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plumeria

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クリスマスが近づいてきたある日の夕食時、お袋から急にパーティーに出席するように言われた。
山王寺コーポレーションのクリスマスパーティー・・・毎年Mホテルで盛大に行われるこの企業のパーティーには例年親父とお袋が出席していたが、昨日から親父が風邪を引いて寝込み、行けなくなったとか。

2人で行かなくてもいいパーティーだったが時期がクリスマスともなると自然とパートナー同伴という雰囲気になる。
嫌な予感がして隣を見たが、相変わらず無表情で飯を食っていた。


「その日俺は夜咄の茶事がある・・・それはどうするんだ?パーティーは夜だろ?」

母屋での夕食時は『親子』として話す事が殆どだったから、この日も敬語なんて使わず無愛想に聞き返した。


「お家元は寝込んでおられるから私が代わりに茶事を引き受けます。だから総二郎さんは紫さんと一緒に山王寺様のところに行ってちょうだい。紫さん、宜しいかしら?」

「判りました、お義母様。あの、着物ですの?」
「いえ、あなた方はお若いのだから洋装で構いませんよ。久しぶりに楽なお支度で行かれるといいわ」

「ありがとうございます」
「・・・・・・」


あれからも寝室は別にして会話は一切ないが、正直紫がどう思っているのか判らなかった。
不満を口にするわけでもなく、俺に迫ってくる訳でもない。以前は子供の事を口にしていたが、まだ結婚して1ヶ月だから焦らなくてもいいと言う意味なのか・・・。

俺としても紫音と花音の事は長引かせるつもりもなかったから早く決着をつけたかったが、もしいつまでも部屋を別けていれば流石のこいつも黙っていないだろう。最終的には本当に人工授精という話を出しかねない。


「それではそのようにお願いします。総二郎さん、紫さんのお支度は頼みましたよ」
「・・・判った」

「もし、あなた達が希望するなら当日はホテルにお部屋を取ってクリスマスを楽しんできたら?翌日のお仕事の調整はしますから遠慮しなくていいのよ?」

「・・・いや、年末で何かと片付けないといけない仕事があるから帰ってくる。気遣いなんて無用だ」
「私は総二郎様にお任せします」

お袋直々に跡取りの催促って訳か。
だがそんなつもりはこれっぽっちも無く、紫も残念そうな素振りさえ無い。逆にお袋の方がこんな息子夫婦を見て焦ってるようだった。

これがあんた達が押し付けた結婚の結果だ・・・期待をするなと胸の中で呟いていた。



そしてクリスマス当日。

俺は黒のタキシードに着替え、紫は同じように黒のロングドレス。
夜のパーティーだから露出が多めのイブニングドレスで、薫がその支度を手伝っていた。
「若奥様、お綺麗ですわ」の声を何度聞いたか・・・しかも、それは煽てている訳でも無く本心から喜んでいるようだ。

ミンクの毛皮を羽織り玄関でお袋の見送りを受け車に乗り込む・・・その時の表情こそにこやかだったが車に乗るとこの時期の空気のように冷たかった。それでもホテルに着けば極上の笑みで俺の腕を取り会場に入る。


妖しい黒揚羽のような紫の微笑みは会場内の招待客を魅了し、俺達への祝福の言葉はパーティーの最中ずっと続いていた。


クリスマスってこんな感じだったっけ・・・。
今頃牧野は・・・紫音と花音はどんなクリスマスを過ごしてるんだろうと、瞞しの世界に居るような気分で目の前の豪華なツリーを見つめていた。




********************




「え?クリスマスに・・・行ってもいいの?」

美作さんから電話があったのは23日だった。
24日は美作商事のクリスマスパーティーがあるから無理だけど、25日はホームパーティーをするらしい。私が1人暮らしになったから来ないかって誘ってくれた。

それに3日からは殆ど双子の情報をもらっていなかった。
美作さんが遠慮したのか電話が掛かってこなくなったから・・・だからこの20日間、ずっと1人で淋しかった。


『総二郎、仕事なんだろ?こんな日に1人も淋しいだろうから来たらいい。お袋と仁美もケーキや料理を山ほど作る計画立ててるから、1人増えたって関係ないって』
「うん、ありがとう。じゃあ仕事が終わったらお屋敷まで行くよ」

『総二郎が手配してるタクシーがあるんだろ?それで来いよ』
「判った。あっ・・・でも、プレゼント買う時間がないかも・・・」

『ははっ!そんなものいいって』


その電話を切った後、やっぱり何かプレゼントしたい・・・そう思って次の日、クリスマスイブに近くのお店でお揃いの手袋だけ買った。それに平仮名でお手紙書いて、折り紙で花を作って括り付けた。
美作のおじいちゃまやおばあちゃま、美作さんも仁美さんも可愛らしい物を贈るんだろうから私からはささやかなものでいい。1回でも使ってくれて、寒い思いをしないように・・・そう思って仕上げのリボンを結んだ。


