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牧野がこのマンションを見て固まった。

それは少しだけ予想してた。
自分と掛け離れた世界に戸惑いがあって馴染めないこと・・・司と上手くいかなくなってから、特に牧野はこの世界を恐怖に感じていただろうから。

だからね・・・ちゃんと考えてるんだ。


「牧野、今日から俺とここで暮らそう。荷物は明日運べばいいから」
「・・・え?でも・・・」

「うん、判ってる。大丈夫だと思うよ?おいで・・・こっち」


俺が玄関に置いた鳥籠を大事に抱えた牧野・・・その背中を押して奥の部屋へと案内した。

凄く不安そうな顔してる。
背中からも牧野の緊張が伝わってきて可哀想なぐらいだったけど、それもここまでだと思いながら1番奥の部屋の前に行った。

そのドアの前で俺を見上げて泣きそうになってる・・・「開けてみな」って声を掛けると震える手でそっと開けた。


「あれ?ここ・・・えっ?!」
「くすっ、ここだと安心でしょ?」

「・・・・・・あはっ、何これ!」
「だから言ったじゃん。大丈夫だって」


この1番奥の部屋は加代に頼んで作ってもらった小さく仕切った和室。
簡易型の畳だけどそこにカーペットを敷いて小さなテーブルを置いて小型のテレビも置いて、まるで牧野のアパートみたいな部屋。照明もシャンデリアを外して普通のものに変え、カーテンも可愛らしいものに変えた。

隣の間には小さめのキッチンもあるし、お茶ぐらいなら煎れられるように食器棚も可愛いサイズのものが置かれていた。


「元々この部屋はゲストルームだったんだけど、牧野が寛げる空間が欲しかったから改造したんだ。ここに住んで欲しいけどあんな広い部屋には1日中座ってられないでしょ?ここだと寝転んでもいいし、冬には炬燵だっけ、あれを置いてもいいしね」

「花沢類・・・私の為にここを作ったの?」

「俺達の為・・・かな。俺も帰ったらここであんたと過ごしたいから。2人の距離が近い方がいいでしょ?それにさ、そこのカーテン、開けてみて?」

牧野は鳥籠をテーブルの上に置いて、俺が指さしたカーテンをオドオドしながら開けた。
そして暗闇をジッと見てる・・・夜だから判りにくいのか、不思議そうな顔して振り向いた。


「なに?ここ・・・ベランダじゃなくて庭みたい」
「うん、ここにはマンションだけどちゃんと庭があるんだよ。ルーバー式の窓ガラスで守られてるけどね。窓を開けてみて?何か聞こえない?」

今度は窓を開けて目の前の庭をじーっと見て耳を澄ませていた。
少しばかり植木を置いてるけどルーバーも閉じてるから風は入って来ない・・・その暗い空間の手前が部屋の灯りで明るくなったけどシーンとしていた。

「音・・・ううん、何も?」

「あれ?寝ちゃったのかな・・・」


牧野の横に立って2人で顔をくっつけるようにして暗闇を覗いていたら・・・くすっ、起きてきたみたい。奥の方でガサガサと音がし始めて牧野は身を乗り出した。


クゥ~ン・・・


「あれ?今・・・」
「うん、聞こえたでしょ?」


クゥ~ン・・・クゥ~ン・・・ワン!


「・・・えぇっ!うそっ・・・花沢類、犬の鳴き声がした!」
「うん、だって犬が居るんだもん」

「うそぉっ!!何処?何処に居るの?」
「あっ、出てきた!」

真っ暗な庭の奥から出てきたのはあの時の仔犬・・・牧野はすぐに判ったみたいで驚いていた。
そして急いで窓を開けて庭に出て、小走りで近寄ってきた仔犬を抱き上げた。
「なんで?どうして?」を繰り返しながら目に涙浮かべて頬擦りなんてして・・・そして抱いたまま部屋に戻って来た。

鳥が怖がるからって少しの間別の部屋に移動させ、それが終わったらその子を膝に乗せて座った。仔犬も牧野の顔を舐めてじゃれついてる。
あの日の事を覚えてるかどうかなんて判らないけど、ひと目で好きになったのか、短い足で牧野の身体にしがみついて遊んでもらおうと必死・・・凄く微笑ましい光景だけど俺はちょっと苦笑いだ。


