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plumeria

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夜咄の茶事はお袋が代行したクリスマスの日が年内最後だった。
ここから一気に年末年始の行事が続く。殆どが挨拶に来る客の対応と古いしきたりに従った宗家の縁起事だけだが、これが年明けの初釜まで続くことになる。その間に1日だけ休ませてくれと頼んだのは29日だった。

その前の日に鎌倉に行き牧野の誕生日を祝ってやる、それだけはどうしてもしてやりたかった。


28日の仕事が全部片付いたのは夕方の5時。
ここから俺のフリータイムが始まった。


「・・・今日はお泊まりですか?」

離れで出掛ける支度をしている俺の後ろから紫が声を掛けてきた。

「あぁ、美作は毎年年末から年始に掛けて海外で過ごすことにしてるから、その日じゃねぇと俺とスケジュールが合わないらしい。それにこの前は俺が羽目外してあんまり話せなかったからな。親父達にはもう報告済みだからお前も実家に戻っていいぞ」

「いえ、私はここの人間ですからそのぐらいの事で実家には帰りませんわ」

「・・・じゃあ薫と寛いどけ」

「そうさせていただきます」


俺は西門に管理されない個人資金を持っている。
それを使って2台の車を極秘に購入した。派手な外車じゃなくて国産のそこそこの車。1台を美作に置かせてもらい、1台は徒歩数分の所にガレージを借り、そこに置いていた。

俺の愛車は屋敷に数台あるが、そいつで鎌倉に行く事は出来ない。バレたらその時って考えの俺と違い、牧野は恐怖心でいっぱいだ。だから細心の注意を払って行動するしかなかった。

今回のように美作を利用する時は自分の車であきらの家に向かい、そこから西門が把握していない車で出ていく。
そうじゃない時は借りたガレージまで歩いて行き、そこから新しく用意した車で行く・・・面倒だが、それで牧野が安心するならと、あきらも交えて決めた事だった。


「あきら?今から行く。もう家に帰ってんのか」
『・・・演技中か?総二郎、ご苦労だな』

わざと紫が近くに居る時に電話を掛け、美作に行く事を強調・・・これを紫が聞こうが聞くまいが構わないが、邪推されたくもない。横目で紫の背中をチラッと見ながら簡単な会話を続けた。


「例のヤツは?買えたか?」
『買ったさ。さっき自宅に持って帰ったけど期間限定のティラミスに無理矢理予約を変更させて手に入れたショコラティエのケーキ・・・なんで俺が買いに行くんだよ!その時間のせいで残業なんだぞ?!』

「そりゃ良かった!今日はとことん飲もうな。じゃあ、後で」
『・・・俺からもプレゼントがあるから渡しといてくれ』

「・・・・・・遠慮する」
『2つ並べてお前の車の上に置いてるからな。この時期だしケーキも大丈夫だろ』


・・・くそっ!俺が居るんだからわざわざするなっての!
電話を切ってさっさと出掛けようとしたら紫が「あの・・・」と声を掛けてきた。

「これを美作様の奥様にお渡しいただけますか?今日、薫と出掛けた時に買ってきた物ですが最近評判のお店のお菓子です。本邸のみんなでと思ったのですが丁度いいから手土産にしてください」

「・・・判った。ありがとう」

「いえ、このぐらいしか出来ませんけれど」


何かの時に話題にして俺の行動を確かめる材料・・・そうとしか受け取れないような冷めた表情で手渡され、そいつを抱えて裏口から車を出した。



美作に着くと門を開けてもらいすぐに駐車場で車を乗り換えた。
あきらに言われた通り、俺の車のボンネットには菓子の箱と、その横に隠すように置かれた小さな紙袋・・・そいつはあきらが贔屓にしてるジュエリーショップのものだ。

「嘘だろ・・・嫁さんにバレたら怒られるぞ、あきら・・・」

なんてボヤキながら今度は紫から預かった菓子箱をあきらの車の上に置こうとしたら後ろから足音が聞こえた。
姿を見せたのは仁美さん・・・今日は子供達が傍には居ない事にほんの少しがっかりしたが顔には出さなかった。


「クスッ・・・大変ですね、西門さん」

「ははっ、そう見える?まぁ、面倒かもしれないけど会えると思えばどうって事ねぇけど。あぁ、丁度良かった。これ、紫から持たされたんだけど、俺のアリバイみたいなものだから食べといて?」

