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plumeria

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「じゃあ帰るわ・・・あきら、何か判ったら連絡くれ。俺も調べたいけど西門に絡むことに手を出すと親父達にバレるからな」

「あぁ、判った。宝生に潜入させている近藤に昔の使用人の居場所が判れば突き止めろとは伝えてあるんだ。もう1度探らせる・・・今度は忘れないから」

「くくっ、頼んだぜ」


俺達の会話がなんなのか判ってねぇから紫音も花音もあきらの足元で追いかけっこして遊んでる。
その無邪気な仕草が可愛くて見ていたら1台の車が戻って来た。

降りてきたのは夢子おばさん・・・俺を見るなり厳しい表情になった。


「・・・久しぶりね、総二郎君。私に会ったんですもの、もう1度中にお入りなさい」
「・・・はぁ、でも俺、戻らないと仕事が・・・」

「何言ってるの?私にだってひと言ぐらいあってもいいでしょう?あきら君、紫音たちを部屋に連れて行きなさい」
「はいはい。総二郎、残念だったな」

「・・・・・・」

確かに夢子おばさんにも、美作のおじさんにも会って話さないといけねぇけど・・・こう見えて意外と辛口な夢子おばさんは怒らせたらうちのお袋よりも怖いからな。
既にいつもの目付きじゃねぇから説教されると覚悟して、駐車場に向かうはずだった足を屋敷に向けた。


「おばあちゃま、どうしたのぉ?」
「おかお、こわい~」

「お婆さまに怖いとか言うな。お前達も説教されるぞ!」

「え~?いまからそうちゃん、おこられるのぉ?」
「なにしたの、そうちゃん」

あきらが右手に紫音、左手に花音の手を持って廊下を歩き、階段を上がりながら振り向いて俺に手を振った。俺も2人に手を振り、柄にもなく笑った・・・小っ恥ずかしいなって思うけど。
3人の姿が見えなくなったから向きを変えたら、そっちには冷ややかな笑顔のおばさんがソファーに座って待っている・・・まるで何かの生け贄のような気分でその対面に座った。


「おばさん・・・この度は牧野を助けてくれてありがとうございました。この前は気が動転したもんだから、おばさんを待たずに帰ってすみませんでした」

「私にはそんなに改まって話さなくてもいいわよ。普通にしなさい、総二郎君。だけどあきら君を殴ったのは許せないわ!あんなに口を切るほど殴って・・・驚いたんだから!」

「・・・ごめん、つい・・・」


説教ってのはそこかよ!って少し思ったが口には出せない。
27にもなる息子の顔をそこまで心配してるおばさんに驚いたけど黙って頭を下げた。

今度出されたのは甘ったるいハーブティー・・・京都の赤紫蘇茶を連想されるような味で思わず噎せた。そんな俺にお構いなしでおばさんの小言は始まった。


「つくしちゃんとは話し合ったの?」
「あぁ、ちゃんと話し合った・・・あいつは紫の事を気にしてばっかりだったけど」

「当たり前よ!気持ちは恋人でも立場は愛人ですもの。それもこれも西門のやり方に問題があるって判ってる?そりゃ守らなきゃならないものはあるでしょうけど時代は変わってるの!いつまでも江戸時代じゃないんだから柔らかい頭で物事を考えて欲しいわ!そうしたらつくしちゃんだって泣かずに済んで、総二郎君だって真面目になって、西門だって明るくなったかもしれないのよ?聞いてるの?総二郎君!」

「・・・聞いてます」

「財産なら腐るほど持ってるでしょうし、足らないなら総二郎君が死ぬ気で働いて増やせばいいのよ!
どうして名家じゃないといけなかったのか、美和子さんにも聞きたいぐらいだったけどあきら君が止めるから西門に怒鳴り込みに行かなかったのよ?!」

「・・・ホント、申し訳ない」

「女が1人で知らない土地で暮らすなんて、どれだけ心細かったと思ってるの?ただでさえ栄養失調に近いのに尚更痩せて、こっちに連れて帰ったあきら君に感謝して欲しいぐらいなのに逆に殴るなんて!」

