午後、あきらの家に行く事にした。
手土産は自然と子供のものと考えたが何を持って行けばいいのか全然判らず、志乃さんに適当な嘘をついて3歳児の喜ぶものを聞いた。


「そうですわねぇ・・・おもちゃや縫いぐるみでしょうか?」

「おもちゃ?縫いぐるみ・・・そんなの何処で売ってんの?」
「おもちゃ屋さんでしょう?総二郎様が行かれるのですか?あら・・・変な噂が立ってはいけませんねぇ」

「・・・どう言う意味だよ、志乃さん」


だがその意見も尤もだと、結局子供に人気のケーキ屋を教えてもらい、そこでプリンなんてものを買う羽目になった。
しかもそいつはすげぇ小さい・・・この俺がそんなものを2個って言うのが気恥ずかしくて、その店のプリンを全部買い占めた。

「ありがとうございましたぁ!」と、甲高い店員の声すら鬱陶しい。
すげぇ可愛らしく包まれた箱を抱えて急いで店を出たが、誰にも見られてねぇよな?と辺りを窺う姿・・・そいつをガラス窓で見てしまったが、すげぇ怖い顔になってて自分で驚いた。

ヤベ・・・こんな顔で子供に会うわけにはいかない。ビビって逃げられる・・・。


そんな馬鹿な事を考えながらも車を美作に向けて走らせる間中、ずっと頭の中には双子の顔が浮かんでいだ。
もう1度あの子達を見たい・・・ワクワクするようなゾクゾクするような不思議な感覚だった。



屋敷に着いたら今日はインターホンを押し、門を開けてもらった。

俺の定位置に車を停めると今日もその横にはあのベンツのファミリーカーがある。
成る程・・・今だと納得するこの車。小さい子供が居たらこの方が便利だったって訳だ。

それに昼間だからこの前付けられた電飾は光ってないが、取り付けられた様子を見ると今年もド派手にやるつもりだな、と呆れるぐらいのLEDランプの数。
あの子供っぽい花壇もそう・・・この屋敷に小さな子供が居ると感じさせるには充分だ。

あの日と同じような光景を眺めながら、今日は真っ直ぐ玄関に向かった。



美作の使用人が玄関を開けてくれたが、その女性が俺の事をジッと見た。
小柄で30中半ぐらいに見えるがまぁまぁ可愛い感じの女性・・・何故そんなに見つめるのかと俺もその人を見下ろしたら、ニコッと人懐っこく微笑まれた。

「西門総二郎様ですね?私、中原小夜と言います。初めまして」

「小夜・・・あぁ、もしかして牧野の・・・鎌倉で暮らしてた?」
「はい。牧野様と一緒に暮らしていました。今はこのお屋敷で働いております。あの・・・牧野様にあれから会っていらっしゃいますか?」

「いや、あれからは鎌倉に行けてねぇんだ。あの日、1日サボっただけで山ほど仕事を押し付けられてさ。あいつから色々聞いたけど、あんたにも迷惑掛けたみたいで悪かったな」

今でも牧野の事を凄く心配してるんだろう。
俺が行けてないと言うと不安そうな顔でエプロンの端を握り締めた。牧野の事はこの屋敷ではどれだけ知らされているのか判らなかったが、やっぱり周りを気にしながら小さな声で話してきた。


「いえ、とても楽しく過ごしましたから・・・あの、牧野様はすぐに元気なフリをするから気をつけてあげて下さいませ。何かあったら私に連絡するようにって・・・あの、ご飯も油断したら食べないから確認してあげて・・・あっ!ごめんなさい!」

「・・・あぁ、判ってる。一応、あいつの事は学生の頃から見てるからな。電話だけは毎日掛けてるから、あんたが心配してたことは伝えるよ」

「牧野様・・・本当にいつも東京の方を見ながら涙を流されてました。西門様に凄く会いたかったんだと思います・・・。
私が言うのも変ですけど、連絡しなかったことは許してあげて下さいませ。思い出だけでいいって毎日笑ってましたけど、本当はそうじゃないんです。西門様と一緒に暮らしたかったんだと思います。こんな事、言える立場じゃないんですけど・・・守ってあげて下さい。いつか・・・いつか、牧野様を・・・あっ!また、私ったら・・・申し訳ありません!」