「まぁ、アリバイ・・・確かにそうですね。まだ面識がないのでお話しをする機会もございませんけど、聞かれたら話を合わせておきますわ」

「助かるよ。それとあいつを殴ったこと、まだ仁美さんには謝ってなかったね。あの時は事情が全然判らなくて・・・口の怪我見て驚いただろ?悪かったな」

「・・・いえ、あきらさんが納得されていたので私は何も申し上げませんわ。ただ美作家の人達も凄く悩んだって事だけは判ってくださればそれで・・・あら、その袋は?」


仁美さんの目が俺の手の中にあった紙袋に気が付いた。
ヤバいと思い「あいつの誕プレなんだ」って、如何にも俺からのようにサラリと流してみたが、彼女の表情が少し変わった。

あきらが気に入ってる店のものだと判ったのかもしれない。それ以上聞かれれば適当に誤魔化そう、そう思ったが何も聞かれなかった。
だからそいつを持って新しい車に乗り込み、美作の門を出た。




********************


<side仁美>

「・・・美作でございます。いつも主人がお世話になっています。あの、本日なんですけれど・・・」

『あぁ、美作の若奥様ですね?こちらこそいつもお世話になっております。本日もありがとうございました。何がございました?ご主人様には午後にお渡ししましたが』

「あっ、いえ・・・行ったのでしたら良かったですわ。忙しいなんて言っていたのでどうかと思って・・・あの、私がお電話したことは内緒にしてくださいね?怒られますから」

『ほほほ、畏まりました。でも美作様はお優しい方ですから大丈夫ですよ。本日のお品も奥様に気に入っていただけるといいなって仰っていましたよ?』

「・・・楽しみですわ」


西門さんが出て行ってからあきらさんが良く利用しているジュエリーショップに電話を掛けた。
やっぱりあきらさんはそのお店に行っていた・・・今日はつくしさんのお誕生日だから。

何を買ったのかなんて聞けなかったけど、西門さんと再会したんだもの・・・差し障りのないものだろうと言うことは判る。だって西門さんに渡したんだもの。
私に気に入ってもらえるか・・・その言葉も店員に対するただの返事だ。

意味があるものなら自分の手で渡すだろうけど、あきらさんはそんな事をする人ではない。
少なくとも妻である私が居るのにそんな事をするはずはない・・・それは信じてる。


ただ、あきらさんの心の奥にある感情は別だと言うことも感じていた。
この3年半もの間匿ってきたつくしさんに対する気持ちは友人を超えている・・・私と出会う前にはつくしさんに恋心を持っていたんだとすぐに判った。


西門さんと本当に会わせたかったんだろうか。
あのまま2人が出会わなければ・・・邪魔なのは私じゃなかったの?

最近ずっとそう思っていた。

もしかしたら紫音と花音・・・この子達の親にあきらさんとつくしさん。
それがあきらさんの夢なんじゃないのかと、そればかりを考えていた。

「・・・いや、万が一あきらさんがそうでもつくしさんが違うもの。大丈夫よ・・・この暮らしは変わらないわ」


「ママァ!おなかすいたぁ!」
「もうパパもおちごとからかえってくるぅ?」

ぼんやり考えていたら双子達が私の手を取って夕食の催促。
あぁ、もうそんな時間かと窓の外の明るさを確認していた時、庭のフェンスの向こう側に人影があった。

誰だろう・・・男性だとは判ったけど、こんな薄暗くなってから家の周りをウロウロする人なんて初めて見た。何度も立ち止まってはフェンスを掴んで中を覗き込んでるみたい。
でも美作の厳重なセキュリティーシステムが見逃すはずもなく、暫くしたら庭に警備員が走って行き、その人影は走り去った。

それでも何故か気になって、ダイニングに降りたら子供達を小夜さんに預け、私は警備室に向かった。


「若奥様、如何されましたか?」
「ごめんなさい、お仕事中なのに。お部屋から見てしまったのですけれど、先ほどお庭の向こう側に誰かが居ませんでした?」

「あぁ、ご覧になったのですね?大丈夫ですよ。恐らくイルミネーションでも見ていただけでしょう。この季節にはたまにそう言う人も居ますからねぇ。近寄ったら立ち去りましたからもう来ないでしょう」

「そう・・・それならいいんだけど、子供達も居ますから怖くて」

「お任せ下さい。しっかりモニターで監視してますから」



イルミネーションを見ていた・・・そんな風には思えなかったけど。

何故か凄く不安があった。
私から幸せを奪って行きそうな不安・・・さっきの影にはそんな恐怖を感じていた。





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