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plumeria

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新しい年が明け、私は数年ぶりにお母さんのお雑煮を食べた。
懐かしい味・・・今年は具材が多いわぁ、なんて大笑いして小さなテーブルを4人で囲んだ。

お醤油ベースのすまし汁で、焼いた角もちと鶏肉、人参、かまぼこ、椎茸・・・昨日、思い付いて私が買ってきた材料が全部使われていた。

「つくし、久しぶりでしょ?美味しい?」
「うん!働いてたのが旅館だったからさ、料理長がみんなに作ってくれたの。それが4年前でそれからは1度も食べてないかも。1人じゃ作らないしね。やっぱり焼いたお餅は香ばしいねぇ!」

「あら、向こうは違うの?」
「全然違うよ!佐賀だったけど、料理長が博多の人だったから博多雑煮って言うのを食べたよ」


博多雑煮は「あご」と言うトビウオから取った出し汁が使われて、何と言っても出世魚の「ぶり」が入るのが特徴。それとかつお菜という野菜に里芋、大根、椎茸、人参、かまぼこと具沢山だった。
旅館だから宿泊客には綺麗に盛り付けられてるけど、私達スタッフにはドーン!とお椀に盛られて出てくるから迫力があった。

そして美味しかった・・・女将さんと小さなあの部屋で食べたっけ。
私が逃げてから1ヶ月後だったなぁって、懐かしさとその時の淋しさを同時に思い出した。


「ぶりが入るの?へぇ!変わってるんだねぇ!」
「う~ん、私も初めてだった。昔ね、博多では年末になったらお嫁さんの実家にぶりを1本差し入れるって風習があったからだって言ってた。それにお餅は丸くて焼かずに煮込むんだよ」

「はぁ~、そうなんだ?でも食べてみたいねぇ、お母さん」
「あはは、そのうち行ってみる?お正月にその旅館!」

「・・・お金ないもん」
「「「だよね~!」」」


話が止まらなくてお昼まで誰も動かない。
お昼になったら昨日作ったおせちを並べてまたお喋りが続いた。

やっと腰を上げて家族揃って初詣に向かったのは1日の午後・・・近所の神社まで歩いて向かった。昨日少しチラついた雪は積もらなかったし天気は良かったから、コートに薄いマフラー巻くだけ。
「ハックション!」って、やっぱりお父さんはくしゃみの連発でお母さんに嫌な顔をされていた。

行ったのは小さな神社だったから混んでもいなくて、すぐに神殿の前でお参りできた。
最後に一礼する時に心の中で願ったのは1つだけ・・・。

総と子供達が平和に暮らせますように。



そしてもう1泊だけして2日目の朝には鎌倉に帰ると言った。
「まだいいじゃない!」って泣きそうな顔で言うお母さん・・・「また来るから」って言うと淋しそうに掴んでいた手を離した。
「風邪引くんじゃないぞ?病院代、馬鹿にならないから!」なんて言うお父さん・・・そう言いながら自分が鼻を啜ってるのにね。

「進、ちょっとおいで」
「・・・なんだよ。俺、何もしてないけど?」

「いいから!そんなんじゃないわよ!」
「・・・怖いなぁ」

両親に見えないように進の手の中に「お年玉」のポチ袋を握らせた。
もう20歳なんてとっくに超えてる社会人の弟なのに、この子は自分の事を後回しにして両親の面倒を見てくれてるから・・・姉として何もしてやれないけど、せめてもの気持ち。

「・・・姉ちゃん?」
「大きな声出さないの!お母さんに盗られちゃうわよ?」

「・・・ありがと」
「ごめんね、あんたに色々任せっきりで。でも、頼んだよ」


進はそれを急いでポケットに突っ込んで嬉しそうに笑った。
「あんたも仕事、頑張りなよ!」って言うと「もう明日から仕事だぜ?」って今度は嫌そうな顔になってたけど。


「それじゃあね。また来るわ」
「つくし、身体に気をつけてね!」

「うん!電話代、勿体ないから私から掛けるね!」
「悪いねぇ、そうしておくれ」

「進、彼女が出来たら教えてねぇ!」
「・・・五月蠅いよっ!」


私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれて、私も角を曲がるまで何度も振り返りながら手を振った。
そして角を曲がって見えなくなると・・・涙がまた溢れた。
でも今は荷物がないから何度も手の甲で涙を拭って、電車に揺られて鎌倉に戻った。


また1人になった鎌倉の家は冷たくてシーンとして・・・賑やかな2日間を過ごした私にはその暗さが恐怖に思えるぐらいだった。
だから部屋に戻ったら荷物を置いてすぐにスマホを手に持った。