「あっ、さっきアパートで言った1人じゃ可哀想ってこの子の事?」
「そうだよ」

「でも、どうしてこの子がここに居るの?あ、あのさ、多分この子ね、私のアパートの前に・・・」
「うん、捨てられていた仔犬だよ。俺が持って帰ったの」

「・・・えっ!あの日に持って帰ったの?雨が降ってたよ?」
「そう、言ったでしょ?俺、あんたのアパート知ってたからあの時たまたまストーカーになってたの」


「・・・・・・見てたの?」
「見てたよ。あんたが傘を差してやったの、すぐ近くで見てた」


照れ臭そうに笑いながら「良かった」って・・・牧野の腕は暫く仔犬を抱き締めてた。


「名前、付けなきゃ!そうだなぁ・・・」
「その子、名前あるんだよ」

「そうなの?何て言うの?」
「・・・女の子だったからね、華・・・って言うんだ」


「華」・・・そう言ったら牧野の目が大きくなった。そしてすぐに細めてにっこり笑った。

「・・・華かぁ」って仔犬の鼻を自分の鼻をくっつけて「華、宜しくね」って。
少し前に手放した名前を懐かしそうに呟いていた。


その日の夜、この部屋の小さなベッドで牧野との時間を過ごした。
昨日もあれだけ疲れさせたのにって思うほど・・・それでも手加減なんてしてあげられなくて牧野は何度も俺の腕に倒れ込んでた。

「ごめんね」・・・って呟くと返ってくる力のない拳、だけど笑ってるあんたの寝顔が愛おしくて堪らなかった。



**



あれから毎日俺達は同じ時間に目を覚ます。
牧野は俺の腕の中で「おはよう」と呟いて、俺はそんな彼女にその日最初のキスをする。

その後は牧野の朝ご飯を食べて会社に行き、夜は何時に帰っても牧野の晩ご飯を食べてる。


ハクは日当たりのいい場所を確保して専用の植木も手に入れた。毎日楽しそうに空に向かって囀っている。
華は少し大きくなって牧野は抱きかかえる度に「重た~い!」って叫ぶようになった。

そしてやっぱり働きたいって言ったから、俺はそれを認めた。
花沢でも良かったけど自分で見付けると言って毎日一生懸命探して、選んだのは仕事じゃなくて専門学校だった。

調理師免許をとって自分で店を持ちたい、そう言ったから「頑張りな!」って応援することにした。
これまで夢を持つことが難しかったから、新たな目標が出来た牧野は凄く輝いてた。


「どんな店にしたいの?」

ベッドの中で嬉しそうに学校のパンフレットを見る牧野の耳元で囁く。
俺の事を後回しにするなんて気に入らないから邪魔をするつもりで聞いたけど、俺の拗ねた顔なんて見もしないでコックコートの自分の姿を夢見てるみたい。
悪戯っぽく耳にキスしても「ダメだよ」って可愛く怒るだけで全然パンフレットを離さない。

「あのねぇ・・・お惣菜屋さんみたいなのやりたいなって思ってるの。でも栄養士の資格も取って病院での特別治療食っていうのにも興味があるの。勉強しながら仕事を決めたいな・・・ごめんね、我儘言って。生活費・・・稼げないけど」

「だから俺が働くんでしょ?そんなの気にすんな」

「・・・花沢のご両親は・・・怒るかな」
「どうして怒るの?俺が頑張れば納得するからそれも気にしなくていい。でも、海外赴任になったらごめんな」

「そっかぁ・・・その時も何処かで働こうっと」
「・・・あんたが1人ならね」


そう言ったら急に赤い顔して俺を睨んだ。
だって・・・その可能性だってあるんだし?


