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plumeria

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俺の予想通り類からの連絡は30日の朝にあった。

『いつもの店で20時に待ってる。絶対に来いよ』・・・とだけ書かれたメッセージ。
俺の入籍についてひと言文句を言いたくての呼び出しだろうが、多分司もその場に居るんだろう。

この2人が同時に襲いかかってきたら流石の俺も逃げられねぇな、と痣の1つぐらいは覚悟した。

この日、もう年内の茶道教室も稽古もなく、日課のように行う自分の為の稽古のみ。
後は俺専用の茶室と稽古用の部屋の掃除、道具の手入れを行うだけで出掛けることもない。本邸内は殆どの使用人が明日から正月休みを取り、住み込みの弟子も大晦日には殆ど居なくなる。

だから今日が1番慌ただしく、皆年始の準備に追われていた。


その時でも1人優雅に冷めた顔で庭を眺める紫・・・傍に薫も従えて、色の少ない冬の庭で唯一紅い色を見せている椿を指さして微笑んでいた。
その姿を廊下の端で見付けた俺は出るに出られず、咄嗟に身を隠した。


「ほら薫、見てご覧なさい。八重の椿というのは薔薇みたいで綺麗ねぇ・・・そう思わないこと?」
「はい、本当にそうですね。でも、私はあまり赤い色は好きではなくて・・・」

「・・・そうね。あなたは赤が嫌いだったわね、ごめんなさい」
「いえ、そのように言わないでください!自分でもよく判らないんです。何故か赤い色を見るとドキドキしちゃって・・・だから京都でも急におかしくなっちゃって・・・」

「薫、その話はしない約束よ?」
「・・・あっ、申し訳ありません!」


京都でもおかしくなった・・・それはどう言う意味だ?
息を潜めて2人の会話を聞いていたが、もう花や色の話題なんてしなくて正月の予定を話しながら離れの方に消えて行った。

赤が嫌いな薫・・・赤なんて何処にでもある色なのにそれが嫌いだとストレスだろうに・・・そんな事を思いながら遠離っていく2人の背中を見ていた。



**



ため息つきながらその店のドアを開けるとマスターがにこやかに奥の部屋に向けて手を差し出した。
その様子だともう類は来てるんだろう・・・いきなり飛びかかってこねぇよな?と入る前には一応身構えた。


ガチャ・・・と、ゆっくり開けたつもりが急に引かれた部屋のドア!!

やっぱりか!と思った時に俺の鳩尾に突っ込んできたのは司の拳!!言葉を出す暇も無くその場に倒れ込んで、自分の腹を押さえ込んだ!
マジ、フルパワーで殴りやがったな?・・・少しだけ目を開けると奥には頬杖して知らん顔の類がいて、グラスの酒を口に運んでいた。


「・・・・・・くっそーっ!いきなりかよ!!」
「喧しい!もう一発覚悟しやがれ!総二郎っ!!」

「ちょっと待て!牧野、見付かったんだって!!」

「・・・はっ?!」
「うそ、本当に?」

「胃が破裂したかと思った・・・司、本気出すな!馬鹿野郎!!」


蹌踉けながら立ち上がる俺の事なんて無視して司も類も固まった。
俺は2人の対面に座って、まだ痛む腹を押さえた。


既に俺のグラスまで用意されてたから類が嫌そうに酒を注ぎ、司は腕組みしたまま俺を睨んでいる・・・漸く身体を起こす事が出来たから、欲しくも無い酒を一口だけ飲んだ。
初めに聞いて来たのは類。相変わらず無表情に見えたが、その目の奥には鋭い光があった。


「牧野、元気してんの?」
「あぁ、元気だ・・・前よりも痩せてるけど」

「何処に居たの?遠いところ?やっぱり西門が隠してたのか?」
「・・・・・・いや、そうじゃなかった」

「西門じゃねぇのか?じゃあ誰が隠してたんだ?まさか1人で逃げてたのか?」
「・・・いや、それも違う」

「なんなの?はっきり言いなよ。俺達が知ってるヤツと居たわけじゃないよね?」
「総二郎!吐け!!」

司までが痺れを切らして怒鳴り声を上げる。
いくらこの部屋が個室とはいえ完全に店内まで聞こえる声だったから「騒ぐな!」と言えば、半分上げていた腰をドスッと下ろした。


「それで今、牧野何処に居るの?会える?」
「今は鎌倉に居る。でも隠れてることに変わりはないから少し待ってくれ」

「鎌倉だと?ずっとそんな近くに居たのに捜せなかったのか!」
「・・・捜せねぇよ。隠していたのはあきらなんだから」


「・・・えっ?」
「何だと?」

「・・・あきらが、って言うか美作が牧野を保護していたんだよ。だから見付からねぇはずだ」


類も司も動きが止まった。
それも無理はない。俺なんてあの屋敷につくしが居るのをこの目で見たんだから・・・その時のショックは言葉では言い表せなかったからな。


「どうしてあきらが?なんで見付けたのに知らせなかったんだ?!」
「あの野郎・・・!!今何処だ!ここに連れて来い!!」

「無茶言うな。家族と海外だ、日本には居ねぇよ」

「牧野も一緒に行ってるの?」
「許せねぇ・・・!!海外の何処だ!こっちから行ってやる!」

「司、落ち着け!牧野は日本に残ってる。で、今から話してやるけど4年分だ、長いから大人しく聞いてろよ?」


漸く黙った司はすげぇ恐ろしい顔して椅子の背凭れに沈み、類は両手を組んだまま膝の上に乗せ、身体を倒したまま床を見つめていた。
俺はその2人に先日つくしとあきらから聞いた話を教えた。
つくしが東京を出たところから佐賀に隠れたこと、あきらと偶然そこで出会ったこと、鎌倉に連れて帰ったこと、つくしの必死の頼みを聞いてこんなにも長いこと俺達に隠し続けたこと。