「いや、それは知らなかったから・・・」


・・・いつまで怒られんだろう。
耳が痛くなるほど説教されて、同じ事を何度も何度も・・・でも、最終的にはあきらを殴ったことが1番許せないんだとよく判った。

ただ、あきらが羨ましくなった。
自分の為にここまで怒ってくれるお袋さんが居るんだって事・・・うちのお袋なら俺の為に顔を真っ赤にして怒るなんて事はしないだろう。逆に土下座までして牧野を追い出したんだから。


「夢子おばさん・・・あきらに手を出したことは謝る。判んなかったからさ・・・すげぇ頭にきたんだ」

「うん・・・判るんだけど」

「それと、牧野の仕事先、ありがとう。あいつ、楽しんでるみたいだからさ・・・もう少し宜しくお願いします。
俺はその間に自分の事を片付けて牧野を迎えにいけるようにするからさ、その為にあきらを借りることもあるけどそれは許してくれる?」

「・・・いいわよ。でも、1つお願いがあるわ」


やっと説教が終わったと思ったら今度はお願い?
夢子おばさんは真面目な顔してテーブルの上に置いていた自分の手をギュッと握りしめた。


「あなたの奥さん・・・紫さんって人も何かに囚われてるんだと思うの。彼女も凄く辛いのかもしれないわ。だからつくしちゃんを幸せにする事もあなたの使命だけど、紫さんの事も救ってあげて欲しいの。
会ったこともない総二郎君にはじめから挑戦的で憎しみに似た感情をぶつけるには理由があるでしょ?それを一方的に悪だと判断しないで助けてあげて?私にはその人も気の毒でならないの・・・同じような環境で育った者として判るような部分も有るのよ・・・それを忘れないで?」

「・・・判った」

「愛情は感じなくてもいいの。でも憎しみの情をこれ以上増やしちゃダメ。いいわね?」

「あぁ、努力する。ありがとう、おばさん」


2階から楽しそうな声が聞こえる。
牧野が双子をここに託したのは間違いじゃなかった・・・その理由はまだ判んねぇけど、どうしようもなかったのならここに預けてくれたのは正解だったんだと、すげぇ悔しいけどそう思う。

だからこそ、自分の手であの家を変えていかなきゃならない。
そしていつの日か牧野があの声を毎日聞けるようにしてやらないとな・・・そう強く感じた瞬間だった。




*********************




1人暮らしを初めて2週間・・・西門さんは鎌倉には来なかったけど、夜の電話は毎日のようにあって声が聞けたから淋しくはなかった。いや、正直言えば淋しかったけど夢の中で話しているわけじゃない・・・それは嬉しかった。

でも、彼の肌の温かさを思い出したから1人のベッドはやっぱり冷たい。
我儘だと判っていても次に来るのはいつだろうと考えてしまう・・・それが私達の関係が「秘密」なのだと感じさせて嫌だったけど。


「春ちゃん、最近明るくなったねぇ?何か良いことあったの?」
「え?そ、そんな風に見えますか?」

「うん!あっ・・・彼氏とか出来たの?そんな顔してるもん」
「・・・は、はぁ・・・あははは!」

彼氏・・・そう言われればそうなんだけど、素直に喜んでいいのかどうか。
ただ研究所ではまだ「田中 春」だったから誰も「牧野つくし」を知らない。西門さんもここに来ることはないから「彼氏」の存在を話したって問題はないんだけど、ほんの少し恥ずかしいのとまだ残ってる警戒心が私を臆病にする。

だからはっきり答えずに言葉を濁したけど、どうやらバレバレらしい・・・数日後には色んな人からからかわれた。

「春ちゃんの歳で恋人が出来たら結婚かな?」なんて言葉が1番辛い。
でも笑って「そうだといいけど相手の事もありますから・・・」なんて返事する、それでも多分顔は笑ってる。


**


『クリスマス・・・そっちに行きたかったんだけど夜咄の茶事を入れられてさ・・・動けなくなったんだ』

「そう・・・うん、仕方ないよ。お仕事優先で・・・私は大丈夫。声が聞けるんだから今は平気だよ?」

『俺の方がダメなんだって!その代わり28日は休みもらってるからそっちに行く・・・多分泊まれると思う。だから待っとけ』

「・・・うん」


クリスマス用に研究所からもらったポインセチアとシクラメン。
小夜さんと毎年飾った小さなクリスマスツリー・・・本当は準備していたけど仕方ない。


その後すぐにやってくる私の誕生日。

西門さんが来てくれる・・・カレンダーに赤いハートの印をつけた。





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