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「・・・あれ?私、何を作ろうとしたのかしら?」

アパートに帰って狭いキッチンに並べられたもの・・・それを見たら自分が如何にテンパっていたのかが判る気がした。

挽肉とお豆腐、パン粉に卵に大根に青紫蘇・・・は和風ハンバーグを作ろうと思った時に選んだもの。
むきえびにイカに鶏の胸肉、チャーシューにニンニク、生姜と、野菜はブロッコリー、ヤングコーン、生きくらげ、人参・・・これは中華料理の八宝菜もいいなぁって思った時に選んだもの。
ペンネに赤唐辛子、オリーブオイルにトマト、パルメザンチーズはペンネ・アラビアータの材料・・・?

「えっ!!どうしたらいいの?これ、思いついたもの、全部買ったの?!」


そう、フレンチは無理だって思ったんだった。
だからってこの買い物はどうなの?山のように積まれた食材・・・それを前にして腕組みするしかなかった。

それなのに自分のお昼ご飯はお茶漬け。見慣れない光景にお腹がいっぱいになって逆に食欲がなくなったみたい。
それに筋肉痛・・・特にお腹のまわりがまだズキズキするんだもの。


「ピピ・・・ピピピ!」
「うん、大丈夫・・・多分明日には元気だろうと思うから・・・いたたた、腕がっ・・・」

「ピピ・・・ピ・・・」
「・・・はっ!今日の夜来るのよ・・・まさか、今日も・・・?ううん、流石に今日は無理・・・下のおばさんに怒られちゃう。さっきも言われたんだよ?寝られなかったって」

「ピピ!ピピピ!」
「・・・あんたも五月蠅かったの?ごめんね・・・花沢類に文句言っといて?」


バカみたい・・・インコ相手に何言ってるんだか。
独り言が酷くなったって思われちゃうわ。

身体は重かったけど、少しだけ休んで食後の珈琲を飲んだらエプロンをつけてキッチンへ向かった。こうなったら悩んでも仕方ない・・・「よし!」と気合いを入れて腕をまくり、せっかくだから全部作ることにした。


お鍋もフライパンもあるものは全部使わないと出来ないぐらいの量だ。時間配分も下拵えも順序よくやらないとテーブルの上もまな板の上も食材で溢れてとんでもない事になる。
最近は藍微塵でおつまみを作る程度だったから本格的なのは久しぶり・・・ちょっとだけ不安だったけど、作り始めたらその不安はもっと大きくなった!

「あっ!お豆腐の水分取らなきゃ。それとトマトソースは先に作っててもいいよね?スープは出来そうにないから余った材料で味噌汁作ればいいか・・・。えっと、お砂糖と塩と・・・うわぁ!塩が少ないっ・・・出来るかなぁ?ああーっ!卵が割れてるーーっ!」

誰も居ないのに1人で騒ぎ続けるからハクまで大声で鳴いて喧しいぐらい。
この部屋がこんなに五月蠅いのって引っ越してから初めてじゃないかしら?って頭を捻った。

顔は・・・笑ってるけど。



夕方になったら一通り準備は出来て、ピーッと炊飯器のご飯が炊き上がった音も聞こえた。

後は彼が帰ってくるだけだ。
窓辺に立ってずっと暗くなる公園を眺めていた。

まだ帰ってくるわけないのに、子供達が遊び疲れて家に帰っていくのをずっと眺めていた。



どのぐらいそうやって待っていただろう。
気が付いたら空は紺色に変わっていて西の低い位置にオレンジ色が少ししか見えなくなっていた。時計はもう6時半過ぎ・・・花沢類が仕事から帰ってきてもおかしくない時間だけど、きっとまだ残業してるよね。

そう思ってキッチンで作ったものを温め直そうとしたら、眩しい光がアパートの方に向かってくるのが見えた。
随分大きな車・・・もしかしたらと思って窓に張り付いて見ていたら、車は公園の近くの少しだけ広い場所に停められ、ドアが開いたら降りてきたのは・・・・・・彼だ。


「うそっ、早い、花沢類!」

急いでお鍋を火に掛けて、レンジで温まるものはそこに放り投げてスイッチを入れて、テーブルの上のものを片付けていたら昨日みたいに勢いよくチャイムが鳴った!

走って玄関に行ってドアの鍵を開けたら、飛び込んで来るなり私の視界は真っ暗!これも昨日と同じで、花沢類のスーツの中にすっぽり入って息さえ出来なかった!


「ぷはっ!・・・お帰り、花沢類」
「くすっ、ただいま、牧野」

「早かったね!びっくりした」
「そお?30分残業したよ?」

「・・・ぷっ!」
「お腹空いた。いい匂いがするね」




**************************




藤本と昼飯を食べ終わったその日の午後、あきらと総二郎にも牧野が見付かったことを連絡しておいた。
その事情と牧野の潜伏方法を話したら2人とも呆れながら笑ってた。

『マジかよ!そりゃ判んねぇわ、そんな飲み屋には行かねぇもんな。それにあいつ、酒なんて飲めねぇだろ?』
「うん、だから水みたいなのを飲んで噎せてたよ。ホステスには向かないよね」

『バカだな・・・色気もねぇのにそんな事して。でも、良かったな!後は任せたぞ、類』
「ん、大丈夫。もう捕まえたから」

総二郎とは近いうちに3人で食事にでも行こうって事で電話は切った。


『さっき司から電話があったよ。マジ、2年ぶり!急に掛けてきたから何かと思ったら仕事の話だったけどさ』
「くすっ、素直じゃないからね。今頃アメリカ行きの飛行機の中だよ」