それを全部聞いたら此奴らも言葉が出なかった。


「俺もあきらに掴みかかって怒鳴ったさ。事の次第を聞く前に牧野が美作の屋敷に居るのを見て、頭に血が上ってあいつを殴り倒した。初めは俺も許せなかった・・・あれだけあきらに頼んでいたのに裏切られた気がしてさ」

「・・・今は許せるの?」

「牧野が頼んだんだ。それだけ西門が恐ろしかったんだろうよ」

「くそっ・・・どうなってるんだ、西門は!」
「総二郎の結婚前に言えば良かったのに・・・」

「あきら、何度も話そうと思ったらしいが牧野の思いの方を優先したんだってさ。俺を西門に留めたかったんだって・・・そう言って泣いてたな・・・」


1度はつくしと恋に落ちて将来を誓った司。
今でもつくしだけを想って誰よりもあいつの事を判ってるっていう自信を持ってる類・・・つくしの辛すぎる4年間を考えたら、やっぱり納得出来ないみたいだった。

「・・・だからあいつ、俺達が誘っても来ないんだ?」
「どんな理由があっても俺達に隠し事するのは許せねぇ・・・日本に連れ戻せ!いや、美作に乗り込んでやる!帰国はいつだ?!」

「行っても構わねぇけどもう1つ、あきらの事で報告があるんだ」

「なに?牧野が絡んでるの?」
「まだあるのか!!」


「あぁ・・・あきら、子供が居るんだ」

「・・・えっ?!」
「はぁ?!いつ産まれたんだ?!」


今度は違う意味で吃驚して、司は椅子から落ちそうになるし、類は手に持とうとしたグラスを倒した。
それでも大きく見開いた目を俺に向け、ポカンと開けた口からは次の言葉なんて出てこなかった。


「・・・産まれたんじゃなくて養子だそうだ。しかも双子の3歳・・・もう随分前からあいつ、父親になってんだよ」

「は?3歳・・・いつからなのさ!」
「双子?わざわざ双子を養子にしたのか?」

「その経緯はよく判らねぇけど、嫁さんの為らしいんだ。だから類のところの加代さんが見た夢子おばさんの買い物はあきらの子供のもの・・・そう言う事だ。
で、これは世間にはまだ公表してねぇからお前達も誰にも言うなよ?自然と知られてもいいらしいが、もう3歳だ・・・どっちにしてももうすぐ発表するんだろうけどな」


紫音と花音の本当の親が牧野と俺・・・その事はまだ確かめてないのだから此奴らにも言わなかった。

あきらにも牧野の事以外で思い悩む事が多かったんだ・・・そう言うと2人共が黙った。
俺が家を継がなくてはならない立場であるが故に起きたようなつくしの問題、それと同じようにして起こったあきらの苦悩・・・。


「・・・誰の子供?」

類の質問は至極当然・・・俺だってそれをすぐに聞いたから。
なんとなくあきらの気持ちが判る気がした。親友にも真実を隠すことの苦しさ・・・今日の俺は司と類に自分の考えを打ち明けることは出来なかった。

「美作の遠縁の子らしい。そこの家にも事情があって育てられなかったんだってさ。それを聞いた時に両親と嫁さんと話し合って決めたって言ってた。妹の子供とか海外での代理出産とか考えたらしいけど確実じゃないからな。それにすぐ発表しないのもおじさんの意見らしいぜ」

「・・・変なの。その方が勘繰られるんじゃないの?」
「・・・よく判んねぇがあきらはそれで良かったのか?」

「あいつは楽しそうにしてるよ。嫁さんも良い母親になってるみたいだし」

「・・・ふーん」
「身元が確かであきらが納得してんなら言う事はねぇ。ただし牧野の事とは別だ!」

「そりゃあきらに直接言ってくれ!」


・・・誤魔化せたのか?
衝撃的な2つの話で動揺しまくりの司と類だったが、この先に勝手な行動を取られても困るから静かに見守れと言うしかなかった。


「牧野はあきらが用意した鎌倉の家に住んでるけどお前達まで行くと隠れてるあいつにとっちゃ困るだけだ。もう少し待ってやってくれねぇか?」

「・・・総二郎はどうする気?」
「結婚したヤツに何が出来るってんだ?牧野の立場は・・・」

「俺は諦めてねぇよ。必ず牧野を迎えに行くって約束したからな。その為に動いてる最中だ」

「まさか・・・本気なの?」
「・・・出来るのか?そんな事」

「やってやるさ。もし、どうしても無駄だって判ったら西門を捨てる。牧野がどれだけ反対しても俺が選ぶのはあいつだからな」



その後は黙って3人で酒を飲んでいた。
交わす言葉なんて極僅か・・・それぞれが自分の中で色んな想いを交錯させながらグラスを傾けていた。

帰り際に類が言った言葉・・・


「総二郎、牧野・・・笑ってる?」

「あぁ・・・今は笑ってるよ」


その笑顔が本物になるまで闘うしかない・・・此奴らの想いも背負わなきゃならねぇからな。





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