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plumeria

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小さな雪が降ってきた。
私達は同時に空を見上げて白い息を吐いた・・・その瞬間「ハックション!」ってすごいくしゃみをしたのはお父さん。

さっきは怒っていたお母さんも「寒いから早く入りなさい!」って自分の方が薄着なのに急かしてるし、お父さんは私の腕から買い物袋を全部取っていったけど、重過ぎて下に落とし、お母さんに怒られてた。


「うわぁっ!こんなに買い物してきてくれたの?もう何も買わなくてもいいんじゃない?ねぇ、お父さん」
「ほんとだねぇ!これで正月が迎えられるじゃないか?お母さん」

「・・・でも、年越しそば買ってないよ?」

そう言ったらまた怒られた。
「なんでそれを忘れるのよ!」って。それも変わんないなぁって怒られてるのに笑ってしまった。

でも、ちゃんと話さなきゃ・・・。


ガラガラと玄関の引き戸を開けて中に入り家の中をグルッと見回した。

何年も戻ってなかったのに家の中は何にも変わってなかった。
増えたものもないし、減るほど家財道具はないし・・・相変わらずなんだなって、苦しい生活なのに笑いが出た。

小さな正月飾りがポツンと下駄箱の上に置かれててそれ以外は何にもない。居間と小さな部屋が2つだけ・・・私の部屋はどうやらお父さん達が使っているらしい。
壁の染みすら懐かしいと思う自宅は時間が止まったみたい。



「お父さん、お母さん・・・少しいいかな」

そう言うとピタッと手を止めて両親が顔を見合わせた。これから私が何を話すのか・・・それを恐れてるようにも見えた。
台所で買ってきたものを仕分けしていたお母さんと、雑巾を手に持ったお父さんが2人並んで部屋に戻ってきて、私と向かい合って座った。

緊張した顔・・・それを見ても自分のした事がどれだけ両親を不安にさせたのかが伝わって苦しかった。


「本当に長いこと連絡しなくてごめんね。それに嘘ついたことも謝る・・・黙って東京から消えてごめんなさい」
「・・・無事に戻ったからいいけど、どうしてたの?」

「色んな人に助けてもらって元気にしてた。仕事もちゃんとしてたよ」
「あんた・・・西門様に追い出されたって本当なの?」

「追い出された・・・うん、そうなんだけどね。実は今ね・・・」


私は東京を出てこれまでの事を両親に話した。
勿論ここでも紫音と花音の事は言わなかったし、精神的な病気を抱えてしまった事も言わなかった。佐賀に逃げて美作さんに助けられ、鎌倉で暮らしてることと、研究所で働いていること。

そして総に再会して気持ちを確認したこと・・・ここまでを一気に話したら2人とも訳が判らなくなってパニックみたいだった。
その後も質問攻めだったから1つずつ答えていって、今は元気で暮らしてると話した。


「それで、どうするの?西門様、奥さんが居るんだよ?」
「うん、判ってる」

「つくし、それはダメなんじゃないのかい?他人様の家庭を壊すようなことはしちゃいかんだろう?」
「うん、それも判ってる」

「それなのにあんた、西門様とお付き合いしてるの?それがどう言う意味か判ってるんでしょ?」
「・・・うん」


私達の関係は世間的には不倫・・・いくらお互いに愛し合っていても彼には奥さんが居るんだからそう呼ばれる。
隠れて会わなきゃいけないし、誰にも言えない。

バレたら総が大変な事になる。
スキャンダルとして報道もされるだろうし私の事も晒されるかもしれない。奥さんの実家も黙っていないだろうし、最悪次期家元の立場が危うくなるかもしれない程危険な事をしてるんだって・・・ちゃんと判ってる。


「こんな報告しか出来なくてごめん。でも私達は真剣なの。無理矢理引き離されて東京からも追い出されたけど、総は4年間ずっと私を探してくれたの。私も会わない方がいいと思って隠れてたんだけど偶然再会しちゃって、総の気持ちを聞いたら離れられなくなったの」

「それでもダメなものはダメなんだって!相手は西門様だよ?あんた、また傷つくから!」

「もうこれ以上は傷つかないよ」

「傷つくよ!!道明寺様の時だってそうだったじゃない!最終的には穏やかに別れたみたいになったけど、あんた初めの頃は毎日泣いたじゃないの!もうこんなの嫌だって・・・泣きながらそう言ったじゃない!」

「・・・そうだったね。でも今はあの時よりも少しは大人になったよ?それに彼は奥さんを愛せないからお家元と話し合うって言ってくれたの。私はその答えが出るまで待つ事に決めた・・・たとえその願いが叶わなくても、今この時点で彼と別れることは出来ないの」