25日、仕事が終わってからお屋敷に向かうと、あの日には準備中だったイルミネーションが凄く綺麗に光っていた。
まるで何処かのテーマパークみたい・・・幻想的に光るライトの下、少しだけ雪が降ってる庭を歩いて玄関に向かった。

玄関の前の庭にも大きなクリスマスツリーがある。
ここだけヨーロッパのお城みたい・・・そんな事を思いながら白い息を吐いていた。



「ちゅくちちゃーん!メリークリスマス!」
「うわぁーい、ちゅくちちゃんがきたぁ!」

「MerryChristmas!紫音君、花音ちゃん。はい、つくしサンタからのプレゼントだよ」

「「わぁーーーいっ!!」」


いつ来ても明るくて暖かな美作さんのお屋敷。
ここのリビングにも大きなクリスマスツリーがあった。これは家族で飾り付けたんだろう、下の方に沢山のおもちゃが付けられていた。それに雪の代わりの綿も下ばっかり・・・双子の背が届く所に沢山の飾りがあった。


「いらっしゃい、つくしさん」
「仁美さん、お邪魔します」

「牧野、腹減っただろ?ここがお前の席な!」
「はーい!よく判ってるね、お腹空いちゃった!」

「うふふ、つくしちゃん、双子はもう食べちゃったから大人の食事時間よ、いらっしゃい」
「夢子おば様、こんばんは。ご招待いただきありがとうございます」


私と西門さんが再会してからは初めて会う夢子おば様・・・ここでは何も言わなかったけど、嬉しそうに微笑んでくれた。


でも、まだ解決してない問題が沢山ある・・・もしかしたら先の見えないこれからの方が苦しい事が多いかもしれない。
それでも今まで支えてくれたこの人達に少しでも恩返しするためには私が元気で笑ってること・・・それしかないって思ってる。

そして誰もが不幸せにならない結末を・・・それを西門さんと見付けていくしかない。夢子おば様の笑顔を見て私も微笑んだけど、心の中では少しの恐怖を抱えて怯えた私が居る。
まだ心細くて弱い私だけど、これからはもっと強くならなきゃ・・・そう言い聞かせて案内された席に向かった。


「うわぁ!美味しそう・・・!これ全部、おば様と仁美さんが作ったの?」
「えぇ、うちのシェフとお義母様に教えてもらって作ったの。だから味は保証できないわよ?」

「あら、大丈夫よぉ!ワインで誤魔化せばいいのよっ!」
「いや、少し食ったけど美味かったぞ?特にこいつ、オマール海老とバターミルクっての?」


ホテルじゃないしワイワイやりましょうって事で、お料理は初めから全部並べられていた。
その豪華なこと・・・!

アミューズ盛り合わせにオマール海老、牛頬肉のクロケット。
お魚は甘鯛の鱗焼きに黒毛和牛フィレ肉の網焼き、もちろんローストターキーは真っ赤なリボンを付けられて真ん中に。
それぞれの付け合わせにはたっぷりのお野菜があって華やかに飾られていた。

傍では一足先に食べ終わった双子が楽しそうに遊んでる。
新しい絵本を買ってもらったのか一生懸命読んでいるのは紫音で、花音はもらったプレゼントのリボンをまたツリーに括り付けていた。


大人も食事が終わったら軽めのお酒とデザートタイム。
紫音と花音も眠たくなったみたいだから仁美さんが部屋に連れて行った。それを見送りながら手を振ると、双子も瞼を擦りながら手を振り返してくれた。


「はぁ・・・楽しかった!本当に助かったわ、危うく1人でケーキ食べるところだった!」
「・・・それなら良かった。総二郎、何か言ってたか?」

「ん?あぁ・・・私の誕生日には来てくれるみたい。あはは・・・どうなるかは判らないけどね」


「・・・あなた達の事は良かったけど、これからが勝負だわね。円満に解決してくれるといいけど・・・」

「はい。西門さんとよく話し合って決めます。これ以上誰かが苦しむのは嫌ですから・・・」
「これからだって力にはなってやるよ。総二郎に言いにくいことがあれば俺に電話しろよ?」

「うん、ありがとう・・・」


顔を上げると少しだけ美作さんも淋しそうな顔してる。
それにドキッとしてしまったけど、その後ろ・・・紫音たちを寝かせた仁美さんが戻ってきて、美作さんと同じ顔をしていた。





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