いきなり電話は掛けられない。
だからメッセージを入れた・・・『鎌倉に戻ったよ』って、たったそれだけ。

でも、すぐに総から電話が掛かってきた。
スマホ画面に出てる彼の名前・・・2日間しか経ってないのにドキドキしてる。でも、第一声は怒鳴り声だった。


『なんだよ!もう帰ったのか?まだゆっくりすりゃいいのに!』
「だって・・・実家に居たら電話しにくいんだもん・・・」

『は?そんな理由か?!』

本当は総が辛いお正月なのに私だけが笑って過ごせなかったんだけど、そんな言い方は出来ない。だから分かり易い「嘘」をついたけど、彼はすぐに見破ったみたいだった。


『馬鹿だな・・・気にしなくて良かったのに』
「だから電話が出来ないんだって!部屋がないし、家族に聞かれるのも嫌でしょ?それだけだよ」

『くくっ、そうか?じゃ、そこなら言えるんだろ?』
「えっ?!何を?」

『実家じゃ言えない言葉があるんだろ?早く言えって』
「あっ、あの・・・えっと」

『・・・ほら、言ってみ?』


「・・・総、愛してるよ」


ホント、意地が悪いのは昔からだ。
まだ暖房すら効いてない部屋なのに顔が赤くなって身体も熱くなった。
後ろの方で賑やかな声が聞こえる・・・多分宗家の行事の最中なんだろう。総は「悪い、また掛ける!」と言って1度電話は切った。

そして真夜中・・・彼から掛かってきた電話で、両親の事を話した。
怒っていたこと、反対されたこと・・・でも、気持ちは判ってくれたから年末もお正月も楽しく過ごせたと報告したら嬉しそうだった。


『悪かったな、お前1人に説明させて』
「仕方ないよ。大丈夫・・・いい報告が出来るようになったら2人で行くって伝えたから」

『あぁ、約束してやる。でも、つくしは時々顔見せに戻ってやれよ?』
「うん、そうする」



来年のお正月はどうなってるんだろう・・・。
総の声を耳で聞きながら、私の手は紫音と花音のアルバムを捲っていた。




**********************




やたらと多い年末年始の行事も終えて、年明け1週間が過ぎた頃に初釜が行われた。

初釜とは若水で湯を沸かし、今年初めての茶の稽古。
宗家一同が年始に行う大福茶の次に行われる西門流としての初めての茶事だ。

ここでは懐石料理から主菓子、濃茶、薄茶と流れていくが今年は俺の慶事があると言う理由から家元の席とは別に俺の茶席も設けられた。
そこにも後援会の役員が顔を合わせ新年の挨拶をする・・・鷹司会長は生憎親父の茶席だったから、親しく話せる人間など居ない状態だった。


だからと言って手を抜くとか気を緩めるなんて事はない。心の隅につくしの笑顔を置いて茶を点てた。
そうすることで穏やかに、優しい茶が点てられる・・・そんな気がするからだ。
結果として俺の初釜の茶席の客達は満足してくれたようだった。このまま薄茶が終わり、和やかに締めくくられるかと思った時に正客が口を開いた。


「いやぁ、若宗匠、もうすぐですなぁ。如何ですかな?楽しみでしょう?」
「・・・いえ、もう数年こちらに住んでおりますので楽しみと言われましても・・・」

「あぁ、そうでしたなぁ!婚約は随分前ですから、待ち遠しかったのは奥様の方でしょうかね?」
「・・・女性の方が楽しみなのでしょうね」

「お美しい奥様ですが披露宴ではまた格別でしょうねぇ。惚れ直すんじゃないですか?」
「その時になってみないと判りませんが」

「はは・・・相変わらずクールですな、若宗匠」


クールと言うより殆ど無感情・・・客達は俺の冷めた反応に些か機嫌を損ねたようだ。
年始だから目出度い話題でもと思ったんだろうから申し訳なかったが、もうそんな話題に嘘でも笑顔を見せる事なんてしたくなかった。

たとえこの席をつくしが見ていないとしても、笑顔になることは裏切りのような気がしてならなかった。


「本日、奥様はどちらに?」
「まだ茶席を手伝えるほどではございませんから茶事にご参加でないお客様のお相手をしております」

「おや、こちらに何年もお住まいなのにお茶の方はそこまで教えられてないのですか?」
「私の怪我と修行で屋敷を離れた時期もありますし、その後には先代の葬儀などが続きましたので落ち着かなかったのでしょう。私以外の稽古も受けておりましたが、まだもてなす側に就けるほどの腕前ではありませんので」

「・・・そうですか。いつかは若宗匠のお手伝いをされる姿も見られるのでしょうね。それが楽しみです」
「はは・・・気長にお待ち下さいませ。茶の世界もすぐに上達とはまいりませんので」


紫にそんな気持ちがあるのかどうかなんて判らない。
多少美しい所作で茶を点てられるようになったが、それは教本通りの作法で、その日その場の空気まで読んで茶席を創り上げられるようなものじゃない。

客と一緒にその場を楽しめるようになるか・・・と、聞かれれば恐らくならないだろう。
あいつの茶に対する気持ちなんてそんなものだ。



こうして初釜は終わった。

客を見送り事務所に戻ると明日にでも出すという招待状の束が目に入る。
その日まであと僅か・・・これまでとは違う焦りが俺の中で強くなっていった。





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