『ロシアで仕事するんだろ?それに加われって五月蠅くてさ・・・あいつと組むと問題が起きそうだからイヤなんだけど』
「いいじゃん、誘って貰えたんなら行ってやれば?しばらく俺の顔は見たくないって言ってたから」

あきらにも全部話したら「牧野のバカ!今度帰国したら説教だな!」って怒ってた。


そして残った仕事はさっさと終わらせ、定時を30分だけ過ぎた時にはもうデスクに鍵を掛けた。
「専務、明日のスケジュール!」なんて藤本の声が聞こえたけど「明日のことは明日聞く!」なんて、企業人とも思えない言葉を残して執務室を後にした。

ロビーで社員に声を掛けられても軽い返事だけで走り抜け、駐車場に着いたら車に乗り込んだと同時にエンジンをかけて飛び出した。逸る気持ちはスピードに比例してどんどん上がっていく・・・明るく光り始めた街の灯りを横目で見ながらアクセルを踏み込んだ。

そして、アパートが見えてくると自然と顔が緩む・・・ピンク色のカーテンが半分開いてて牧野が立ってるのが見えたから。


牧野が待ってる。
俺の為に晩ご飯を作って牧野が待ってる・・・そう思ったら車を降りたのも階段を駆け上ったのも覚えてなんかいない。
チャイムを鳴らしたら聞こえてくる足音、そしてドアが開いたら何も考えずに牧野を抱き締めた!

俺の腕の中でモゾモゾ動く温かいもの・・・幸せの塊を抱き締めてるみたいでワクワクした。


「ぷはっ!・・・お帰り、花沢類」
「くすっ、ただいま、牧野。お腹空いた・・・いい匂いがするね」

「うん、ご飯出来てるんだけど、温めるから少し待ってね」
「ん、判った」


エプロン姿の牧野がキッチンに入ってく。
彼女の後ろ姿も踊ってるみたいに嬉しそうに見えた。


そして数分後・・・・・・


「・・・・・・これ、何人分なの?誰か来るの?」
「え、2人だよ?」

小さなテーブルに並べられた料理は和風ハンバーグに付け合わせのサラダ付き。その横には八宝菜とペンネ・アラビアータ。パスタが出てるのに味噌汁・・・そして出汁巻き卵。
どれもチグハグな皿にドーン!と盛られてテーブルに隙間なんて全然無かった。
「あのね、ご飯も炊いてるの」って言うけど、パスタにご飯?その組み合わせが可笑しすぎて大笑いした。


「どうしてこんなに作ったの?」
「だってぇ!花沢類が何が食べたいのか言わないからスーパーで買い物する時に悩んだらこうなったのよ。手の込んだものは作れないからさ・・・そしたら、そしたら・・・こんなになって・・・」

「くすっ、嬉しいけどこんなに食べられるかな・・・」
「働き盛りなんだから食べなきゃ!花沢類、痩せてるから」

「あんた程じゃ無いでしょ?でも、美味しそう・・・いただきます!」
「うん!食べて食べて!」


どんなに豪華なホテルのフレンチより美味しくて、2人で話しながら時間を掛けてゆっくり食べた。心配していたけど気がついたら皿の上は空っぽで、牧野と2人でまた大笑い。
最後のペンネ・アラビアータのひと口をどっちが食べるかでじゃんけんまでしちゃうほど。

結局最後のひと口は牧野が嬉しそうに頬張っていた。


「お酒、無くて良かったの?私ったらあんな仕事してたけどこの部屋にはお酒を置いたことがなくて」
「うん、酒は飲めないから要らない」

「え?飲めないって・・・花沢類、飲めるよね?」
「そう言う意味じゃなくて今からここを出ていくから」

「はっ?ここを出るって・・・あぁ、今日は帰るのね?」
「うん、あんたと帰るから飲めないんだ」

「何のこと?」
「1人だと可哀想でしょ?」

「・・・・・・意味判んない。昔から説明が下手だよね、花沢類」
「うん、じゃあ鳥籠持って?」

「はっ?!」


だってこのアパートじゃ2日連続は無理でしょ?あいつも待ってるし・・・ね。





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2019/04/23 (Tue) 01:20 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/23 (Tue) 07:05 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/23 (Tue) 14:17 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは。

あっはは!待ってたんですか?
もうないですって!(笑)

今から書いたら「雪の結晶」みたいに終わるのにRかい!!ってなるでしょ?

もうあんな恥ずかしいことはしません!!(爆)

それにハシビロコウも出ませんっ💦
(そうそう!私、神戸のハシビロコウ・フタバちゃんの動画が好きです♡会いに行くのが夢です♡)

2019/04/23 (Tue) 16:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

そうですね(笑)幸せなんでしょうね♡
確かに私も考えが纏まらないときのお買い物で、変な組み合わせになった事はありますが💦
もう相手の事を考えながら作るなんて事がないのでテキトーにします(笑)

てか、よく類君が食べましたねぇ(笑)
少食のイメージしか無いので、書きながら違和感がありました。


えっ?!なんですって?(笑)

えっと・・・ラブラブにはなると思いますが・・・その前に終わります(笑)あはは!

ええっ?!なんですって?(笑)

舞い降りてるかもしれませんねぇ♡それもご想像にお任せします💦

2019/04/23 (Tue) 17:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 早業

星樹様、こんばんは!

ご訪問&コメントありがとうございます♡
向こうの方もありがとうございました。ちゃんと読んでおりますよ~♡

類君・・・何処に連れて行くんでしょうね(笑)
残り2話になりましたので、最終話で判ります。どうぞ宜しくお願い致します。


それは気にしないでくださいね(笑)
私の100%趣味のブログです。

その中で楽しんでいただけたら嬉しいです~♡いつもありがとうございます!

2019/04/23 (Tue) 20:41 | EDIT | REPLY |   

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