「でもさぁ、気になることがあるのよね」
「なに?学費なら心配しなくてもいいけど?」

「それはなんとかなると思うの。そうじゃなくて華がさ・・・1人になるでしょ?」
「あぁ・・・そっか。じゃあ、友達作ってあげる?」

「・・・いいの?」
「ん、世話はあんたね」

「うん!!」
「はい、じゃあパンフレットはここまで・・・おいで、牧野」


待たされた分、覚悟しなよ?・・・なんて言葉にはしないけど、今日も牧野が意識を飛ばすまでやめてあげられなかった。



華の相手を見付けに行ったのは、保護された里親募集中の犬を管理している施設だった。そこで華に似てる雑種の仔犬を1匹貰い、連れて帰った。

つけた名前は男の子なのに「桜」。
今日も華と桜が庭の中を元気よく走ってる。



そして数ヶ月後・・・半分だけ真っ黒な髪の毛に戻った牧野が夏の眩しい太陽の下で俺に手を振る。


「類ーっ!見て、向日葵が咲いたよぉ!!」



真っ白い歯を見せて大きな目で俺を見つめて、両手を広げて風を受け止める。

俺が探していた牧野が・・・優しい笑顔でそこに居る。




fin。


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「あの頃の君を探して」、終了でございます。
沢山の応援、ありがとうございました♡

本日11時に「後書きと拍手コメントのお礼」を予定しています。
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2019/04/25 (Thu) 00:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/25 (Thu) 01:17 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/25 (Thu) 06:22 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/25 (Thu) 07:58 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんにちは!

あっはは!いやいや、お城じゃなくてタワーマンション最上階です(笑)

そして・・・何の話?(笑)もう春になってしまいましたね❤
結局書けなかった💦

って言うか、扇風機で書いた方がおかしいのよ!!(爆)


そうね、そう言うプレイも意外と好きかもよ?でも私の中じゃそれはあきら君なんだけど(笑)
剛速球が総ちゃんで変化球が類君。暴投が司君でワンバウンドがあきら君(笑)

・・・なんの話?


って事で、最後まで応援してくださってありがとうございました!

2019/04/25 (Thu) 11:02 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

始まりとはすっごく違うラブラブエンド(笑)

実は司君もこういう去り方をするって決まっていたんですよ。
途中、読者さんから頂いたコメントで司君が結構悪者だったので、最後には格好良く思って頂けるといいなぁと。

大丈夫!花沢城で沢山書いてるから、ここでは動物は増えません!(笑)
仔犬が産まれたら増えるかも?でも、今の所番外編の予定もございません❤


いつも応援してくださってありがとうございます。
またお出掛け情報も教えてくださいね~(笑)

2019/04/25 (Thu) 11:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

類君ったら急にガッツリ頑張っていますね(笑)毎日楽しそうで良かった良かった❤

そうそう!ワンコの名前は「華」って決めていたんですが、後から来るお友達に「桜」ってつけたので、以前ビオラ様が「桜」って書かれたので驚きました(笑)
もうすっかり見抜かれてるのね💦

うふふ!つくしちゃんの方が早そうじゃないですか?
この調子だと専門学校卒業する前には既に・・・って気がします(笑)

類君、少しは我慢しなさいよっ!って感じかな?


毎日の応援コメント、本当にありがとうございました。





2019/04/25 (Thu) 15:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ミキッp様 こんにちは。

いつも応援コメントありがとうございます。
切ない出だしからでしたのでご心配かけましたね(笑)

でも私は切ないままにはしたくないので、とにかく終わりはほんわかHappyにしたいので、そこだけは安心して頂けたらと思います。(そう言いながらオカルトだけはほんわかしませんでしたが)

えへへ・・・最近類君のお話は可愛いのが多かったので、ちょっとシリアスなのを書いてみたくなったんですよね。
どの程度のシリアスか・・・総ちゃんよりはいいかな?(笑)って感じです。


さて!新しいお話しに取り掛からなきゃ!

頑張りますのでこれからも宜しくです❤

2019/04/25 (Thu) 16:27 | EDIT | REPLY |   
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2019/04/25 (Thu) 17:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

meimei様 こんにちは!

はい、ありがとうございます。
お久しぶりですね~!あれから体調は大丈夫ですか?

もう花粉も終わりましたよね?(まだだっけ?)

あははは!判ってました?バレバレ?うふふふ、いいじゃないですか!

ハクは喋らないんですよ。
喋るインコはソウイチロウだけで充分です💦また変なリクエストが入っちゃいけないから(笑)
そしてソウイチロウはアパートじゃ飼えない・・・鳴いたら一発で追い出されます。

うんうん、また戻って来ますから楽しんでくださいね!
どうもありがとうございました!

2019/04/25 (Thu) 17:20 | EDIT | REPLY |   

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