「いや、ちゃんと考えてるから・・・その為にまた少しあきらの力も借りようと思ってね」


使用人の立場で出しゃばったと何度も頭を下げてはいたけど、その後もやっぱり牧野の事を宜しくと涙声で頼まれた。
そして小夜の案内でリビングに向かうと・・・・・・紫音と花音が居た。


「あっ!そじろおにいちゃんだぁ!」
「うわぁーい!そうちゃんだぁ!!」

そうちゃん、そう叫びながら遊んでいた場所から飛び出してくる。紫音は病み上がりだなんて感じさせないほど元気だった。


そして、やっぱり間違いねぇな・・・そう思った。

あの嬉しそうに走ってくる顔は牧野そのものだ。自分ではよく判んねぇけど、俺にも何処か似てる・・・思い込みじゃなく、俺の身体の何処かが確信してる。
この子達には俺の血が流れてるって、そう訴えかけてくる。


「よっ!元気そうだな。これ土産だ、仲良く食べな」

「なぁに?うわぁ!プリンがこんなにあるっ!ママァ!!」
「すごぉ~い!そうちゃん、ぷりんやさんのひと?」

「プリン屋・・・?」


これが普通のガキだとムカつくのかもしれねぇが、自分の・・・と思うと可愛らしいとは不思議なもの。紫音に菓子の箱を持たせて、それを追って行く花音の揺れる髪を見ていた。

ただ、「ママ」と叫んであきらの嫁さんに抱きつくのを牧野は毎回見ていたんだろうか・・・その時の気持ちを思うと笑っていた顔が素に戻った。


「・・・向こうに行こうか」

あきらが言ったのはこの前入った離れのことだ。
これから話す内容を聞かれても子供達には判らないだろうし、嫁さんにも感心はないだろうが、自分たちが集中するためにはそれがいいだろうと頷いた。

その時にも目ではあの子達を追ってる。
紫音が嫁さんに抱きかかえられて椅子に座ろうとしてる。花音は自分でよじ登ってる・・・そして俺の持って来た菓子の箱を開けて嫁さんに怒られてる。
「花音、お行儀が悪いわ」って・・・それを見ると本物の親子みたいだった。


「・・・どうした?総二郎」

「あ、いや・・・何でもねぇよ。元気じゃんって思っただけだ」

「子供なんて熱が下がればケロッとしてるさ」


嬉しそうな顔してスプーンを持った・・・テラスに出る直前までその光景から目が離せなかった。




**********************


<sideあきら>

総二郎が双子を見る目が変わった、それにすぐ気がついた。

そもそも俺に子供が居るからって菓子なんて持ってくるようなヤツじゃない。
声を掛けるかもしれないけど、あんなに見つめる筈もない・・・総二郎はどっちかって言うと子供は苦手なはずだ。

純粋過ぎる存在は苦手だって昔から言ってる。
自分が仮面を被ることが多いから、無垢な子供の表情や言葉が嫌いなんだって・・・皮肉れ者のあいつらしい。


それなのに今日の総二郎は違っていた。
菓子を渡す時、双子が仁美と話す時、抱きついて甘えてる姿を哀しそうな・・・いや、少し苦笑いしながら見ていた。その表情があいつにしては穏やかで気持ち悪い。
それに熱を出したと話した時、ヤケに反応していたような気がする。何故そこまで子供の発熱で慌てるんだろう・・・あの時の動揺も凄く不思議だった。


まさか気がついたのか・・・瞬間それを疑った。


「・・・どうした?総二郎」
「あ、いや・・・何でもねぇよ。元気じゃんって思っただけだ」

「子供なんて熱が下がればケロッとしてるさ。帰りに遊ばせてやろうか?」
「は?そんなんじゃねぇって。確かに珍しいけどな・・・西門じゃこんな光景は有り得ねぇから」

「・・・悪かった。そんな意味じゃなかったんだけど」
「ははっ、気にしてねぇよ」


・・・気がついたんじゃないのか?本当に珍しいだけなのか?


話し合いの場に向かう途中、子供達の事を聞かれたらどうしようかと内心焦りながら庭を歩いていた。

牧野と一晩過ごした時も判らなかったんだろうか・・・そんなのどうでもいいぐらい夢中だったって思うのも嫌だったから考えないようにしていたし、牧野からバレたって連絡もない。
でも、次に聞かれたら俺は嘘を突き通せるだろうか・・・牧野の許しもなくこいつに全部喋ってしまいそうな気がして、身体の奥が震えていた。


背中に総二郎の視線を感じる・・・それに気がつかないフリをするしかなかった。





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