「つくし・・・」
「確かに西門様がここに来た時にもそんな言い方してたな・・・離れることは出来ないなんて。真面目な顔で頭を下げられたよ」


「我儘でバカでごめん・・・でも私は今、幸せなの。もう少しだけ見守っててくれないかな・・・もう勝手に消えたりしないから」


お父さんは「バカだなぁ」って悲しそうに笑って、お母さんは「バカなんだよっ!」ってエプロンで目頭を押さえて泣いてた。
私は両親に頭を下げるしかなかった・・・でも、笑って見せた。


「西門はここに何も言って来ないと思うけど、何かあったら教えて?それと、いつかちゃんと顔を出せるようになったら総がお父さん達に会いに来るって言ってた。今はまだ無理だから申し訳ないって伝えてくれって」

「・・・今の状態で会える訳無いよ。うちはどれだけ貧乏してても娘をそんな風に扱われる覚えはないんだから!」
「うん、そうだね。片付いたら一緒においで。でもつくし1人なら帰って来られるんだろ?」

「そうだね・・・やっと話せたから今度から顔見せに帰るね」


この後は泣き止んだお母さんと一緒に簡単なおせちを作った。
重箱なんてないから大きなお皿に並べるだけだけど、そんなお皿も少なくて大笑いした。
この家の台所にこんなに食材が溢れるなんて初めてだって、お父さんまで手伝って狭い場所でぶつかりながらのお正月準備。


「ただいまぁ~・・・なに?賑やかだね・・・うわっ!!姉ちゃん?!」
「きゃああぁーっ!進、久しぶり~!!元気だった?あんた、成長止まったの?」

「なんだよっ!数年ぶりに帰ってきて人の身長の話かよっ!姉ちゃんこそどうしてたんだよっ!」
「あぁ、話せば長くなるからいいじゃん!それより進、年越しそば買ってきて?あっ!ついでにお酒もね」


大晦日まで仕事だった進が帰ってきて、玄関で飛び付いたら凄く嫌な顔をされた。
でもここは昔からの姉の強さで強引に買い物を頼み、「まだ靴も脱いでないのにっ!」って言いながら進はUターンして走って行った。

くすっ・・・本当は少しだけ大きくなったかな?
走って行く弟の背中を見ながら逞しさを感じた。


その日の晩ご飯はすき焼き。
「こんなの何年ぶりかしらぁ!」って1番喜んだのはお母さんで、お父さんには進に買ってきてもらったお酒を注いだ。進は夢中で牛肉を口に運んで顔が真っ赤になってる。
「落ち着いて食べなさいよ!」って言ってもモグモグ状態で返事も出来ない。

すぐ近くにある小さなテレビでは紅白歌合戦。
こんなの何年ぶりに見るんだろう・・・全然知らない歌手が歌ってるって言えば3人に馬鹿にされた。


数年間淋しい年越しだった・・・毎年1人だった。
今年は家族で笑ってるんだって思うと嬉しかった。

多分、総は今日も面白くない顔してるんだろうけど・・・それでも少しは穏やかな気持ちで過ごしてるかな?


知らない人が知らない歌を歌ってる画面を見ながら、頭の中では総の笑顔と双子の笑顔を思い浮かべていた。




*******************




12月31日・・・つくしと話した後、行われたのは「年越の祓」。

神社などでは人形代に息を吹き掛けて自分の身代わりにして1年間の「罪」を清めたり、身体の調子の悪い部分を撫でた紙をお焚き上げなどしてもらう事もある。
西門家ではそれらを短冊に書き、本家の先祖の仏壇に差し出して読経。その後にその為の炉で燃して祓い清めるというやり方だった。

俺はその短冊に何も書かなかった。
白紙のまま差し出し、他の連中の短冊と共に炉で燃された。
数多くの『罪』を抱えてるかもしれないけど、こんな儀式で救われるほど優しいもんじゃない、そう思ったからかもしれない。


それが終わると夕方からは除夜釜が掛けられる。
蝋燭の明かりで静かな茶会が行われ、その総ては家元の手で行われる。
美味いとも何とも思わないがこの席で「年越しそば」ってのも出され、宗家全員が黙ってそいつをいただく。

除夜釜で使用した炭火は年を越す間火が消えないように灰に埋められ、屋敷にのこった弟子達が新年の大福茶まで消えないようにと見守る。


その行事を今年は静かな気持ちで迎えられた。

この時間につくしが自分の家で笑ってるんだと思うと心が穏やかになった。
たとえ自分の横には紫が座って居たとしても、あいつが淋しい時間を過ごしていないと思えるだけで嬉しかった。






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